130:お帰りはあちらです
なんかツイッター面白い祭りになってますね。おかげで執筆が進まない
おはようございます、安村です。仮眠を五時間しっかりと取り現在午前五時半。疲れが完全に取れた感じはしない。おそらく、仮眠前の無茶がまだ体に残っているんだろうと推測される。これは家に帰ってから本格的に休養だな。
ダンジョンが開場するのは午前九時なので開場直後に帰るとしてもあと四時間は余裕がある。各階層三十分で駆け上がるとしてもまだ三十分の余裕がある。今のうちに朝食を作ろう。
文月さんはまだテントの中で仮眠中のようだ。起こさないように朝食の準備を始める。トーストしたパンと……その後でボア肉を一パック開けると薄めに切って焼く。残った脂で目玉焼きを作る。卵を持ってきてよかった。
カロリーゼリーとトーストと目玉焼きにベーコン代わりのボア肉ででまぁ栄養バランスはそれなりだろう。紙皿にラップを貼ってトーストに目玉焼きを乗せればいつものご機嫌な朝食野菜抜きの完成だ。野菜はもうちょい持ってきても大丈夫という事が解った。無くても良いと言えばいいんだが、メンタル的に野菜があるほうが気分がより落ち着く気がする。
さて、文月さん起こすか。テントに近寄り声をかける。
「文月さんや、朝ですよ」
「う~ん……後五分」
中から声は聞こえた。起きてはいるらしい。
「朝食冷めるよ」
「作ってくれたの……? ありがとう」
「まぁ、自分の分のついでなので手間じゃない」
「ご飯は任せっぱなしでなんか申し訳ない」
「気にするな。少なくとも負担にはなってない」
「着替えたら出る……」
少し時間がかかるだろうな。スキレットに乗せておいて保温しておこう。出来立てだったボアエッグトーストは少し冷めてしまっているが、保温しておいたのでまぁそのまま放っておくよりは美味しさを維持できているだろう。
きっかり五分で文月さんは這い出してきた。
「おはようございましゅ……」
「おはよう。変に疲れてたりしてない? 」
「大丈夫……私より安村さんは? 」
「まだ疲労が残ってる感じはする。ただ、家に帰るぐらいまでなら余裕で持つと思う」
「じゃあ、この後は片づけして直帰? 」
「う~ん、直帰するにはまだちょっと早いかな。使ったポーションを補充するにしても、四階層でちょっと試運転したいところではある」
「安村さんが大丈夫ならそれでいいけど、無理はしないでね」
「あぁ、解ってるよ」
実際のところ、六層を超えるときにどうなるかだけを考えておけばいい。保管庫に入れてあった飲みかけのコーラを胃に詰め込むと、血糖値の上がる音が聞こえる。よし、これで脳みそのほうは持ち直したな。
食事を済ませると各自撤収準備を始める。エアマットの空気を抜き、スキレットとバーナーを保管庫にしまい込んでしまう。今日はもう使わないからな。テントの中のを片付ける。ボア革はバッグに括り付けてしまおう。六枚もあるからそれなりの重量になるが、その分バーナーとスキレットが保管庫に入ったおかげでなんとか詰め込めている形だ。
後はゴミをまとめてビニール袋に入れると保管庫へ入れる。ゴミ袋にいろんなパラメータが付加されているが、出来るだけ視界の外に置くようにしよう。後で分別するから今のところはスキルに我慢しておいてほしい。
テントをパパっと片づけるとバッグに括り付けて外見は終わり。
「ちょっと、ドロップ品整理するから手伝ってね」
保管庫から今日の収穫をドサドサと取り出す。うーん、結構な量になった。これをバッグの隙間に詰め込めるだけ詰め込んでしまう。魔結晶だけで百八十個もあるとさすがに重さがあるな。ボア肉は文月さんに任せよう。
「バッグに空きがあったら出来るだけ詰めちゃって」
「はーい……ってこんなに戦利品あったのね。これは査定が楽しみですなぁ」
「期待しているとよいぞよ」
なんとか今の戦利品はバッグに詰め込むことが出来た。これで帰りにダーククロウを狩ろうものなら大変な体積になるだろう。出来るだけ無視していこう。ワイルドボアは避けようがないが、今更肉が一つ二つ増えた所で大差はないと考える。
「忘れ物は無いー? 」
「大丈夫。全部持った。ゴミもまとめた」
「ゴミはこっちでまとめて受け取るわ。貸して」
「う~ん……人にあまり見せたくないゴミもあるから自分で持っておく」
「解った。じゃあもらえるゴミだけこの袋入れちゃって」
「そうしてくれると助かるー」
更にゴミが増えた。保管庫のごみ袋のパラメータが増加する。一つ一つ見るのも嫌になってくるし、プライベートなゴミは多分自分で持っているのだろう。
