1298:激闘六十八層
俺の発言で一同も納得の表情だ。どうやら、自分らにはスキルでも経験でも身体強化でもまだ厳しい階層という自覚は出来てきたようにも見える。
「たしかに、あの数が最初から出てくると知ってれば途中で帰ってましたね。流石に厳しいというか、最深層部なだけはあるというか。でもここまで来たこともありますし、腹をくくって頑張るつもりではあります」
横田さんがいつもの調子に戻ってきた。じゃんけんで負けて落ち込んでいたのが少し盛り返してきたんだろう。エナジードリンクを飲みながらドライフルーツを噛んで、一気に体にエネルギーと魔力、体力についでに気力も戻ってきたんだろう。
「そうね、自分が納得するならなんでもいいというのも逆に悪いし、そもそも納得できてないんだから今回はエレベーターを自由に使わせてもらうためだけに引率してもらって来た。自力では六十八層を突破してない、ということにしておくのが一番かしらね」
「そうですな……今年いっぱいはスキルオーブの購入や産出に念頭を置いてもええ様な気がしますわ。新しいスキルを覚えるでもええですし、全員のパッシブスキルの頭をそろえるでもええですし。特に【隠蔽】や【毒耐性】に関してはとにかく不揃いなのはメリットがあんまりないってことも存分に解りましたし。とりあえず【隠蔽】を三つと【毒耐性】一つですかね。頑張って集めることにしますよ」
「そうね、お金は充分にあるし、スキル待ちでちょっと長休みしてずっと地上に居るっていうのも一つの手よね」
そういえば結衣さん達には七十層で通信ができることは話してなかったが……このメンバーだと六十九層で狩りしながらのんびり待つ、というのも難しいだろうしやはり大人しく地上で長休みを満喫してもらうことにするほうがいいかもしれないな。休まず働いているのは俺ぐらいでいい。
「さて。ゆっくりしたところで先を進みましょうか。どれだけきついかわからないけど全力で立ち向かっていくわよ」
「そろそろ移動した方がリポップも始まるでしょうしそのほうがよさそうですな」
よっこらせと立ち上がり、みんなが移動準備を始める。俺も魔力がそろそろ回復してきたはずだ。ここから多少厳しい戦闘になっても途中で眩暈を起こさないように祈っておくか。
◇◆◇◆◇◆◇
六十八層の一本道を小部屋込みで全ての戦闘を行いながら進むことになった。足の踏み入れ始めは壮絶な戦闘になった。呼ばなくても来るので来た先から足を止めて迎撃に回ることになった。
モンスター側は前から横からと三パーティーどころか四パーティー分ぐらいがまとめて襲ってくるので、引き釣りの要領で誰かがヘイトを取って、固まったところでまとめて火炎波で焼き尽くしたり、一部屋ずつ順番に引っかかるように慎重に移動したりしてはいたが、だんだん面倒くさくなってきた。
「そろそろ一旦波が休まるかな。前の一パーティーと横の小部屋から来るパーティーだけで済むようになると思うよ」
「それは何よりですな。この調子で最後までいくんやとさすがにそろそろもう一回休憩が欲しくなるところでしたわ」
受け答えする平田さんも少し疲労の影が見える。やはり動き回る役は体力も消耗されていく。そもそも何もしなくても温度と湿度で徐々に疲れてくるマップだ。そこで動き回ってヘイトを稼いでモンスター集めに奔走してもらった分だけ仕事量も多くなるのは仕方ない。
「平田さんはしばらく休憩気味に動いてもらって構わないと思うよ。その間は俺が一人でなんとか相手してみるからその間にみんなも軽く休憩気味にしててくれていいよ」
そう言い残すと【隠蔽】を切って前へ出る。すぐに反応を始めたモンスターたちをかたっぱしから焼き焦がしては黒い粒子に還していく。全力ではないけど【火魔法】をここで存分に使わせてもらって、四重化する際の経験値にさせてもらおう。
俺が一人で二パーティーを相手にしている間、後ろの結衣さん達は静か。ちゃんとついてきているのかを確認して後ろを振り向くと、若干引き気味ではあるが付いてきてはいた。どうやら戦力差の問題だったらしい。
「もう安村さん一人で良いんじゃないかしら、と言いたくなるけどそれはさすがにズルが過ぎるわよね」
