1282:秋に飽きが来て保管庫にも空きが出来る
皆さんよいお年を。
エレベーターの中で探索・オブ・ザ・イヤーを読みふける。一人の時は雑誌や漫画を持ち込んで、座り込んでしっかりとリラックスするのが最近の流れだ。というより、だんだんクロスワードにも飽きてきた。もっと数独とか頭を使うものを入れてもいいかもしれないな。ボケ防止と自分がどこまで出来るのかを証明する手段としては中々悪くない。今度百円ショップに立ち寄った時に何冊か仕入れてみるか。
最近はスキルも多重化に対する理解度が深まってきたのか、ある程度育ててないと恩恵が十分に得られない、もしくはただちに影響はないという話が広まりつつあり、スキルオーブの価格も少し落ち着いてきた兆しを見せている。ただ、一部のスキルに関しては相変わらず高止まりで落ち着くさまを見せてはいない。
一部というのはもちろん【索敵】【物理耐性】【魔法耐性】のことであり、これをBランク探索者三種の神器として一そろえすることで、ちゃんとした探索が出来るようになるということになっているらしい。
B+探索者の場合そこに【隠蔽】や何らかのスキルの多重化が更に加わるという様子で、今のところスノーオウルからしかドロップしない【隠蔽】はある意味で貴重なのだろうが、覚えてしまってもオフにすればモンスターは変わらず寄ってくるし、実際に必要になってくるであろう五十二層や五十五層へたどり着いたB+探索者はまだそう多くはない。実際の効果がハッキリこれは使える! となって全員が覚え始めるころにはまた高値で推移することは予想される。
しかし、火魔法が三千万を超えるようになるとは思ってなかったな。そこまで探索者の人口が増えたのか、それともスキルオーブの入手できるルーチンが解読されてきた結果なのか、俺らが思ってた以上にスキルオーブって出にくいぞ? というのが広まっているらしく、各地のダンジョンで産出されたスキルオーブも取引に出す前に自分で使うことのほうが増えたようで、金を出してても自分が潜ってるおかげで中々取引に応じられない、ということが増えているようだ。
その点、六十九層ではスマホの電波が届くのでもし今から取引できませんか? と言われても時間はかかりますが到着は出来ますよ、といった具合でダンジョンの中からでも取引に応じられる現在の環境はスキルオーブを購入する側にとってはかなりお得な探索場所となっている。後はよっぽど運が悪くて茂君にダッシュしてる間とか、エレベーターの中で待ってる間に電話が来てしまって……というのは既に二件ほど体験済みだ。六十九層に居るからと言って確実に電話がつながる、という形にはまだできないらしい。
次に望むならエレベーターの中でも電話が通じるようになればいいな、という奴だが、昔で言う新幹線の中でも電話が使えるようになりたい、みたいな贅沢の方向に走るんだろうな。足るを知る、とはよく言ったもんである。
スキルのほうも要るスキル要らないスキルがはっきり区別されていて、当社比あたらしいほうのスキルである【木魔法】や【糸】に関してはそもそもドロップして覚えたという話はたまに聞くが、【木魔法】のほうはダンジョンではあまり効果がなく、精々モンスターの足元に魔素で作った蔦を這わせて足元をおろそかにさせたりするぐらいに留まっているようだ。
むしろ、【木魔法】は地上で植物の促成栽培に使われることが多く、趣味で盆栽をやっていたり実家が生花店をやっている探索者が自分の家業の助けになるようにと高い金を捨ててそっちに移行している探索者もそれなりにいるらしい。胡蝶蘭なんかを立派に育て上げて高い値で売り込むことができるなら、下手に探索者やってるよりも社会貢献はしてそうなイメージはあるな。
もう一つ、【糸】に関しては使用者のイメージの強さによるところが大きいらしく、縛り上げてモンスターの身動きを取れなくしたり、もっと強いイメージを持って糸を操作することで鋼線のような糸を作り出しモンスターをバラバラにする等、それぞれの使用者の使い方によって特性が変わるらしい。
