1300:仮眠と延長戦
1300!
食事を騒がしい中一人静かに終えて、生活魔法で結衣さん達全員分の食器と料理に使った品物を片付けをしたところでかなり疲労感が溜まってきた。これは無理して体を動かすよりも腹を落ち着かせるためにも、しっかり疲れを取るためにもここは仮眠が必要だ。
「さて、俺は一足先に仮眠をとるよ。三時間ぐらい寝れば元の調子に戻ると思うからしばらく横になってくる」
若干肌寒いここでは布団が活躍する。自分のテントに入るとせっかく買ってまだ一回しか使ってないセミダブルのダンジョン用布団を取り出しそのまま横になる。枕もセットで使うので疲れも睡眠欲もバッチリ取れて体調も快調に向かうはずだ。
横になってアラームをかけてさあ眠ろうかと思ったら、テントに侵入する影が。
「夜這いに来たわよ」
結衣さんだった。夜這いに来たらしい。布団の端っこを開けて布団の中に誘い入れる。
「あったかいわね。ダンジョン用の布団よねこれ。家で見たことないわ」
「汚してもいい布団が一つぐらいあってもいいと思って。家用の布団でも良いんだが、家のは家で、ダンジョンのはダンジョンで作っておいても良いかなって」
「贅沢だけど、普段稼いでる金額に比べれば安いものね。使わずにお金だけ貯めこんでおくよりはよほど健康的だと思うわ」
さて……早速眠気が訪れ始めた。結衣さんを抱きしめて抱き枕代わりにして寝ることにする。結衣さんは普段はレザーアーマーを使ってるおかげでそれなりに体格があるように見えるが、中身は細っこい。全力で抱きしめたら折れそうな、とまではいかないがその芽生さんとはまた違った柔らかさとしなやかさを備えた体をそっと覆いかぶさるようにしてしっかり抱きしめる。
「ふふ……こんな所で安村さんと添い寝。芽生ちゃんには悪いけどしっかり役得を確保しておくことにするわ」
「イチャイチャできないのが難点かな。流石に誰も居ないとはいえダンジョンマスターには見られてることだし、そんな撮影されてるような場面を流すつもりはないからな」
「それもそうね、でもこのままでも幸せだからいいわ」
結衣さんのほうも手を回してきたのでさらに距離が近づく。ピタッと密着して温かさを存分に味わう。柔らかさは……芽生さんのほうが上だな。口にも表情にも出さずにはいるが、これはこれで嬉しい。
いとおしさがちょっと高まってきたので思わずキスをする。このぐらいのサービスはしていてもいいだろう。ただ、盛り上がりすぎないようにしないとな。ほどほどに、ほどほどに、だ。
結衣さんもキスを返してきたが、舌まで入ってきた。そのまま濃厚なキスをしばらく続ける。
「なんか盛り上がってきちゃったんだけど」
「そいつは地上に出た後だな。今はこの辺りで我慢しておこう」
正直俺も少しそういう気分になってきてしまったので本当にほどほどにしないとな。そのまま抱き着いて枕を共有し、二人で眠る。やはり疲れのほうが先に来ているのか、盛り上がっていた結衣さんが先に寝付く。やっぱり疲れているときは素直に寝るのが一番だな。俺も目を閉じて眠りにつくことにしよう。
◇◆◇◆◇◆◇
アラームが鳴り、スッと目が覚める。スノーオウル枕とダーククロウ布団の機能はここに立派に証明されていると言っても過言ではないぐらいのバッチリの目覚めだ。結衣さんもアラームで起きたのか、むくりと起き上がる。
「おはよう」
「おはよう。ゆっくり眠れた? 」
「さすがの枕と布団って感じだったわ。後抱き枕も」
「それは何より。さあ、みんなと合流して一狩り行くか」
テントから出てくると、他のメンバーはまだ寝ている途中の様だった。とりあえず人数分の飲み物と軽くお菓子を出してみんなが起きてくるのを待つ。
しばらくして結衣さんが全員を起こしに回ったのか、のんびりと起き上がってくる面々。一足先にコーヒーを沸かしてインスタントを飲んでいたが、まあ宿泊コースだしのんびり無理しない探索でも問題はないよな。
「お二人はばっちり目が覚めてますな。ワシはまだちょっと眠り足りない感じですわ」
「こっちは布団と枕使ったからかな。疲れも眠気もバッチリとんだ。コーヒーは待ってる間の暇つぶしだ。インスタントで良ければ淹れるけど? 」
「や、ウチのパーティーは豆って決まってますんや。おかまいなく」
