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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第二章:出来ればおじさんは目立ちたくない

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128:禁止カード

 



「さて……結果だが」

「ゴクリ」

「十二万三千円。時給六万円だな」

「おー頑張った! 」

「そうだな、頑張った。ちなみに狩ったモンスターだが、ジャイアントアントが約七十匹、ワイルドボアが四十匹ってとこだろう」


 現在時刻は午後十時。一時間の九層RTA大会は終わり、報酬の確認をする。ちなみにまだ何も言っていないが、保管庫の中身を全部合計すると三十万円分ぐらいの素材が詰まっている。これはダンジョンを出るときに教えてびっくりさせよう。


「さて、体力のほうは大丈夫か」

「もうちょっと行ける感じ」

「じゃあ、警戒しつつ十分ぐらい休憩しよう。それからまたぼつぼつと一時間ぐらい狩りして、一旦七層に戻るという事でどう」


崖側に出来るだけ近寄ると、保管庫からコーラを取り出す。自分の飲みかけの分だ。


「それでおっけー。コーラ頂戴コーラ。さっき言ってた分」

「あいよー」

「これ、アイスバッグに入れてそれから保管庫に? 」

「まだ冷えてるだろ」

「うん、いい感じに飲みやすい温度」


 アイスバッグに入れておくことで更に百分の一の速度で温まるのを防ぐことが出来る。アイスバッグを複数用意してコーラと水と別々にしておくのも良いな。別にペットボトル六本に限定する必要はない。アイスバッグを複数持ってそれぞれに入れればより大量に冷えたものを用意することが出来る。なんなら袖の下としてお裾分けしてもいい。高付加価値なものとして受け取られるだろう。


「さて、今からどうするね」

「どうするね、とは」

「一時間ぐらい少しゆっくり目のペースで狩りをして、七層へ戻ってもう一度仮眠して、上に戻れば多分朝一の良い感じの時間で戻れるぞ。なんなら三層でゴブリン狩りでも一層でスライム狩りでもいい」

「あぁそっか。宿泊探索者以外誰も居ないから、あえて七層で一泊明かして早朝から一層で狩りをする、というテクニックが小西では使える! 」


閉場時間があるからこそ使える裏技的方法に文月さんは気づいたらしい。


「そういうこと。朝一から並んでる人には悪いけどね」

「良く考え付くなぁ。そんなにスライム狩りたいの? 」

「正直なところを言うと狩りたい。対話したい。一緒に朝焼けを見ないかとか語り掛けながらプチプチと潰していきたい」

「そこはちょっとヨクワカラナイ」


 どうして解ってもらえないのだろうか。俺のほうこそヨクワカラナイ。


「それに開場するの午前九時ですよ。朝焼けどころか日が昇ってしばらく経ってますよ」

「そいつは残念だな。で、どうするね。延長します? それとも早めに帰っておねむです? 」

「延長で。もうちょっとこの効率の良さを味わっていたいです」

「じゃ、ほれカロリーバー。食って燃料切れにならないようにしとき」

「ココア味……バニラじゃないんですね」

「そういう日もある」


 他の味も徐々に消化していかないとな。最後までプレーンが残りそうではあるが。


「よし、んじゃ延長三十分行きますか」

「行くか。あまり無理しないように」

「さっきの感じで行きましょう。テンポよかったし」

「そうすっか。じゃぁさっきまでとは逆方向に十五分、その後戻って十五分で」

「おっけー」


 肩をグリングリン回して首をポキポキと鳴らすと戦闘警戒態勢にうつる。お腹も膨れた、水分も取った。バッチリとまでは行かないが、三十分程度の戦闘なら問題なくこなせるだろう。


