1367:大晦日、やることもなく
今日もいつもの寒い朝。これからどんどん冷えていくが、部屋の中は温かいので後はリビングに這い出す根性さえあれば今日一日は何とかなる。分厚めの普段着に着替えてから部屋の外に出る。やはり、エアコン点けっぱなしの部屋とは違って寒気がある。この寒気にも慣れていかないとな。
いつもの朝食を食べて、テレビをつける。今日は大晦日。一年の終わりにして世の中が盛り上がったり一部ではひっそりと過ごしたり、それぞれの個人によって忙しさが最も変わりやすい日だ。
テレビもいつもとは違い、週ごとのドラマやアニメはもう放映を終了しており、特番か大晦日スペシャル、大晦日の市場の今年最後の大売り出しを中継して居たり、カウントダウンパーティーを行う会場の下見へ行くリポートなどそういう世の中の風情を醸し出す内容になっている。
さて、今日は何をしようかな。とりあえず、買い出しにはいきたいから朝一で買い物に行って……カレーを二食分まとめて作って食べてしまうことにするか。それまではボーっとしていよう。たまには必要なはずだ、ボーっとする時間。布団はもう眠らなくていいと俺に教えてくれているが、二度寝がしたくなったので二度寝をする。
多分完全に疲れが取れて眠気もなくなったところで自然と目が覚めて、それでいい時間になるだろうからそれから出かけることにしよう。
久しぶりの二度寝をした。旅行疲れもダンジョン疲れも解消されているからか、うとうととしている睡眠をしばらくとっていたようで、一時間半ほど経過していた。買い物に行くならちょうどいい時間に目覚めたと言えるだろう。
そこまで計算して起こしてくれたならなんとも嬉しいタイマーだったな。目覚めはバッチリ、体もバッチリ、ほぼグッドコンディションと言えるだけの体力と精神力が満ち溢れている。今からダンジョンへ行くにも問題がないぐらいだ。
まあ、大みそかと元日ぐらいは休んでおこうと決めたのは俺。俺が働かないというのは珍しい話だな。さて、買い物へ行って俺も大みそかの大バーゲンに参戦するとしよう。せっかくだし栄えてる駅前の百貨店付近まで車で行って、車越しに保管庫を使いつつ荷物をまとめていくことにするか。
そうと決まれば自家用車で出発だ。ついでにガソリンも入れておきたいし、満タンなガソリンで新年を迎えるとしよう。
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駅前の地下駐車場に車を停めると、まずは食材。ここにはお高いスーパーも入っているので美味しい野菜や食品がそれなりに揃っている。お高いが、買えないほどお高いものがあるというわけではない。ただ、普通のスーパーに無いような生ハムの原木とワインが揃って並べられていたりする。
だがそこまで酒を呑む習慣もないのでそっちのコーナーには用事がない。いつものよりまた少しお高いバターとキャベツと高い食パンを買った。いつもの食パンとは違うのでその違いを味わってみるのも悪くないだろう。それ以外はカレーの材料を色々買い込んでいく。
タマネギも品質が良いものが並んでいるし、ジャガイモも一個一個が大きい。やはり品質がある程度揃っているな。これと言って変わり種が思い浮かばないので、せめて肉はレッドカウを使って高級肉の味わいを深くしておこう。後は……思い浮かばないな。ミルコへのおみやげにナッツ類でも補充しておくか。
とりあえず一回買い物を済ませて車に戻ると保管庫に収納。改めてデパ地下へ行くと、色んな弁当やすぐに食べられる食材が並んでいる。賞味期限が今日中だと仮定し、残り十六時間だと概算して……三千二百時間ぐらい。およそ四カ月半ぐらいは問題なく食料として保管しておけることになるのか。
うむ、せっかく遠出までしてきたのだ。この際いろんなお弁当を買い込んで楽しむ、というのを来年の二月の頭にかけて色々とやってみることにしよう。今日の昼食と夕食はカレーの予定だが、明日の昼夕をデパ地下弁当で済ませてしまう、ということも可能。これは一気に仕事が減って楽になるな。その分ゴミは増えるけど。
