1373:七十三層へ行く練習
今日もちょっとだけ寒い。眠気は吹き飛んだ。やはりスノーオウル狩りは早足とはいえ、それほど体に負荷のかかる作業ではなかったのだろう。全身スッキリ、お腹もペコペコ、いい感じだ。
さて、早速朝食を作ろう。今日は気分的に甘いものが欲しいのでジャムを追加だ。朝飯から糖分をしっかり追加して昼食を作ることにしよう。キャベツをいつも通り刻んで目玉焼きを焼いて、トーストを二枚。朝食をいつもの時間にいつも通り食べる。
これでお腹の調子もゴロッと言い始め、食べ終わった後に早速トイレに駆け込む。今日もキレのいいのが射出された。拭いてもトイレットペーパーにつかないぐらいの気持ちよさを体験した後、きちんと手を洗って昼食の準備を始める。今日の昼食は……ごった煮。
ご飯を炊飯し始めたところでさて、何を煮ようか。醤油酒みりんで煮たら肉じゃが、シチュールゥを入れればシチュー、カレールゥを入れればカレーになる便利さはあるものの、ワンパターンさは免れない。
ここはそっち系ではなく、煮物とはっきりわかるような煮物で攻めていこう。大根と人参とちくわ、それに……油揚げを追加しておこうか。肉はワイバーンで行く。鶏肉の代わりというわけではないがお肉ゴロゴロごった煮は腹にも溜まってちょうどいいはずだ。
ワイバーン肉の下ごしらえをしている間に大根を下処理。先に煮ておいてアクを抜く。その間に人参を一口大に切り刻み揚げの軽い湯通し、ちくわの下ごしらえなんかを済ませると、調味料を合わせて一緒に一気に煮る。コトコト二十五分ぐらい煮たところで味見。うん、これでいいな。
今日は煮物とご飯。うーん、もう一品欲しいな。何か手軽に出来て煮物に合う食事……キャベツと卵の炒め物あたりを追加しておこう。塩気が欲しくなるかもしれないので、少々の味塩胡椒でざっくり炒めてそれだけで味付けを終わらせてしまう。一応めんつゆも垂らしておくか。味に関してはこれで充分だろう。
さて、飯の用意が出来たところで着替えて準備だ。今日はちょっと変則的な潜り方をしようと思う。その為の心の準備だけはしておかないとな。
柄、ヨシ!
圧切、ヨシ!
ヘルメット、ヨシ!
スーツ、ヨシ!
安全靴、ヨシ!
手袋、ヨシ!
籠手、ヨシ!
飯の準備、ヨシ!
嗜好品、ヨシ!
車、ヨシ!
保管庫の中身……ヨシ!
その他いろいろ、ヨシ!
指さし確認は大事である。よし今日もいっちょ出かけるか。ダンジョンが俺を待っている。そして待たされてもいる。いつになったら七十三層以降が出来上がるのか。それにかかっているので今日のところは前哨戦という所かな。
◇◆◇◆◇◆◇
ダンジョンについて芽生さんと合流。いつも通り一本早く来ていたようだ。
「おはよう、取引履歴書の申請は済んだ? 」
「到着した段階でお願いしておきました。多分潜ってる間に終わるだろうとのことでしたので、これでいつでも税理士さんの所へ行けますねえ」
「それはなによりだ。書類仕事は早く終わらせるに限る」
準備は終わってるということでそのまま入ダン手続き。いつも通りリヤカーを引いて七層で茂君を刈り、七十層まで行く間に今日の予定について軽く相談しておく。
「今日……というかこれからなんだけど、昼食は七十二層で取ろうと思う」
「それはまた危険な選択をしますね。理由はちゃんとあるんですよね? 」
「今後七十三層以降に潜る際に、そこで探索する時間に余裕を持たせるためだな。ざっくり計算して、七十層から七十三層への階段までに二時間の所要時間がかかる。この二時間を短縮出来て休憩が取れるなら、午前中に七十二層まで潜って、午後をフルに探索に使えることになる。この午前の二時間分を帰りの時間に使うとして、五時間ぐらいは七十三層以降の探索に使えることになるから効率的だ。今日はその練習だな」
「実際に食事をとるとして、その間に危険がないかを確かめるということですね。確かに、食事中にモンスターが湧いてもグリフォンぐらいなら食べながらでも倒せるかもしれませんからやってみる価値はありますね」
「それに何より、七十二層にずっといたほうが儲かる。二時間分でざっとポーション一本分ぐらいの差が出る。これはかなり大きい。次の階層が出来るまで儲かる話はしばらくなさそうだから、後は自分たちの探索強度を上げていくぐらいしかやることがないってのもある」
