1305:東京へ
数日後、俺は東京にいた。高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンをみるのも久しぶりだ。でも近くの清州ダンジョンはもっとご無沙汰なので、何か違うなあという気持ちにはなっている。
今日はアポを取って真中長官と面談。【鑑定】の正式保有者を決める話し合いに参加するのと、【鑑定】のスキルオーブを受け渡すことになっている。時刻は俺が移動する時間を見越して昼前ぐらいにセッティングしてくれたらしい。
昼を食ってから帰るか、それとも我慢してまた名古屋駅で食べるのかは悩みどころだが、こっちでまたお土産を買っていくことを考えるとこっちで昼を満喫してから帰るほうがいいな。観光は……観光は観光で来たい時に来ればいいのだ。仕事のついでに観光ではどっちかに身が入らないだろうし、そもそも今日は観光をしようという気分ではない。
保管庫の中には数千億の価値すら見込まれるレアスキルオーブが入っている。過去一金額的に重たいアイテムが入っていることを考えると、とっとと手放してしまいたいのが本音。時間までダンジョン庁の中をうろうろしてダンジョン庁本庁がどんな仕組みで動いているのか見学したくなってきたな。
芽生さんは多分省庁訪問の時にでも一通り案内されてどこにどんな設備があって……みたいな話は一通り受けているのだろうから、ちょっとうらやましい。とりあえずダンジョン近くのコンビニで肉まんを買い、小腹を満たす。今からは腹に力を入れて面接と話し合い、そしてスキルオーブ譲渡の流れまで持っていく日だ。腹が減っていては身も心も持たないかもしれない。しっかりと胃袋にカロリーを補充したところで早速ダンジョン庁の入居している建物に入る。
「すいません、本日真中長官との面談の予定があります安村と申します。ちょっと早めに来てしまいましたが構いませんかね? 」
「安村様ですね、訪問についてはお聞きしています。よろしければ中でお待ちになっていてください。そちらが休憩室になっておりますのでコーヒーでも飲んで待っていてください」
ダンジョン庁の一階は全開放されているらしく、休憩室には小西ダンジョンにも置いてある給水器と、カップの飲み物の自販機が置いてあった。とりあえずコーヒーを飲んで一服し、トイレも済ませておく。緊張すると近くなるというわけではないが、途中で催すよりはマシなので今のうちに出せるものはしっかり出しておこう。
トイレから戻ると、受付嬢が俺を探していた。
「失礼、トイレに行っていました」
「左様でしたか。真中長官から五階まで案内するよう言われましたのでお連れします、こちらです」
前に一回来たので何となく覚えているフロアの位置。定期的に通うほどではないが、俺も一探索者ながら探索者の取りまとめ役ということになっている長官と気軽に会えるのは偉くなった気分になるな。
エレベーターで五階に到着し、広めの通路を抜けて正面の部屋へ。ノックを三回して、話しかける。
「安村です、到着しました。開けて大丈夫ですか? 」
「真中です、どうぞ」
了解が取れたので中に入る。中の様子は……相変わらず書類が机の上に山積みになっているな。決して長官がサボり癖があるわけではなく、このぐらい書類が溜まっているのが日常なのか、それとも二月の価格改定に向けてもう少しずつ話が進みつつあるのかは不明だ。
書類一枚一枚に目を通して何をしているのかを把握するのは俺の仕事ではない。むしろこれだけ仕事が溜まっているのにこっちの都合を優先してしてくれたのだからそこは感謝するべきなのだろう。
「待ってたよ、隣の部屋にもう候補者を待たせてる状況なんだ。三人のプロフィールは用意してある。念のため目を通しておいてもらいたい。多分だけど、安村さんとしても渡すべき人はある程度決まっているようなものかもしれないけどね」
そう言って三人分の経歴と現在の職務について簡潔にまとめられたものを渡される。
・巽隼人 二十三歳 男性 ダンジョン庁勤務、現在は営業局管理課に所属し書類仕事を担当中。勤務態度はそこそこまじめ。今年入庁組では仕事の出来は中の中あたり。
・森吉乃 三十二歳 女性 ダンジョン庁勤務 現在は営業局第一営業課職員としてダンジョン産出品の対外折衝係を主な仕事としている。勤務態度は問題なし。勤務成績は極めて良し。
