129:またウソついてるよこの人
ついに八百万PVまで来ることが出来ました。当初考えていた目標PVを軽々と越えて来ています……ここまで伸びると思ってなかったのが本音です。みんなありがとね。
八層側の階段へ着いた。文月さんが俺を急かす。
「それで、いくらになりました? 今の一時間の稼ぎ」
「えっとね……七万三千円」
「さっきほどじゃないけどでも結構稼げましたね」
「道中折り返したり、俺の体調不良で一瞬止まったりしたせいかな」
「あれはもう使わないでくださいね。なんか体の無理を前借りしてるようなイメージがあります」
ステータスブーストブーストは長いな。前借り、いいな前借り。
「よし、今後あの技は前借りって呼ぼう」
「名前からして使わないほうが良いって感じがしますね」
「だろ? 前借りは使用禁止という事で」
「異議なし。もう使わないでくださいね」
「わかったよ。さぁ、七層戻って……あれ小寺さんじゃないですか」
「安村さん。居ないと思ったらもう潜ってましたか」
小寺パーティーと狩場を入れ替わる形になるようだ。どうやらあの後も仮眠していたようだ。
「どうでした?九層は」
「九層はなんとかなったんですが十層のあまりの敵の多さに逃げ出してきましたよ。さすがに二桁同時に襲われると手が足りません」
「良く生きて帰ってこれましたね」
「まぁ、なんとか。手段は色々ありますから」
「なんかスキルとか持ってるんですか? 」
ん、ステータスブーストについてそっと教えるタイミングは今か?
「スキルは持ってないですけど……小寺さん、ステータスがあるって言ったら信じます? 」
「信じます。実際そうとしか言えない現象に心当たりがあるので」
「と、言うと」
思い出すように小寺さんは語り続ける。
「時々あるんですよ。自分が出せる力以上の力がでたり、思った以上に速く移動出来ちゃったりする時が」
「なるほど、体験済みですか」
「多分ですが安村さん、意図的にその経験を作り出すことが出来ますよね? 」
小寺さんは気づいていたようだ。なら猶更話しやすいな。
「結論から言うとその通りです。私はステータスブーストと教えられました」
「師匠が居るんですか」
今師匠が出来た。頭の中の架空の師匠だ。これから度々話題に上ると思う、ごめんよ師匠。
「もしかして、最初はスライム狩ってるときに気づいたとか? 」
「よく解りましたね。その通りです。で、その時の体験を話す事がありまして、そしたらその師匠が扱い方を伝授してくれたんです」
「ちなみにその方法、教えてもらったりできますか? 」
小寺さんはいくらか金を出そうとするジェスチャーをする。
「いいですよ。ただ師匠に怒られるといけないので、私からという事は秘密にしていただけると」
「解りました。下手をすれば命に係わる事ですからね。聞けるものは聞いておかないと。むしろお礼はいいんですか」
「小寺さんたちにはお世話になっているんで、そこはまたお世話になった時にという事で」
「解りました。借りって事で」
大きな借りを作っているのは実際こっちのほうだがまぁいいか。
「私のイメージで話すので申し訳ないのですが、たとえば……今ジャイアントアントが一匹こっちに近づいてきてるの解ります? 」
「視界内には見えないですけど」
「耳で聴きとるんです。森のより奥を、その中を聞き取るイメージを持ってください」
「イメージ……イメージが大事ですか」
「基本イメージが大事ですね。速く動くときも、行きたいところまで一瞬で行きたい!と強くイメージすることが大事です」
すると、ちょうどジャイアントアントが一匹這い出てきた。
「速く、力強く、というのを脳の中に作ったスイッチでON/OFFできればベターだと思います。そうすればこんな感じで」
自分の脳のスイッチをONにして素早く近寄り、ジャイアントアントの首を落としきる。
「こんな感じで動けるようになります」
そのままの速度で元の位置に戻ると、そのままシャカシャカとみんなの周りを高速で動き回る。
文月さんは「師匠……? 」と不思議そうな顔をしている。頼むから今はそのまま黙っててくれよ。俺の命に係わるからな。
「スイッチですか……」
「あ、俺解ったかも。確かに森の奥から音がする」
大木さんがいち早く切り替え方が解ったらしい。
「つまりこういうことか……お、できた」
大木さんが高速で動き出した。
「そんな感じだと思いますが、さすがに経験積んできてるだけあって素早いですね」
「これって探索者としての強さに直結するのでは? 」
「すると思います。もしかすると上位探索者は全員使ってるんじゃないかと思うぐらいには」
「なるほどね。これは試してみる価値が十分にありますな」
「脳にスイッチね、これは便利だわ。荷物すら軽い」
次々に感覚をつかんでいく。経験者は覚えるのも早いって事かもしれないな。
「安村さん、面白いものを教えてくださってありがとうございます。お礼はいつか必ず」
「えぇ、ではお気をつけて」
「お気をつけて」
九層を後にして八層へ上がる。
小寺さんたちと話してる間にモンスターがリポップするかとも思われたが、そうでもないらしい。
「ねぇ、師匠って誰」
歩きながら、周りに誰も居ないことを確認してから文月さんが尋ねてくる。
「さっき俺の脳内に生まれた」
「嘘じゃん」
「俺を守るための嘘。誰も傷付けない優しい嘘」
