1283:フカヒレの価値は
明けましておめでとうございます。本年も「ダンジョンで潮干狩りを」をよろしくお願いします。
六十九層を巡回する。今のところ体に無理は来ていない。どうやら体調も悪くないらしい。魔力総量も、雷魔法の五重化と先日貰った索敵の二重化でその分だけ増えているらしく、全力でぶっぱなし続けているがまだ眩暈やその前に来る反応なんかも発生していない。この調子なら丸一日全力で動き続けていても問題ないぐらいには強さの格が上がってきているような気がする。
ただ、ネアレスの言っていた一つ頭が抜けたような感覚、というのにはまだ至っていないのは、最大出力の問題なのか、持続力の問題なのか、それともそれらを総合しての意味なのかまだわかっていない。いわゆる悟りの状態を得られることが出来ればいいのだろうか?
ともかく、索敵網に引っかかるモンスターをひたすらに撃墜していると、だんだん高揚感も覚えるようになってきた。これならダッシュ大会を六十九層で開いても良さそうな気がする。ダッシュとまではいかなくても駆け足ぐらいならいけるかもしれないな。ちょっと次回の探索ではそれを試してみることにしよう。
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六時間きっちり働いて、途中で空腹を催すことはなかった。どうやらウルフ肉の竜田揚げタルタルソースはカロリー的にも充分なものであったらしい。
やはりカロリーは適切に取っておかなければいけない。食事の種類を色々用意するのも大事だが、身体強化はカロリーを消費して体に過剰運転をかけるもの、と断定して良いものらしい。
七十層に上がって、リヤカーを取りに行くと午前中にはなかったリヤカーがご用意されていた。ノートを見たが特にこれといった情報は書かれていなかった。そして六十九層で出会わなかったということは、七十一層方面に行った可能性が高い、と言えるだろう。リヤカーごと移動すればもうちょっと楽が出来たのかもしれないが、リヤカーを置いていったということはそれほどドロップ品に苦労しないと考えているのだろうな。
おそらく宿泊コースで一泊潜ってそれから……という流れのような気がする。夜泊だからリヤカーも借りれたのかもしれないな。最近はリヤカーも競争が激しいらしいし、リヤカーが返ってくるまで数分待ってからダンジョンに潜るような探索者もいると聞く。またリヤカーが増えることになりそうだな。
リヤカーをエレベーターの中に引き込み、仕分けをした上で魔結晶とポーションを出す。今日はポーションが一本余分に出たから実入りも多い。ちゃんと一日三億の男になれるかどうかは……あぁ、そうだ今日からフカヒレが解禁になったんだったな。早速乗せられるだけ乗せてしまおう。二百個ぐらいならいけるだろう。
山盛りになったリヤカーの上に目隠し用のテントを更に乗せて、七層ダッシュの準備は充分に出来た。今のところ盗難の被害にあったことはないが、こういうのは普段から気を付けていることが大事なことだ。いくらみんながその辺にリヤカーを放置しているからと言って、同じように中身入りの荷物を放置していては、悪い心が動いてしまう探索者が居ても不思議ではない。
ちゃんと安村専用と名前が付けられているこのリヤカーも同じことだ。俺のものだから乗っている物も高級品に違いない、それが隠しもせず放置されているなら、一個や二個奪ってしまっても……と悪心に動かされる探索者が居たとしたら、それは無防備にもリヤカーを放置している俺にも責任の一端があると言える。その為の目隠しテントだ。
人間は目隠し一つあるだけで中身を気にせずに素通りすることもある。それに安村専用と書かれていたら、ああ安村さんこの辺に居るんだな、というマーカーにもなるし、いつ帰ってくるかわからない俺相手に何かしらのいたずらを仕掛けようという気にもならないだろう。
そういうためにも、本来なら一人で探索するなら茂君を刈りに行くのはあまりお勧めできる行動ではないのかもしれないが、こっちにはこっちの都合があるし、だからと言ってリヤカーを保管庫に収納して必要な時に出す、というようなことを起こすのでは何処かでほころびが生じる可能性がある。そのほころびを出さないための目隠しとリヤカーのあえての据え置きだ。
