1280:小西ダンジョン傍の中華屋の棒棒鶏
いつもの時間になり撤収をする。戦果は謎のポーションが一本落ちたのを別にしても上々。フカヒレも新たに増え、もうこれどうしようかなというぐらいになった。
「フカヒレ、一人で取った分もあるし査定が開始されたら一人である程度査定にかけちゃっていいかい? 」
「いいですよー。どうせ二人で潜った分よりも洋一さんが一人で潜って取ってきた数のほうが多そうですし、お小遣いの多少は気にしないことにしました。査定が始まったタイミングで全部出しちゃいましょう」
「そう言ってくれると、無駄に往復する時間が減って助かるよ」
帰りのエレベーターの中で雑談。現在およそ千個ほどになったフカヒレを試しに載せられるだけリヤカーに乗せてみたが、一回三百個が限界かな? と言ったところ。二回分は俺が取り分としてもらっても良いぐらいの量であることが確認できた。
再びしまいなおした後、いつも通り荷物の仕分けをして、また暇な時間が出来た。どうしても暇な時間というものは出来てしまうもので、仕方がないので芽生さんをハグして幸せ成分を供給してもらうことにした。
「人前ではこういうことはできるだけしないんじゃなかったでしたか? ダンジョンマスターも含めて」
「たまにはいいもんだ。仲良く探索してるんだぞということを見せて安心させるのも大事かなって」
「なるほど。そういうことならば大人しくハグしかえして幸せを享受するとしましょう」
七層に到着するまでしばしハグしたままイチャイチャし、扉があいた瞬間にパッと離れて体裁を取り繕う。
「じゃ、走って行ってくるから荷物よろしく」
ダッシュで六層の茂君を刈って帰ってくると、そのままの勢いで一層に上がって退ダン手続きからの査定カウンター。いつもの流れるような美しい動作とリヤカーに乗せるものがそこそこ多くて汗をかいている俺。そして事前仕分けによる明朗会計、明朗査定。三分ほどで結果が出てきた。
本日のお賃金、二億五千四百二十七万七千円。二人で税込み五億五千万円というところだろう。中々の稼ぎだと思っているし、もう一時間長く七十二層にとどまれば三億に手が届いてた可能性はある。
だとすれば後は時間効率の問題だ。同じ時間をかけてより密度の高い探索を心がけることで稼いで行くとしよう。
帰ってきた芽生さんにレシートを渡し、二人並んで振り込み。これで今日のお仕事終了。いつものぬるま湯を二人して飲んで、さあ意気揚々とバス停を無視して中華屋へ。
「どんな料理に化けて出て来るか楽しみですね」
「グリフォン肉を爺さんが何の肉だと判断するか、から始まるな」
中華屋の暖簾をくぐって中に入る。外より少しだけ熱気のある店の中、爺さんはちょうどお客さんがそこそこ掃けて注文をさばき切り、少し休憩しているところだった。まだ夕食には早かったか、それとも遅かったか。どっちにしろいい頃合いの入店時間であることは確か。
「おう、久しぶり兄ちゃん。今日も何か面白い素材でも持って来たのか? 」
「実はそうなんだ。こいつが何の肉に見えるかと、良ければそいつで一品頼もうと思ってさ」
グリフォン肉をバッグから出して爺さんに見せる。爺さんはパックの外からぐるりと見まわして観察。
「鶏の胸肉……にしては皮が付いてないな。鶏肉にみえるが、その様子だと鶏肉じゃないんだろうな。ふむ……ダンジョン肉は無菌パックだったな。試しに切って少し焼いて味見してみたいんだが? 」
「自由にやってくれて構わないよ。追加が必要になったらまだ一パックあるからそいつは自由に研究してくれていい」
「じゃ、早速ちょっと味見をしてみることにするか。少し待ってくれよ、お通し出すから座っててくれ」
お通しに茹でた枝豆が出てきた。酒のあてとしてはちょうどいいが、探索上がりの減った腹には少々物足りなさすぎる。これは爺さんのサンプル採取と試し焼きが終わってからメインディッシュを待たされるまで空腹という最高のスパイスを待ち望む状況だろう。
しばらくして爺さんが、焼いた肉の破片を二人分持ってきて、目の前で追い塩して出してくる。
「素直にこれを喰って、何の肉だと思うか感想をくれ。それで料理を決める」