どうやら豆にこだわりがあるらしい。豆じゃないと調子が出ないとかきっとそういうゲン担ぎみたいなものも込みなんだろう。それについて横から口出しをするつもりはないので、せめてお湯だけ沸かしておいて結衣さんが世話焼いてるうちに少しでも湯温を上げておくことにするか。
全員を叩き起こして結衣さんが戻ってくる。コンロで温められているお湯と、既にコーヒーを飲んでいる俺を見比べて、ピンと来たのか早速コーヒーの準備を始める。
「悪いわね、お湯沸かしてもらっちゃって」
「このぐらいは問題ないよ。どうせ暇だったし、急いで探索に向かうでもないし」
こっちで作ったお湯を持っていくと、人数分のコーヒーを豆から淹れだす結衣さん。それをのんびり見ながらお菓子を口に入れ、寝起きのカロリーを充填しておく。
コーヒーを淹れ終わり、机に向かって全員が座りなおしたところで話題は今からの探索の内容に入る。
「さて、今からどうしましょうね。もう一回六十五層辺りをうろついてもう一つ毒耐性が出るかどうか賭けに出るのも有りだし、六十四層で戦うのも一つ。安村さんだったらどっちを選ぶ? 」
話が俺に飛んできた。ふむ……俺だったら、か。
「六十五層で【毒耐性】を狙うのは悪くないと思う。体内マップではスキルオーブをドロップした覚えがないのでそろそろ出るかもしれないという期待値も込みだな。休憩もしたし体調のほうは徐々に戻していくとしても、せっかくなら物理的に稼げるところで戦いたいのは確かだからな」
「なるほど。六十五層じゃなくても六十六層でもいいわけですか」
「そういうこと。だから焦る必要はないと思うけど、出来るだけ手早く済ませることが出来ればその分だけ収入になるからできるだけ三鎖緑球菌君の多いほうへ行きたいところではある」
「三鎖緑球菌君……あぁ、丸三つの緑のアレですか。そんな名前なんですか? 」
「いや、仮称。正式名称は多分なんかまたつくんじゃないかな。その内ダンジョン庁に問い合わせることにして、狙ったスキルが狙った相手から出るかどうかはわからないけど特殊攻撃をしてくるモンスターからは対抗できるスキルが出やすいのは確からしいし、充分理由にはなる」
一杯目のコーヒーを飲み干し、二杯目に入ったところで向こうの相談が終わる。
「六十六層へ行く、ということで決めたわ。六十五層でもいいけど六十六層を回るほうが時間効率がいいからその分だけ出会えるチャンスとスキルオーブが出るチャンスが多いと考えることができるからね」
ふむ、効率的でいい考えだ。俺も居るし、サナダムシは俺が全部倒せば終わることなので三鎖緑球菌君に集中できるはずだ。精々稼いで帰ることにするか。
「さて、そうと決まれば出かけるか。六十四層六十五層と抜けていくうちに何かポロッと落ちる可能性もあるからな。朝方までゆっくり確実に回って、朝ごはん食べて分配して帰るなりしていこう」
話がまとまったところで早速行動開始。コーヒーを飲み干すと荷物を片付け、六十四層へ再び向かう。道中のドロップの管理も引き続き任されることになったので後で仕分けと分配する際は横田さんと要相談ということになった。今日の全員の稼ぎを集めるとかなりの金額になるが、一人頭で配分すればそれなり、という感じになるだろう。
六十四層を先ほどと同じかそれ以上の速度で行軍する。ここに用事はないのでさっさと通り抜けるために俺がかたっぱしから吹き飛ばしているから、結衣さん達はかなり楽な行程のはずだ。暇だとすら思っているかもしれない。が、討ち漏らしの対応をしてもらっているのでそこまで暇という感じはしないだろう。
さっさと四十五分ほどで六十四層を抜けきると六十五層にそのまま突入。ここからは彼らの出番だ。存分に戦ってもらおう。しっかり稼いでみんな笑顔で帰宅、とその前に隠蔽と索敵のオファーを出させるようにしないといかんな。
性能が微妙だと思われているうちにしっかり確保してもらって楽な探索をしてもらいたい。そのためにも元手は必要だ。しっかり稼いだ前半戦ほどではないが、後半戦もそれなりに稼いで帰りたい。五時間ほどの行程を予想しつつ、出てきたサナダムシは全部焼いて皆には三鎖緑球菌君に集中してもらう。そのほうがドロップに対する姿勢も違ったものになるだろう。