そうと決めたら気になる食材から順番にとにかく買いあさり、手持ちがいっぱいになったら車に戻って収納。また来て買い込み、また収納を繰り返し、弁当を都合五十個ぐらい買い込んでみた。毎日違った食事を楽しめるというのは中々悪い話じゃない。
ついでにデパ地下に店舗として入っていた、正しい名前を呼ぼうとすると戦争が勃発する例の両面を焼いてあんこの入っている菓子を十個ほど買い込む。これは粗熱が取れたところで一個ずつラップして冷凍庫で保存しておく。夜中にお腹が空いたときのおやつに最適だ。
ついでに一つ食べながらデパ地下をふらつく。細かい惣菜やコロッケ、メンチカツ、自分でも作るけどたまには他人の作ったものが食べたい食品を購入していき、また一往復。大分買い込んだな。後は……デパートの上の階に行って体に合う服や下着を買い込んで終わりかな。
あ、後そばを買っておかないとな。天ぷらもデパ地下で仕入れてしまえばいいから、カップそばではなく茹でるそばを用意しておこう。どうせついでに売ってるだろう。
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家に帰ってきて昼食までそこそこの時間。炊飯器のセットをして、早速カレーを作り始める。玉ねぎとブロック状にしたカウ肉を炒めてしっかり焼き目をつけ、玉ねぎは透き通って少し茶色くなるぐらいになったが、玉ねぎの甘味よりも深みとコクをしっかりさせたい俺としては充分に炒めてから次の工程に移る。
野菜類も炒めてしまってから水を入れて十分ほど煮込み、その後でルゥを入れて更に十五分ほど煮こんで完成だ。それ以上煮込んで更にコクを出すのは夕食の時にしよう。
まだ少しご飯が炊きあがるまでに時間があるので、その間に買ってきたものを冷蔵庫に入れたり冷凍したり、先ほど買った名前を出すと戦争になる兵器を一つずつラップをかけて冷凍庫に放り込んでいく。
一仕事終えた段階でちょうどご飯が炊けたので、炊き立てご飯で早速カレーといこう。
うむ、やはり出来立てのカレーも美味いな。ルゥをいつもよりちょっと多めに入れた分固めの仕上がりになっているが、それがまるでよく煮込んだように感じるのがまたいい。夕食前には少し水を足してもう一煮立ちして更にコクと深みをもたらせられるようにしておこう。
さっき冷凍庫に入れなかった戦争の原因をもう一つ食べる。いつ食べても美味しいなこいつは。さて、大晦日にドタバタするのは好きじゃないが、家中の大掃除と行くか。
寒いのを我慢して、部屋中の扉と外への風通しを良くすると、ウォッシュで家中を綺麗にして回る。ウォォン、今日は俺が電動掃除機だ! と言わんばかりに各部屋をウォッシュして回る。芽生さんと結衣さんの部屋も埃が溜まってるといけないので開け放ってここは空気を綺麗にさせてもらおう。
一通りの掃除を済ませたところで再び扉を閉めに行き、部屋のエアコンをつける。さあこれで年末の大掃除も完了だ。あともうやることは夕食と、紅白歌合戦を見ながらそばを食べることぐらいになった。後は……ニュースでもみてもあんまり面白そうなものをやってないな。ネット配信で新第二熊本ダンジョンに潜ってる探索者の様子でも見てるほうがまだ面白いかもしれないな。
◇◆◇◆◇◆◇
しばらくネットを見てボーっとしていると、玄関を開ける音。どちらかが年末の挨拶に来たらしい。
「ただいまー」
芽生さんだった。
「おかえり」
「やることないので来ちゃいました。せっかくの年末ですし一緒に過ごそうかと」
「そっか。ちょうどやることなくて暇してたんだ。何か面白いネタでも持ってきてくれてると嬉しいところだけど」
芽生さんに少々無茶ぶりをしておく。
「ネタですか。そうですねえ……先月に設置された三ダンジョン、年始明けから順次準備が出来次第解放されていくそうです。今回はCランク制限という形ではなく、Fランクからでも潜れるようですよ」
「それはいいネタだな。スレッドを探してみるか。足早だがもう出来上がっているかもしれない」
探してみると、まだ全然伸びてはいないがそれらしきスレッドは見つかった。流石に内部情報までは漏洩されていないようだが、Fランクでも潜れるダンジョン、ということでまた初心者を置き去りにされるんじゃないかという意見が出ることはなさそうだ。