一口大より小さめの肉を盛られているそれをひょいぱくして口に入れる。塩が中々美味しいな。そしてこの食感は……
「焼いた鶏肉ですね」
「だな、この焼き方は鶏肉っぽい」
「やっぱり鶏肉と答えるか。なら、これは相当高級な鶏肉ってイメージで良いのか? 」
爺さんも若干の疑問がありつつも鶏肉として考えたらしい。ワイバーンの肉もどっちかと言えば鶏肉よりだったが、こっちはより鶏肉らしさが出ていると、思う。
「まあ、鶏肉なのか、猫肉なのか判断に困るって言うところなんだが……俺達も試しに作ってみたんだけどやっぱり鶏肉風の調理が合うのかどうか判断に困ってここに持って来た、という経緯なんだ」
「なるほどな、兄ちゃんが判断付かないから俺のところに持ってくる……と。揚げ物は試したか? 」
「唐揚げにはしてみた。美味い唐揚げだったよ」
「だとすると家で出すなら……よし、ちょっと待ってな。品物を決めたから早速調理にかかることにしよう」
お通しがもう一品出てきたところでまた待ちの時間に入る。今度はザーサイと、もやしや春雨や細切りのきゅうりをごま油であえたものがでてきた。中華サラダなのはわかるが正式名は知らんな。なんて名前だろう。
「何が出てくるんでしょうねえ、気になります」
「鶏肉だという意見は一致したからな。そして唐揚げは俺が自己流で揚げたと申告したので揚げ物は出てこないと見た。それ以外のメニューで中華とすると……色々ありすぎて判断に困る。ここは爺さんの腕を信じて待とうじゃないの」
しばらく厨房の音に耳を傾ける。どうやら焼き物や揚げ物ではないらしい。火を扱って鍋を振る音や油で揚がるジュワッという音が聞こえてこないのだ。
「どうやら焼き物でもないらしいな」
「だとしたら蒸し物ですかね。茹でかもしれないです」
「茹で鶏だと棒棒鶏ぐらいしか思いつかないが、あれはタレも大事だからな。家では中々真似できない味だしピッタリかもしれん」
「蒸し鶏のネギソースなんかも有りかもしれません。楽しみですねえ」
しばらくわちゃわちゃと相談しながら待つと、料理が運ばれてきた。
「お待ち、兄ちゃんの予想どおり棒棒鶏だ。タレに自信があるからな、たっぷり味わってくれ」
二人分の棒棒鶏を目の前に置かれる。オーソドックスな、きゅうりとトマトの上に茹でた後冷ましたグリフォン肉が鎮座し、その上に謎ソースがかかっている。この謎ソースが爺さんの腕、ということらしい。早速いただこう。
酸味のあるタレと、茹でてもぷりぷりさをまだ残しているグリフォン肉が絡んで何とも美味しい。この季節で味わえるギリギリの冷製料理という所だろう。冬になってたらさすがに体が冷える所だが、中華屋の熱気でそれほど寒さを感じない所もまたいい。このタレ……何が入っているんだろう。しかし、肉によく絡むな。グリフォン肉自体もしっかりとした歯ごたえがまだ残っていて、口の中でしっかりと主張してくる。
しっとり柔らかくなっているグリフォン肉が口の中に広がり、噛めば噛むほど中から旨味がしみ出してくる。ちょいと赤い部分もあるがしっかりと熱は通っていることが食感からわかる。外はしっかり、中は熟成みたいな感じで茹でられていて、これはカンピロバクターが心配な鶏肉と違いグリフォン肉は無菌真空パックで出来ているので、爺さんがよほどのやんちゃをしない限りは肉の内部に細菌が入り込んでいる可能性は低い。
爺さんもそれを見越して茹でたのか、それとも面倒くさがってまとめて茹でたのかまでは解らないが丸のまま茹でて後で刻んで出したのだろう。
きゅうりとトマトはオマケだ。今日の主食は棒棒鶏。しかし、この一品だけでは足りないので追加で注文をしよう。
「チャーハンと餃子、追加で」
「あ、私も同じものを」
「チャーハンと餃子二人前な、解った。ゆっくり食っててくれ」
爺さんが厨房に戻ると、ボッという火をつける音が聞こえた。これから餃子とチャーハンを一気に作り上げるらしい。その間に食べきるつもりはないが、ゆっくり棒棒鶏を楽しませてもらおう。
今日は餃子とチャーハンに変わり種を使ってくることはないだろうから、いつものものが出てくると予想しておく。その間にこのグリフォンの棒棒鶏をゆっくり食べつつ、さっき途中でお出しされてきたザーサイを食べる。しっかり漬け込まれていて美味しい。このお通しだけでそれなりに料金が取れるんじゃないか、という程度の味ではある。もしかしたら他のお客さん用に用意しておいたものかもしれんな。