七層に着いたところで予定通りリヤカーをテントの中に入れて放置。その間にダッシュ、刈り取り、ダッシュ。戻ってきて無事を確認。テントからリヤカーを出すとテントを丸くしまってバッグに入れていつも通り一層へ上がる。
五分待って一層に到着するとリヤカーを引いて退ダン手続きへ。
「今日は大漁ですね。何かありましたか」
「解禁されたドロップ品があったのでそれを持ってきましたよ。数日は満載して帰ってくる予定です」
「そうでしたか、良かったですね」
退ダンの挨拶もほどほどに、査定カウンターへ向かう。査定カウンターで念のため、新しいドロップ品について確認を取っておく。もし査定がまだだったりしたら、もう一度ダンジョンへ潜って荷物を置いてくるふりをしなければならないからな。
「今日から査定開始って聞いたんですけど、大丈夫ですかね? 」
「えーと……あぁ、間違いないです、こちらのドロップ品は今日から査定開始になってますね」
良かった、無駄な時間を浪費せずに済んだ。早速ちょうど二百個あるかどうかも確認してもらい、値段も教えてもらった。どうやらこのフカヒレ、一つ二万円らしい。安いか高いかはともかくとして、ちゃんと金になるのが解っただけでも充分だ。
とりあえずフカヒレで四百万円は確実に収入を得られていることは確か。さて、三億には届くかな? どうかな? フカヒレがある分いつもよりも余分に時間がかかったものの、ちゃんと査定結果が返ってきた。
本日のお賃金、二億九千九百二十五万円。後七十五万円。フカヒレ五十個余分に持ってきてたら三億だったか。ちょっと惜しかったな……
でもまあ、午後からの仕事でこれだけ稼げたのだから十分だろうと自分に言い聞かせておく。それでもほぼ三億の男であることは確かなんだ。ちゃんと今日も働いた。それで自分を納得させておくには充分だろう。
支払いカウンターで振り込みを行って、いつもの温い湯をもらって探索は一区切り。今日は……うむ、今日は緒方パーティーは居ないな。まあ向こうも毎日潜るとも限らないのだから常に注視し続けなければいけないパーティーというわけでもない。気にせず今日は会った、今日は会わなかった程度で認識しておけばいいだろう。
バスの時間が来たので今日は素直に乗って帰る。昨日の今日で中華屋に二日連続でお世話になるのも悪くないが、せっかく早く帰れるんだし……と、バスに乗ったところで乗り遅れて出発していくさまを見送っている緒方パーティーを目撃することになった。このバスを逃しても二十分後にまたもう一便あるからそっちをつかって、それまでは大人しく待っていてもらうしかないな。
バスの中で外の風景を見ながら帰る。どうやら取り壊している家がある。もしかしたら駐車場になるかもしれないな。ダンジョン近辺で取り壊したり新たに建て直された物件はこの辺の比率で言えばそこそこの数がある。
駐車場になったり、アパートになったり、もっと広く土地を買い集めて店にしたりと様々だが、おかげで古い家の建ち並ぶ田舎という雰囲気はだんだん薄れてきている。ここもじき腐海に沈む……ではないが、ダンジョンを意識して建て直しをしたりしているのは間違いないようだ。
さて、夕飯何食べるかなあ……今日は野菜が少なめだったから野菜を多くとろう。野菜ジュースに加えてもう一品、サラダを足してご飯にしたい。そう思うと腹がクゥッ……と鳴く。どうやらこっちのほうも早く栄養素をくれと催促しているらしい。
とりあえず保管庫にあるコーヒーで胃袋を誤魔化すと、駅について電車に乗り換え、家の近くまでちょっと待っていてもらう。コンビニ飯でサラダと……それから何かもう一品、それとメイン食材を決めてそれから家に着いてご飯、というところだろう。
電車の中でもまだ胃袋が主張してくるため、コーヒーをもう一度流し込んでもうちょっとだけ落ち着けと胃袋に言い聞かせる。空きっ腹にコーヒーはあまりよろしくないのは解っているが、中途半端に封を開けたりここでバニラバーを齧りたくはないのでコーヒーで胃を多少荒れさせてでも誤魔化していくスタイルでいく。
