1288:午後の鍛錬
腹をしっかり休ませて胃を懸命に活動させ、そろそろいいかな? という辺りで午後の部スタート。さあ、先ほどの速さとまではいかないがそこそこ速いペースで探索を開始する。もはや日課となったエイとサメ、それぞれに常に雷龍をぶつけ続けてドロップ品に変化させていく。六十九層も完全制覇したと言えなくもない。後はこいつらがどんなスキルオーブをドロップしてくれるのかを待つぐらいかな。
スキルオーブ……通ってる割には中々ドロップしないな、普段自分が使わないスキルオーブでもいいから何かドロップしないだろうか。……と、こんなこと考えてたらスキルオーブは物欲センサーを感知し、ドロップを避けてしまうだろう。
もっと無心になってただひたすら戦ってる間のほうか、いやまさか奥さんこんなところで出るわけないでしょう? という環境でポロッと落ちたことも含め、いつ出てくるかわからない緊張感に張り詰めた雰囲気ではきっとスキルオーブも顔を出しづらいだろう。今日のところは諦めておくのがベストだな。
何も考えず無心で、というのは今日は難しいので、とにかく数をこなすことに重点を置いていこう。その為の素早い移動、素早い攻撃への対処、素早いドロップ品の回収。これに専念することにする。そうすればきっとスキルオーブも……っと、思考がループしているな。何も考えないようにするんだった。今日のところは無心で、ひたすら敵を倒す。それだけ考えていこう。
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ひたすら早歩きで六十九層を回る。おかげで暇することもなく、同じ作業を同じ確度で、同じ行程で、同じ手段で戦い続けることが出来た。ライン工時代の経験がここでも生かされてきたと言えるだろう。単調作業をひたすら繰り返すのは人にとっては苦痛に感じるところ。
しかし、一つの作業にしても物事を全て分解して解析すれば、全ては単調な作業の積み重ねであると言える。複雑なプロジェクトのまとめだったり、多段階工程をこなして一つの製品にするにしても、作業を分解すれば同じ作業の繰り返しである。
文字を編む仕事でもそうだ。結局のところ文章を作るにしても、最終的には文字を書くかパソコンで文字を打ち込むという単純作業の繰り返しであり、そこに対して何を詰め込むかという補助作業が必要になってくるだけであり、それほど難しい話ではないと俺は考えている。どこまで物事を分解して考えることができるか、そこにその人の向き不向きが関わってくるのだと言えよう。
さて、なんだかんだでいつも通り午後の五時間の作業を終えたが、ドロップ品の量を見る限り、六時間分ぐらいの作業をこなしてきたことになる。これは今日の収入は期待できるな。
七十層に戻りノートをチェック。特に何も書かれてないことを確認すると、リヤカーを引いてエレベーターに乗り倍速ボタンを押して七層へ移動。今日は帰る前に茂君以外に一つ用事がある。自分のテントの現状把握だ。もしも不要そうであれば撤去してしまおうと考えている。もう七層に自分たちの住処を残しておく必要はない、そう考えたからだ。
また七層までクロスワードをやり、七層に着いたらいつもの目隠しをして茂君ダッシュ。帰ってきたら目隠しはそのままで、その辺にある自転車に乗って七層中央部へ。テントも一時期に比べれば少なくなったが、まだいくつか放置されているテントを横目にして中央のシェルターへより、ノートとペンがまだ在庫はあるが少しずつ少なくなってきているのを確認して補充。
後は自分のテントだが……あった。まだ貼り付けられている「外出中 安村」のある二つのテントを発見する。まだ残っていてくれたんだな。とりあえずエアマットを畳んでバッグに収納、テントも小さく折りたたんでバッグに放り込むと、これで俺達が七層に残したものは自転車置き場と二本の謎のポール、そして中央部のシェルターと椅子と机に記念書き込み、連絡用のノートだけとなった。
ノートをめくってみると、意外と最近まで利用されている跡が残されていた。どうやらスキルオーブのドロップ情報だけはきっちり残してくれてあるらしい。やはり八層と六層でのドロップ報告が少ない。他の階層ではぽろぽろとそれなりに出ているし、四層は定期的に出ていることから、ゴブリン大爆破の訓練は今でも定期的に続けられているらしいことが解る。Cランクになるための関門みたいな扱いになっているのだろうか。
