1290:イベントはほっとく
ちょっと寝不足気味である。昨夜はスレのチェックをして、気になる個所をいくつか絞り込んでは書き留めてミルコに報告するために普段より遅くまで起きていたためだ。
まあ、体にどうこう異常があるというほどではないし、もしかしたらバスの中でちょっと座って目をつむる程度で楽になるだろう。そのぐらいの差なので、昼食作ってちょっとソファーでだらけていたら充分に昨日の疲れは取れそうである。
しかし、モンスタードロップも宝箱に潜ませていたのか。馬肉が三つで一万二千円。安くはないが喜ぶほどの高さでもない、どっちかというとハズレに近い代物ではあるが、何もなしに得られる収入としては充分な物だったんだろう。
朝食を食べて昼食のカレーを作り始める。野菜を切り刻む手間さえ終わってしまえば後は時間をかけて煮込むことで美味しくできてくれるのでそこさえ乗り切ってしまえば楽が出来るな。炊飯器にご飯をセットすると早速調理開始だ。
パパッと野菜を切って玉ねぎを炒めて……肉はボア肉で良いな。最近また貯まり気味なんだ、一人の時はしばらくボア肉でも良いかもしれない。ボア肉のコマ切れをつくるとタマネギと一緒に塩胡椒炒めて時短。そして切りそろえておいた具材を水で煮こむと、適当な所でアクを取ってルゥと先に炒めておいたタマネギ、肉を投入。後は弱火でとろみが出るまでゆっくり煮込めば完成だ。
ちょっとアラームをかけて十五分ほど寝よう。スノーオウル百%枕を取り出すと、横になって休憩。スゥッと全身の力を抜き、完全にお眠モードに入り始める。そしてアラームが鳴ってハッと起きる。眠気みたいなものは充分取れた。カレーをかき混ぜた後ふつふつと温めてから保管庫にしまい込んだ。ニュースでも見ながらいつもの時間まで保管庫で眠っていてもらおう。
カレーは煮込み過ぎても美味しくない。筋肉を使った場合は筋が硬くなってしまうし、具材は溶け込んで食感が無くなってしまう。ちょうどいい煮込み時間というものが有るらしい。今回はかなり時短で手抜きなのでもしかしたら煮込み足りないかもしれない。次回は三十分ぐらい煮込んでどのくらい変わるかを試してみようと思う。炊飯器の準備が出来たところで炊飯器ごと保管庫に入れてカレー用の深皿が入っていることを確認。これで飯の準備はできた。
後はいつもの時間までニュースでも……と言うところだ。特に見入るような話はなくチャンネルを変えていくが、あまり身につけたい知識や事柄の物はやっていなかった。時間帯にもよるが、やはりちゃんとしたニュースを見たいという思いが強い。後は料理関係でもやってればよかったんだが、時間表を見てもそれらしいものは見当たらなかったので大人しく出かけることにする。
柄、ヨシ!
圧切、ヨシ!
ヘルメット、ヨシ!
スーツ、ヨシ!
安全靴、ヨシ!
手袋、ヨシ!
籠手、ヨシ!
飯の準備、ヨシ!
嗜好品、ナシ!行きにコンビニで補充する!
車、ヨシ!
レーキ、ヨシ!
保管庫の中身……ヨシ!
その他いろいろ、ヨシ!