せっかくなら新しいダンジョンが出来たということでそこから探索者になってみる、という選択肢を取る奴もいるだろうからな。ダンジョンが増える以上、探索者が増えることには何ら問題はないし、過密気味のダンジョンを嫌って新しいダンジョンに移動していく、という者も増えるだろう。
「ふーむ……こうなると残り二つのダンジョンも立ち次第素早く内部確認とギルドの立ち上げが出来るように今絶賛調整中ってところかな。真中長官は今年の年末も忙しそうだな」
「何他人事みたいに言ってるんですか。そもそも洋一さんが仲介して新ダンジョン建設なんて話を持ち掛けなければこうはなってないんですよ? 」
「それもそうだが、今から手伝えることはもうないからなあ。精々まだ立ってないダンジョンのダンジョンマスターを呼び出していつ頃になりそうか進捗を確かめて、近い時間を聞いてそれを伝えることぐらいしかないし。まあ、それでも仕事をしたってことにはなるだろうけどダンジョン庁自身で確認はしてるだろうからその仕事を奪うことにもなりそうだしな」
一から十まで世話をしてやる必要もないのだ。自分でやってもらわないと困る。俺はあくまで仲介をしただけだ、というポジションは譲ってやる気はない。後のことはダンジョン庁でやってもらおう。
「さて、そろそろ夕食にするか。今日の夕食は豪華だぞ。カレーもあるけど弁当が選び放題だ」
保管庫から弁当をドサドサッと出し、好きなのを選んでいいというと、芽生さんは呆れて物も言えないようだった。
「しばらくご飯はこれで済ませるつもりですか? 保管庫が使えるとはいえ、わざわざこんなに……」
「いつかやりたいとは思ってたんだよね。デパ地下食べ歩き。今日までデパ地下にまで出かける用事がなかったからそのままだった課題をようやくこなした、ってとこかな」
「二百分の一ですから……賞味期限が今日中だとしても半年ぐらいは、もうちょっと時間を短めにしたとしても三カ月ぐらいは持つことになりますね。流石にそこまで数はないみたいですが……と、私これにします」
「俺はカレーの続きにしようかな。せっかく一日分として作ったんだし、今日中に食べ終えてしまいたいからな」
弁当を仕舞いなおすと芽生さんの弁当をレンジで温め、その間にカレーの加水と弱火で煮こみなおしていい感じに沸騰させる。
カレーとローストビーフ弁当。それぞれを少しずつ交換することでお互いの味を確かめつつお腹を膨らませることとなった。
そのまま風呂に入り程よい時間になったところで紅白歌合戦の時間になった。
「洋一さんが紅白を見るとは予想外でしたね」
「今年はこんな歌が流行ったんだ、へー……という程度には知っておいていいかな、ぐらいの気持ち。毎年見てるからつい流れで見ちゃうんだよね」
そばを茹でながらテレビから流れて来る音楽に耳を傾ける。今年はこういう曲が流行だったのか。いや、でも実際は流行らせたい曲や懐かしの曲を流してる場合もあるからな。一概にこれが流行っているとは言えないのだろう……と、また玄関から音が。
「ただいまー」
結衣さんの声がする。二人そろって今年は年末の内に挨拶に来たらしい。おそば足りるかな?
「おかえりー」
「ただいまー、芽生ちゃんも来てたのね……って、数分遅かったかしら? おそば買ってきたから茹でて食べようと思ってたんだけど」
おそばのお代わりが来た、ちょうどいいからそのまま茹でてしまおう。
「じゃあ今茹でてる分を第一陣、今から茹でるのを第二陣ということで。こっちにちょうだい、まとめて茹でるのはおいしくなくなるから順番に茹でちゃうから」
「汁のほうはついてるから、適当にお湯で割ってくれる? そば湯でもいいって書いてあるわ」
「わかった」
芽生さんはテレビにかじりつき、結衣さんと俺でそばを仕上げる。三人前茹で上がったところで三人で食べながら紅白の進み具合を見る。
「今年も時間押してるみたいですね」
「紅白は始まった瞬間から押しで回さないと間に合わないらしいわよ」
紅白の進行も大変だな。年末だというのにこの急ぎよう、アーティストや芸能人たちは年末年始は色んなメディアに出て仕事も忙しいことだろう。エールだけでも送っておくか。
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