1332:ダンジョン庁の動き
side:ダンジョン庁
聖蹟桜ヶ丘のショッピングモール跡地にダンジョンができたという一報を聞き、ダンジョン庁長官である真中はダンジョンの確認とダンジョン内部の構造把握を目的としてD部隊に緊急出動を要請。
同時に、前回熊本第二ダンジョンで確認された通信機能がこちらでも備わっているかどうか確認するため、ネット回線を使用した通信を継続したままの探索を要望した。
「こちら、鯨井曹長です。真中長官、現在こちらは二層への道を模索中です」
「鯨井曹長。一層はおそらくだが、スライムしか出現しないだろうから、二層への階段を見つけ次第、体力が充分残っているならばそのまま二層の探索に赴いていただきたい」
「了解しました。何か発見した場合至急報告しますので、その間ネット回線は繋いだままにしておきます」
「続報を期待しています。何かあったらよろしく」
長官室と現地のダンジョンではネットワークが繋がったまま、他にも情報を共有するべきものも含めて幾人かでグループチャットの形で探索は行われていた。やはり新しいダンジョンでは通信は標準装備らしいことがこの時点で判明し、そのままネットワークを繋いだまま配信探索、という流れになったのである。
現れてすぐにダンジョン発生の報告がなされたのは、定期的にダンジョン建設予定地に人を派遣して見回らせていたからである。実際にいつダンジョンが現れるかまでは不明だったが、この度ようやく派遣されていたダンジョン庁の職員の面目もたったという所であった。
ダンジョン庁、というか真中自身はここに出来上がるということを担当職員にだけ伝え、いつになるかわからないがここに必ず発生するので施設の管理者にも話を通したうえで巡回を続けさせていた。
「これは思ったより早くできたと考えていいのかなあ? もう少し時間がかかるとは思っていたけど」
「そうですね、何日ごろに作る、という予定を聞いていたわけではありませんし、ひとまずここで一つはお見せできる形になった、というところでしょうね」
多田野はいつもの調子で淡々と感想を述べる。
真中は腕組みをして考えながら、価格改定が近づく中各種ドロップ品の需給関係を調整して値上げと値下げの感覚をどうするかを考えていた。具体的には一部ポーションの価格を下げるかどうかと、魔結晶の価格を今回手を触れるかどうか、のあたりがネックになってきている。
順調に発電を始めた各地の電力会社から、魔結晶の価格の値下げのお願いが届いていることが現状だ。今のところダンジョン庁としては魔結晶の価格をそのまま電力会社に回すことで在庫の魔結晶を吐かせることをメインの目的にしている。ダンジョン庁が全額買い取りで魔結晶をやりくりし始めてから相当な量が在庫として溜めこまれている。
その量を保管しておくだけの倉庫のレンタル料も馬鹿にならない。その為にまず体積が大きく倉庫のレンタル料金を圧迫している黒魔結晶から優先して出荷している現状だ。いずれ赤や緑、青の魔結晶も燃料として出荷されていくのだが、まずは体積比で量の多い黒魔結晶から、ということになっている。
「魔結晶とポーションは今のところ固定かな。まだこの辺の数字をいじるには時期尚早だろう。探索者のメイン収入でもあるし、下手に安くして探索者の収入についてあれこれ我々が抑え込む理由もない。稼げるうちに稼いでもらいたいというのが本音だし、もしそれで探索者が減って収支が合わなくなってくるダンジョンが出てくるのはよろしくないからな」
「厚労省から、探索者が増えすぎることで労働市場のバランスが崩れてしまう。皆が探索者になりはじめたら社会が回らなくなるという苦情がほんのり来ていますね」
「そこは憲法の保障する職業の自由に反するから文句を言われても困る所だな。十八歳以上という制限を設けているのがこっちの制限ラインだ。あくまで自己責任として自分を保証できるのが十八歳で成人だからという理由で設けている訳であって、別に十五歳以上に引き下げをしてもいいとは思っている。そうなれば探索者専門の高校が出来上がってもいいわけだし、他のラノベでもモンスターが出てくる世界である前提だが、そこまで年齢を下げて職業として成り立たせてもいいぐらいなんだ。そこをつつかれるとだったらこっちから制限を撤廃しても良いんだけど? と半分脅しになるがそう伝えてくれても構わないかな」
