1337:良物件、見つかる
肌寒い朝が来た。昨日は新しい住処を見つけるべく色々物件を見回ってみたが、どのような面倒くささがあるか等、部屋を借りるにあたっての敷居の高さを色々と味わった。ついでに広さからも探してみたが、今の環境より良くなる、とはっきり言えるようなものはみつけることはできなかった。
安住の地を求めるか、それとも事務所として一時的に借り受けるかにしろ、荷物置き場にしろ調理場にしろいまいち小西ダンジョン周辺の賃貸では満足できるものはなかなか見つからないのだ。良い感じにまとまった土地が手に入る方法はないものか。また調べていくことにしよう。
さて、今日もいつもの朝食を食べたら昼食の準備だ。今日の昼食は……久々のカツサンドか。いつもならボア肉かウルフ肉で満足する物量をご準備するところだが、在庫も充分あることだしチキンカツならぬグリフォンカツで作っていこう。多分ワイバーンカツよりもチキンカツっぽいものが作れるはずだ。
いつも通り厚みを均等にして塩胡椒を両面に振った後薄力粉、卵液、パン粉とくぐらせて、百六十度まで上げておいた油の中に投入。きつね色になるまで揚げると、今回も二度揚げに挑戦する。更に温度を上げて百八十度ほどまで加熱した油の中にくぐらせて、一分ほど揚げたら完了。
今日も良い揚がりっぷりだな。俺の揚げ物の腕もそこそこ上がってきたように感じる。グリフォンカツをトーストに乗せて、キャベツとマヨネーズで挟んで一品。端っこをちょいと味見したが、よく揚がった美味しいカツであることは確か。
後はいつものゆで卵を細かくした奴とサラダ系で合計三品。今日はツナサンドはなしだ。ツナ缶が切れているから、今度また買い出しに行こう。
三品だけとはいえ、トースト三枚分の分量になるからカロリーとしては充分取れるだろう。胃袋も十分満たされてくれるはずだ。
今日は炊飯器もお休み。時々はこうやって休暇をやってまた美味しいコメを炊けるように頑張ってもらうことにしよう。もしかしたら夕食に働いてもらうことになるかもしれないがそれまではゆっくりとケーブルから電気の味を楽しんでもらっていよう。
スーツに着替えていつもの用意をする。この慣れた部屋の間取りといい、キッチンの様子といい、今の自分に最適化されたこの環境を離れて新しい住居に住む、というのはどういう感覚になるんだろうな。案外早く慣れていつもよりも短い通勤時間で長く探索できるようになれるのだろうか。
金額と折り合いをつければ確かに可能だろうし、購入する物件の代金は何日かかければその分の稼ぎで帳消しに出来るだろうからあまり深く考えずに契約してしまってもいいかもしれないな。そのつもりで良い物件に出会えたならまず契約から入ることにしよう。
柄、ヨシ!
圧切、ヨシ!
ヘルメット、ヨシ!
スーツ、ヨシ!
安全靴、ヨシ!
手袋、ヨシ!
籠手、ヨシ!
飯の準備、ヨシ!
嗜好品、ヨシ!
車、ヨシ!
保管庫の中身……ヨシ!
その他いろいろ、ヨシ!