また、【糸】で作り出した布などもネットでは売られているようで、もしかすると防弾チョッキなどの素材に使われるケブラーの代わりに出来るんではないかとも噂され、一部ではそれの実証実験に使われているらしいという話もある。もっとも強固であると言われているアラミド繊維より軽く場所を取らず潤沢に製造できるなら、探索者だけを集めてそれぞれが糸を紡いで働くという、富岡製糸場のような光景も見られる未来があるのかもしれないな。それはそれでちょっと見てみたい気もする。
スキルもいろいろ使い所があるらしい。俺も車のバッテリーが上がったら【雷魔法】で気合を入れてやってエンジンぐらいはかけられるようになっているんだろうか。逆に過電流で壊しそうな気もするが、その辺の微細な調節ができる探索者ならいろんなところで活躍しそうではあるな。
今日は探索・オブ・ザ・イヤーを読み込んでいるだけで七十層に到着した。たまにはちゃんと読み込むことも大切だな。帰りは何を読もうかと考えながらリヤカーを下ろし、時計を見ると午前十一時。お昼時にはまだ早いが……今日は早めに飯にしてその分長くうろうろすることにするか。
早速机を出して丼と箸、そして野菜ジュースを出す。今日の昼飯はかなりコンパクトだがその物量は中々のもの。一合半のご飯とウルフ肉一パック分の竜田揚げ、そこにキャベツとタルタルソースのドカ盛りだ。これで喜ばない男の子は居ないだろう。
さて、まずは竜田揚げにたっぷりとタルタルソースをつけて食べる。うむ、自作なのは竜田揚げだけだが、自分で満足できる味わいにできたのはいいところだ。タルタルソースを自作していてはさすがに探索に影響が出るのでこっちは出来合い物だが、これは万人向けに作られた調味料としてよくできている。
サクサクに仕上がった竜田揚げに絡むタルタルソースの美味しさは皆が知っているところ。今更語る必要もないそのうまさは酸味と脂味が口の中で良い感じに混ぜ合わされる。非常にジューシーながらもカリッとしているところがまだ残っていて、その対比も楽しめる。
この時点で今日の料理は成功だな。ご飯とキャベツも楽しみ、一気に腹に詰め込む。一つ一つ味わうのも大事だが、この胃袋にかきこむ時の爽快感も丼ものとしては大事なところ。口の中でサクサクモニュモニュとそれぞれの部分を楽しみながらしっかりと咀嚼して流し込んでいく。
野菜ジュースを最後の残りにしないように適切にチャージしながら楽しむ。今日は一椀で完成している飯だから他のダンジョンマスターが食べに来たそうにしても食べられないんだ、残念ながら今日の食事は俺一人だけのものだ。寂しいがこれからちゃんと活躍するからその前の活力を入れ込む時間として食事の時間を見せることになったな。
腹いっぱいちょっと手前ぐらいで食材が無くなる。これは午後の終わりのほう、腹が減るかもしれないな。今から六時間近くぶっ続けで戦うのはそれなりに負荷がかかる。六時間でどこまでドロップ品を集められるかは解らないが、出来る限りのことはしていくつもりだ。
ついでに少し水分を取ると、机にもたれかかって少し胃袋の調整をしつつ、探索・オブ・ザ・イヤーを読みふける。コラムには探索者ランクについての情報があった。BランクなのですがB+ランクに上がる条件がハッキリ明示されたのはなかなか良いとは思いますが、同時にB+ランクに上がるためのギルド税納付額などが一目で見られないのは不便ですが何か方法はありませんか? ということらしい。
ちゃんとこれには回答が為されていて、ギルドには過去三年分の支払いレシートでの記録が残っているので、ギルドの受付なり支払いカウンターで過去ギルド税をいくら納めているのか参照をお願いすると、数日かかる場合もあるが基本的に数字として出してきてくれる、とのこと。
年始でお世話になるリストだな。あれがなかったら税金周りでかなり面倒くさい書類整理が必要になっていたことだろう。それを一括でギルド側で管理してくれているのは有り難い。おそらく、何処のダンジョンでいくら……というところまで把握されているんだろう。最近の稼ぎの金額を見たり、昔の金額を懐かしんでみたり色んなことで利用できるので適切な利用をお勧めする、とのこと。