 文月さんも乙女の細腕で槍をブオンブオン回しながら戦う準備をしている。大丈夫そうだな。


 早速来た道を戻り始める。今度は右方向からの接敵に注意しながら進む。向きが逆になるが、来るモンスターは同じだ。余裕を持って対処できるはず。


「早速ボア三、一任せる」

「了解。さぁお肉と魔結晶と革を落としてくれよ」

「革は嵩張るからあまり好まないんじゃ? 」

「でも金になるからなぁ。丸めて詰めればダーククロウの羽根ほど邪魔じゃない」


ダーククロウの羽根は拾う所から面倒くさいのだ。


「あれは集めるのも大変ですからねぇ」

「真空パックにしてコンパクトにドロップしてくれればいいのに」

「気が利かないですね」

「全くだ。次、アント四、二任せる」

「了解。っと酸が来ますよ」


 超小型のハンディ掃除機に真空パック袋持参すれば羽根をもっとコンパクトに持ちだせたりするのでは? と一瞬考えがよぎる。そのために掃除機入れておく必要があるな。専門の回収業者はそうやってコンパクトに大量に持ち帰るのだろう。戻ったら一応調べておこう、どのくらい小さい奴があるのか興味がわいてきた。


「掃除機で真空パック。やる価値あるかもな」

「そこまでダーククロウを目の敵にする理由があるんですか」

「そこんとこ微妙なんだよな。避けようと思えば避けられる相手だし」

「ただ、木に止まってるのを落とせば短時間で割のいい仕事になりますよね。安村さん限定ですが」

「周りに誰も居ない前提だからなぁ。これから探索者も増えるかもしれないし、そうなったら出番は少なくなるかも。アント三、一任せた」


会話は弾む、狩りも弾む。このテンポで続けていこう。


「了解。九層でこれだけ安定して勝負できるなら、日帰りでチャンスがあるときはダーククロウを狙うというのはどうでしょう」

「それだな。よし真空袋と一緒に検討してみるか」

「保管庫に放り込んでおけばいいのでは? アント三、一任せた」

「了解。掃除機でやるよりも布団用の圧縮袋があるからそれを試してみるか。そのほうが安くつくしなんなら普通に自宅で使えばいいし」


とりあえず新しい事をやるために手持ちで如何にかしようとするのは俺の癖だが、ハンディ掃除機とかあればいいのかな。


「そういえば、自分用の布団を作るとか言ってませんでした? 」

「言ってたな。すっかり忘れていた。ただ、作ったら二度と抜け出せなくなるような気がする」

「ダーククロウ印のこたつ布団とか大評判になりそうですよね。ボア四、二任せた」

「了解。干からびるまで抜け出せない悪魔のこたつか……怖いな」


 こたつの魔力には誰も逆らえない。そこに安眠を促すダーククロウの羽根の香りがプラスされたら相乗効果でいったいどうなってしまうのか。そんな恐ろしいものを作り上げていいのか。でも興味ある……くやしい!