現在、探索者の平均年齢は二十六歳だということが探索者証の平均年齢から解っている。勿論取るだけ取って探索者の道を選ばなかったものも多いだろうし、肉体労働に嫌気がさして辞めたものだっているだろう。
ただ、あくまでビッグデータとしてそういう物が出ている以上、探索者の平均年齢をさらに下げることもダンジョン庁としては出来るのだ。その手を使わないだけまだ恩情であるという意識を向こうにも伝えなければならない。
「三十三層から先のドロップ品はとりあえずまだ固定かな。もっと稼いでもらってみんなB+になりたくなるようにしておきたいし、まだまだレア素材も取っていってほしいしね。この辺りをいじり始めるのは次回以降ということになるだろうね」
各種のドロップ品リストを参照して順番に確認していく。スノーベアとスノーオウル、更にその先のドウラクのについては一考の余地はあるとは考えているが、あまり安くし過ぎてドロップを持ち帰ってこない可能性を考えると、安すぎてもいけない所だ。現状維持で行けるのが一番良いのだが、市場からはワイバーン素材の値下げ及び需要が伸び始めているところ。
また、階層の間隔を開けてもっと先であるダンジョニウムインゴットの供給を増やしてくれという意見も来ている。五十一層の甘味料に関しては今のところ追加発注は来ていない。どっちも先行探索者に頼まなければ確保できないものでもあるし、ダンジョンによってはそこまで階層が出来ていないダンジョンもある。限られたダンジョンからのレアドロップに近いドロップ品の入手になる。
安村さん達みたいに最深部へ向かっていく探索者も必要だが、その道中でドロップを集めて行ってくれる部隊も必要だ。小西ダンジョンのD部隊のように自分の所属の都合でドロップ品を集めるために潜るということもあるので彼らは頼れない。
「うーん……やはり手数が足りないな。来年からの補充人員と新設する部隊でどこまで展開できるようになるか、そこまで考えないと安定供給はまだまだ難しい所だな」
「何パーティー作れるか、というところでしょうね。文月さんには安村さんと共に深くまで潜ってもらう任務に就いてもらうとして、新規のダンジョン庁のお抱え部隊が何年かけてどこにでも行けるようにできるか……そこがネックになってくるでしょうね。OJT名目で事前活動として何人が探索者としての適性があるかどうか確かめるという手段もありますが、さすがにダンジョンに潜らせて活動……ということはあまり時間が取れないかもしれません。自主訓練として探索者登録をさせておくのがせいぜいだと思います」
「そこが落としどころかな。その線で進めておいてくれていいかな? 可能ならダンジョンについて多く学ぶため、ダンジョン探索者講習を受けて探索者証の発行、ダンジョンでの試験探索、ダンジョンの環境などに慣れてもらうというのも大事だ。今はまだ誰がダンジョンに潜るかがハッキリしていない所でもあるし、全員に念のため伝えてもらうか」
「手配しておきます。これでランクを上げて当日入庁式に来てくれるのなら、ダンジョン適性ありと判断することもできますからね」
運のいいことにダンジョン庁本庁の真横にある高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンは現状要望の多い物資を全て搬出することができる優良物件だ。それに広くて探索するには向かないが、特定の階層に滞在してドロップ品を稼いでいくにはちょうどいい場所でもある。他の探索者がある程度多くても問題ないだろうし、そろそろゴブリンキング討伐の待ち行列も最近は解消に向かっていると言われている。
「今回はあんまり値動きの大きい商品はないかな。バトルゴートの毛、レッドカウの肉、ダンジョンスパイダーの糸、カメレオンの革、トレントの樹液、トレントの枝、これらは値下げかな。市場在庫がだぶつき始めてるのもあるし、レッドカウはもうちょっと値段を下げて世間的に食べられてもらってもいいと思うんだよね」
「ちょうどBランクの財布狙い撃ちみたいな形になるのは、とっととB+ランクに上がれってことなんですかね。エルダートレントに勝てないとB+ランクになれないようにしたのは我々の仕業ですが」