指さし確認は大事である。今日も芽生さんと探索。いつもの寂しい七十一層ではなく七十二層で楽しくデートをしながらだ。それで給料が入るんだからこれ以上のことはないな。今日も頑張っていこう。
◇◆◇◆◇◆◇
バスに乗って窓からの風景を見ながら移動していると、真新しい看板が目に入った。新しい分譲マンションが出来るらしい。これはちょうどいいタイミングという奴ではなかろうか。早速スマホで写真を撮って、説明会なんかの日付を確認しておく必要がありそうだな。看板を何とかスマホに収めると、早速ネットで検索してみる。
すると、最近できたばかりらしいサイトが出てきた。「レジデント小西」と名のついたその物件は、名前からして小西氏が関わっていそうなその名前、地主はおそらく小西さんなんだろう。
明らかにダンジョン探索者向けの物件として建てられるであろうそれは、近所では最も高い高層建築物となる予定らしい。駅からも近く駐車場有り、エレベーター完備。明らかに探索者向けの物件であることが窺える。
これは……説明会に何とか参加して可能ならそのまま購入につながる流れでもいいんじゃないだろうか。拙速は巧遅に勝るとも言うし、悩み抜くよりもここは最初の説明会に潜り込んで……いや、もう買う前提で動いてしまってもいいだろう。分譲にしろ賃貸にしろ、家賃は一日で稼いでしまえるんだ。
完全に仕事用の物件として購入してしまえば経費でも落とせるだろうし、小西ダンジョン安村支店という風に使ってしまってもいいだろう。何といっても、家具の運び込みはすぐに出来てしまうのが強みだ。いっその事新しい家具を仕入れてしまってもいいが、キッチン用品と寝床さえあれば後はどうとでもなる。どうやらネット回線も引き込んでいるらしいし設備としては充実している。
よし、俺はここで家を、家じゃないけどマンションを一部屋買うことに決めよう。説明会の日付だけはチェックしておかないとな。説明会は……さすがにかなり先になるか。まだ工事も始まってもいないからな。
一年先か二年先かは解らないが、流石にその頃になってもうダンジョンが消えてなくなる……そうなる可能性はゼロではないが、同じところにまた立ててもらう可能性のほうが高い。小西ダンジョンの役目もまだまだダンジョンの実験場として色々やってもらうことになるだろうしミルコと俺の仲もそこそこだ。
今後はそういうのにも気をつけながらダンジョンを探索していくことにしよう。バスが小西ダンジョン前に着いたので考えをいったん中断して下車。芽生さんは休憩室かな。覗きに行くと、槍を抱えながら温かい水を飲んでいた。
「到着。お待たせ」
「今日のお昼は何ですか? 叶うなら温かいものがいいですねえ」
第一声がお昼の話だった。残念ながら今日は……微妙に温かいもので終わるという話になってしまうな。
「残念ながらお昼はグリフォンカツサンドだ。昼食作り始める前にリクエストがあったならグリフォンシチューになっていたかもしれない」
「それは少し残念ですが、ちゃんとお昼がご用意されているということにこそ感謝しなきゃいけない所ですね。今日もありがとうございます」
珍しく丁寧に礼を言われた。さて、揃ったところで探索を開始するか。ほぼいつも通りの時間に入ダンし、茂君から始める。体を温めるにはちょうどいいダッシュっぷりだった。
いつも通り一キログラムほどの羽根を保管庫に仕舞うと戻りもダッシュで行い、体を温める。サバンナ気候のおかげでより汗をかくが、ウォッシュで汗は綺麗にできるのでほどほどに温まった体だけが後に残る。これで七十層まで下りれば体も良い調子に動いてくれることだろう。
芽生さんと七層で合流し、七十層まで倍速でポチ。さあ、暇な二十分ほど何をして過ごそうか。
「そういえば来る時に見たんですが、駅近くにマンションが建つようですね、それも結構豪勢な奴が」
芽生さんから話題を振られた。スマホで撮った写真を見せて確認する。
「これのこと? 」
「そう、それです。洋一さん、この際買っちゃいません? 多分これ以上良い物件しばらくは出回りませんよ」
「俺も同じことを考えてたんだ。これ以上儲けを大きくするには探索時間を多くかけるぐらいしか思いつかないから、通勤時間を短くする方法があればそれがいいと思って最近不動産のサイトを見回ってはいたんだが、いまいちピンとくる物件がなくてな」
「せっかくお金があることですし、個人事業主でもあるわけですし、事務所の一つぐらいはあってもいいかなと思うわけですよ。全額経費にもできますし近場に良い物件が出来るとすれば今回が最後かもしれません。これ以上は土地の都合で良い感じのものが出来るとは思えませんからねえ」
芽生さんの目からしても優良物件らしい。つまりこれは買いと考えてもいいわけだな。