「そうですね、ちゃんとこっちも戦闘に参加して連れてきてもらっただけじゃないということを主張しておかないと最下層パーティーを名乗れなくなります」
「とはいえ、一人でアレを殲滅できる安村さんの火力も相当おかしいとは思うんだけど」
「やっぱりスキルを複数覚えると魔力総量みたいなのも増えるんですやろか」
何やら相談しているが、ちゃんとついてきてくれているならいいや。このきつい場所はとっとと突破して、後半戦に向けて充分体力を温存してもらっておこう。
三パーティーが同時に襲ってくる。きっちり三種類別れてきてはいたものの、そこそこ近づいてモンスター同士が重なったところで火炎波。範囲攻撃はまとめて焼けて効率がいい。割と気持ちいいなこれ、ソロで六十八層を巡るのも難しい話ではなくなってきたかもしれない。この密度のモンスターが味わえるならここで探索するのも一つの手だと考えられるな。
「そろそろ私たちも戦闘に再参加するわ。一人に任せて置いたらそのまま行っちゃいそうだし」
「それは助かるかな。ちょっと厳しくなってきたところだったんだ」
実際は一人のほうがターゲットも散らばらなくて楽は出来るんだが、やる気になっているみんなをのけ者にして自分だけ楽しむのは今日の趣旨じゃない。俺も半休憩の形で少し休みつつ、サナダムシを確実に焼いていく係になろう。
サナダムシが来たら焼き、それ以外は結衣さん達に任せている。【毒耐性】が手に入ったことで三鎖緑球菌君と対等以上に戦えるようになった多村さんが奮戦している。白血球は村田さんが触れて爆破でしっかりダメージが入っている。爆破にしろホウセンカの種にしろ、火魔法に近い種類のスキルは白血球にもしっかりとダメージが通るらしい。
「村田さんの爆破、結構つぶしが利いてて良さそうだなあ」
「ゼロ距離まで近づくか物を投げないと効果がないことが難点ですが、こうやってへばりついてくるようなモンスター相手には有効ですね」
「次のマップでは……うーん、出番ないかもね」
「なら精々今のうちにポイントを稼いでおくことにしますよ……と」
まだ話すだけの余裕はあるらしい。白血球を連続で爆破処理して、俺がアイテム回収に行く。この辺りも察してくれるようになったのか、可能なら近くでドロップ品が落ちるように調整してくれているようだ。
「しかし、この量をよく二人で切り抜けられましたね。その頃から【火魔法】の特訓されてたんですか? 」
「あの時は……確か未だ火魔法は多重化させてなかったと思うな。その代わりに便利な爆発物が保管庫に入ってたんでそっちを利用した」
近寄ってきた白血球にホウセンカの種を投げて爆破する。上手い具合に白血球が広がったタイミングで種と白血球が衝突したため、そのまま白血球はバラバラになり、形を保てないまま黒い粒子に還っていった。
「なるほど、その手が。爆発させずにここまで持ってこれたのも保管庫のおかげってことですか」
「まあね。迂闊に出せない危険物が大量にあると思うとあんまり安心できないんだけど。保管庫内で暴発するようなことはないから安心してるところだ」
六十八層の小腸ラインはまだ続くが、ここから先はちょっと楽。小部屋と前だけを意識すればいいので戦闘回数としても戦闘の密度としてもさっきまでに比べれば減ってきている。
やっぱり隠蔽なしだときついな、ここは。隠蔽を再びオンにしておいて、他のみんなのほうへモンスターが行くようにして、自分の取り分の確保とドロップ回収に努めることにする。結衣さん達も多少休憩出来て余裕が出始めたのか、それともこの密度に慣れ始めたのか、それぞれが得意とするモンスターを相手にするようになってきた。
そして多村さんと横田さんが身体強化の段階が上がったらしく、喜んでいた。このきつさでは全員の分上がるぐらいの経験値は入ってもおかしくないかもな。
しばらく進むと平田さんと村田さんもレベルアップしたらしい。このパーティー、結構均等にレベルが上がっていくんだな。俺と芽生さんは結構バラバラだが、俺がソロで潜っている分差があるのでそれも仕方がないか。まあ仲がいいことは良いことである。身体強化もできるだけ揃ってあがったほうがお互いの動きの差が出なくて便利だろう。