さて、片付けるものは片付けた。やることはやった。また自転車に乗り込んで六層の階段前まで戻る。テントを荒らされたりした形跡はなかったので、この時間帯はいつも人が居ないのだろう。夕食にはまだちょっと早いってことかな。もう一時間ぐらい遅れてきたら物珍しさにリヤカーを眺める人も出るかもしれないな。
一層にエレベーターで上がって退ダン手続き。またプリントを渡されそうになるが、もう持ってると言ってもらわないでおく。これも貴重なギルド税の一部だからな。
査定カウンターに行くためにギルドの建物に入ると、どうやら休憩室のほうが騒がしい。今日の仕事が終わった探索者連中がイベントの相談でもしているんだろうか。もしかしたら何を拾った、こっちでは何だった、と情報交換をしているのかもしれないな。
査定カウンターに荷物を運びこみ、一括払いを伝えると、いつも通り整理された荷物にありがとうございますとお礼を言われつつ、査定を開始する。やはりフカヒレ二百個はそれなりの手間がかかるようで、今日は五分以上かかって査定が終了した。
今日のお賃金、四億千三百二十万八千円。四億も稼いだのか。ということはポーションがいつもより二本ほど多く出たことになる。無心で作業していたので本数までは把握してなかったが、いつものストックの分だけ保管庫に入っているのを確認すると、数え間違いではないらしい。
支払いカウンターで振り込みをすると、俺も休憩所へ行ってみる。そういえば、ミルコに評判がどうか確認するのを忘れていたな。どんなもんだったんだろう。
いつものぬるま湯を作って休憩室で休憩しながら周りの音を確認する。
「そっちどうだった? 」
「ヒールポーションのランク4がでた。かなりうまいなこのイベント」
「こっちはキュアポーションのランク3みたいだった。でも戦わずにそれだけ儲けられたなら充分だな」
「荷物が軽いしな、そっちは? 」
「こっちは青い魔結晶だった。そこそこの値段がついたらしい」
「緑飛び越えて青か。十万ぐらいにはなったのかな」
ふむ……十万から二百万とそれぞれの金額に多少の差はあれど、好意的に受け止められているのは間違いないらしい。ただ、二十一層で十万で、二十八層で二百万ならそれなりだが、逆だと困りもんではあるだろうが……
「あ、安村さんだ。ダンジョンマスターとの話できた? 」
俺に気が付いた探索者が声をかけて来る。それに伴いまた俺への囲み取材が発生した。
「なんだ、取材か? 時給千二百万円取るぞ」
俺の発言にわはははっと笑いが漏れる。どうやら全員本気にはしていないらしい。まあ、俺自身も本気で取ろうとは思っていない。
「今日が初日だしな。明日以降にでも出会えたら反応を聞いてみることにするよ、出会えればだけどな」
「出会えればってことは、望めば出会えるわけでもないのか」
「まあ、あれで気分屋だからな。ただ、このイベントにはそれなりに力が入っていると思うよ」
「俺らも頑張りどころってことか。アレなんだろ? 他のダンジョンでも同じことが始まるかもしれねえんだろ? 」
ふむ……それについては保証できないな。どう返答しておくのが正しいのかちょっと悩む。
「そこまではどうかも解らんし、他のダンジョンマスターに頼まれて……ほら、セノみたいに今ダンジョンを持ってないダンジョンマスターが居るじゃないか。そっちから頼まれて機能改修とか実験テストをやらされてるのかもしれないな」
「ダンジョンってまだまだ俺らの知らないことばかりなんだな……さすが安村さんは色々知ってるな」
「まあ、知ってることだけで怒られない範囲なら話せるってことかな」
この話もダンジョン庁からすればギリギリのラインだろうな……でも俺のことはある程度知られてしまっている現状、このぐらいの話はしておいても問題はないだろう。細かいことまで話さなければ怒られたりはしないはずだ。
そう思っていると、支払いカウンターから目線が飛んでくる。どうやら今日は遅い勤務だったらしく、ギルマスが支払いカウンターに来ていた。