「査定金額で強さが決まる訳じゃないからね。それにダンジョンドロップに需給があるからこそこうやって我々がデータを集めて価格を決めている訳だし、釣り合わないと思うなら何処かの企業に直接卸してくれても構わない、というスタンスだ。実際そうして差額で儲けている者や、企業に所属して探索に赴く者もいる。そこに口を出すつもりはないさ。あくまで全量買い取りをするための基準価格だからね」
あくまで全量を買い取る価格での話であり、より美味しい話があればそっちへもっていって換金してもらっても構わない、というのがダンジョン庁の基本姿勢であり、ギルドで査定を受けるならこの金額、他でそれ相応の対価を受け取って取引をするなら商取引として成立させてもらう。
商取引の書類の手間と確定申告の時の煩雑さを考えればギルド一本でやってもらった方が都合がいいですよ、という風にもさせてもらっているし、その分面倒な手続きが抑えられる、というところではある。
「それでも探索者の九割ほどはギルドだけを利用する形で動いています。それだけ専属が多いか、兼業で探索者をやっていることになりますが、そのへんの法整備がようやくされたことで副業でも個人事業税が取れるようになったと財務省からは珍しく高評価をいただいてますね」
「さて、そろそろ続報が入ってもいいころかな。待ってる間にさっさと片付けて年末に楽が出来るようにしたいところだねえ。にしても人数が増えたおかげか、前回よりもかなり楽になってきた気がするよ」
「新人も育ってきましたからね。次々回はもっと楽になってるはずですよ」
「今度の新人も楽しみだね。何より探索者部隊には少なくとも一人有望株がいる。彼女がどこまで進めていってくれるのか、そしてその戦果をどのくらいダンジョン庁の手柄に出来るのか。楽しみにしていることにしようか」
真中がコーヒーをグイっと飲み干し、マグカップに新しいコーヒーを注ぎ始める。その間にも聖蹟桜ヶ丘ダンジョン(仮称)の進捗は進んでいた。
「長官、二層への階段を発見しました。このまま一層を探索し続けますか、それとも予定通り二層へ突入しますか」
「一層の地図はぶっちゃけいつでも完成させることはできる。当初の目的通り、今は二層の様子を確かめるほうを優先してください。ちゃんと自分たちが帰れるようにマーキングだけは怠らないでね」
「はっ、では二層の探索に赴きます。通信は引き続き使えるようなのでこのまま繋いだまま探索を継続いたします」
鯨井曹長が通信を繋げたまま、隊員に指示を飛ばす。流石に通い慣れたD部隊、展開も進行速度も中々に早い。七層までは順調に進んでくれることだろう。その間に宝箱の一つぐらいは見つけてくれるはずだろう。真中はその報告に期待して、引き続き続報を待ちながら書類仕事に目を通していくことにした。
書類がいつもより少ない、それだけでもありがたいものだ。今後もまとめられた書類だけが手元に来るようになって、実際に必要な認可以外の仕事はどんどん減っていくことになるだろう。そうすれば自由な時間が少しでも増える。
その間にダンジョンに関しての知識や各ダンジョンの進捗状況、そして今後どうやってダンジョンマスター達と協調路線を取りながらダンジョンを運営、管理して探索者と仲良くやっていくか。
まだまだやることは多い。いや、むしろこれからまた増えるのかもしれない。これからダンジョン庁としての会見の書類を精査する必要がある。何を話すべきで何を話さないでおくべきか。それらを選別し、言い方を考えながら情報を小出しにしていく必要がある。一気に情報の洪水を流し込むのは世の中へ混乱をもたらすことになる。
今のところまだ苦情や苦言、外交圧力などは受けてはいない。いずれバレることにはなるだろうが、他の地域からダンジョンマスターを引き抜いたことについては外務省の小林君が何か言い訳を考えてくれる事だろう。そっちは実際に問題が来てから対応することでいいだろう。
とりあえず今日、新ダンジョン誘致計画は無事軌道に乗り出した。今は報告を受けながら狙い通り、宝箱を見つけてくれることと、それに伴ってダンジョンマスターとの対話の結果新しいダンジョンを運営していくことができるようになったことをどうやって会見に盛り込もうか考える真中であった。
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