1319:いつもの六十九層、異常なし
ストレッチを終えて、体の調子を整えたところで階段を上がって六十九層に戻る。さあ、午後も気合入れて頑張っていくか。午後の仕事は現状二パターンの仕事に分けることができる。
その一、過剰火力で常に戦い続けて体内魔力の限界値の底を叩き続けて無理矢理戦い続ける方法。そんなに数は戦えない上にドライフルーツのおかげで緊急時には休憩することもできるし、問題なく戦えることは確認済み。収入のほうは普通。
その二、出来るだけ素早く移動して無駄のないように密度の高い探索を続ける。金銭効率はこのほうが高い。また、モンスターと出会う数も多いので消費魔力はそれなり。そして何度も同じ方法で巡っているので大体のルートやモンスター構成、ペースも解っている。無理のない範囲で探索することも可能だが、よりスピードを目指して素早く歩き回ることで結果的に回数多くスキルを使うことができる。
今日は目的は第一のほう、無駄に火力を使って戦うほうを選ぼうと思う。ちなみに午前中は出来るだけ素早く高火力に、という第三の選択肢を選んできた。理由は簡単で、午前中の二時間ぐらいなら過剰火力で戦い続けても途中でエネルギー切れを起こさない程度には自分の魔力保有量を計算に入れているので戦い続けることができる自信があったからだ。
そのおかげで、歩行ペース二時間のところで二時間半分ほどの収穫が取れた計算になっている。午前だけでポーションも二本出たし、収入的にもかなり美味しかった。午後は火力メインなので収入のほうは期待できないが、自己強化のお題としては悪くないものとなっている。
本格的にやろうと思えば七十一層へ行くという選択肢もあるのだが、今のところ一人で七十一層をうろつくのはグリフォンが確殺できない以上手数の問題で実現できていない。七十二層まで行くという贅沢をするにも、まず絶対に安全と言い切れる六十九層で火力過剰気味に戦うことで、消耗を七十一層並に上げていくことを念頭に置いて戦っていくことにする。
サメとエイの相手ももう慣れを通り越して飽きてきたが、ここが現状一番儲かるし、自分の試験運転もできるという便利な空間なので利用しているに過ぎない。もしグリフォンが確殺できるようになったのなら、七十一層へ下りて一人で歩きまわる実験をしてみることにする。それまではこの六十九層に長めにお世話になるかもしれないな。
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いつも通りのペースで高火力、高燃費、歩くペースは普通を維持したまま三時間ほど戦ったところで最初の眩暈が始まった。このぐらいなら許容範囲だとばかりに、ドライフルーツをかじって魔素の補充をする。その場にとどまってついでに水分を取って休憩。索敵視界内には何もいないので安全に補給が出来る。
きつさみたいなものはない。精神的な疲れは少しあるかもしれないが、これが精神的な疲れなのか魔力切れから来るだるさなのか、という区別はまだできてないが、ドライフルーツを数枚かじって戻ってくるならそれは精神的疲れではないんだろうと当たりをつけることはできる。
いやまて、そもそもドライフルーツは疲れを取る効能のもあるのだから精神的疲れに効果がないとは言い切れないのではないか。だとすると……ドライフルーツで治るならどっちでもヨシってことにならないだろうか。大事なのは疲れが確かに取れていることであり、実際のところを確認する作業はまた別の機会でいいだろう。とりあえず今は水分とドライフルーツと、ついでにバニラバーをかじって……あ、そういえばバニラバーの購入忘れてるな。次の買い出しで確実に入手することにしよう。メモメモ。
休憩を終えたところでいつもの調子かどうかを確認し、問題がないことをを確認すると再度続きへ向かう。エイとサメ、サメ二匹、エイ二匹、エイとサメ。順番に、確実に、過剰火力で撃破していく。
一時間ほどするとまた眩暈。流石に午後めいっぱい休憩なしで巡るのは難しいようだ。でもドライフルーツの在庫はまだまだある。こうやって自分を追い込んでいくことでより高みに上れるならこの眩暈はいい眩暈のはず。多分筋トレが趣味の人たちはこうやって自分を追い込むことに気持ちよさを感じているんだろう。
