1338:やっぱネットって便利っすね
机と椅子を広げて昼食。と言っても机を出してまで食べるものでもない。そのまま七十一層の周りが安全な七十二層側の階段で立ちながら食べても良いぐらいの簡素な食事だ。手間はかかってるから簡素だと他人に言われるとうーん……と悩むところではある。
ともかく今日はお手軽サンドイッチとグリフォンを贅沢に一枚肉にして揚げて、刻んだキャベツと一緒に挟んだグリフォンカツサンドがメインディッシュだ。今のところ金額で表すことはできないが、地球上で公的に判断できる範囲で最も高い肉を使った一品である可能性は高い。
ここまで来るには大変な苦労が伴うのでグリフォン肉はワイバーン肉より高く引き取ってほしいものである。それはそれとして、そのグリフォン肉を一枚ずつ贅沢に使ったカツサンド。芽生さんは早速パクついてもぐもぐして、飲み込む。そして黙って親指を立てている。どうやら美味しかったらしい。
「これこそ求めていたチキンカツって感じがしますね。美味しいです。パクパクです。これはもう一つ胃袋に入れても良いぐらいですね」
「流石に一枚しか揚げてこなかったからな。次に作る時はもうちょっと量を用意してくることにしよう。端っこをつまみ食いしたが中々美味しかったからな。これで香辛料まみれにして油で揚げたらより面白い味になっていたかもしれないな。どこかの店のフライドチキン風味にするのもアリだったか」
「それはそれで香辛料の配合の手間なんかを考えると時間がかかりますからね。手間もそれ以上にかかりますし、それを考えると素直に店で買ってきたもののほうが安上がりで建設的のような気がします」
確かにそうだな。俺が一時間料理に悪戦苦闘する時間で六千万円稼げることを考えると、あまり料理に凝りすぎててもダメということか。あくまで就業時間に差しさわりの無い範囲での料理に努める、このバランスが大事なのではなかろうか。
「まあ、あまり凝った料理を作るとそれだけで気力を使い果たしてしまいそうだからな。あくまで朝起きて片手間で作れる一品料理とサラダ、ぐらいで満足してくれるとありがたい所だ」
「それで充分ですよ。作ってもらっている身分ですからお腹がいっぱいになるだけでもありがたい所です」
はむはむとサンドイッチを胃袋に詰めていく。やはりカツサンドは何の肉で作っても満足度が高い。ワイバーン肉でもグリフォン肉でも揚げ物は正義だ。まだまだ胃袋が順調であることを教えてくれている。サンドイッチとはいえ腹が満たされずに中途半端な満足で午後の探索するぐらいなら多少食べ残しても多めに用意したほうがいいんだろうか。
「そういえば、ワイバーン肉だとお肌によろしい成分が入っている様子だったが、グリフォン肉だとどういう効果があるんだろうな。今のところ体感できるような効果は得られてないんだが」
「どうですかねえ。解らない所で何かしらの効果があるのかもしれません。フカヒレは元々お肌によろしい食べ物でしたし、よりお肌に効果的だったのかもしれませんし……ダンジョン肉にはまだまだ分からない効果が色々とありますねえ。もっとわかりやすい形で発現してくれればいいんですが」
グリフォンの肉で得られる効果か……パッと思いつく範囲では何もないな。ワイバーン肉がお肌の若返りなら、グリフォン肉は内臓の若返り、とかだとやはり解り辛い所だが、もしかしたら胃もたれしづらくなっているとかかもしれないな。
そういえば胃袋にザクザクとグリフォン肉は入っていったが胃もたれするような感じではない。内臓を若返らせる効果があるのか、よほどグリフォンカツが軽く揚がっているかだな。今のところ食べ過ぎた感も油物を食べた時の胃の重さがない。これは……俺の腕前があがったということか、それともグリフォンカツは胃袋に優しいのだろうか。
どちらにせよ美味しく頂けたのは確か。今度は重たい料理にグリフォン肉を使ってみて、同じように食べて重たさを感じられるどうかを確かめてみることにしよう。次はグリフォンの親子丼……いや他人丼か。それにチャレンジしてみるか。