全員がぎらついた眼でモンスターを探し、見つけ次第それぞれ連携して倒していく。火力で無理やりごり押ししていく俺と芽生さんとはまた違ったパーティープレイを見せてもらっていて中々参考になる。本来パーティーとはこういうものなんだろうな、という例を目で確認させてもらいながら大人しく隅っこでサナダムシを火炎波かファイヤーボールで焼きながら階段目指して進む。
今日出るか出ないか、で言えば出ない可能性のほうが高い。スキルオーブとはそうそう狙って出るようなものでもないし、意図的に出そうとすれば二週間ぐらい階層を独占して通いっぱなしになる用意が必要だ。
そうでなくても一泊作業というのは中々に体力と精神力を削っていく探索方法でもある。毎日同じ時間に出勤して同じ時間に帰るほうが一般的な仕事と呼ばれるものも同じく、ストレスも負荷もかかりにくい。今日はそれに少々無茶をさせているのだから見えない疲れというものは貯まってしまっても仕方がない所だろう。
誰かに疲れが見え始めたら俺も戦闘に参加して盛大に三鎖緑球菌君を焼きに走ろうと思う。それまでは暖機運転と思って大人しくサナダムシを焼こう。
六十五層をずんずんと進み、小部屋のモンスターもくまなく焼き切っているところで、スキルオーブが落ちる。三鎖緑球菌君からだ。
「お、これは出ましたかな? 」
「拾うまではまだ解らないかな。さて、何のオーブが出たかな……誰が取る? 」
「じゃあ、一番欲望に囚われていそうな僕が拾います」
横田さんが声を上げて拾いに行った。横田さんは拾ってそのまま固まる。
「ノー、どうやら、お目当てを引けたみたいです」
横田さんが全員にスキルオーブを触れさせていき、それぞれが「ノー」と答えていく。一応俺のところにも来たので、俺も受け取ってノーと言って横田さんに返す。
「じゃあ覚えますね。イエスで」
横田さんにスキルオーブが沈み込んでいき、横田さんがぺかーっと光る。これで新浜パーティーは全員が毒耐性持ちになり、一つのパッシブスキルをそろえることができるようになった。
「そういえば、物理と魔法の耐性はそろってるの? 」
「そろえて【物理耐性】が一つ余ったんで平田さんが二重化してますね。おかげでかなり楽に前衛を任せられます」
「【硬化】も合わせて使えるんでえろう楽させてもらってますわ」
完全な盾役と化した平田さんが出来上がっているらしい。良く指を見ると、他のメンバーはそれぞれ指輪を身に着けていた。さっき寝る時に結衣さんも確認すればよかったかな。それぞれ指輪で何かしらの耐性の底上げは出来ているらしい。
「さて、六十五層六十六層を回る理由が無くなっちゃったけどどうする? このまま巡る? 」
「そのほうがお金になるならそうしたいところね」
「六十六層が今のところ一番お金になりそうなのでそのまま回ってしまいたいところですが、安村さんとしてはどうです? 」
ふむ……俺としては、か。メモ帳をちょいちょいとめくり、各階層の一時間当たりの時給額をまとめたページを取り出し、六十六層を巡るのと六十四層を高速で巡るのを比較する。
「この人数でこの手数なら、六十六層を回ったほうがお金にはなるかな。行って帰ってくるのとマップがべたつくのを我慢すれば一時間当たり二千万ぐらい変わってくる計算になる。と言ってもポーション一本出るかどうかって話になるけどね」
「安村さんが言うんだからある程度正確であると予想できます。六十六層でポーション一本出たら帰るってところでどうです? 」
「そうだなあ。そのぐらいで良いかもしれない。頑張って一本出して、そして帰ろう。後は【索敵】と【隠蔽】だな。【索敵】はともかくとして【隠蔽】のほうは買い付けるほうが早いかもね」
流石にスノーオウルに通い続けている俺でも【隠蔽】を取れたのは一つだけだし、二つ目を取りに向かうというのも難しくはないが、流石にそこに何日も通うと収入のほうにも響く。いずれ売れていく素材とはいえやはり限界もあろう。
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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
後毎度の誤字修正、感謝しております。





