1309:報告
昼食を食べ終え、巽君は自分の部署に戻った。コーヒーを飲み終えると多田野さんと揃って長官室に戻る。
「彼、実際のところ期待はできるんですかね」
多田野さん評が知りたくなりエレベーターで聞いておく。
「他の三人以外にも候補者は数十名ほどリストアップしましたが、公正な目で物を見る、という点に関しては彼は比較的優秀だと言えます。仕事がバリバリできてどこのどんな部署でも活躍できる人材はそのまま出世してもらってその内重要なポジションを任せることになりますから、今回のリストからは外れることになります。また、口の軽い人物もはじき出されました。彼は先ほども基本聞き手に徹していたので、彼の口から直接秘密が漏れるという可能性は低いと考えられます。また勤務態度はいたってまじめであり、手際のほうはそこそこですがそこは慣れの範囲でしょうね。凡庸といえばそうなのですが、役職を得て成長するというケースもありますのでそこは見守っていくべきところでしょう。バックアップはダンジョン庁全体で行うのですから彼には是非とも望み通りの活躍をしてもらいたいものです」
饒舌に語る多田野さん。それだけ期待をかけているということなのだろう。芽生さんに対しても同じ気持ちを抱いているのかどうかを聞きたいところだが、俺が聞いて答えてくれるかどうかは別の話ではあるし、それを聞くことで俺が芽生さんを見る目が変わってしまうかもしれない。そう考えると下手なやぶは突かないほうがいいな。
五階に上がり長官室へ再度入る。真中長官も食後のコーヒーの時間らしく、のんびりと机に張り付くように臥せりながらコーヒーを飲んでいた。
「やあおかえり。どうだった、自慢の社食は」
「たっぷりと税金の味がしましたね」
「それは何よりだ。さて、安村さんとは現状までの新ダンジョンの計画について話し合っておかないといけないからね。今はどの段階まで進んでいるのか、という辺りだ」
「それにはまず、今回の鑑定スキル受け渡しに関わる話と、その前に行われていた小西ダンジョンでのトレジャーイベントの話から始めないといけないですね」
あらましを説明。小西ダンジョンで行われたトレジャーイベントに端を発するトレジャーダンジョンのお試しイベントについて、ダンジョンマスター側もバグつぶしの要領で行ったこともあり初日こそバグがいくつか見つかったがその後修正されたこと、トレジャーボックスの中身にモンスタードロップ品を入れた際の探索者側からの感想、スキルオーブが出るとわかった後の反応と他のダンジョンからの流入により、清州ダンジョン以来の大入りになったこと。
それらの反省点を踏まえて、やはり一品物を出す方向性のほうがダンジョンの色が出せて良いがその為にはこちら側に鑑定の持ち主が必要だと説いたところ、新ダンジョン一つにつき一つ鑑定スキルのは出すのは難しいが全体で一つという話ならばまだ納得できる、ということで【鑑定】を預かってきたこと。
そして先ほど【鑑定】の授与式を無事終えた今につながることを説明し終えた。ちゃんとした報告は書面で出すようにしたほうがいいと心掛けたはずだが、結局口頭での説明になってしまった。と、多田野さんがしっかり録音をしていてくれたようだ。助かる。
「これで、後は各新ダンジョンにカメラ付きの個室を用意して、その中で鑑定を行えるようにすることと、実際にその作業を始める前に巽君には訓練をしてもらう必要があるっていうことかな」
「南城さん曰くそういうことみたいです。現状では物の名称やそれが何であるか、ということを判別することはできるでしょうが、それにつながる逸話や実際にどのぐらいの効果があるか、等については訓練の結果としてスキルが成長することで発現するようになるらしいですね」
「だとするとしばらくはいろんなものの見比べというものをしてもらうことになりそうか。美術館の展示品の真贋鑑定や刑事事件の証拠品の詳細なんかに使えると他の省庁に貸し出しするにも便利そうでいいんだけど、いきなりそんな仕事をしろとは言えない段階ってことかな」
真中長官は暇すぎる時はよその省庁に貸し出して色んな貸し借りを帳消しにしたりすることを考えているらしい。しかし、まずはスキルの成長させなければそこまで便利には使えないということが分かったらしく、少し残念そうにしている。
