1321:来た!
回鍋肉は二人分でちょうどよかったが、ご飯がちょっと少な目だったような気がする。炊飯器のご飯も平らげ、回鍋肉もなんちゃってナムルもすべて食べつくしたが、俺も芽生さんもなんだかまだ物足りなさげだ。
「足りないなら肉でも焼くか、馬肉を刺しで食べるかするけどどうする? 」
「時間がかからず手間が無さそうなので馬刺しでお願いします。生姜醤油でサッと」
ご注文にお応えして馬刺しを作ってお出しする。これだけ食べればさすがに満足するだろう。馬刺しを生姜醤油でつるっと食べながら、午前中の疲労も回復させていく。お昼に馬刺し、その場で作れて手軽で時間もかからないお手軽メニューとして看板をかけておくのも悪くないな。
ケルピーのお肉も去年散々トレントを狩りまわったりしてる間に溜まった分がかなりある。今年いっぱいと言わず来年の分ぐらいまである。足りなくなったらまた取りに向かいたいところだが、他の探索者の目もあるし、ほどほどにしておきたいというのが本音。
トレントのドライフルーツも在庫は四桁ほどある。芽生さんが本業で頑張っている間に俺がダンジョンで頑張っていた分だけあるので、馬肉に限定せず数はそこそこ多いが、そろそろボア肉の在庫が馬肉の在庫を追い抜きそうだ。もっと数が減り始めた頃に在庫の補充を考えることにしよう。
食休みに探索・オブ・ザ・イヤーのコラム欄を読む。前の高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンでのダンジョンマスター会談を機にして探索者の意識がどのように変わっていったのかの調査みたいなものが上がっていた。
ダンジョンマスターに見られている、というのはいわゆる神様がいつも見ていらっしゃる、という具合に脳内変換された結果、排せつ物やゴミの処理をきちんとやって帰る探索者が三割ほど増えたようだ、という話。ダンジョンマスターがいてダンジョンを管理していて、自分達の行動を常に誰かに見られているという感じで自分の心境が変化した結果だろう。
やはり日本人らしさというか日本人精神というか、そういうものは探索者の中にも深く刻まれているようで、各地でゴミ拾いの自主イベントやできるだけダンジョンに負荷をかけずに自分たちの住環境を良くしようという運動が各ダンジョンで広まっているらしい。
ボランティア活動大いに結構、普段から自分はゴミを出さないので大丈夫なんて言ってる人らも率先して参加しているようだから、やはり四六時中どの角度からも監視カメラに見られている、という緊張感は中々のものがあったらしい。
ダンジョンマスターが表に出てくるとそういう影響もあるんだな、ちょっとした副次効果のようなものだろう。ましてや小西ダンジョンみたいに狭い所ではなく、もっと大手のダンジョンならゴミも山のようにあるはずだ。それらを集めるだけでも大変だし持ち出すのもエレベーターがあったとしても中々の労働になる。
普段お世話になってるダンジョンへのお礼、としては充分に伝わるほっこり話だった。我らが小西ダンジョンは大丈夫だろうな? ちょっとだけ心配になってきた。しかし、先日各階層を回った時はゴミ置き場や集積場みたいなものは作られてなかった様子なので、各人ゴミはちゃんと回収して帰っているような気がする。気がするだけだがそう信じよう。
もしかしたら同じようにこの記事を見て誰かが思い立って各所に声をかけてゴミの片づけなんかを始めるかもしれない。ギルド側もそれでダンジョンが綺麗になるなら、とゴミの処理の最終処分をしてくれるような流れになってくれるととても美しい話になるな。
ほっこりする話を読み終わったところで胃袋の落ち着きを感じる。そろそろいけるな。午後の念入り資金回収タイムだ。ここできっちり稼いで実力も稼いで今日もたっぷりと濃密なダンジョンを味わうのだ。
芽生さんも俺の動きを察知してか、お腹の当たりをさすった後立ち上がり、槍を手にストレッチを始める。槍を両手で持ったまま、後ろに体をそらしてそのままぴったりとブリッジ。ブリッジ状態からの体起こし。よくやるなあ……俺がやると腰をグキッと言わせそうで怖いので真似はしないでおく。出来る範囲で出来るだけのストレッチと休憩からの身体の揺り起こしをする。
