1311:お土産とレベルアップ
少しずつ寒くなってきた。まだ冬布団にはちょっとはやい……と思い始めたあたりで出すのが良いポイントだと思うので、夏布団は昨夜まで。今夜からは冬布団の用意をしよう。
夏布団のシーツを替えて洗濯。冬布団はシーツをかけたまま保存しておいたのでこのまま使えるが、念のため布団干しにかけて余分な水分を抜いておくようにしむける。干しておくだけで水分は自然に抜けていくらしいから、しっかり布団の効力が効いてくれるよう願いつつ、今年も半年ぐらいお世話になろう。
朝食を食べて昼食のシチューづくりに取り掛かる。カレー作りでも学んだが、長時間煮込むのが常にいいとは言えないので、今日はレシピを探してきてその通りに作って煮込み時間もその通りにしてみる。
ただ違うのは、肉が鶏肉ではなくグリフォン肉だということ。一杯原価で一万円を優に超えるような高級食材をふんだんに使ったシチューだ。グリフォン肉の美味しさを損なわないように丁寧に作る。
一口大にしたグリフォン肉、タマネギ、ジャガイモ、人参、ブロッコリーを焦がさないように炒めて火を通した後、水分を入れて沸騰したらアク取り。そのまま十五分ほど煮立たせる。一旦火を止めてルゥを入れて、その後弱火で五分ほどトロトロと煮こみ、更に牛乳を入れて五分煮込み、とろみが出てきたら完成。
いつもより手間暇をかけていないが、レシピ通りに作ったのでこれで大丈夫なはず。念のため味見をしてみたが、いつもより雑味がなくしっかりとした味付けはされている。ちょっとうま味が足りないような気がしたのでうま味調味料をフリフリ。かき混ぜて再度味見。これでいいだろう。
肉が多い分だけ他の具材も多く、そこそこ大きな鍋を使ったため夕飯にもそのまま使える。パンを入れ込んでグラタンパン風にして夕食を楽しむこともできるだろう。後はご飯が炊けるのを待てば終わり。
後はもう一皿、いつものサラダにこの間買い足してきた謎ドレッシングをかけてもう一品追加だ。最近肉はよく食うようになったが栄養バランスは? と聞かれるとちょっと怪しい気がしてきた。どこかでまとめて取り戻そう。
シチューとサラダを保管庫に入れて、米が炊きあがるのを待つ。米より先に飯が出来るのはサンドイッチを作る時ぐらいなので、割と珍しい時間の空き方になった。
暇な間にニュースを見る。貴金属店に強盗が押し入り、客に向けて刃物を突き出して金を出せと脅そうとしたらしいが、刃物を突き付けた相手が探索者で、すぐさま刃物を叩き落として強盗を鎮圧したため大事にはならず、強盗のほうが軽く怪我をする結果になったとのこと。貴金属店で金相場に手を出そうとしていた探索者だったらしく、後日表彰が行われる可能性が高いとのこと。
強盗からしたら災難だったろうな。まさか目の前の弱そうな探索者が物理耐性持ちで、刃物をひっつかんで傷つくことなく対応し、逆にやり込められることになるとは思ってなかったに違いない。探索者もこうして徐々に市民権を得られていくのは良い話だな。
炊飯器の米が炊けたので炊飯器ごと収納していつもの準備は完璧。後は着替えるだけだな。ちょっと早いがもう出てしまうか。芽生さんの着替え待ちになるだろうけど、それでも普段からすればいくらか早く潜れるようになるはずだ。今日もしっかり稼ごう。
柄、ヨシ!
圧切、ヨシ!
ヘルメット、ヨシ!
スーツ、ヨシ!
安全靴、ヨシ!
手袋、ヨシ!
籠手、ヨシ!
飯の準備、ヨシ!
嗜好品、ヨシ!
お土産、ヨシ! ミルコにもおすそ分けしよう。
車、ヨシ!
レーキ、ヨシ!
保管庫の中身……ヨシ!
その他いろいろ、ヨシ!