「まあ私の【保管庫】も最低二回は成長してますからね。レアスキルには自己成長する概念があるみたいです。いわゆる二重化三重化のようなことをスキルはそのままで多重化できる形になっているんでしょう」
「ふむ、保管庫については安村さんにしかとっかかりがない所だから仕方ないとして、鑑定については南城さんという先輩がいるからね。最悪彼に正式な形で鑑定のスキル成長を促すようなテクニックを伝授してもらえるような形に出来ればいいと思ってるんだけど、どうだろう」
「実際に既に南城さんにお世話にはなりましたからね。今後も時々アドバイスみたいなものを受けておくといいんじゃないですかね」
「鑑定のほうはこっちで進めていくとして、実際にいつ頃ダンジョンが立つようになるになるんだろう? 細かい日付までは進んでいるのかな? 」
こっちにお鉢が飛んできた。そこのところははっきりしたことまでは解らないんだよな。
「正直、深く作って欲しいと要望は出したものの、いつまでに作れ、という感じで要望は出してないので未定ってところが正しい認識になります。彼らにとってしばらく、という時間感覚がどれぐらいになるかというのもはっきりわかりませんし、そこははっきり確認しておくべきなんでしょうね」
「そうだねえ。今の内から準備しておいてダンジョンが出来るのが数年後、って話になるようではさすがにこちらの予定もくるってくるし、かといって明日できました! とかだったらさすがに急すぎる。大まかでいいから予定を聞いておいてくれるとありがたいかな」
もう一回反省会を開く、というか鑑定を正しく渡したことを報告する必要もあるだろうし、いつ頃になりそうかを聞いておく必要はあるか。ミルコ経由でもう一度ってところだな。
「しかし、あれだね。わざわざ鑑定スキルを渡すためだけに上京してもらっておいてすまないね、今日はありがとう」
「一番安全な方法で一番安全な人が運ぶのが大事ですからね。その点保管庫で運び屋をやるのが現状最も安全で気づかれずに、しかも時間を引き延ばして保管しておけますからね。今回でも一年ぐらい余裕はあったんですが思ったより早く人選が決まって逆にびっくりしましたね。後、【鑑定】のスキルに固執して鑑定が出来る魔道具……そういう形に落とし込まなかったのも不思議ではありますが」
「それも安村さんが早めに鑑定所持候補者を選んでおいてくれって一報があったからなんだけどね。おかげで余裕をもって候補者を絞り込むことが出来たよ。あと、魔道具にすると偽物とすり替えられた場合どうしようもなくなるからね。尤も、【鑑定】であっても暗殺や誘拐、という手段で我々の手元から消えてしまうリスクはあるが、これが鑑定の魔道具だ! と高らかに宣言してその瞬間から世界中のエージェントから魔道具自体が狙われるようになってしまっては気軽に鑑定を頼めなくなってしまうからね」
最終的に三人に絞り込むには結構頑張ったはずだ。その頑張りには敬意を表しながらも、今後巽君が元気に仕事をやっていけるかどうかにかかっている。頑張ってもらおう。
「じゃあ次は安村さんの進捗のほうを聞こうかな。最近どう? ちゃんと稼げてる? 」
進捗の確認は金額で。より高額に稼いでいたらそれが進捗の良さだと考える、という解りやすい指標だ。一人で最大四億、二人で五億ってところか。グリフォンに一人で挑めないので足踏みをしている状態だが、ダンジョンの最下層までは潜っていることは確か。そして、持ち帰るキュアポーションランク5のおかげでかなりの金額を稼いでいることについては報告する必要があるだろう。
「そうですね、一日三億は余裕で稼げるようにはなってますね。ダーククロウの羽根を収穫するという趣味も含めてその金額ですから、最下層近辺で稼ぎだけに徹すれば一日に四億を平均して稼げるようにはなっていると思います。七十二層も無事に踏破したのでダンジョンコアにも出会うことが出来ました。また、ミルコからはイベントが終了次第次の階層の建設に取り掛かるという話を聞いてますので、今一生懸命作っている最中なんじゃないかと思いますね」
なんだかんだミルコは働き者で助かっている。これがもっとおさぼりなダンジョンマスターだったら、俺の興味はとっくに薄れて他のダンジョンで同じことをしていただろう。しかし、これだけ狭くて深い階層のある小規模ダンジョン、という好条件もそうあるわけではない。ある意味運が良かったと言えるだろう。