・乾健三 五十三歳 男性 経産省勤務 窓際部署にて暇人担当。勤務態度は問題なかったが省内の出世争いに負けて現在は省庁内無職。ただし新聞は毎日読んでいるため相場情報や物価に関しては機敏な対応をする際に仕事をすることはある。
「これ、選択する余地あります? 」
「やっぱりそう思うよね。でもまあ一応、経産省には借りがあるからその分を請け負ったってことで候補にはリストアップしたんだけど」
「今後何十年か仕事を続けてもらうって意味では新人の彼の手腕に期待するところですが」
「あぁ、やっぱりそっちの理由で巽君を選択したわけか」
「流石に十年そこらで退職するのが解ってる人物に任せるのはいくら政治的事情があるからと言っても無理があるでしょうね」
真中長官も考えることは同じだったらしい。やはり貴重なオーブを渡すなら長く勤めあげてくれる人物に、しかもちゃんと仕事をする人物ならなおさらヨシ、ということだろう。
「さて、今から面接を始めるから安村さんも同行してほしい。基本的には私が話を進めていくので、安村さんは予備監督役の振りをしてくれればそれでいいよ」
「解りました。ブラフの面接官ということですね」
「うんうん、後多田野君にも面接官役をやってもらうから、三対三でちょうどいい人数割りということになる。多田野君は少し席を外しているからその間雑談でもして待っていよう」
ソファーに腰かけさせてもらう。……と、真中長官がコーヒーを淹れてくれた。有り難く受け取るがさっきも飲んだんだよな。トイレ近くならなきゃいいけど。
「最近はどう、ちゃんと儲けられてるかい? 」
「そうですね……出がけに通帳を確かめてきましたが、もう明日から本当に仕事をしなくても良いぐらいには預金が増えてましたよ。堂に入った金の使い道というものに縁がないのでどうしたもんか悩んでいるところですね」
「安村さんが隠居を決め込むのはまだ早いかな。文月君の相方として立派に活躍してもらう仕事もあるしね。彼女にはもちろん新人研修を受けてもらうが、研修が終わり次第小西ダンジョンに戻って引き続き仕事をしてもらう……という予定になっている。横やりが入ればまた別だろうが、ちょっと私にも考えている部分があってね。公務員でありながら探索者を副業ではなく本業として行える制度の制定を考えている」
「その第一号が来季の入庁者ってことですか。本格的にダンジョン庁のお抱え探索者部隊を作るおつもりなんですね」
「まあね。公的探索者という地位を作れば後はいろんな方面の要求にもこたえることができるようになる。特定の品物だけを目的に探索に出かける……そんな部隊を作れれば需要と供給のバランスもとれるようになるかもしれない。その為にはこっちの言うとおりに指示として命令系統が確実に優先されるような組織にしないといけない。防衛省には借りを作り続けてはいるが、それも徐々に返していきたいところだしね」
真中長官もソファーに座り込み、横に並んでコーヒーを飲む。ふぅ、五階の眺めから見る東京も悪くないな。他のビルが高くて視界はそれほど開けてはいないが、足元では探索者が頑張ってるのだと思うと少しだけ優越感に浸れる。
「先日の反省会の件ですがね、一品物を出すなら【鑑定】を、というところまではそれぞれの元ダンジョンマスターの意見は一致してましたよ。ただ、ダンジョン毎に【鑑定】を出すことについては否定的でしたね。出来るだけ数は抑えたほうがレアスキルであることが確実視されるものでもあるし、この地域だけレアスキルが豊富に産出されるのは他の地域に対してちょっとサービスが過ぎる、と」
「確かにそうだね。いくら日本が仲良さアピールをしているからって過剰な要求をダンジョンマスター側にしているのではないか、という方面から突かれると弱い部分があったからね。ただ、今回は新しい客を呼べるダンジョンの仕組みについて考えて共に作ってみた結果の報酬として受け取る、ということにしておけばそれほど問題はないんじゃないかとも考えている。手伝った分だけ手伝い賃をもらった、というところかな」
「お待たせしました。所用を済ませてきました。安村さんもご無沙汰しております」
