1353:ノール
こちらもよろしくお願いします。
あの時助けていただいた地蔵です ~お礼は俺専用ダンジョンでした~
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休憩を終えて階段を下りる。相変わらずの高山マップだが、ここはどうやら高山の中間点の様らしく、下に下っていく道と上に上っていく道に分かれているようだ。二分の一で遠回りで四倍時間がかかる、ということになるな。逆に稼ぎたいならここで稼げと言われているような感じでもある。
地図を見る限り、正解ルートはどうやら下りのようだ。小西ダンジョンではひたすら上りルートで次への階層を提示されたが、こっちはそうではないらしい。この辺はダンジョンマスターの好みということだろう。さて、風景はいつもの高山マップなので、おそらくここもある程度の高低差でループしている可能性は考えられる。それを確かめることはしないが、モンスターの確認はしておく必要がある。
ここで出てくるモンスターはノールと言い、ハイエナ型の二足歩行モンスターらしい。俺も調べるまではそんなモンスターが居たんだな、と初めて知ったことになる。そう言えばガンテツもそんなモンスターがいるとあの時言っていた覚えがある。
多分あっちの世界ではハイエナ型の獣人族みたいなものも存在するんだろう。もしかしたらダンジョンマスターの中にも似たような姿をした者が居るのかもしれないな。さて、その姿は……と、索敵には反応があるな。同時に上へ向かっているパーティーもいることが分かる。
「見たことないモンスターとしては新しいタイプになるんですかね、ノールって」
「そうなるだろうな。ハイエナの二足歩行型、という話だけは分かってるので、ダンジョンヴィーゼルみたいに素早さを持ち合わせているモンスターである可能性は高いな」
「なんでノールがイチゴなんでしょうね。もっと他に色々選択肢はあるような気がしますが」
「その辺はガンテツの匙加減だからなあ。とは言っても気になる所だし、早速行って倒して、イチゴが出るまで粘ろうか」
道なりに山道を下っていくと、ちょっとした広場に出て、そこにハイエナを二足歩行にした……らしいが、オオカミと見分けがつかないモンスターがこちらを出迎えるように待ってくれていた。これがノールというモンスターらしい。
「確かに素早く動きそうな見た目をしていますね。逆関節なのもポイントでしょうか」
「もうちょい近づいたら来るかな。流石に俺達のレベルで追いかけられない、ということはないだろうが、注意しながら戦うことにしよう」
しばらく近づくと【索敵】が赤く反応し注意を促してくる。どうやら向こうの戦闘範囲に入ったらしい。実際に近寄って解った事だが、ノールはかなり体格が大きい。俺より大きいどころか頭二つ分ほど差があるようだ。きっと体重も充分なものを持ち合わせているんだろう。
ノールの姿を見る限り、片手斧を持つ者と盾と小剣……実際にはこれも小剣の大きさからは離れているのだろう、それらを持ちしっかりと武装したノールが見えている。
「対人想定、ってことでいいんですよね」
「おそらく。人型とまともに戦闘するのは久しぶりかな。ちゃんと通じればいいんだけどな」
ノールが全速力でこちらへ近寄ってくる。見切れぬほどの速さとは言わないが、初顔合わせでこのスピードは充分脅威だな。ガンテツなりにここも一つの壁として設計している可能性はあるな。だとしたら地図が十七層までしかないのも納得できるところではある。
ノールが片手斧を軽々と振り回してこちらに切り込みに来る。雷切でそれを受け止めると、片手斧はあっさり雷切に沿って折れてしまった。どうやらこっちの雷切のほうが切れ味は良いようだ。この装備なら十分対応できるな。そのまま懐に入り込み、雷切で胴体を刺し、心臓部めがけてズブズブと沈めていく。ノールも心臓は弱点らしく、早々と黒い粒子に還っていってくれた。
芽生さんは体格差で押し負けるかと思っていたが、相手の攻撃をひょいっとかわすと空いた隙間に槍を打ち付け、槍先からウォーターカッターを射出してこっちに合わせるように打ち放ち、ノールを黒い粒子に還していく。一瞬こっちを見て、顎をしゃくって返す。残りの一匹はこっちでやれということらしい。