「最悪寝に帰るだけの場所としても都合はそう悪くない。駐車場もできるみたいだし、色々と便利ではあるな。どうせ一日で回収しきるだけの物件、と考えれば後は競争率がどのぐらいになるかだな。よし、この物件買いに回ることにするか」
「出来れば隣同士の部屋がいいですねえ。最悪壁ぶち抜いて一つの広い部屋として運用することもできますし」
「そこまでやるかどうかはともかく、予定されてる広さも充分にあるし、引っ越しも手間がかからないし悪い話では無さそうだ。最悪前の家に戻ればいいわけだしな」
「せっかくだし家具も新しくすればいいんじゃないですか? もっと広いベッドとか入れれば窮屈な思いせずに三人で眠れますよ」
ふむ……三人が十分な広さを確保できるベッドか。キングサイズって奴かな。掃除が大変そうだがウォッシュで良いし、シーツ洗うのが少々面倒ではあるが考えになかったわけでもなし。それもありだな。
「そうなるとますます買いたい欲が増してくるな。実家は実家、新居は新居で使いたいときに使う。それで良さそうな気がする」
「家が二軒に増えて困ることもないですし、掃除の手間は生活魔法で綺麗に出来てしまいますし、月々の水道や電気の料金なんて大した金額じゃないですからね。第二拠点が出来ることについては問題ないはずですよ」
ふむ……食品のいくつかは保管庫に入れてあるし、引っ越しの手間は食品と共に、で済む。後は家具を選んで運び込んで、家具屋と電気屋でそれぞれ一回で終わる感じになるか。それで後は……まあ、決まった時間に仕事をしなきゃいけないわけじゃないから何とかなるな。一気に夢が膨らんできた気がする。
「よし、購入を非常に前向きに検討しておく事にしよう。ちゃんと説明会の時期とか入居開始とか色々気にしなきゃいけないことが増えたが楽しみでもあるな」
「私の場合は完全に引っ越しになりますから……その時になったら洋一さんにはトラック代わりに移動の手伝いをしてもらうことにしましょう。部屋の場所はその時にでも教えます」
「引っ越す前に教えてくれてもいいんだけどな。まあいいや、まずは部屋が取れないと意味がないからな。それまでは大人しく通常業務を繰り返して部屋の代金を貯めこむことにしよう」
七十層に着いてから改めてスマホでマンションの建築についてのスケジュールや説明会の予定等を確認し、今のところまだ未定、というところまではわかった。
とりあえず午前中をいつも通り七十一層で過ごす。マンションの話はさておき、日課の作業は大切だ。いつも通りサメから撃破しつつ、順調に二時間の間作業をこなす。
そう、作業と言っていい。もうここでは探索ではなく作業だ。これが探索ならまだ伸びる見込みや収入を増やすべく色々やる手間暇をかけてやることはできるが、午前中の中途半端な二時間というのは作業感が思い切りにじみ出ている。
せっかくなのでと、芽生さんに提案してペースを上げて戦闘に入るが、それでも作業である。空中に浮いてるモンスターをこっちに反応させて、近寄って来るまでにスキルで対応。その何十回何百回と繰り返し続けてきた手慣れた行動をとり続ける。二分間におよそ一回のペースでそれをただひたすら繰り返す。
スライムを潮干狩りをしてるほうがよほど楽に行動できるであろうが、モンスター単価がまるで違う。スライムは十円。こっちはポーションを見込んで二百万円。ポーションをなしにしても三十万円の一発だ。どんなに安くてもそれだけ見込めるというのは充分美味しさとして機能する。
もしもよほど運が悪くて何もドロップしなかったとしても、最低でも六百万円の収入は担保されていることになる。たとえ今日一日魔結晶以外何も出ないという最悪なドロップ運をしていたとしても、七時間働く以上六千三百万円の稼ぎは確実に得られるだろうということが言える。
そこに加えてポーションとフカヒレと肉と爪のドロップ品の収入がある。更に、午後からは三時間ほど七十二層で戦う。七十二層では七十一層のおよそ二倍のモンスター密度を有しているからそれだけ多くの収入が見込めることにもなる。
そう考えると、ポーションの収入の占める割合がいかに多いかが分かってくるな。ざっくり言えば収入の八割はポーションで潤されている。このポーションが一般的になり、それほど需要がひっ迫しないようになればもっと変わってくるのだろうな。
そんな感じで午前中はちょっと早めの速度で回り、順調にポーションを二つ手に入れたところで午前中の探索を終わった。これで午前の収入は無事に確保できた。午後の仕事の前にご飯だ。いつものサメを倒したところで階段を上がった。
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