食事を食べ終わり、芽生さんと食休みがてらスマホで不動産検索をしてみる。いくつかのサイトを巡っていくつかの物件を選び出して、今の家よりいい場所をピックアップしてみる。
「こことか近くていいとは思うんだけど、広さがなあ。寝に帰るだけなら充分なんだが事務所兼宿泊所とするならもうちょいキッチン周りが便利じゃないと副住居としてはものたりないんだよな」
「やはり出遅れたのが一番大きいんでしょうねえ。今から求めるなら3LDKぐらいの面積は欲しい所です。寝に帰るだけの部屋としてはちょっと物足りない感じですし、せっかくなら私は引っ越ししたいところではありますね」
「そんな都合のいい物件はもうないだろうからなあ。やはりあのマンションに狙いを定めておけばいいってことかな」
「そんなところでしょうねえ。今更ダンジョン周りで新しい物件が出る可能性は低いでしょうからここに決め打ちしつつ、時々探して良さそうな物件があったら土地ごと買うのも視野に入れるのがいいかもしれません。どうせスキルオーブ買った感覚で買えるでしょうし、権利の委譲とか手続きが面倒な所以外はお金も時間もありますからねえ。ゆっくり探すと良いと思いますよ」
ゆっくりセカンドハウスを探すか……まあ、焦って入居しなきゃいけないほど問題が出ている訳じゃないんだ、その分はちゃんとやっておこう。
しばらくあれこれと物件を見たり、他のダンジョンの周りではどうなっているかなんかを調べている間に昼食後の休憩タイムが終わった。やはりネットがあると暇つぶしにちょうどいいな。これでエレベーターの中で使えればもっと便利なんだろうが、流石にそれは求め過ぎだろう。
午後からの五時間一本勝負、いつもより手早く動いて七十二層で出来るだけ長く出来るだけ密度の濃い探索が出来るようにしておこう。
そういえば世の中にはマンションポエムというジャンルの詩が流行っていると聞く。このマンションではどのようなポエムが奏でられるんだろうか。後で調べてみることにするか。
◇◆◇◆◇◆◇
休憩を終えて午後の探索はいつも通り終わった。予想よりポーションが一本余分に出たのでそれが美味しいポイントだということは解っている。今日一日で家を一軒買えるぐらいの収入が出来たというのは非常に精神的によろしい。
いつもの流れで七十層に戻って七層まで倍速で押すと、それぞれ読書の時間。芽生さんはファッション誌、俺はクロスワード。一緒にいるが、常に二人で同じことをしているという必要はない。同じ場所にいてもそれぞれやることがあるならそれに集中する時間も必要だ。
二人でいても一人きり、というそれぞれにとって必要な孤独を楽しむという行為。その行為に熱中して時間が無事に過ぎ去ってくれるなら問題はないのだ。
そのまま二人自分の作業に集中したまま七層に到着したのでエレベーターを降りて芽生さんを監視役としてリヤカーに積み込んでおく。
「じゃあ行ってくる」
「頑張ってねー」
茂君ダッシュは今の調子なら十五分で行って帰ってくることができるようになった。他人の目がある場合はその限りではないが、走って途中にいるワイルドボアをなぎ倒して、そのまま茂君にサンダーウェブ。一発で全てのダーククロウを処理すると、今日も木が少し焦げたことを確認して、周りを見渡し人の目がないかどうかを確認して範囲収納で一気に羽根を収穫する。
帰り道もダッシュで行い、行き道に落としていったドロップ品を回収しながら戻ってくる。毎日の日課のダッシュ二本、体力と今日の体調の変化を見極めるにもいいテスト環境だと思っているので毎日茂君には通う。
何より、布団の山本へ卸す大事な商品だ、少額とはいえチリも積もればかなりの金額になる。今年一年でいくら分の羽根の納品をしたかはちゃんと記録しておかないと、消費税を納付する必要があるらしいからな。それも佐藤税理士に任せてしまえばいいはずだが、布団の山本に連絡すれば去年一年間の取引リストみたいなものを送ってもらえるだろう。
そろそろ年末も近づくしそういう書類手続きに関することについてもまとめていかないとな。
戻ってきて七層。芽生さんは行きと同じポーズで雑誌を読み続けていた。