七十三層から七十六層の探索を行うにしても、時間はあるに越したことはない。七十三層以降のマップがどんなマップになっているかもわからないので途中休憩が出来るかどうかも不明だ。休める所があるとすれば、周囲を完全に綺麗にしてリポップするまでの時間を稼いだ七十二層がある意味安全とも言える。
注意しながら食事をしていれば、食事に夢中でリポップに気づかずに先制攻撃をされるという可能性も低い。今の自分達なら出来るような気がするので提案するだけしてみた。とりあえずうまくいくかどうかはわからないが、うまくいくならそれでヨシ、という形にしていこうと思う。
「まあ、練習との事なので納得しておきます。それに、いざ今日練習で試してみてダメだったら階段下りてダンジョンコアルームでご飯食べればいいわけですし、失敗しても挽回できるのが良いところですね」
「そういうこと。まずは試してみてそれからってことだ。最後のグリフォン二匹、倒してから食事を始めてその間リポップするかどうかも確かめてみたいところでもあるしな」
話を終わらせるといつもの読書タイム。俺はクロスワード、芽生さんはファッション誌。お互いリヤカーに体を半分預けながらのほほんとした時間を送る。
七十層にエレベーターがたどり着き、さて探索開始のお時間だ。今日は実質一日中探索を続ける、ということにもなる。飯休憩は取るし、疲れたら逐次回復のための小休止は取るが、一日動きっぱなしというのは久しぶりの行動になる。ちゃんと身体が動いてくれるかは怪しいところだが頑張ってやってみるしかないな。
車で七十一層側まで移動した後七十一層へすぐ降りてサメを撃破。そのまま真っ直ぐ七十二層まで早足気味で駆け抜ける。七十一層は普段一人で歩いているのでどこにどんなモンスターが出て来るかは把握済。グリフォンも含めて一人でも対処できるのでかなり楽ちん。それに加えて今日は芽生さんも居るので問題なく戦うことができる。
「気楽なもんですね。流石に一人で普段から歩き回ってるだけのことはありますか」
「まあね。おかげで新年初狩りも大盛況で終わったよ」
「それはそれは。今日はいつもより二時間七十二層での活動が多い分、期待してもいいってことですかね? 」
「ポーションの出る確率によるかな。しっかりとドロップしてくれればその分だけ稼ぎになるから精々祈りながら往復で一本、七十二層で……七本ぐらい出てくれれば万々歳ってところじゃないかな」
七十二層に真っ直ぐ歩いていくと、言ったとおりに一本ポーションをドロップ。そのまま七十二層に突入する。七十二層に下りてすぐのサメとグリフォンをきっちり倒したところで久しぶりの七十二層入りだ。さあ、ここからはひたすら七十二層を回る時間になる。帰りの時間までずっとここ。
去年もずっとここだったので来慣れないマップというわけではないが、現状小西ダンジョン……いや、もしかしたら世界のダンジョンでここが一番稼げるポイントなのかもしれん。その最前線で戦っているという認識はないが、とにかくここが稼げるポイントなのは間違いないのだ。
早速七十三層予定地点まで真っ直ぐにグネグネと向かう。クレーターの中に入り込むとモンスターの配置がどうなるかがわからないのでまだやったことはないが、午後からはそうやって戦ってみて、モンスターの寄り付き具合を調べるのも悪くないかもしれないな。
左下、左上、左下だったはずだな。直進すれば多少の時間短縮にはなるかもしれないが、やんちゃをするのは午後で良い。今はちゃんと階段までたどり着けるかを確認するほうが先だ。
クレーターとクレーターの間にある道をたどって七十三層方面へ向かう。階段にたどり着いたらそこで監視をしながら昼食をゆっくり取れるかどうかのお試し訓練だ。もしこの試しがだめなら七十一層で同じことをやってみる。それでもだめなら、七十三層から先へ向かうには長時間の探索が必要になってくるだろう。また久しぶりにマップ作りが出来るんだな、と思うと楽しみだ。