指さし確認は大事である。大事なのはコンビニでおやつを買うことぐらいか。今日も気楽に四億ぐらい稼いで帰ることにしよう。
まずはコンビニに移動だ。お菓子をいつもの分量だけ用意して、ついでにコーラも……コーラはいつものが良いとミルコが言っていたな。いつものを買おう。コーラも種類によっては甘味料の違いで味に差があるらしいので、きっといつもの物で喜んでくれるはずだ。お菓子は……最近は希少キノコの味わいが流行っているのか、キノコ押しのお菓子が多いように思う。チョイとこの辺を重点的に買ってやろう。
会計を済ませるとそのまま電車で駅へ。ヘルメットが良い感じに温かいのでそのまま被っているが、これもヘルメット有りでも寒くなってきたら冬の合図だ。気を抜くとすぐ来るからな、冬って奴は。
電車の中でスーツ姿にタクティカルヘルメットをかぶって電車で何処かに行くおじさん。もう一年以上このまま過ごしているので周りの人もぎょっとしたりするようなことはなくなった。これも慣れというものだろう。流石に帯剣まではしてないので、振り回すかもしれないという恐怖心を植え付けないだけマシなんだろうな。
今はバッグの中に入っているが圧切も柄も武器として本来見えないように携帯しなければならないもの。ちゃんとルールを守っている以上、スーツにヘルメットをかぶっている人が居る、というだけでは話題にはなれないらしい。ちょっと安心。
電車を降りバス乗り場に行くと、バス待ちの中に芽生さんを発見。今日は一本遅いんだな。
「おはよう、今日はゆっくりだね」
「昨日はスレッドチェックしててちょっと遅く起きたんですよ」
「そっちもか。俺もちょっと起きた直後は少し寝不足だったが、枕の力で快適に戻してきた」
バスが到着し、順番に乗り込む。芽生さんが居るからと順番抜かしをするつもりはないので、後ろに並んでちゃんと乗り込んでから芽生さんのそばに行く。芽生さんはちゃっかり自分の座席を確保していた。
「今日のお昼は何ですか」
「カレー。いつもよりちょっと煮込み時間を控えめにしてみた」
「つまり食感重視、と言うところですか」
「そこまで行くかどうかは解らんが、もしかしたら普段より固めかもしれない。その場合は次回に活かすということで。柔らかくはなってるはずだから大丈夫だとは思うんだけど」
大丈夫……だよな。既定の煮込み時間には充分達しているはずだ。細かめに野菜を刻んだし、その分早く煮えてくれているはずだ。今後の活躍に期待する部分もあるが、ちゃんと煮込めているか、三時間後ぐらいの判断を待とう。
バスがダンジョンについてどやどやと探索者の列がバスを降りていく。最後にバスを降り、軽く伸びをしたところで今日のお仕事開始だ。芽生さんが着替えに行っている間にもう一度スレッドのチェックをしておこう。バグや不具合、不便さが解消されているようならヨシ、と言ったところだ。
朝一でダンジョンを出てきた探索者の書き込みもある。流石にスキルオーブの報告はなかったが、色々と面白いものが出てきた、とのこと。どうやら二十八層辺りではワイバーン商品がいくつか拾えたようで、ポーションほどの当たりではないが懐が温まる事態になったらしい。
それなりに好評ではあるようだ。ダンジョンのマップが色々ある都合上見つけられていないかわいそうな宝箱もあるだろうが、頑張って探してほしいと思う。
「やあ安村さん。おはようございます」
ふと声をかけられたのでそちらを見ると、緒方さんだった。
「おはようございます。今からですか? 」
「いえ、帰りですね。一晩ダンジョンの中で泊まって、せっかくなので宝探しに参加してきましたよ。中々楽しいイベントですね」
「それは良かったですね。収穫のほうはそれなりにあったようで」
Aランクでも楽しめるイベント、という意味では成功なんだろうか。それとも、貴重なB+ランクに奥へ行かせずに手前へとどまらせたのを不幸と見るか、これは中々に判断が分かれるな。
「安村さんは参加されないんですか? 階層難易度が簡単すぎるとはいえ、楽しかったですよ」
「私が行くと、最深層に向かえる探索者がわざわざ下りて来るなと言われそうなので今日のところは。それに相棒も居ますし、稼いでやらないといけないですからね」
「そういえばまだお会いしたことありませんね、その相棒さん」
緒方さんは芽生さんに興味があるらしい。見ても減るもんではないが、表向きに立たせたくないので出来れば緒方さんがどっか行った後に来てくれれば……あぁ、来ちゃったか。
「お待たせしました、さて行きますか……どうもおはようございます」
「おはようございます。安村さんの相棒ってこの方ですか。お若いですね」
「ええ、おかげで介護されながら潜ってますよ」
「どうも初めまして、文月です。Aランク探索者の緒方さん、でしたよね」
「そうです。顔を知っていただいていてうれしいですね」
緒方さんはニコニコと笑顔で芽生さんに対応している。芽生さんは若干引き気味、といった印象。何かしらのオーラを感じ取ったらしい。
