1354:スノーマン
下りたった十九層、モンスターはいきなり現れた。スノーベアをそのまま二足歩行にしたようなモンスターがいきなり目の前に立ちはだかる。つい反射で白雷を撃ちこんでしまったおかげで何事もなかったが、流石に階段下りてすぐモンスターが出て来るとは思わなかった。うっかりさんである。
「階段下りたすぐが危険なこともある、ということを忘れていた。これに負傷させられた探索者も居たんだろうな」
「洋一さんの火力のおかげでなんとかなりましたが、どのくらいの強さだったかはおかげで測れませんでしたね」
「まあ、一撃で倒せる程度の相手だった、ということは間違いないらしい。ドロップは今のところ魔結晶だけか。さて、どっちへ行けばいいかわからないからドローンを早速飛ばそう」
階段真横でドローンを飛ばす。北西方向に林があるが、人型しか出ないというガンテツの設計通り、林があるだけなんだろう。東方向には道が伸びており、轍のような跡が残されている。これは他の探索者が通った後だと思われる。よく観察すると足跡も少し残されているみたいだ。最近通ったか、一度通った後は足跡は消されないのか、どちらかは解らないがどうもこっちに行くのが正解かもしれないな。
南方向には並木道が整備されているが、人が通ったような形跡は見当たらない。そして、南東方向で戦っているパーティーが見受けられる。多分探索目当てなんだろう。ドローンで目視できる距離にいるというならば彼らは迷っている可能性は低い。
スレッドの階段方向書き込みを見ると、東、南、東、とだけ書かれている。どうやら東南方向に真っ直ぐ行くのが正解らしいが、ここでのドロップも考えておきたい。あえて東に行って、何か目標物を見つけられたらそこまで進むのが正解のような気がする。
「とりあえず書き込み通りに進んでみよう。さっきのモンスターもどうやら複数いるようだし、ドロップも気になる。どんな攻撃してくるかも確認したいしな」
「そうですね、出合頭に一発ぶん殴っただけでしたからちょっと不満ではあります」
東に進むことになった。東にはまだ何も見えなかったが、階段からギリギリ見えない範囲で何かがある、ということなのだろう。その後南に折れるための何かしらのオブジェクトや目につくポイントがあるはずだ。
そして、先ほどのモンスターだがきちんとモンスターの姿を目撃することが出来た。フワフワ雪だるまのような毛皮を着たイエティ、もしくはスノーマンと形容するべき見た目のモンスターである。
どうやら肉弾戦に加えて【水魔法】を扱ってくるらしい。【氷魔法】というものが存在すればそれ相応の攻撃手段であっただろうが、【水魔法】でこちらを濡らしにかかってくる様子だ。【魔法耐性】がなかったら濡れて風邪をひいてしまう所だろう。そういう環境系の攻撃をしてくるモンスターだと考えると、なるほどこれは厄介だなというのがわかる。
そしてスノーマンだが、大粒のブドウを一房ドロップした。一房に七つほどしかついていないが、ひとつひとつが手のひらサイズ。これは中々見物のドロップであると言える。これでワインを作ったらさぞガンテツが喜ぶんだろうな。
これもリヤカーがないとうまく運べず潰れてしまうタイプだろう。一体一房でいくらになるのか。非常に楽しみな一品ではある。これも二房ぐらいお土産に持ち帰ってみんなで食べるにはちょうどいいな。イチゴは……イチゴはさすがに人数分とまではいかないので、いくつかに切断してみんなで食べることになるかな。
背中のバッグの重さは変わらないが、背中に背負う期待は中々のものになってきた。これでガンテツが二十一層で出てこなかったら俺は本当に帰るからな。
「これで二十一層でガンテツが顔を見せなかったら俺は本気で帰ろうと思う」
「何ですか急に」
「こうやって発言しておけば、見てるダンジョンマスターからガンテツに直接連絡が届いて確実に顔を見せに来るんじゃないかなと思って」
「なるほど。しかし、結構ここまで時間かかりましたから帰りは車になりそうですね」