一時間ほどで階段までたどり着くことが出来た。最後のグリフォン二匹を倒すと、早速昼食の準備を始める。索敵範囲にはモンスターは見えていないので、今のところ安全は担保できている。問題は食事に夢中になっている間にモンスターが出てきた場合だな。
その可能性をどのくらいまで小さくできるか、ということも今回のチャレンジの内容だ。というわけでいつも通りの食事の風景にし、炊飯器を取り出してご飯をお茶碗に盛る。煮物も出す。二品目も出す。
「お、珍しいですね。いつもなら一品だけのご飯というところですけど何かあったんですか? 」
「単に煮物だけだと少々寂しいかも、と考えただけさ。一品より二品のほうが嬉しいしやる気も出るだろ? 」
「それは確かに。では食べましょう。食べている間にモンスターが来たときの対処もしなきゃいけないですしね」
確かに、どっちかが食べていてもう片方が見張っているでは練習の意味がないからな。二人とも食事に入らないと意味がない。食事中にモンスターが発生した場合どっちが対処するかも決めてないが、とりあえず出現するところまでは織り込んでおかないといけないな。
それはともかく、食べる。大根にもしっかりと味が染みていて美味しい。ちくわの味も良い。お揚げさんも中々だ。人参もちゃんと柔らかくなっているし、鶏肉代わりに使ったワイバーン肉も良い感じになっている。ワイバーン肉は鶏皮をメイン食材として使わない範囲の鶏の代用品としてはそこそこの性能であると言える。もちろん鶏肉があればそれを使うのが一番おいしいのは間違いないんだが。
「このお肉は……鶏じゃないですね」
芽生さんが気づく。
「実はワイバーンなんだよな。昨日スノーオウルを取るついでに何個か拾ったから」
「地産地消は結構なことだと思いますよ。ただ、これを売るとした場合この煮物の値段が大変なことになってしまう以外は」
「確かに。ワイバーン肉は次の価格改定でも下がらないんじゃないかと言われているみたいだしな」
「お肌が若返る効果は知られてきましたしね。そういえば、フカヒレと言いエンペラと言いワイバーン肉と言い、ダンジョンではお肌にいい食材がいっぱい出ますね。スライムが落とすスライムゼリーもそうですが、向こうの人はみんなお肌すべすべなんでしょうか」
そう言うところに視線がいかなかったな。ネアレスが来た時にもっとよく確認しておけば……ってさすがにそれはセクハラになるか。ミルコが出てきた時にでも早速話を聞いてみることにするか。
っと、索敵に反応。どうやら近くに何かが湧いたらしい。芽生さんも感じたらしく、二人同時に動こうとするが、芽生さんを手で制す。
「食事のほうの防衛をお願い、ちゃっちゃと済ませてくる」
湧いたのはグリフォンだった。一匹だけなので向かってくるところを雷撃衝で一撃。ドロップは魔結晶と肉。食事中に肉を落とすとはいい子だな。
戻ってきて食事を再開する。
「グリフォンだったよ……と、そういえば溜まり続けてる爪と肉だけど、価格改定で一気に発表してしまうそうだから、その後徐々にまた持ち込んで査定を受けることにしよう」
「それは何よりですね。二月ならまだ私も居ますし、リヤカーに乗せられる範囲で順番に査定していくことにしましょう」
ご飯をお代わりする芽生さんに半盛ぐらいで手渡す。食が進むということは今日の煮物はどうやらお気に入りらしい。覚えておくか。
「後、グリフォンが落とすポーションだが……どうやら若返りか寿命延伸の効果があるらしい」
「それは……迂闊に他人に言えるどころか市場に出すにもためらわれるポーションですね」
「うむ……もしかしたら七十三層以降のドロップ品は金額ではちょっと思ったほどの金にならないかもしれないぞ」
「それもありますが……調子に乗って飲まないでくださいね。せっかくのいい感じに年齢を重ねてるのが台無しになってしまいます」
芽生さんに言い切られる。
「やはり、適度に老けてるほうがいいのか? 」
「そうですね……五年分ぐらいならセーフってことで。その後は加齢に従って追々飲んでいく形で行きましょう。その適度な加齢感はのこしたままでいてくださいね」
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