ドライフルーツを一気に四枚噛みこんで気持ちよさを味わうと、さらなる気持ちよさのために自分にウォッシュをかけて気分的にも楽にする。
さて、これでもうしばらくは眩暈が訪れることはないだろう。自然回復を考えても二時間弱ぐらいは保つはずだ。これを丸一日使い続けられるようになるのが目標だ。ドライフルーツを使う枚数を基準にして、どのぐらい連続で使い続けて行けるようになるかを自己観察していこう。
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帰りの時間になった。ドライフルーツを四枚かじった後はしっかりと探索を続けることが出来て、いつも通りぐらいの収入を得られたのは間違いない。
今日も今日とて頑張った、と自分を褒めながら七十層へ下りる。エレベーターの脇を見るとリヤカーがもう一台停まっていた。高橋さん達かな? もしかしたら七十二層の攻略に着手し始めたのかもしれない。最近は顔を合わせる機会がないが、元気に活動をしているのは間違いないらしい。
リヤカーをエレベーターに押し込んで七層への倍速ボタンをポチ。さて、二十分ほど何しようかな。先日購入した探索・オブ・ザ・イヤーを読むでも月刊探索ライフを読むでも、新しく買い足したクロスワードと数独を解くのも悪くない。やることがあるのはいいことだ。リヤカーに荷物を整理して置いた後、リヤカーにもたれかかって座り込み、探索・オブ・ザ・イヤーを読みふけることにした。
探索・オブ・ザ・イヤーの今週のコラムは今熱い、レッドスライム狩り! というコーナーがあった。詳しく見てみると、ダンジョンの二十八層から三十二層で集団行動しているスライムが存在しているのはBランク以上の探索者なら比較的知られていることだが、彼らもバニラバーでドロップ確定が出来ることが解っている。
そのドロップ品であるロイヤルスライムゼリーが高級化粧品向けの素材として需要が高くなっているとのこと。俺の保管庫にも百ほど在庫は残してあるな。いずれ高級品になるであろうと考えてため込んでいた奴だ。次回の価格改定でもかなりの高額になる可能性があり、Bランク帯での探索に一花を添えそうである、ということだ。
他のコラムとしては、過疎ダンジョンめぐりというコーナーが新しく出来たらしい。これだけのダンジョン人気が集まる中、なぜそのダンジョンが過疎、つまり赤字ダンジョンであるのかというのを記者目線で色々考察する、という企画らしい。
第一回は十津川ダンジョンだが、十津川ダンジョンは普通に運営していては赤字だったところ、バスツアーを計画して定期的に探索者を外部から呼び寄せることによりギリ赤字、というラインを維持しているらしい。また、十津川ダンジョンにもエレベーターが設置されたことによってダンジョン自体の利便性は上昇しており、周辺の宿泊施設やダンジョンで活動するための物資を買い込む場所さえあれば化けるのではないか、という考察もなされている。
赤字ダンジョンを追うので小西ダンジョンに来る可能性は低いだろうが、どこにどんなダンジョンがあるのか、を知っていくには便利なコラムかもしれん。今後に期待しよう。
他には探索者に聞いた、初心者のころに買って損したアイテム五選というものが紹介されている。どうやら探索者になってお薦めされた持ち物だったのは良いものの、いざ持ち込んでみたら要らなかった、初心者騙しのグッズ集という流れらしい。
ダントツの第一位はライト。そもそもダンジョンは明るいので必要なかった、結構値の張る充分なマグライトを準備してきたが、ゴブリンを殴る以外に使用法がなかった等、初心者は何も知らないことを良いことにだまして商品を買わせる手口は何処にでもあるらしい。
第二位は十徳ナイフ。そもそも普通のナイフで充分だった。武器に出来る分普通のナイフのほうがお得だった、等の声が寄せられている。十徳ナイフ……缶詰を温めてダンジョン内で食う時に缶切りがなかった時ぐらいしか活躍しないな。