さて、二匹目はスキルで対応だ。持っている武装で多少の時間差が出来てくれたおかげで芽生さんが一匹、俺が一匹相手している間に暇を持て余していた一匹がこっちへ向かってくる。全力雷撃一発。ノールはそのまま黒い粒子に還っていった。まだ全力雷撃で対応できる範囲か。なら比較的楽に戦っていけそうだ。
「うむ、戦力的にはワイバーンと同レベルか。人型で武装があるからどうかと思っていたが、武装自体にそう威力のある装備を持っている訳では無さそうだ。スピード勝負なのがちょっと悩みどころかな」
「それに、イチゴ落としてくれませんでしたよ。レアドロップなんですかね? 」
「たまたまだろう。これから複数回戦闘することになるだろうからその間にお土産分ぐらいは集まるさ」
とりあえず一戦はした。見た目には充分迫力のある相手だったが、実力のほうはさすがに深くまで潜っている我々の方が上、という認識で良いらしい。今後は出来るだけ近接戦闘せずに遠距離から一方的に虐殺していくことにしよう。そのほうが第一楽でいい。
そのまま道沿いに高山マップを南下していく。どうやらここは一本道のようで、そのまま下りていけばいずれ階段が見える、という感じで地図は描かれている。中途半端なところに階段があってそこを見逃したら下まで行ってしまう、というような心配もないらしい。
その後も複数回ノールと戦い、ついにドロップであるイチゴを手に入れた。その見た目は……
「でかいですね、予想以上に」
「でかいな……ちょっと想像の上を行ってたわ」
出てきたイチゴは芽生さんの手のひらサイズまで巨大化されたイチゴだった。しかもただ巨大なだけではなく、ショートケーキの上に乗っているような形を維持したままの巨大なサイズである。もちろん信頼と安心の真空パックでパッキングされており、パックは硬めにされているので多少指で押したぐらいでは形が崩れないようになっている。
調べてみた所、これより巨大なイチゴは確かに過去存在したらしいが、製品規格として流通する可能性はほぼ無いものであり、ギネスブックには載らないだろうがこのサイズのイチゴが乗ったホールケーキがあれば間違いなく気を引ける商品にはなるだろうな。文字通りイチゴがメインである。
「どうします? 一つをみんなで分け合っても充分な大きさですよこれ。しかも丁寧に真空パックされてますからいつものダンジョンクオリティを維持してますよ」
「とりあえずいくらになるかの査定も気になるから一つは査定に出そうと思う。残りはみんなでそれぞれ分け合って……面白そうだからギルマスにも一つお土産に持って帰るかなあ。頑張って数が落ちるまで戦いながら次の階層を目指そう」
イチゴの大きさに興奮してやる気が出たのか、芽生さんが率先してノールの掃除を始める。ちょっと楽が出来る俺はその芽生さんを眺めながらドロップ品の回収に励む。ポーションも何本か落ちるが、ポーションの収入を上回ることはないとしてもイチゴの見た目の迫力と気になる味は芽生さんの胃袋を刺激するにはちょうど良かったらしい。
十七層を下まで下り切って階段に到着するまでにイチゴは五個ほどドロップした。一個いくらなんだろうなこれ。一万円ぐらいか? ここまで潜れる探索者がそこまで多くないことと、ノールの強さを鑑みるとそのぐらいの金額はしそうではあるな。
ポーションはヒールポーションのランク4が落ちているのでしっかりと収入は回収できている。どうやらモンスター難易度としてはそのあたりのモンスターだという認識で良いらしい。雪原マップでキュアポーションのランク4に切り替わるかどうかは怪しいが、モンスターを狩った数に対してドロップ率で考えると、雪原マップまではヒールポーションが継続しそうな気がする。
さあ、ここからは地図が解らない十八層だ。どんなマップになっているか気になるぞ。早速階段を下りて十八層に下りたつ。十八層に入ったすぐのところでノールが三匹待ち構えていたのでまとめて雷撃で吹き飛ばし、さて、と目視の範囲で状況を確認する。
ノールは遠距離攻撃をしてこないのは解っているので、周囲が安全ならここではドローンを飛ばすことができる。ちょっと道から離して高山マップ全体を見れるギリギリの高度と位置にセッティングして、全方位を見回す。