何処かへ行っていたらしく多田野さんが帰ってきた。何してきたかは……まあ彼のことだからお仕事なのは間違いないだろう。
「揃ったところで始めましょうか。あくまで仮の面接、ということでいいんですよね」
「うん、基本的に私からしか質問をしない予定だが、もし何か聞きたいことがあれば口を挟んでもらって構わない。そのほうが面接っぽさがぐっと出るしね」
三人並んで隣室でくつろいでいた三人に顔合わせする。
「お待たせ。採用面接官が揃ったところで開始しようと思うけどいいかな? 」
「はい、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします! 」
「よろしく~」
一人気の抜けた挨拶をするのが乾さん。どうやら窓際に慣れ過ぎていて緊張感がない。ここでもどうせ落とされるのだろうと逆に腹をくくっている感じがする。
「では、面接を始める……前に、機密情報の前渡しをしておこうと思う。今のところ、ではあるのでいずれ世間には知られるようになるが、機密情報なので今のところ口外不可の情報として伝えるよ」
「いきなり機密情報の開示からですか。それ聞いてやっぱりやめる、ってなるのはありなんでしょうかね」
森さんが少し腰の引けた態度に変わる。
「まあ、普段からある程度の機密には触れている諸君らではあるし、そう重たい内容でもない。推測をするだけなら今の段階でも詳しい人なら導き出せる程度の内容だ。あまりそう身構える必要はないよ」
「そうですか、ならいいんですが」
全員真中長官のほうへ向きなおる。三人の姿勢を確認した真中長官が多田野さんに説明をさせる。
「まず、先日まで十日の間、小西ダンジョンでダンジョンマスター主催のイベントが行われていました。内容はトレジャーダンジョン。つまり、一時的に宝箱がダンジョン内に出現するのでそれを開けて取ってもらい、中身を確認してもらうというイベントです。イベントの趣旨は宝箱を出現させるというダンジョンの仕組みの確認とバグつぶし、それから探索者の反応を見る……つまり、このままダンジョンに宝箱が湧き続けるとして、どうすれば探索者の気を引いていくことができるか、という試験内容になります」
「それが機密なんですか? 探索者が一般参加していた以上機密でも何でもないような気もしますが」
巽君が不思議そうに質問する。
「まあ、落ち着いてください。機密はここからです。ダンジョン庁は現在フリーのダンジョンマスターと交渉を行い、また国交省、外務省とも折衝を重ねた上で新たに五ヶ所の新規ダンジョンの設立をする予定です。その五ヶ所のダンジョンは全てトレジャーダンジョンということになります。ここが機密ですね。実際にダンジョンが発生して中を確認されて、宝箱が出るダンジョンだと確認されるまでの期間に限定して機密ということになります」
全員が沈黙する。すると、乾さんが質問をする。
「国交省は用地の確保のために密に意思疎通が必要なのはわかります。ですが、なぜそこに外務省が一枚噛みこんできてるんですか? 対外業務にはならないとは思うんですが」
「答えとしては、海外のダンジョンマスターを幾人か日本へ来てもらってダンジョンを開設してもらう予定だからですね。いざというときに事前情報があるのかないのかで初動の対応が変わりますし海外から文句を言われてもこちらはこちらで理論武装の用意をしておく必要があるからです」
「なるほど、勝手なダンジョンマスター引き抜きへの対応ということですか。なら納得です」
乾さんは引き下がった。彼も色んなポジションや各省庁のやり取りなんかについてはそれなりの知識を持っているんだろう。ただ単に年齢だけを重ねて今の歳までそれなりの役職に座り続けている、というわけではないように感じた。
「さて、ここからが本題です。トレジャーダンジョンの開設に伴い、宝箱から出る品物に一品物、つまり【鑑定】のスキルが必要な局面が出てきます。そこで、このお三方のうち一人を鑑定士として任命して各ダンジョンから産出される一品物のレアドロップ品についての鑑定業務を行ってもらうことになります。部署は新たに管理部の下に品質管理課というものを創設してそこに座ってもらいます」
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