第三位は虫よけグッズ。ダンジョンにいやな虫はいなかった。塗りたくってダンジョンに入ったがそもそも必要なかった
第四位はエマージェンシーシート。そもそもダンジョン内で低体温症にかかるほうが稀なので必要がなかったとのこと。確かにダンジョン内、そこそこ暖かいしな。俺も潜り始めた最初にお勧めされて居たらうっかり買っていたかもしれない。
第五位はテントとエアマット。そこまで潜れないのに持ち歩いただけ重さの無駄だった。しかし、後日七層まで潜った際には役に立ったのでそれはまだ許される、との事だった。五位あたりは後日は使えたが潜りはじめの初心者には必要なかった、という意味でのランキングのようだった。
後はいつものスキルオーブの相場だが、どうやら【索敵】と【物理耐性】は一億が天井らしく、そこから動く気配はない。スキルオーブ取引可能な金額の上限が一億、というわけではないのだろうな。他のスキルオーブだと、相変わらず低調の【土魔法】、そしてスキルそのものは知られているがあまりドロップ報告の無い【木魔法】【糸】、そしてまだ人気が出てはいないが【隠蔽】が二千万から三千万あたりをうろうろしている。これの人気が出始めるのは半年後位になるだろうか。
七層に着いた。リヤカーを目隠しするとダッシュで茂君を刈ってくると戻ってきていたずらがされてないことを確認して、再びエレベーターで一層に。
退ダン手続きを済ませて査定カウンターへ並ぶ。今日は俺の前に人が居たので待ち行列に並ぶことになった。その間にメモを整理。バニラバーの仕入れだけはしておかないといけないな。今日帰ってすぐに、とまではいかないが近いうちに売ってる店まで行こう。
自分の番が来たので大量のフカヒレと魔結晶と少量のポーション。だが、値段としてはポーションが一番高く魔結晶が次、フカヒレは一番安い。ここまででかなりの数のフカヒレを納品したからな。市場にはダンジョン産のフカヒレを結構な数出荷出来たんじゃないかと考えている。
しばらく待って結果が出てきた。今日のお賃金、三億千四百三十万七千円。午前中の頑張りの分で三億は超えたということだろうな。支払いカウンターで振り込んでもらうと、いつもの冷水器で熱湯を少し多めにして水で温くし、いつもより温かさのある水をもらう。ふぅ、これで一日が終わった。
さて、夕食は何を食べようかな。今作りたいこれ! というものはあんまりないので今夜も夕食はコンビニ飯にするか。今日は肉をちゃんと食べたが、野菜はちょっと物足りないな。サラダとサラダチキンのいつもの組み合わせと、何か一個弁当を買って帰ろうか。
バスの時間まで余裕があるのでダンジョン近くのコンビニで賄ってしまうことにする。まず、サラダのほうはいつもの既に千切りされているサラダに加えてサラダパスタ風にされているものを追加。そこにサラダチキンで一般女性なら十分だろうというカロリーを確保。しかし体を使う肉体労働系男性である俺にとってはこれでは物足りない。
さて、俺のメイン弁当を決めようではないか。米系にするか、パスタ系にするか、それとも和食麺といくか。どれでも選べるので……ここはパスタにしておくか。パスタが被るが気にせずに行こう。パスタでまず目を引いた、何かの野菜を麺にまで練り込んだかのように鮮やかな緑のジェノベーゼが目に入る。よし、ここは見た目で選んでこれにしよう。
買うものを選んだところで会計。今日のところは余計な買い物はなしだ。弁当類だけをきっちり買って、ミルコのおやつも今日はなし。コーラだけは家に在庫があるし、飲み頃を過ぎたコーラなら今保管庫に入っている。明日また冷やして保管庫に入れなおしてミルコがいつ来てもいいようにしておこう。
コンビニで買い物を済ませてバスを待つ。今日は帰ったら一杯……そう、たまには一杯やるのもいいな。家には一缶だけ冷えてるビールがある。それを開けて、今日も無事に探索が終われたことを祝って開けてみよう。多分それが今の自分にとって一番楽しい時間となるはずだ。
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