「では、洋一さんはお借りしていきますね。さあ行きますよ」
「そういうことで、では行ってきます」
芽生さんに引きつれられ入ダン手続きへ。リヤカーを引いてエレベーターでいつもの七層に向かう間の短い時間で芽生さんに聞いてみる。
「なんか、緒方さん苦手なタイプ? 」
「私を見た瞬間ちょっと表情が歪みましたね。私のような小娘が自分より深く潜ってるのか、という感じが伝わってきました。なのでちょっと塩対応です」
「まあ、その気持ちは解らんでもないが、若い人が活躍してるって意味では芽生さんは良い広告塔になってるんじゃないかなあ」
「そうですよ、現役大学生が世界最深層ですよ。しかもダンジョン庁勤めが内定してるエリートブルーカラーですよ。まだエッチな目で見られる方がマシでしたね。そのほうが誇らしくもありますしそれを独り占めできる洋一さんだって嬉しいところがあるでしょうに」
エリートブルーカラー……そういうカテゴリもあるのか。まあ、一日二億稼ぐ時点でエリートなのは間違いないか。ただ、今後ダンジョン庁に就職してそのドロップ品をどうしていくのかを協議する場になると、問題が発生するんだろうな。芽生さんが誇らしいかどうかについては……どちらかというと俺の前だけでそうしていてほしい、という独占欲のほうが上かな。
七層に着きいつものダッシュ。帰ってきて七十層まで倍速ポチ。さて、芽生さんと二人暇な時間を……というところだが、今日はミルコに用事がある。
「ミルコ、来れるか? 」
しばらく返事を待つと、一、二分してからミルコが到着した。
「お待たせ、ちょっと修正に手間取っていてね。用件は何だい? 」
「昨日一日の範囲ではあるが、ざっくり不具合っぽいものが出てきてたので伝えておこうと思ってな」
メモに書きだした不具合とバグ、仕様なのかどうかについて協議を行う。
「その二十二層の開けられない宝箱については修正済みだね。消して、ズレた地点に再出現させた。後、宝箱がポップする空間の補正値を修正したので同じ現象は起こらなくなると思うよ」
もう修正済みらしい。仕事が早いな。流石ここまで深くダンジョンを作るだけの能力はあるってことか。
「後……モンスタードロップも宝箱に入れたんだな」
「色々考えたんだけどね。とりあえず入れておいてみて、探索者側が違和感を覚えたりさすがにそれはおかしくないか? という声が増えてきたらなしにしようとは思ってるんだけど、安村としてはどう思う所なんだい? 」
俺として……か。確かに、宝箱からモンスターの身体の一部分が出るってことは宝箱がモンスターを喰ったのか? という疑問が湧くことになる。ダンジョンなんだから細かいことはいいんだよ! と考えることができる。
「難しい所だな。ダンジョンだから不思議はない、と言い張ればそこまでだが、リアルさ……ダンジョンの中であってもできるだけ不思議な現象が起きないように、というのを求めるならドロップ品は……ああ、でもまてよ、ゴブリンソードも実際にゴブリンが持ってる物とドロップする物は別物だったな? 」
「そうだね、全然違う、とまではいかないけどリザードマンが落とす槍にしてもちょっと違った意匠が施されているね」
「そういう意味ではドロップするほうが品物にバリエーションがでていいとも言えるな。俺としてはそこまで考えるなら有りだと思うね」
「私は……食品以外ならありだと思いますねえ。食品だといくら信頼と安全のダンジョン産だとしても、いつから入ってたのかわからないものを、と考えるとちょっと及び腰になってしまうところはありますねえ」
芽生さんは消極的賛成派、品物は選ぶべし、という方向らしい。
「なるほど。二人の意見は参考にさせてもらうよ。とりあえず初日の賑わいとしては成功という所かな」
「Aランク探索者も一緒に楽しんでいたらしいからな。そういう意味では人気のイベントにはなりそうだ。もしかしたらイベントを聞きつけて他のダンジョンからやってくる探索者もいるかもな」
「それはそれで実験にはなるからいいかな。どのぐらいの広さにどのぐらいの人口が集まると宝箱すらも出現しなくなるのか。新しいダンジョンについて広さを考えるにしてもどれだけ人が集まるか、というのはまだ具体的に人数が出ている訳じゃないんだろう? だったらそのまま継続して、ギリギリ採算が取れると探索者が思うラインまでは増えてくれてもいいと思うよ。昨日一日を追いかけた様子だと、わざわざ宝箱を探しに二十九層の南北を往復してみたりと色々うろついていた探索者も居たようだし、そういう意味で動線の分散が出来ているからモンスターも普段とはまた違った湧き方をしていたはずだ」
たしかに、普段よりも狩りやすいという報告は上がっていたな。動線から人口を分散させるという目的にもかなうのだろうし悪い話ではないんだろうな。
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