「B+ランクについては、現在のトップ層は四十五層辺りを巡っているんじゃないかと予想します。四十九層に設置してあるノートには何も書き込みもなくテントが増えた様子もなかったので、おそらくヒュージスライムに苦戦しているんだと思います。倒さなくても先に進める相手ではあるんですが、せっかくのボスなので……と挑んでいる可能性はありますね」
「なるほど。実力自体は伴っているかどうかまではわかるかな? 」
「張り付いて観察している訳でも熱心に他の探索者の観察をしているわけではないのでそこのところはなんとも。あそこはボスはともかく、そこそこ苦戦したマップでもありますからタイミングの問題かもしれません」
実際はそれほど苦戦した、というよりはボムバルサミナのダッシュ大会がしんどかったなあという覚えはあるが、他の探索者と違ってこっちには保管庫により射出があったおかげでボスは気楽に倒せてその後をのんびりと探索出来たような気がするな。まあ、他の探索者がどんどん深く潜ってくれるのは有り難いところだな。どんどん後発組には追い付いてもらって、現在過熱気味である探索者の収入の指数関数的な伸び方を是正するためにももっと人数が必要だな。
「そういえば他のダンジョンではどうなってるんですかね。自分のところは自力で把握できるとしても他のダンジョンの話は意図的に仕入れないと中々入ってこないもんですから」
ここはダンジョン庁としてどのぐらい現在の最深部分が作られているかを確かめるためにも聞いておきたいところだ。スレで質問するよりも正確な最深層を把握しておく事は大事だろう。
「他のダンジョンかね。えーと……ここら辺のファイルにリストがあったはず……と、あったあった。まず、すぐそこの高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンでは六十四層が最下層として認識されている。これは土竜の到達地点でもある。大梅田ダンジョンは六十層が最下層になってて、今絶賛ダンジョンマスターの尻を叩いてる途中だという話だ。後は清州ダンジョンだが、五十六層から先までは存在することは確認されているが、まだ底が六十層まであるかどうかは確認されていないらしい。他には色々あるが、ほとんどのダンジョンでダンジョンコアルームに接触しつつある、というのが報告に上がってきているね。ダンジョンマスターの性格や真面目さにも起因するところだろうけど、四十層や四十四層で頭打ちになっているダンジョンも少なくない。これはいずれダンジョンマスターが深く作ってくれることを願ってやまない所だね」
「もし深く作ることを拒絶した場合には踏破もあり得るってことなんですかね」
あたらしく踏破するダンジョンが出るならまた手が空いてその辺をうろついたり俺に会いに来るダンジョンマスターも出始めるはずだ。それすらせずにサボるダンジョンマスターも居る可能性はあるが、その場合はこちらからアプローチをすることはできないから考えないことにしよう。
「それも考えの内かな。暇になったダンジョンマスターに新しい仕組みのダンジョン……エレベーターありでなにかしらギミックのあるダンジョンとして再開発してもらってそれを同じところに立てるか、もしくはもっと利便性の高い場所に移動するかはまたダンジョン計画第二弾の話になるだろうけど、今ダンジョンを作ってくれているダンジョンマスター達みたいに勤勉であってくれると嬉しいね」
なるほど、ダンジョンマスターに囲まれて俺が仲介役を取り付けて話し合う……という場面はまた訪れるわけか。覚悟はしておかないとな。他にはどんなダンジョンマスターが居るのか楽しみだな。
「そういえば、官用だったダンジョンをいくつか民間に開放するという話がありましたね。そっちのほうも順次進んでいる感じなのでしょうか」
「そっちは第一号が三日ほど前にオープンしたよ。D部隊も引き続き潜り続けるらしいが、地元からも通えるダンジョンとしてわざわざ田舎に帰ってIターン就職ということでダンジョンに潜り始めた探索者も居るらしい。今のところは空いてるだろうし、地図はある程度のところまでは販売の形で売り出していることになっているから、これから期待できるギルド税を考えればダンジョン庁も探索者もダンジョンマスターも三方得って形で進むんじゃないかな」
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