「そんな大人になりたくないわー」
「じゃぁそのままの君でいてくれ」
嘘はつかないに限るからな。そのほうが自分の心にも優しい。
「何、口説き文句? 」
「だったらもっとムードのある所でやるわい」
「吊り橋効果って知ってます? 」
「八層は吊り橋ってよりコンクリート製だろ、少なくとも俺たちにとっては」
仮に九層だったとしてこれだけ暴れられてここが危ないところですと言われても説得力が無い。
「まぁ、そうですね。今なら一人でも七層へ行けそうな気がします」
「だろ? 」
「そういえば、休みと言いつつ内緒で清州行ってましたよね」
「あれはほら、休み明けの準備運動だったし、ついでに必要な物も厳選できたし、今日の役に立ったし」
「まーいいです。私に向けて嘘は言ってないからよしってことで納得しておきます」
「信じてもらえたようで何よりだ」
話しているうちにモンスターに会わずに七層側階段までたどり着いてしまった。七層へ上がりながら二人して首をかしげる。
「珍しくポップしなかったな」
「ですね。こんな事も有るんですね」
「まぁ、疲れてるときに出てこないのは有り難い」
「戻ったら仮眠ですか」
「この体調のまま戻ったら多分五層ぐらいで力尽きる。そしたら背負って地上まで戻ってくれ」
「なんか出来なくもなさそうなのが嫌ですね」
「なので休憩しよう。肉一杯あるから肉焼いて食べて寝る。そんで起きたら戻ろうか」
本当なら肉を焼くのも任せたいところだ。が、せっかくの肉を焦がされる可能性を考えると俺の手にゆだねたいという本音がある。
「それが良さそうですね」
「お、ちゃんとここからポールが見えているな」
「見えますね。違法設置物が」
「違法と認定されるまでは合法だからセーフ」
「まあテントを探してうろうろするよりは解りやすいですからね。後は私たちのテントが荒らされてないことを祈りましょう」
「荒らす相手を探すところから始めないとな。一応離席中って貼り紙はしてあるから大丈夫だろう」
「いつの間にそんなの貼り付けたんですか」
気づいてなかったのか。
「文月さんが身支度してる間に紙皿に書いてペタッと」
「気づかなかった……」
「そうやっとけばテントいじられる心配ないなって」
「私の名前じゃないんですね」
「一応、両方俺のテントって事にしとけば変な気を起こす人も居ないだろうし」
自分たちのテントまで戻ってくる。とりあえず、飯食うか飯。テントにしまってあったバーナーとスキレットを取り出すと、ボア肉を二パック開ける。おなかがそこそこ空いているのでペロッと行けてしまうだろう。ささっと食べやすい大きさにナイフで分けると、少しずつ焼いていく。
「お野菜は? 」
「お野菜はさっき食べたので肉だけ」
「肉だけかぁ。でもまぁ味付けさえしてしまえば十分だよね」
「だな。味塩コショウだけでもここでは美味しい」
「私の分もある? 」
一人分だけ作るつもりだったが、ダイエットは何処に行ったんだ。
「じゃぁもう一パック追加だな」
「しかし、肉を焼いてる間私がすることがありません。何か手伝う事はありますか」
「では、紙皿にラップを敷いて待っててください」
「わかりましたー」
文月さんがいそいそと紙皿やラップの準備を始める。ついでにまだ冷えてる水と粉ジュースも出すと、二人分の紙コップを用意し、好きな味を選んでいる。おっにく、おっにく、とご飯を待ってる子供のようだ。
「米は要る? 」
「私はいいかなー」
「んじゃ俺だけでいいか」
肉を焼き終わると残った脂でパックライスに焼き目をつける。具も何もない焼き飯だが、何の味気も無いことに比べたら美味しいはずだ。
二人分の夜食を作り終わると、ちょうど午前〇時。夜食には良い時間だ。
「「いただきます」」
散々葬ってきたワイルドボアに感謝の祈りをささげると、ひたすら無言で食べ続ける。粉ジュースは今日はストロベリー味だ。肉ご飯には合わないかもしれないが、気分がストロベリーだったのだ。
十分ほどでささっと食事を平らげてしまうと、ごちそうさまをしてスキレットを軽く洗い流し、クッキングペーパーで軽く拭くとテントに片づける。一応一泊の予定だが、仮眠明けにトーストが食いたくなるかもしれないからな。
「この後の予定だが、仮眠して片づけして帰ろうと思うんだけどそれでいいかな」
「仮眠は大事? 」
「大事。特に今日は」
「安村さんが帰りに力尽きないようにですね、解った」
「これだけ人が少なければ仮眠中に起こされるような出来事が起きる余地も無いだろうし」
「ですね。安心して眠れます」
「それじゃぁ……五時間後ぐらいにまた」
「おやすみー」
二人分の「離席中 安村」と書いてある紙皿の裏に「仮眠中 安村」と書くと、再びペタッと貼っておく。クリスタルテープ便利だな、今後は持ち歩こう。
さて、なんだかんだあって今日は疲れたぞ。あの十層の量をどうやって攻略していくか、が今後のカギだな。起きたら全身筋肉痛なんて事になってないことを祈りながらアラームを設定すると、仮眠に入る。
ダーククロウのポプリを首元に置いてしばらくすると、自然と眠たさが襲ってくる。起きたら朝ごはん食べて片づけて出発だな。そんなことを考えているうちにねむさが襲ってきた。
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