138:七層のちょっとした変化と試供品提供
本日からまた毎日一話ずつ更新していきます。よろしくおながいします。
七層は以前来た時とあまり変わりはない。テントが一つ増えたかな? ぐらいの感想だ。やはりどうしても清州の賑やかさと比べてしまうな。相変わらずの荒野にポツンと謎のオベリスクが屹立している。俺が立てたものだが。
やはり目印があるとそこへ向かっての歩きがいがある。オベリスクへ向かって歩いていくと間もなく大きなシェルターが目に入ってくる。地図にはテントとして報告してあるが、商品名はインスタントシェルターだった。まぁシェルター呼びで良いだろう。
これも俺が立てたものだ。七層と八層の中間がここだと目印にしやすいように施した。そのおかげか、前に来た時よりも他人のテントが少しシェルターのほうへ近寄っている。やっぱり目印があるとそこに近づいていくんだなぁ。
シェルターまで近づくと、短時間仮眠の準備を始める。まずシェルターの脇のテントに入る。そして椅子とバーナーとスキレットを取り出し、中に居ますよ! という感じにする。
テントの中で布団カバーを取り出し、布団カバーの中に適当にダーククロウの羽根を詰めていく。出来るだけ均等になる様に適当にポイポイ詰め込むと、お手軽敷布団の完成だ。
今回は羽根を洗濯してないが、ダーククロウの香りは……うん、臭かったりしない。むしろいい匂いだ。やはり摘み取ってすぐは綺麗なもんなんだな。もしかしたらそもそも洗濯をする必要もないのかもしれない。
ここでしばらく仮眠を取る前に胃袋を満たしておこう。睡眠にも体力は必要なのだ。カロリーゼリーとまだ十分に冷えているコーラを飲み、胃袋がそこそこ満たされたことを確認する。
もう一本入れておくか。カロリーバーセレクションから青りんご風味を取り出すと一気に齧り、残りのコーラを飲み干す。これで十分だな。テントの表に「仮眠中 安村」の紙皿を貼り付けてテントに入る。
一旦ツナギを脱いで全裸になる。多少汗をかいたからな、仮眠した後朝まで動くだろうし今ぐらいしか綺麗にするタイミングは無いだろう。タオルを取り出し水で軽く濡らすと全身を拭き始める。
そういえば、探索者になって体を以前より更に動かすようになったおかげか、中年太りが少し解消されてきたような気がする。心なしか腹筋にも線が入り始めて……このまま続ければ俺もキレのある体になれるかもしれんな。少しあこがれる。よしもうちょっと頑張ってみるか。
全身を綺麗にしたところで再びツナギを着直すと、先ほど作ったお手軽敷布団の上に寝っ転がる。
うん、少し偏りがあるな。やはり布団は本職に任せるべきか。俺はエアマットを取り出すと膨らませ、それを一番下に敷くとその上から敷布団をかけ、寝なおす。
これで多少マシになったな。そして眠りを誘ういい香りがしてきた。眠ってしまう前にアラームをセットする。四時間ぐらい眠るかな。寝て起きたらちょっと胃袋に詰めて、それから探索に出かけよう。おやすみ。
◇◆◇◆◇◆◇
アラームが鳴った。スッキリとした目覚めだ。そう、これが欲しかったんだよこれが。やはり摘み立ては違うな。今使っている枕はバラして新しいのを詰めなおそう。古いのはギルドに卸してしまおう。ちょっとぐらい混じってもばれへんやろ。
時間は午前三時。まっすぐ上がって三層でモンスター狩りをして、ちょうどいい時間ぐらいか。他人の気配がするまで狩っていればちょうどいい感じになるだろう。
軽く体を動かして異常が無いかを確認すると、テント周りを全部片づける。そして、敷き布団をシェルターの中におもむろに放置。
紙皿に「お試し敷き布団。エアマット等の上に敷いて寝心地を確かめてください。使ったら元に戻して。持ち帰らないでね」と書置きを残して七層を旅立つことにした。後は朝まで上層でひたすら狩りに興ずる事にする。
夜間狩り。それは六層を突破し七層で仮眠した後か、二十四時間戦えるジャパニーズビジネスマンにしか行えない小西ダンジョン独自の行事である。
清州ダンジョンは二十四時間営業なのでそもそも夜間狩りをすることが通常営業であるが、小西ダンジョンでは門限が十九時に設定されているため十九時以降は七層で宿泊する探索者だけになる。
そして、七層で宿泊するような探索者はわざわざ上層へ戻って狩るぐらいなら八層か九層へ行くのが通常だ。そこでわざわざ上層へ戻る理由がない。その意識の裏を突いた俺が編み出した裏技である。