指さし確認は大事である。今日はお土産があるだけで普段とそれほど変わらない内容のはずだ。探索内容も普段と変わらない予定だ。いつもより出勤が早い以外は何も変わりはない。今日も日常を楽しもう。
◇◆◇◆◇◆◇
予想通りバス停で芽生さんと出会う。
「昨日は東京行きだったんですよね。お仕事は無事に済みましたか」
「ついでにダンジョン庁の社食を食べてきたよ。本社勤務は毎日あれが食べられるんだと思うと羨ましい所だな」
「そんなに良かったんですか。何食べてきたんですか? 」
何気ない日常会話を続けている間にバスが来て乗り込む。流石にイベントが終わったので混み具合はいつも通り。自分の座席を確保すると、早速土産話に花が咲く。ただ、土産話の本題は【鑑定】の譲渡だったためここで話すことはできないので、ダンジョン庁本庁の仕組みや食堂の綺麗さ広さ美味しさや、税金の味のアジを食べてきたことや聞かれても問題のない範囲の話についてだけ語り、後でお土産渡すから、と言うところで落ち着いた。
ダンジョン前に着き、バスを降りる。二日ぶりのダンジョンだが一日東京に行っていたおかげで少し調子が狂っているかもしれない。しかし、時間があったにもかかわらず高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンにすら潜らずに来たというのは、本当に仕事だけをして帰ってきた感が強いな。今度はちゃんと一泊して東京観光を楽しんでくる、というのも悪くないんじゃないかと思い始めた。
芽生さんが着替えている間に色々考える。家の中や保管庫の中を土産物で埋め尽くす予定はないが、何かしらの行動を機にして金を使う方向へ自分を持っていくというのは必要な行動なんだろうな。今の資産があれば死ぬまで世界旅行を繰り返し続けるだけの余裕はある。だから旅行へ行こうと思えばいつでもどこへでも、パスポートの許す限りはいける。
だから現状に不満が出始めたところで気分転換に出かけるのは充分にありだな。もしその時が来たら色々と考えることにしよう。だがいまはまだダンジョン通いが楽しいので今のままでいいのだ。
芽生さんが着替えて戻ってくる。さあ、いつもよりちょっとだけ早い探索開始だ。昼までの時間を利用してその分をしっかり稼いで今日も二人で五億と行こうじゃないの。
入ダン手続きをしてリヤカーを引いていつも通り七層で茂君を刈って帰ってくると、倍速でいつもの七十層。その間に誰も聞いてない……ダンジョンマスター以外には誰も聞いていない話をこそこそと始める。
「じゃあ、私の一年先輩が鑑定担当になるわけですか。顔と名前ぐらいはちゃんと早めに覚えておく必要がありそうですね」
「後三十年ぐらいは鑑定担当として頑張ってもらうことになるかな。前例がない仕事だから中々大変だろうけど、見た感じ真面目だったし仕事をサボるという点では心配はないかな。後は探索者の圧力に負けて過剰な鑑定判断をさせたりとかそういう物がなければ問題はないと思う」
鑑定をどこまで磨き上げて本番に臨んでくれるか。そして実際いつになったらダンジョンが開設されるのか。そのあたりはそれぞれのダンジョンマスターに問い合わせなければいけないのだろうな。
「実際のところは各々のダンジョンマスターに問い合わせなければわからない所だろうけど、それまでに彼の鑑定能力が追いつくかどうかは気になるところかな。是非とも頑張って鑑定の腕を磨いておいてもらいたいもんだ。本番が始まって詳細まで解らないんじゃ鑑定士をせっかく用意したのに意味が無くなってしまう」
「物事を完璧にそろえてからダンジョン作ってくれっていうのもなかなか難しい所でしょうね。こっちはGOサインをもう出してしまっているわけですし、鑑定が間に合わないから立てるのを待ってくれなんてことは言えないでしょうし。巽さんでしたっけ、ちゃんとやりそうな感じはしてたんですか? 」
「事前評価だと仕事に対する姿勢は問題ないという話らしいからその点は心配ないと思うよ。そこはダンジョン庁を信用するしかないな」
あっちはあっちで課題があるのだから、その課題を達成してもらうのはダンジョン庁の自力でやってもらわないと困る。俺が手を広げるにも限界はあるのだ、今回俺が頼まれたのは鑑定の手渡しだけ。そこから鑑定を成長させてきちんと扱えるようにやってもらっていくのは完全にお任せということにしておこう。
「そういえば、今回のお土産は何ですか? また消え物でしょうけどちょっと気になる所ではあります」