さて、一応小寺さんたちがいたら挨拶してから帰るかと思ったが、どうやらまだ帰ってきてないようだ。これはステータスブーストを使ってひたすら狩りに勤しんでるんだろうな。と一人納得しておく。一応中央のテントも見回ってみるが、誰かが使った形跡は特にない。つまり小寺パーティーと自分たち以外、ダンジョンの中には居ないんだろう。
片づけと食事で三十分ほど費やすことになった。多分ちょうどいい時間に地上に戻れるな。
「じゃぁ、地上に戻りますか」
「戻りましょー」
「六層で大発生とか起きてないといいんだけど」
「起きてたらその時は戦うしかないね」
「まぁ、九層であれだけ体慣らしたからなんとかなるでしょ」
六層へ上がると、そこはいつものワイルドボア暴走族が走り回る荒野だった。そして木も良く茂っている。茂った木を迂回しつつ、襲ってくるワイルドボアはお小遣いとして美味しくいただき、四十分ほどかけて六層を渡り終える。
更に上がった五層は六層に比べれば平和そのものだ。呑気に空を舞うカラスと同じく呑気に草むらに寝そべっているワイルドボア。そういえばここまで気の抜けたワイルドボアは初めて見たな。多分お客さんが来ないと油断しているんだろう。
こちらに気が付くと急いで突進してくる。そんなに会いたかったのか、嬉しいなぁ。一撃で頭をカチ割って天国へ行ってもらう。
ダーククロウは相変わらずあいさつ代わりにフンを落としてくるが、今更当たるわけでもなし。きちんと回避して下りてきたダーククロウだけを丁寧に処理する。羽根が落ちる。あぁ、また荷物が増えたよ。
真っ直ぐ五層を歩くと三本の木を経由するとはいえ、やはり四十分ぐらいかかる。現在午前七時半。後一時間半はダンジョンは封鎖状態だ。
「ダンジョンが開く前の一~四層は一体どんな状態になってるんだろう」
「モンスターは補充されてるから狩り放題なんじゃないですか? 」
「なら、三層か四層に一時間ぐらい居座っても良い感じか」
「ヒールポーション集めます? ちょうど一本使ったことですし」
「そういえば安村さん、まともにダメージを受けたの今回が初めてでは? 」
「初日にスライムのタックルを受けたし、ソードゴブリンにマチェット曲げられて精神的にダメージを受けた」
あれは結構精神的にきたな。立ち直るのに数日かかった。
「肉体的なダメージは? 」
「そう言われると初めてだ。よく今まで無傷で戦ってこれたな」
「無傷で進みすぎると何処かで手痛いしっぺ返しを受けると言いますし、ちょうどいいタイミングだったのかもしれませんね」
「まあ、今回も精神的にもダメージは受けたっちゃ受けたな」
「どんな精神的ダメージ」
「今のままでは先へ進めない」
そう、今の手数、戦闘方法、自分の能力。いくつか項目はあるが、どれもがまだ満たされていないと感じる。
「なるほど。しばらくは四層か六層か九層を回る感じでいいですかね」
「それが良いと思う。四層でどうにかされるわけでもなし、体を動かすついでにそれなりの密度で戦えるし」
「四層は数が多くて稼げるので、とりあえず四層でヒールポーション出るまで戦いませんか」
「前向きだねえ。一本出たら救急箱に入れておくことで良い? 」
「良いですよ、どうせ戦い始めたら一本で済まないぐらい頑張るでしょ」
「それは確かに」
四層の階段へたどり着いた。省略はされたものの、道中ワイルドボアの襲撃を受けつつここまで来たので、拾ったドロップはさらに多いものになっている。
「さすがに両手がふさがるほど荷物を持ってるのは不安だな。今拾った分はエコバッグに入れて保管庫に仕舞ってしまおう」
「じゃぁ、ドサドサっと入れときます」
保管庫からエコバッグを取り出し拾ったドロップを放り込むと保管庫へシュート。そして四層に上がる。四層は静けさを保っているが、耳を澄ませるとモンスターの息遣いが聞こえてくる。これは結構ポップしているな。一時間ぐらい回れば十分な量のドロップが確保できるだろう。
「これは狩り甲斐があるな。結構居るぞ」
「じゃぁ、まったりと手早くゆっくり素早く一時間ほど狩りつくしますか」
「そうしよう。最後の運動だ」
いつも通り、お互いの一番近くにいる相手をぶん殴りに行くというストロングスタイルで行く。ソードゴブリンとゴブリンの混じった団体様が多数ご来店あそばされるのでその来客対応に急ぐ。他に誰も居ないのか、三層の階段へ行く間ですら割と詰まっている感覚がする。小西ダンジョンは夜は休みぐらいのほうが湧きが安定するのかもしれないな。