解ったことは、ここは山の頂上になっていることと、いくつかの道が途中で別れており、通う道によっては行き止まりになったりしている、ということらしい。とりあえず撮影して現状について理解をした。
その上で、スレッドに書かれていた攻略のコツを再度見直す。右、左、左、右、左、中 とだけ書かれていたその攻略法は、おそらくどの道を選ぶかの選択肢なんだろう。なるほど、たしかに右に行くか左に行くかで道が分かれている。横幅はそれなりに広く、それぞれの道を選択することで戦うだけのスペースとモンスターリポップの場所を提供しているらしい。
「とりあえず正解っぽい道順は書かれているからそれに沿って行くとするか。これが嘘だったら……本当の場所を探してうろうろするしかなくなるが、何のヒントも無しに動き回って毎回ドローンを飛ばして……とやるよりは効率的に違いない」
「間違いだったとしても正規ルートに戻るまでに時間はかかるでしょうし、最初でいきなり嘘をつかれてて、という可能性はありますか」
「スレッドを追いかけていくと『今たどり着けたわサンクス』ってリアルタイムなやり取りがあるから信頼性は高いと思っていい。俺達もそれに従って進むことにしよう」
最初の選択肢を右へ。しばらく歩くと広場に出てまたノールと戦闘。危なげなく処理して次は左だったな。左へ向かうと道の途中でまたノールと遭遇。ここはそこそこ戦っていけるので暇せずに済みそうだな。
次の広場でも戦闘。どうやら広場ごとに必ずモンスターがポップしていて、道中の道にも運が良ければ湧いている、という具合らしい。次は左だな。
「同じような風景なので迷いそうですねえ」
「それもまた味、ということだろうな。最悪迷ってしまったらとにかく上に向かうことで迷子回避は出来るようになってるんじゃないかな」
「なるほど、で、また一から歩くはめになると」
「何回か繰り返したらたどり着けるようになってる分、目印がないサバンナマップや雪原マップより救いは大きいと思うよ」
ガンテツがどこまでマップについて作り込んで考えているかまでは知らないが、こういう複雑さがあっても問題ないと思っている俺にとっては、地図作りに余念がない普段の楽しみが増えて面白い所ではある。さて、今回はさすがに地図は要らないだろうな。このイチゴをたくさん取ってきてくれというクエストを受注してきている訳でもないしな。
その場合は雪原経由で来るのか、森経由で来るのかどちらのほうが近くたどれるかも考えなければいけないし、その分だけ新熊本第二ダンジョンに居つく必要が出てくるわけで、そうなったら長期出張は不可避という話になるし、一日に四億稼げる俺にそんなクエスト受注させてどれだけ社会的損失が発生すると思ってるんだとか強く出ることも可能だ。
さて、次の広場は……右だな。後は左、中と進めばゴールが見えてくるはずだ。ここで一旦ドローンを飛ばして、本当にその通りなのかを確認しようとしたが、流石にここからではまだ見ることが出来なかった。もう一段階近づいてしまわないと階段を見通すことはできない。高山マップは壁に階段が埋め込まれている分、大岩を探すという作業が一つ面倒くさくなる。
仕方なくドローンを回収して道通りに進む。イチゴは結構な数になってきた。流石にこの数を潰さずに運ぶにはリヤカーが必須になってくるだろう。魔結晶も溜まってきたし、両手にぶら下げて帰ってきました、とは言いづらい量になりつつある。
次の広場を左に曲がって、ノールと戦闘。終わったところで真ん中の道を選んで進み、最後のノールを倒したところで崖を確認すると、たしかにそこに階段はあった。この書き込みは信じていいネタだったと安心している俺が居る。やはり他人の良心には従っておくべきだな。同時に、この難易度を突破してくるのはB+レベルの実力が必要になるだろうな、と一つ身を引き締めた思いがする。
さあ、残り二階層だ。待ってろよガンテツ、美味い酒が飲めるかどうかはお前が出て来るかどうかにかかってくるぞ。
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