メニューを見てみると……ザーサイも中華サラダも安いが確かにメニューとして存在している。今回は持ち込み食材調理ということで特別料金を取られるだろうが、それも込みで出してくれたってことになるだろう。ここはまとめて俺が支払っておくか。一万円超えなければ経費で落とせるから問題ないな。
そこそこに摘まみつつ時間を稼いでいると、メイン料理の餃子とチャーハンが届いた。これでちゃんと夕食って感じになるな。早速出来立てアツアツのチャーハンをいただく。
うむ、ここの味だ。町中華って感じのする、しっかりと炒められて米の一粒ずつがちゃんと油と馴染んでいるいつものチャーハンだ。餃子も……これはウルフ肉かな。脂分が少ないのでそう感じる。多分ウルフ肉を卸してきた探索者が居たんだろう。ちゃんと買い取りもまだ継続してやっててくれるんだなという感想が先に思い当たる。
流石に人口が多くなってここも混み始めるか、買い取りの金額につられて昼飯ついでにウルフ肉を置いていく探索者が増え過ぎたら取りやめになっているんじゃないかとも思っていたが、今のところはみんな常識をわきまえている範囲での買い取りになっているらしい。
そう思うと、このチャーハンに混ざっている肉もウルフ肉なのかな。最近ちょっとフカヒレを喰いすぎて舌がぼけてきたのかもしれない。
食事が終わりお客さんも掃け、料理が終わって暇になったのか、爺さんがこっちに来る。
「で、答え合わせなんだがこれは何の肉だったんだ? 」
うーん、と考え込んでしまう。言ってしまっていいものかどうか。
「一応今のところ機密って事になるんだけど、それでも聞く? 」
「おう、俺は口が堅いからな」
「じゃあ信じて言うけど……こんなモンスターの肉だ」
爺さんにグリフォンと戦っている様子を見せる。爺さんはなんじゃこいつはとでも言いだしそうな表情でモンスターを食い入るように見た後、そっとスマホを返してきた。
「さすがは小西ダンジョンの有名人、これが最下層のモンスターって奴か? 」
「今のところそうなる。正式名称はまだ決まってないけど、名前の何処かにグリフォン付くのは多分確定路線じゃないかな」
「面白いものを見せてもらったな。肉もそうだが、珍味としては充分需要があると思うぜ。ただ、これで唐揚げを作ったとして……いや俺なら出来るか。どっちにしろ高級食材には違いないな。この間のフカヒレもこの辺のモンスターなんだろ? ドロップするのは」
「同じマップ、と言っていいはずだ。このマップは食料が多く出るらしい、しかもそこそこ高級なものが」
「値段が決まったら教えてくれ。こっちでも買い取り価格を考えるかもしれないからな」
どうやら爺さん、グリフォン肉で何か思いついたことがあるらしい。食に活かそうという料理人根性に火が点いたようだ。何品かレシピをぶつぶつと言い出しては色々考えているらしい。
「とりあえず今日は……全部込みで五千円だな。チャーハンと餃子と棒棒鶏の正規料金に加えて特殊食材の調理代ってことでどうだ」
「じゃあそれで。どうせ経費で落とすんで問題ないよ」
「あいよ。また来てくれよ」
味は満足した。量は……もうちょっと食べられるから帰りにコンビニでも寄るかな。
「値段が決まったらまた教えに行って、今度は唐揚げをごちそうになりましょう。多分持ち込みで一万円ぐらいでなんとかしてくれるはずです」
芽生さんは値段が決まるのが待ち遠しいようだ。俺も待ち遠しい。早くこの在庫を何とかしたいと考えている最中だ。
「さて、腹もそこそこ膨れたことだし帰りますか。明日もがんばるかあ」
「頑張ってください。明日は私は本業ですので、精々フカヒレを溜めこんでおくことです。後、一人だから今日みたいな頑張り気味の探索はしないように注意してくださいね」
しっかり釘を刺されてしまった。明日はほどほどに頑張ることにしよう。
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後毎度の誤字修正、感謝しております。