「ここで休憩しつつ、ガンテツにこれはこういう物だと説明する時間が必要になるからな。それを含めてと考えるとさすがにタクシーも待っている時間にはならないだろう。明日の朝食カレーは食べ損ねるか、スノーオウル枕で眠気だけ飛ばして無理にでも食べるかしないとだな」
実際のところ、探索の予定はカツカツで組んであるのだ。今回は遠征というところもあり、ガンテツほど気が長く待っていられない状況でもある。こうやって何気なく進んでいるようにも見えるが、俺の心の中では時間との闘いが迫っている。
いつもの探索ならもう帰りの準備をして茂君を刈っている時間になっているのだ、芽生さんには少々長時間労働のしすぎだと言われてもおかしくないところ。俺自身まだいけるからいいものの、今後は七層おきに順番に潜って確実に探索を進めていく必要がある。
いやまて、今後とはなんだ。俺はもう来ないぞ、とはっきり言ってしまわないといけない所ではないのか。それ以降の探索に関しては現地の探索者と相談のうえで決めていってほしい、というのが俺の意思だ。今回はそれも含めてガンテツに言い聞かせなければいけない。
こうやって地方から地方にわざわざダンジョンを渡ってきたのも、たまたま俺が暇を持て余しながら金を稼いでいたからであって、こういう流れが頻繁に起こるのは非常によろしくない。ダンジョン庁にも後で報告して、今後は地元の探索者とやり取りをしつつ円滑なダンジョン運営をして行って欲しい、と申し伝えることに俺は決めたぞ。
とりあえずは二十一層にたどり着いてテントを張る。そこからだな。その為にはこの十九層と二十層を無事に通り抜ける必要がある。方向は解るが距離は不明だ。だが、他にも探索者が居ることからある程度賑わっているのは解る。
十三層を通り抜けて来るほどの密度ではないが、そろそろ帰ろうかという探索者も多いはず。人が少なくなればそれだけテントをこっそり立てるスキが生まれる。そのスキをどうやって作るかがミソだな。
東へまっすぐスノーマンと戦いながら進んでくると、一本大きな木が生えていた。その木に何もいないことを確認すると、ドローンを飛ばす。ドローンからの映像では南に同じく大きな木が生えているのが確認できた。あそこまで行け、ということだろう。
「道っぽいものは確認できたし、南に轍も残っている。これは道なりに進むのが吉かな」
「大人しく先人の足跡に倣いましょうか」
そのまま南へ。先ほどまで南東方向で探索をしていたパーティーは見えなくなっているので、視界外まで移動したか階段を下りて二十層方面へ向かった可能性が高い。この時間から夜間狩りをしようという探索者も最近は減っているらしいし、エレベーターの影響力が人間にもしっかり働いているさまもよくわかる。
こちらは真っ直ぐ南へ向かいながらスノーマン退治。どうやらブドウは比較的落ちにくいらしく、三十匹ほどと戦って落ちたのは六回。二割から三割ってところだろう。一房いくらになるかまではわからないが良い感じの価格になってくれることを祈るばかりだな。食品ダンジョンは大きければ高い、美味ければ高い、と一概には言えない所があるんだろう。
それでも人口がそこそこ維持されているのは物珍しさと魔結晶が確実に落ちるという部分が大きいんだろうな。そして、二十一層まで潜ってくる辛さは多分高山マップからこの雪原マップにかけてのモンスターの強さや厄介さが理由になってるんじゃないかと推測する。
今のところ問題なくスノーマンを倒していけている。やはり強さにはそれほど問題はないな。近接でもスキルでも効かないということはなく、芽生さんにとっては同じ属性使いということもあって少し難があるものの、魔法矢と土魔法のほうでは効果が発揮されているので戦う手数は減ってはいない。むしろ水魔法を使わなくていい分だけ消耗が抑えられるようだ。
南へ行きつき、木のところまで来た。おそらくここから東へ行け、ということなのだろう。再びドローンを飛ばして確認するが、東方向に大岩が見えている。
「階段見えた。真っ直ぐ東で良いらしい。ここも問題なく歩きとおせそうだな」
「ブドウは何房ぐらい手に入りましたか? 」
「とりあえず十房はあるな。お土産には二つあればいいだろうからのこりは査定だな」