疲れがたまらないように力をできるだけ抜いて、それでいて必要な分だけ力を使ってゴブリンを次々に黒い粒子に還していく。道中のドロップはちゃんと拾っていく。ソードゴブリンがゴブリンソードを落とす。これでまた新しい投射武器が一本増えた。きっとどこかで活躍してくれることだろう。
あっという間に一時間が過ぎ、ヒールポーションが三つ、ゴブリン魔結晶が三十ほど溜まる。時給にすると少ないが、苦労せずに稼げる時給としては中々の物だ。四層は完全攻略したと言っていいな。もうソロでも問題ないだろう。
「あっという間でしたね、一時間」
「早かったなー。それだけ集中してたのか、いっぱいいたのか」
「後三十分でダンジョンが開く時間だ。三層まで上がったらドロップ品全部出して移動に専念するか」
「じゃぁ、私露払いやりまーす」
「よろしくー。俺荷物持ちやりまーす」
三層の階段付近で役目を決め、俺はエコバッグを二つ抱えて遊園地帰りのお父さんスタイル。文月さんはモンスターがでた場合歓待する役。一人だとこうはいかないからな。お互い持ちつ持たれつだ。
二層を真っ直ぐ一層へ歩いていく。グレイウルフが時々出てくるが、槍で一発横薙ぎにされるだけで倒れていく。手慣れたものだ。安心して直進できる。時々ドロップが出るのでそれを欠かさず拾っていく。
「そういえば、ボア肉全部ギルドに卸していいの? 」
「あ、一つだけ持ち帰るー」
「じゃぁ俺も一つだけ持ち帰るか」
保管庫に二個のボア肉が吸い込まれて行く。今保管庫に入っているもの以外は全部ギルドに卸す分だ。解りやすくていい。その分俺の両手の荷物が増えていくわけだが、今更ちょっと増えた所で大した量じゃないだろう。
ウルフ肉もドロップしたがボア肉と同じ袋に放り込んでおく。二百五十円だが笑うものではない。百個集めれば二万五千円になるのだ。そうやってコツコツとやってきて今がある。初めてウルフ肉を食った時の美味しさはまだ忘れてないはずだ。
そういえば、さすがに朝早くからはあの中華屋やってないだろう。帰ったら何しようかな。とりあえず使ったテント干してゴミ片づけて、保管庫の中身整理して……それからもう一回寝るか。
両手の荷物が増えながら二層を進み終わり一層に出た。時刻は午前九時。ダンジョンが開場された時間だろう。
「一層は何も狩らずに進もう。開場待ってた人に悪い」
「そうですね、我々十分探索してきた後ですし、スライムは襲ってこないし」
一層はスライムがぽよぽよと跳ねている。見慣れた姿だ、とても懐かしい。
「一匹だけいい? 」
「いいですけど……」
許可をもらって一匹だけスライムを狩ることにした。保管庫からバニラバーを出すと一本そのままを食わせてやる。幸せそうに食事を楽しんで居るスライムをそっと熊手で撫でてやると、核が転がり出る。その核を靴底で踏みつぶすと、スライムは黒い粒子になり消え去った。後にはドロップのスライムの魔結晶とスライムゼリーが残る。
「……ちょっと試しに家に飾っておくか」
「魔結晶をですか? 」
「うん、なんか思い付くかもしれないから」
「まぁ、いいですけど」
出入り口のほうから音が響いてくる。探索者が入場してきたらしい。奥から現れた俺たちを見て少し驚いている。
「なんで一番乗りの俺たちより先に居るんですか? 」
「七層で一泊してきた帰りですよ」
「あー、なるほどね。お疲れです」
「どうもです」
挨拶をしてそのまますれ違う。真っ直ぐ出口に向かう。すれ違う人はそれなりに居る。みんな一旦奥へ行ってそれから脇道へ入ろうというつもりなのだろう。
ようやく、ダンジョンの出口が見えてきた。結構長い間潜ってた気がするが、実質二十四時間ぐらいしか経ってない。仮眠のおかげで少し体内時差が出ているのかな。
退ダン手続きをする。受付嬢と二、三言葉を交わす。
「お早いお帰りですね」
「見ての通り、これ以上長く潜るとお土産が持って帰ってこれないので」
「また一杯狩りましたね……これ全部二人で? 」
「そうです。頑張りました」
「帰り道も気を付けてくださいね」
「どうもですー」
退ダン手続きを済ませるとそのまま査定カウンターへ行く。
「お、安村さんだ。昨夜はお楽しみでしたか? 」
「えぇ、たっぷりと探索を楽しみました。今全部出しますんでお願いします」
「また凄い量ですね……最近スライム素材ばっかり査定してるんで久しぶりの大荷物かもしれません」
査定は十五分ほどかかり、二人分のレシートを発行してもらった。
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