ただ、確定申告の時期は混むので避けるのがお互いのためであると言えるので、年始明けてすぐぐらいでお願いをしておくと、後でばたばたしたり忙しい時に更に忙しさを増させたりすることがないので使うなら年始に申請しておいて、昨年度分一年間どれだけ稼いだのかを確認し、確定申告のために取っておくのが良いだろうと書かれている。
年始もまたお世話になるんだろうな。そして金額を見て、そこから税金を引かれることになって色んな意味で嫌になる瞬間が訪れるんだろう。今年はそれに加えて、布団の山本との取引で結構稼がせてもらっているのでその消費税納付なんかもある。金が足りなくなることはないだろうが、稼いだ金額の半分以上は税金やら年金やらで懐から消えていくのは確か。まあ、マイナスになるような買い物はしてないし、最悪全力で稼いで埋め合わせをすることはできるので気にする必要はないか。俺の口座にはもう少し眠って力をつけていてもらおう。
さて、腹も落ち着いてきたし、午後の作業、というか今日のお仕事を開始するか。六十九層を出来るだけ素早く回る。それが今日の仕事内容だ。上手くいけば午前中納品に行っていた分の時間をある程度埋め合わせできるだけの時間が稼げるかもしれないし、フカヒレを出荷できることになったのも追い風にして精々稼いで世の中に金を振りまく準備だけはしておこう。
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いつもの六十九層、早歩きで移動しながら順番に索敵網に近いほうからモンスターを倒していく。エイもサメもどうやら敵と呼べるほどの戦力ではなくなった。近づかれる前に一発で落とせるのは楽でいい。滑り込むように足元まで来たところでドロップ品に変わってくれれば一番手間がないのだが、そこまでの曲芸が出来るほどではない。
しかし、範囲収納で収められる範囲にはなっているのでこれももうちょっと練習次第という所かな。フカヒレと魔結晶を手に入れつつじっくり素早く駆け巡ろう。今日のところは高橋さん達も居ないようだし、一人でのびのびと探索が出来るのは悪い話じゃない。少し寂しいと思うこともあるが、モンスターたちが居てくれればそれで満足だ。
この階層は今は俺のもの。出てくるモンスターもドロップするドロップ品も俺のもの。今落ちたポーションだってもちろん俺のものだ。さあどんどんスピードを上げて探索活動を継続していこう。もし途中でお腹が空いたりしても俺にはバニラバーがある。
そう言えばそろそろ新しいスライムが出てきてくれてもいい時期だな。次の新色はどんなスライムだろう。そろそろメタリックなスライムが出てきても不思議ではない。赤も灰色も出てきたことだし、次は何色だろう。そしてどんなドロップをくれるのだろう。また潮干狩りは出来るんだろうか。
楽しみだな、次の階層。ボスも出てくるだろうし、どんなボスが出てくるのかも気になる。マップに合わせたモンスターが出てくるのか、それとも過去に出てきたモンスターが集団で襲ってくるのか。リッチの時はギミック有りでの攻略ではあったものの、出てくるモンスターはそれほど強いものではなかった。
エルダートレントの場合はその場に出てくるモンスターの強化版、という感じだった。四十五層はスライムだったとはいえ、過去のスライムとは一線を画したものであったことは間違いない。攻撃自体は受けてないものの、あのスライムは本来どういう攻撃をしてくるものだったんだろう。もしかしたら高い耐久力を武器に探索者をじわじわと端っこに追い詰め、そして無理やり体内に埋め込ませて咀嚼するような形のボスだったかもしれない。
その辺の情報が欠落しているのは楽して倒してしまったことも原因にあるだろう。再戦してみるのもアリか? でも、四十五層なら他のB+探索者がたどり着いているであろう場所でもあるし、俺が今更四十五層へ赴いて邪魔することにはならないだろうか。そんなことを考えながら戦える程度に、もう体は六十九層に慣れてしまっている。
そろそろ、新しいモンスター欲しいな。もしくは別の目標みたいなものが必要になってくる頃か。
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