最寄り駅に着き、コンビニに入るといよいよ胃袋も遠慮が無くなってきたらしい。さて、何を喰うかな。昼食は丼物だった。夕食も丼物、と一日をどんぶりまみれにするのもありだし、いつものカレーでもいい。コンビニラーメンなんかでも良いな。監修がちゃんと入っているコンビニラーメンは間違いなく美味い。
よし、ラーメンにしよう。豚骨魚介スープを売りにしたニンニクマシマシのラーメンがあったのでそれにする。後はサラダボウルを一つと……菓子パンを一つ。口直し用だ。後は匂い消しのタブレットも合わせて買っておく。明日に匂いを残したくないからな。それぞれ品物を見定めた後で、そういえば手持ちの酒が切れていたことを思い出す。そこそこの値段のウィスキーを籠に入れると会計。
家に着いて、念のため温めて貰ってはあるが再度家のレンジでも温める。もしかしたら温め過ぎて麺が緩くなってしまうかもしれないが、中途半端に冷めたラーメンを食べるぐらいなら多少緩めでもアツアツのまま食べたいところだ。
サラダも開封して野菜ジュースを取り出し、先に飲む。飲んでいる間にラーメンが温め終わったので早速食べる。
蓋を開けると広がる強烈なニンニク臭。そしてチャーシューは大きさこそないものの、分厚さは中々のもの。早速一齧り。
うむ、ちゃんと味も染みているし、噛み応えもある中でほろっと崩れていく部分もあり、ちゃんと肉部分と脂部分が絶妙だ。麺も太麺でスープによく絡んでくる。そして、スープだけでなく麺からもほとばしるニンニクの香り。具として上に乗っている揚げ玉っぽいものは全てニンニクを吸い切ったような表情をしている。
スープはどっちかというともったりとしており、濃い味だがガツンと塩味が来る感じでもない。だが、このスープに含まれる辛みが体を熱くさせる。これは、スーツから着替えてから食べるべきだったな。スーツに匂いが移ってしまう。
急いでスーツを脱ぎ部屋着に着替える。ワイシャツはこの際仕方なしだ、洗濯して匂い抜きをするしかないだろう。スーツにウォッシュをかけて隣の部屋に干しておくと、続きを食べ始める。
サラダで舌をリセットしたいところだが、口の中に残るニンニクの風味がそれをさせまいと阻止をしてくるためずっとラーメンを食っている感覚に陥る。これは食べきるまで逃してはくれないパターンだな。
申し訳程度にラーメンに乗っている野菜もしっかりとニンニクの洗礼を受けており、野菜を食べているはずなのに全てからニンニクの香りがほとばしってくる。後で部屋を換気してウォッシュもしよう。家で食べるラーメンではないな、これは。店で食べるべき商品だ。
しかし、それだけ監修がしっかりしているとも受け取れる。これでやっぱり店のほうがいいな、と思わせてくるのも監修の意味があるということだろう。思う存分後を気にせず食いたければ店に直接食いに来い、そしたらもっと強烈な奴をプレゼントしてやろう、という奴だな。
麺を食べきってスープまで飲み干す。それほど暑い時期でもないのに汗が止まらない。こいつは……危険だ。この汗には今日一日働いてきた仕事の汗と、ニンニクを食べた後の汗のにおいの二重奏で出来ているはず。この後風呂で念入りに体を洗って、部屋着も洗濯しておかないと明日まで臭うだろうな。
最後に菓子パンを食べて食事を締めくくる。家で気軽に楽しめる家系ラーメンとしては中々の出来だったんじゃないだろうか。ちょっと成分表示やカロリー表示を見るのが怖い。何より塩分だ。そっと蓋を裏返して成分表示の塩分の欄を見ると、九グラムと書かれていた。確か成人男性の一日の推奨塩分は七グラムぐらいだったはず。一食で軽くオーバーしてしまったな。明日調節してしまうことにしよう。取った分だけ蓄積するなら取らなかった分だけ減る、そういうことにしておくんだ。
片付けをして風呂に入り、部屋着もワイシャツも全部洗濯して、ちょっと多めに洗剤を投入しておく。後はウォッシュをしてしまえば匂い問題は解決だろう。さて、俺自身も風呂に入って綺麗にしてやらないといけない。特に頭の後ろと耳の裏は念入りに掃除して、ついさっき出たぬるりとした汗を綺麗に洗い流して、明日に残らないようにするのだ。明日もダンジョンへ向かう。ダンジョンへの行きで周りに不快感を与えないように充分に注意していこう。
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