七層より上で狩りする意味があるのか? という点についてはたしかに九層で安定して戦闘が出来るパーティーにとっては疑問点しかないだろうが、九層では戦えないものの三層や四層で安定してモンスター狩りが出来る探索者なら十分選択肢に入る方法だ。
そしてなにより、誰も居ない可能性が限りなく百パーセントにちかい一層でスライムを思う存分狩りまくることが出来るのである。誰得? 俺得。
今日のお仕事予定は三層で合法麻薬であるヒールポーションを悪ガキどもからひたすら回収するお仕事である。九層に潜るにせよ、ヒールポーションの在庫はあるに越したことはない。一本より二本、二本より三本あるほうが安全マージンが取れている。
そんなわけで人数分、つまり六本手に入れることを目標に三層か四層でひたすらゴブリンをメインディッシュとして戦う作業になる。どっちで戦うかな。とりあえず行ってみて考えるか。三層まで上がり切って見て、頭数の多いほうを選ぶという選択も出来る。
さぁ。上層に行くか。また六層を通り抜ける事になる。さすがに四時間も経てばリポップしてるよな。短かった七層との別れを告げ、六層に戻る。さて、どのくらい湧きなおしているのかな。
六層に上がった光景は、いつも通りのワイルドボアが跳梁跋扈する大暴走エリアだった。またこの数を相手にするのか、手首が痛くなるな。十匹ほどのワイルドボアが早速こちらを見つけ突進の準備を始めている。こちらも受け止める準備をする。
突進で激突するまでの時間少しでもにじり寄っておく。短時間で終わるに越したことは無い。最初に当たるであろう一匹目に向かうとこちらから仕掛ける。全力で詰め寄り相手の突進にたじろぎが見える間に一刀差し込んで早々と退散してもらう。次のワイルドボアに狙いを定めると今度は足を止めて踏ん張る。
以下同文。ワイルドボアの十匹ぐらいならソロでもなんとかなるようになった。これは明らかな自分の戦闘能力の向上を感じる。良い手ごたえを感じる俺はウキウキ気分で散らばるドロップを集める。
やはり肉が魔結晶に比べて多めだな。肉のほうが査定金額が高いのでうれしいところだ。食べても良いし売っても良い。美味しいモンスターであることは間違いないだろう。
七層側から見て一本目の木にはダーククロウは居なかった。上空を旋回している二、三匹は居るが、距離があるのでフンを落とされることはないだろう。安心して二本目の木までまっすぐ進む。
二本目の木には二十匹ダーククロウが止まっている。これは倒すのは楽だな。処理しておこう。木に止まっているダーククロウに向かってバードショット弾を撃ち込み、木の繁りを完全に無くしておく。
ドロップを収納するとさくさくと進んでいく。道中のワイルドボアの相手をしつつ、淡々と五層へ向かっていく。三本目の木にもダーククロウは止まっていない。どうやら、ここの木に止まっているダーククロウはリポップに時間がかかるらしい。
正直楽でいいが、魔結晶のドロップの分を考えるとワイルドボアと比べて実入りは少ない。それを数で補っている感じだ。三分そこらで時給四千円ほど稼げるのはうま味がある。ただ、これをずっと続けたいかと思うと、今のスキルの使い具合からして難しいだろう。
現状六十匹ぐらいまでなら脳に負荷のかからないようにロックオンして打ち抜ける気がする。それ以上だと正確に狙いづらい。やはり六層はスキルが無いとソロでは不便だな。一々木を迂回しつつ歩くのは余分な時間がかかる。処理しながら進んだほうが実入りもあってよりいい結果を生み出してくれる。
ワイルドボアを処理しながら階段を目指す。なんだかんだでワイルドボアの肉は十個を超えた。
五層の階段を上ると、いつもと違う光景が映し出された。モンスターが居ない。ワイルドボアも三匹ぐらいしか存在せず、木に至ってはダーククロウが止まっていない。誰か通った後なのか? と思えるほどに少ない。
とぼとぼと五層の道を歩いていく。何もモンスターが出ないというのはこれはこれでストレスが溜まる。狩りながら進むほうが収入も増えて気分も楽になるというものだ。
なんだか寂しい。と後ろで足音が聞こえる。ワイルドボアがこっちに駆け寄ってきてくれていた。寂しいから出て来てくれたんだろうか。歓迎のあいさつ代わりにグラディウスを叩き込んで黒い粒子に還していく。肉が出た。
五層で手に入れたドロップはその肉だけだった。なんという寂しい狩りの結果だろうか。俺はしょんぼりしながら四層の階段を上った。
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