「さて……いくか」
「午後も気張って稼ぎましょう。七十一層は足早に進んで、その分七十二層を多く回れるよう努力しましょう」
やる気は充分と言ったところ。いつも通り七十一層に下りて頭の上のサメを撃破。ドロップを空中回収したところで宣言通り足早に七十一層を抜ける。ここで長ったらしく戦うよりも、七十二層のほうが密度が濃いので確実に稼げる場所ではある。
「そのうち余裕が出てきたら、七十二層の一辺を二十分で駆け巡れるようになりたいな。そうすれば二人で一日七億ぐらい稼げるかもしれない」
「その為にはグリフォンを確実に一発で倒せるようになるのが先ですね。頑張ってください。私は当たれば一発で倒せますから今のところノルマはクリアしていると言っても過言ではありません」
そうなんだよな。芽生さんは当たれば倒せるんだ。グリフォンと雷魔法との相性が悪いとはいえ、混合魔法を進んで選んで道を究めようとしているいった芽生さんと、雷魔法に固執してひたすら撃ち続けている俺では効率が違って当然。
広くそこそこ深くやっている芽生さんと狭く深くやっている俺では応用の効き具合で差が出るのは当然。だが今更雷魔法の成長を諦めて他の魔法……火魔法以外にも手を伸ばすという手段も取れないことはない。考え方の違いか、それとも自分の固執した考えのおかげなのかは解らないが、少なくともグリフォンは一発で確殺できるようになりたい。それまでは頑張ってみようと思う。出来れば六重化までだな。
そのまま七十一層を早足で駆け巡りながら、グリフォンは俺が相変わらず専属で相手させてもらっている。精一杯の努力! と頭の中でイメージを作っているだけではどうやらグリフォンを一撃で倒すことが出来ないのは解っている。なので精一杯の努力の更にその上をイメージングして雷撃を放つと、今のところ高確率でグリフォンを倒すことが出来ている。
精一杯の努力の更に上! 精一杯の努力の更に上! と念じ続けることで、当初白色だった雷撃が紫色に変わり、威力も格段に上がっているのは確か。どうやら雷魔法的には白色よりも紫色のほうが魔力密度が高く、威力も上であるらしい。
そのまま七十二層へ下りるまで、七十一層を五十分ほどで歩きとおす。ペースとしてはこんなものだが、グリフォンを一発で倒せるようになるまではしばらくこれが通常タイムになるかな、というところだ。
七十二層に下りてすぐにでてくるサメとグリフォンをそれぞれで倒す。今回はグリフォンは一発で倒れてくれた。このイメージを固められれば多少のイメージのブレがあっても倒すことはできるんだろうが……精一杯の努力の更に上、をもっと別の言い方でイメージを作り直して、それを更に強化していく方向で行くか。
精一杯の努力の上のイメージを言い換える……なんて言い換えようかな。修練、修得、修行、修行中……精々この辺りだな。イメージする言葉が短ければ短いほどイメージングの時間は短くできるし、素早く攻撃態勢に移ることもできれば、撃ち放つ速度も上がる。ここは一つ自分への皮肉も込めて修行中、にしようか。
グリフォンが出るたびに修行中! と頭でイメージしながら雷撃を放つ。イメージの上書きはうまく効果が表れたようで、「修行中」は「精一杯の努力の更に上」と比べて短いスピードで発動するようになった。後はこの修行中の練度を磨いていけばいいわけだな。
修行中! 修行中! と念じながら雷撃を次々に浴びせていく。今のところこの「修行中」のグリフォン撃墜率は百%だ。このイメージで合っているらしい。後は、この「修行中」の更に上、確実に焼き尽くせるであろう大火力をもってグリフォンを迎え撃つことが出来れば七十一層も安全階層となりうる。つまり、ソロで潜っても問題ないだけの安全さを担保することができる。流石に七十二層は自信がない。
七十二層をうろつき始めて一時間。グリフォンを十匹ほど連続で確殺できるようになっている。これも修行中の効果か。後は修行中の更に上の雷撃を放てばいいわけだな。
索敵範囲まで近づかないそこそこ距離のグリフォンが前に滑空している。時間的余裕も距離的余裕もあるため、全神経を「修行中」に集中させる。「修行中」の更に上の段階を目指す。頭の中まで雷撃がチリチリと走るような感覚を覚え、そして右腕ごとすべてが雷撃に変わるようなイメージをもち、グッと雷の槍を握り込むイメージ。そしてそれを放り投げてグリフォンに向かって投擲する。今まで範囲に散らばっていた雷撃は一つの束となり、グリフォンに向かっていき、そして貫いた。