「安村さん、そんなに気軽にダンジョンマスターの話していいの? 機密に引っかからない? 」
「そんな話は今のところ……してないよな? 」
周りに聞いてみる。こっちが目線を向けたとたん明後日の方向を見る奴もいたが、こっちをちゃんと向きなおした奴もいた。
「機密ねえ……安村さんがダンジョンマスターとの交流があるってのが機密なら機密だが、もう公然の仲だし大丈夫じゃないのかな」
「別にそれを条件に安村さん伝手でリベートを取ったりとかこの話を言いふらすわけでもないし、仕事後のチョイ話程度なら問題ないんじゃないですかね」
周りが俺にフォローを入れて来るが、そのフォローがかえって怪しさを増すことになってしまってはいないか。さてと……という感じで立ち上がると、紙コップをゴミ箱に捨てて移動する形にした。
「じゃ、そんなところで。俺はそろそろ帰るよ、ここで駄弁っててもキリがないからな」
「お疲れー安村さん」
気軽に挨拶をして帰る。明日は明日で芽生さんと潜るんだ、今日ここで力尽きてたら昼に芽生さんに言われた通りになりかねない。体力のあるうちに家に帰ってのんびりスレでも眺めて、バグや障害があればミルコに連絡して修正って形で伝えることが必要になる。
バスがちょうど来たので乗り込み、さて夕食はどうするかと頭をひねる。コンビニでまた調達することにしよう。最近は一日一食をコンビニ飯で済ませてるような気がするが、栄養バランスはお世辞にも良いとは言い難いだろう。
夕食も今日は自分で作るか……何作ろうかね。ササっと炒めもので済むように野菜炒めと、ご飯炊いて……いや、パックライスの在庫があるからご飯はそれでいいな。帰ったら焼肉風味の炒め物をするか。肉も冷凍庫にいくつかあるはずだからそれを消費していこう。冷凍庫が空っぽとまではいかないが、最近は冷凍ものの餃子や焼売、それからチャーハンなんかを買わなくなったおかげでかなり隙間が空いている。
冷凍庫はパンパンのほうが省エネになるらしいし、いっちょ今度色々買い込んでいくことにするか。でも今日はなしだな。とりあえず、冷凍物をいくつかコンビニで見繕うことから始めよう。
電車で最寄り駅に下りるとコンビニでミルコ用のおやつとちょっとの冷凍食品を買い込むと、帰って着替えて洗い物を済ませ、エプロンをつけて調理開始だ。冷凍庫には凍ったままの豚肉があったので解凍して野菜炒めの具にする。野菜炒めはシンプルにネギと人参と大根とキャベツを焼肉のたれで和えるものにする。
すでに腹がペコペコのペコちゃんの俺にはかなり胃に空腹的負担をかける時間だ。普段なら手間をかけて料理するぐらいならコンビニでササっと買い物して済ますところだが、自炊もちゃんと大事な自活と思えばこの空腹は大事な空腹だろう。
思わず全て強火でササっと作ってしまいたいところだが、それだと具材の美味しさが飛んでしまうし。ちゃんと全体に火が通るように焼けて美味しい順番に具材を炒めて、しっかりと作っていこうと思う。
所詮野菜炒めだがされど野菜炒め。きちんと作ってせっかくなら美味しいものを食べて、満足して夕食を済ませたいものだ。コンビニの野菜炒めだと味付けまでは選べないからな。野菜パッケージをまとめて買ってきて炒める、というのでもありだろうが、今回は使ってない野菜の処分だと思って大人しく炒め続けよう。
肉にもしっかり火が入る、野菜がしんなりしたところで火からおろして焼肉のたれを全体にまぶして終了だ。最後にパックライスを温めて……シンプルで量もそれほど多くないが、これで夕食出来上がりだ。
さあ、食べよう。明日の朝食を作るまでの時間と寝ている間のカロリー消費の分と、今日一日使った分の補充としてしっかり夕食を取るのも大事だ。黙々と食事を進めてきちんと栄養素を補充していく。
後は風呂に入って、スレの様子でも見るか。昨日の続きになるが今日の報告ぐらいはあるだろうし、横目で見てバグや不具合があったらピックアップしてミルコに報告しておこう。
作者からのお願い
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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
後毎度の誤字修正、感謝しております。