「いろいろ買ってきたぞ。昼にでも分けて、居たらだけど結衣さん達にもおすそ分けに行こう。結構量があるから飯のついでにはちょうどいい。ちなみにお昼はシチューだぞ」
「豪勢な昼になりそうですね。今から楽しみです」
芽生さんにシチュー。食事に満点が必ず出る鉄板レシピだ。そこにお菓子も加えて今日はちょっとカロリー高めの食事にはなるだろうが、楽しくワイワイ食べられることに間違いはないだろう。
七十層に到着し、リヤカーを放置。車で七十一層側の階段まで一気に移動して七十一層に下り、頭の上にいるサメを撃破。ここまではいつもの流れ。さあここから二時間ほど七十一層で身体をしっかり動かして鍛錬をして金を稼いで行こう。
そういえばいつ頃になれば俺の雷魔法は六重化できるようになるんだろうな。まだ雷龍では威力も火力も負荷も低いってことかもしれないし、これを連発してなお問題ないぐらいにスキルを磨き上げることが必要、ということだろう。雷龍の全力雷撃……そういうイメージを持って戦い始めるとするか。
ここのモンスターは遠距離から一気に殲滅できるので非常に助かっている。威力を調節して近づいてくる前に考えてから撃ちこむことができる。近接戦がメインの敵でも雷切を更に強くするという方法でやることは出来るが、やはり威力調節という意味ではここのモンスターは戦いやすい。数も少ないしな。
グリフォンに向かって雷龍の出力をさらに上げて頭に向かって撃ちこむ。グリフォンはそのままスタンし、地面に落ちる。確定スタンはできるようになった。後は確定撃破だな。グリフォンを一発で倒せるように出力を上げることが出来れば雷魔法も頭一つ抜けて強力になった、と言えるのではないか。この階層でまだやり続けることが一つ出来たぞ。
◇◆◇◆◇◆◇
午前中の探索で芽生さんのレベルが一つ上がった。更に動きに磨きがかかり、グリフォンも単独で討伐できるだけの実力とスキル操作、そして近接戦になったとしてもグリフォンに対して充分な力量を示すことができるだろう。芽生さんに先を越されてしまった感はあるが、これは伸ばしているスキルと相性の問題なのでなかなか難しいところ。
しかし、同じところを一緒に回っている都合上同じような強さを得られるのは当たり前のことであり、そのへんがグリフォンでこうも違ってくるとなると、雷魔法との相性が悪いから倒せないというあたりなんだろう。
相性が悪い相手でも倒せる、というのはなんだか宿題としてちょうどいいものを与えられているような気がしてやる気が出る。グリフォンを一発で倒せるようになる、それをまた確かめに芽生さんと潜り込みに来ることにしよう。
「さて、昼だけど結衣さん達と合流するべくちょっと六十三層まで行くか。居たらお土産をふるまう感じで」
「そうですね、居なかったらその時は一万円無駄になりますが、その分は昼から頑張って回収すればいいだけですしね」
七十層に戻ると車でエレベーターのところまで行き、車を収納後エレベーターで六十三層へ。到着して鼻で匂いを嗅ぐと、食事を作っているような香りがするので結衣さん達はいそうな気がする。周りを見渡すと、いつものところで食事をしている一団を発見、早速近寄る。
「あれ、安村さんと文月ちゃんやないですか、どうしはったんですか」
平田さんのほうから先に声をかけられた。食事に夢中だと思っていたのだが意外にも周りを見ている余裕はあったらしい。
「昼時だからもしかしたらいるかなと思って。昨日東京出張だったからついでにお土産を配りに来たわけなんだ。居てくれてよかったよ」
「お、食事の追加でっか。それはありがたいですな」
食事の追加、と聞いた瞬間全員が顔を上げる。結衣さんもだ。
「まあ、いろいろ買ってきたからみんなで分け合おう。こっちはこっちで飯も食うし、とりあえず用意をしてから出そうかな」
こっちもシチューを出して芽生さんにそれぞれで出し、俺はまとめて一皿に盛ると鍋を放置して早速土産の消え物を配り始める。
「ばな奈は鉄板ですなあ。後はマカロンと……あ、このお菓子は前に何かで見たことありますわ」
「たしかビスチィーヌだったかな。流石にすべての店を回って全ての土産を一つずつ、とはやらなかったけど色々回ったので楽しんでもらえるなら何より。後、出来れば食後にしたほうがいいかも。片付けの関係で満腹になって残すなら食事よりお菓子のほうが残しやすいはずだしね」
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