「次の階層もありますし、査定の金額の心配はなさそうですね」
東へ向かう。他の探索者は見当たらないので目に見える範囲のモンスターは全て倒してしまっても構わないが、先を急ぐ方を優先したいので遠くに見えるモンスターはさすがに放置。隠蔽をオフにして寄ってくる分だけのモンスターを相手にする。
スノーマンはフカフカの毛でおおわれているので、もし他の新しいダンジョンで出てくるモンスターとして調整されるなら、毛皮には一定の需要がありそうな気がする。カメレオンの革よりは使い道が多そうな気がする。魔結晶も確定で出るし、中々に美味しい職場ではありそうだ。
「スノーマンがドロップするのが何でブドウなのでしょうね。ブドウって寒波には弱いはずですよね」
「うーん……何となくじゃないかな。そこまでこだわってドロップを確定させるとするともっとマップに違いがあってもいいはずだし、砂岩マップを飛ばしてまで何かを見せたかった、というのはあるんだろう」
「とりあえずここまでのドロップ品は全部洋一さんがこんな食物はどう? ってガンテツさんにプレゼンした内容になるんですよね? 」
「そうなる。で、ネタが尽きそうだからとヘルプが来たわけだが。何が出てくるのかは楽しみではあるな。どのネタをどこで使ってくれているのか、という楽しみはある」
それ相応の実力は必要になるが、ドロップ品の種類がある程度決まっているのもあるし次の階層で出て来るらしいアイスゴーレムが何か落とすか楽しみにしておこう。
長々と、とまではいかないが誰もいない雪の階層を二人で踏みしめていく。真っ直ぐではないが足跡の平行線が後ろを見ると見つけることができる。轍に沿って歩くので他の足跡もあり、入り乱れている部分や明らかに人間の靴から出来るであろう物とは違う足跡はスノーマンの物だろう。
この辺で戦闘があったという痕跡がモンスターの出現頻度を教えてくれるらしいが、今ここで出てこないということはまだリポップしてない、という状況のほうが可能性としては高いな。
先に行っているさっきドローンで見かけた探索者が倒していってくれたことになるな。タイミングが悪かったのかよかったのかはともかく、行く先がわかっているのは非常に心強い。この先も二十一層まで先導していってくれると嬉しい所だ。
また、全くモンスターが出ない訳ではなく所々にはスノーマンが湧いているので暇だな……と思った時には遠距離から雷撃を浴びせて、死なない程度に痛めつけた後向こうから寄ってくるのを待ってスキルで対処。歩いてるだけで稼ぎがないというのは面白くないのでちょこちょこと手を出しては稼ぎを確実に手にしていく。
そのままモンスターがほとんど出ない道を真っ直ぐ東へ歩く。大岩の位置はわかっているのでここで迷う心配はない。そして二十分ほど歩き抜けた末、大岩までたどり着いた。
「さあ、最後の一層だ。他の探索者も居るだろうから落ち着いて探索が出来るし、帰り道も聞けば教えてくれるかもしれない。気楽に行こう」
「でも時間的にはもう帰る時間ですよね。本当に人が居てくれるでしょうか」
「解らん、が少なくとも一パーティーは先に進んでくれているのは確かだからそれに期待しよう」
二十層の階段を下りる。念のため、警戒しながら下りるが、二十層の階段のすぐそこにモンスターがいるということはなかった。先に下りたパーティーが倒してくれたのかもしれないが、油断は禁物だ。【索敵】の範囲にはモンスターが見えている。
二匹三匹と固まっているスノーマンが少々面倒くさいが、一発で倒せる分だけまだ楽に倒せる部類か。あとはアイスゴーレムがどんなドロップをくれるのかが気になるな。出会うまでの楽しみにしておこう。さて、ドローンを飛ばしてまずは地形の確認だ。二十層はどんな地形になっているのか。
作者からのお願い
皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。
続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
後毎度の誤字修正、感謝しております。