◇◆◇◆◇◆◇
ようやく小腸の小部屋大量ラインを抜け出し、三叉路まで進んできた。ここで一旦休憩だ。
「ここで休憩。ここから先は小部屋を挟んで通路と連続するところになってまた違った味わいを見せてくれるよ」
「ここで中間ぐらいなの? もう八割ぐらい進んできたつもりになってるけど」
「うーん、中間と言えば中間かな。ただ、一番厳しい地点は突破したのは間違いないと思うよ。しっかり稼いだしドロップもかなりの数落ちてきたし、金にはなった」
醤油差しもそこそこの数落ちた。これが一本三十万円というのはなかなかの金額である。安くはないし、スペースも取らないのでここまでのドロップ品の中では取り回しが一番いい可能性もある。これだけでもスキルオーブの購入代金の足しには充分になるだろう。
全員に飲み物とお菓子とバニラバーを配ると、俺もバニラバーをかじって休憩。流石にちょっと過剰労働気味だな。調子に乗ってそのまま進んでいたら俺が先に眩暈を起こすかもしれないからそれは避けておきたい。ついでにドライフルーツも忘れず噛んでおこう。
「十分休んだらまた次へ行こう。最後に白血球が三匹出てきたらそこがゴールだからそれまでは引き続き戦闘かな」
「安村さん、ウォッシュかけてもらってええですか。流石に体がじんわり汗でいやんなことになってきてますんや」
平田さんにお願いされて、服と体をウォッシュ。せっかくなので他の皆にもウォッシュをかけて回る。結衣さんはぶるっと体を震わせていたが、他の面々はかなり気持ちよさそうにウォッシュを受けている。
「前より上手くなりましたな。日々御上達されとるようで何よりですわ」
「洗い物もずいぶん楽になったからね。水道代も浮いて一石二鳥以上の効果を出してくれているよ」
胃袋をそこそこ膨れさせて水分も取った。良い感じに休憩をしたことで魔力も回復したようだ。これでこの後は比較的楽に進めるな。
きっちり十分ではないが、足が楽になる程度まで体力を回復させた。流石に歩きっぱなしも疲れるだろうし、他のメンバーもこれだけ休めば充分だろうという感じだ。むしろ、この蒸し暑いマップからは早くおさらばしたいと移動を開始したいところかもしれない。
「さて、そろそろいこっか。後ろのほうのリポップもそろそろ開始される時間だし、あまり長居するとまた後ろから追いつかれて挟み撃ちになると面倒くさいからね」
「そうね、行きましょうか」
結衣さんが声をかけると全員立ち上がる。どうやら早く通り抜けたいのはみんな同じらしい。次々に立ち上がると、再び多村さんを先頭にして歩きだす。
「次は多分二パーティー、その後は一パーティーずつ来るので順番に対処で」
索敵で先が見えている俺から先に念入れ。ここは通路と小部屋の繋がるところ。小部屋に一つ、通路に一つとモンスターがひと固まりで出て来る。固定リポップの場所なので困ることはない。
順番にゆっくり進んで一パーティーずつ倒していくなら結衣さん達でもなんとかなりそうなぐらいだ。ただ、ここまで到着するのがまず難しいからな。まずは六十七層から順番に攻略していくか、七十層から逆に遡っていくかだが、どっちにしろ難易度は高い。
やはり【隠蔽】をきっちりと覚えてもらって楽に到着できるようになってから再突入して自前での到着確認、としてもらうほうが色々と都合がいいだろうな。結衣さんの反応を見る感じでも完全におんぶにだっこみたいなイメージを自分の中に作ってしまったのだろうし、自力突破とは言い難い事態なのは確かだ。
さて、早速二パーティー分のモンスターが現れた。サナダムシはきっちり焼く。他のモンスターは数がいない限りは問題ないらしく、それぞれで倒して行ってくれた。これでサナダムシも倒せるようになれば俺抜きでも戦闘に支障が少ない方向で調整できるだろう。
無事に戦闘が終わったところで次のモンスターが反応するのを待つ。サナダムシがいたら手を出す、居なかったら任せる。今はただ補助に徹することにするか。
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