頭から雷撃を受けたグリフォンはそのまま黒い粒子に変わり、そして地面にぽとっと魔結晶が落ちる。毎回思うが、この魔結晶、ある程度の高さから落ちても壊れない所を見ると相当の硬度を誇るか、欠けにくい素材で出来ているんだろうな。
瞬間、頭の中にパァッと爽快感が広まる。まるで新しい何かに出会ったような、すがすがしい気分が体の中を駆け巡っていく。その爽快感に身をゆだねたまま、しばらく動かずにいると、ドロップを拾って帰ってきた芽生さんが俺を槍でつんつんと突きだした。
「なんかいい感じの雷撃が撃てたみたいですが、余韻に浸るだけの何かがあったってことですかねえ? 」
「もしかしたら、だけどきたかも。俺雷魔法次の段階に行けるかも」
「そう感じたならそうなのかもしれませんねえ。なにせ前例があるわけでもありませんから洋一さんの感覚が人類初めての出来事だと思いますよ。念のため、今のを確実に打てるように回数を重ねていきましょう。ついでにさっきのイメージに名前を付けておくといいかもしれません」
イメージに名前……名前……白雷よりさらに上だから紫の雷だが、精一杯の努力の時点で紫色にはなってたからな。雷撃衝とかどうだろう。なんか強そうに聞こえる。よし、お前は暫定「雷撃衝」だ。
「よし決めた。次からはこれが毎回打てるかどうかのチェックの時間だ。うまくいけばこれで安定してくれるはず」
「イメージなんてパッと考えてパッと形にしてパッと出せば終わりのような気がするんですけど」
「オッサンになるとなかなかイメージできないこともあるの。としだからしょうがないの」
「リーンちゃんの真似しても可愛くないですが、いつか通る道でしょうから精々笑わないでおきます」
よし、これで一つ壁を乗り切ったという気持ちが胸にあふれて来る。後はこいつの燃費だ。何発まで耐えきることができるか。精一杯の努力や修行中よりも燃費が悪いか、それとも拡散していた雷撃が収束出来た分だけ効率がいいのか。それを見極めるのがここからのグリフォンを倒すためのデータ取りだ。
しばらく雷撃衝だけではなく雷龍も組み合わせて戦っていく。グリフォンが出たら雷撃衝の出番。それ以外は雷龍で確殺できるので燃費をちゃんと抑えていく。数戦、グリフォンと戦って雷撃衝を撃ったことで軽く眩暈がしてきた。素早く保管庫からドライフルーツを取り出し、四枚一気に噛む。
「お、電池切れですか。結構持ちましたね」
「どうやら燃費はそこまで悪いものでもなさそうだな。しっかり使い切ってきたところでここで数発撃って眩暈ってことは、グリフォンだけを相手にするなら問題はそこまでないってことにもなる」
ドライフルーツついでに水分も補給。口の中がカラカラだったのはここまでガラにもなく緊張して戦っていたせいかもしれんな。いい感じにここまで来れたからこの後も何回か休憩を挟む可能性はあるが、順調にモンスターを撃破していければいいな。雷撃衝は今の俺の必殺の一撃と言っても過言ではない気がする。
後はこいつを白血球にぶつけて、あの高い雷撃耐性をぶち抜いてダメージを与えることができるか、という我慢比べぐらいはしてみたいところだが現状そんなことにコストを割くぐらいなら七十二層で戦っていた方が効率的であると俺の手帳には書いてある。この七十二層では最大で一時間当たり二本のポーションドロップが見込める。
グリフォンの落とすポーションも、未来的予想で言えばドロップ率を考えてもキュアポーションのランク5と同等レベルの商品だと言えるのでこれもまた金銭効率は悪くない。後はギルドから査定開始のお達しが来るか、ミルコが次のマップを作るまでしばしの金稼ぎに集中できようともいうもの。
作者からのお願い
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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
後毎度の誤字修正、感謝しております。