「ただいま」
「おかえり。そのままエレベーターまで行ってくれると楽ですねえ」
リクエストに応じて、芽生さんごとリヤカーをエレベーターに押し込んで一層のボタンをポチ。燃料はさっき拾ったダーククロウとワイルドボアの魔結晶で事足りた。
五分ほど経ったところで一層に到着したので今度こそ芽生さんにはリヤカーから降りてもらう。素直にリヤカーから降りて雑誌を受け取り、先を歩いていく芽生さんに引き続きリヤカーを引く俺。さっきよりは軽くなったな。
退ダン手続きを済ませてリヤカーと共に査定カウンターに並ぶ。今日は先に査定を受けているパーティーが居たので、その間に芽生さんには着替えに行ってもらう。リヤカーにもたれかかってじっと待ち、自分の番が来たらいつもの手順で仕分けしたドロップ品を一種類ずつ渡していく。
しばらく重さを量ったり色と数を確認したりしている様をボーっと見守りながら、結果が出てくるのを待つ。
「二分割ですよね? さっき文月さんいらっしゃいましたし」
珍しく二分割かどうかの確認をされる。
「今着替えに行ってますよ。なので二分割であってます」
「解りました」
珍しく会話をした気がする。短いが、お互い機械的な会話だけをするよりは少しだけほっこりするな。芽生さんが帰ってくる前に結果のレシートが二枚印刷されて出てきた。本日のお賃金、三億三百八十二万五千六百円。やはりポーションが予定より一本多かったのが功を奏したらしい。
二人で六億。指輪の取引を除けばこの金額はそうそう抜かれることはないだろう。もしくは、一晩かけてじっくりと七十二層を回るようなことをしない限りは一回の査定では更新されることはないだろうな。
芽生さんが帰ってきたのでレシートを渡し、金額を確かめると、口の端が緩くなるのを俺は見逃さなかった。今日も予定通りしっかり稼いでこれた、という実感を今確かめた所なんだろう。そのまま口の端をニヤニヤさせながら支払いカウンターに並んで振り込みを依頼すると、そのまま休憩室へ行った。
俺も追いかけるように振り込みをお願いし休憩室でちょっと熱めにした水を飲む。これで脳を探索モードから日常モードへ移行させる。あちち……うむ、しかしこの熱さが脳のスイッチをきっちり切り替えてくれた気がするぞ。
バスの時間までは余裕があるので、その間に芽生さんとスケジュールの確認。俺がソロで潜る日と二人で潜る日をそれぞれ確認し、予定に入れる。
「これで連絡事項は終わりかな。とりあえず年末まではこれで問題なしだな。後は今ため込んでるドロップ品の査定が開始されたらまた連絡する」
「お肉のほうは残しておいてくださいね。ちょこちょこ食べたいので」
「それはもちろん。でも残しておかなくてもしばらくは通うだろうから問題ないと思うけどな」
実際貯まるペースはそこそこ速い。七十二層にさえ潜れば一時間に四つほどは確保できる計算だ。毎日腹いっぱい食べない限りは問題なく拾えるし、俺もソロで七十一層なら回れるので一日に二十とまではいかなくてもそれなりには数をそろえられる。まあ、食料はあるに限るからな。
バスの時間が来たのでバスに乗り、駅まで到着するが、芽生さんとお別れした後自転車置き場で自転車を出して、乗ってダンジョン方面に戻る。
目的はマンション建築予定地だ。どのぐらい工程が進んでいて、説明会の日程なんかが看板に残っているならそれを撮影して戻るためだ。日は大分傾いてしまっているが看板の前まで来てライトをつけたまま撮影。マンションポエムと共に工事工程表やその他いろいろを撮影すると、満足して駅へ戻る。
ここが新しいハウスになるかもしれない所か。自転車でもバスでも車でも通える、小西ダンジョンに潜るなら悪くない場所だ。俺は新しい家を買うぞ。
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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
後毎度の誤字修正、感謝しております。