「多分もうだれか作ってるだろ。そんで、作った本人がこたつから出られないというオチが見えている。アント三、一任せた。」

「了解。案外そんなもんかもしれませんね」

「自分が思いついたことは大体誰かがもうやってるもんだ」

「じゃぁ、なんでスライムのドロップが今まで確定しなかったんでしょうね」

「九十九パーセントの努力と一パーセントのひらめきの内、ひらめきをたまたま引いただけだと思う。残りの九十九パーセントは俺以外の誰かがやってくれた」

「エジソンですか」


 最終的に正しいと証明してくれたのは検証スレの人たちなので、九十九パーセントの努力をみんなで補い合ったという事でいいじゃないかな。


「少なくとも、一日無収入で途方に暮れる探索者は減ったんじゃないかな」

「そもそも楽しそうだからやってみたのでは? アント三、二任せた」

「了解。まぁ、楽しいのは大事じゃない? 」

「大事ですけど、ほどほどにしておかないと対岸の火事が延焼しますよ」

「心に留めておく」


 まぁ、スライムが狩れなくなるほど混雑するという状況はちょっと予想外だった。その点俺にもデメリットはあったって事か。スライムに囲まれたい欲が出始めてきたぞ。


「アント四、二任せた。もう一匹ぐらいリンクしてきても大丈夫な感じか」

「了解。一対三はまだちょっと厳しいかも。酸が来なければいけると思う」

「酸が来ても一対三で対応できるようにならないとな。その為にもう一段階強くならなければ」

「もう一段階……ステータスブーストブースト? 」

「そんな感じ……ん? 」


 ステータスブーストを更にブーストする、か。その発想は無かったな。


「やってみるか。ステータスブーストブースト」


 今はステータスブーストのために脳の中に作ったスイッチをONにしたままだ。周囲の風景はOFFにしている通常時と比べてゆっくりになっている。音もゆっくりに聞こえる。頭の考える速さだけをそのままに、体の動きもより滑らかになっていく。ジャイアントアントがこちらへ噛みつきにやってくるのを探知する。その状態から更にもう一歩……踏み込む。


 一瞬頭に痛みが走り、目の前が少し赤く見える。全身が熱くなり血液が無理やり押し出されている感覚を味わう。ジャイアントアントが更にゆっくりと動いていく。その緩慢とした動きに合わせて素早く横に駆けよると、一閃して首をはね落とす。二匹目がまだ俺がさっきまでの位置に居ると判断しているのか、俺を無視してゆっくりと直進していく。その横っ面を叩くように目に一刀を入れ、その後で首を切り落とす。


 一連の動作が終わり、再びただのステータスブーストの状態へ戻す。とたんに世界が加速を始める。そして疲労感が俺を包み込んだ。


「……どう? 」

「動きが見切れなかった。後鼻血、それから目が充血してる。他は大丈夫? 」

「ん、血管切れたかな。これは緊急回避する時だけにしよう」


 もう一段上の動きがその気になったらできる。それだけで十分だろう、多分こいつは寿命を縮めるぞ。さっきから頭と目が熱いし心臓がバクバク鳴っているしなんか疲れたし。


「さてはまた無茶をしたな。何をどうやったの」

「これは教えないほうがいいと判断する。真似して大変なことになるかもしれない」

「つまり、ステータスブーストブーストをやってみたってことね」

「ざっくり言えばそうなる。ただ、見た通りこれは肉体的にもヤバい技だな」


まだ心臓のバクバクが止まらない。血液を送る量が足りてないような感じだ。


「血圧高い人がやったら一発で脳出血するような感じ? 」

「全身から血を吹き出して倒れるかもしれない」

「とりあえずそれ使用禁止で」

「俺もこれはやばいと体が訴えてる。なんかすごく疲れた感じがする」


 俺の中の禁止カードに追加しておこう。他の禁止カードは保管庫からの一斉発射と人前での使用。どれも状況によっては命に危険が生じる。


「とりあえず今まで通りの狩り方で、戻りながらモンスター探そうか」


 気が付いたら折り返し地点を過ぎていたらしい。折り返してモンスターを探しに出かける。さすがに狩ってすぐはリポップしないのか、さっきまでよりゆっくりなペースでモンスターが出てくるようになった。


「これはステータスブーストブーストをかけるんじゃなくてより高いレベルでステータスブーストを考えるほうが健康に良さそうだな」

「まだ言ってるし」

「ほら、ステータスブーストをするにしても、自分がイメージする最大の速度ってのがあるじゃない? そのイメージをより速い位置に、より強い威力で放てるようになれば安全だって事だよ」

「そのために必要なのは? 」

「訓練と探索とイメージを強く持つ事? 」

「つまり今と同じなのでは」

「そういうことになるな」


 今のまま大人しく狩りを続けて経験値という概念を貯めこもう。多分それで強くなる……ハズ。




作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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2倍を2.5倍にするか2×2で4倍にするかって感じかな?
[良い点] ステータスブーストブースト [気になる点] 鼻血 [一言] 寿命何年縮みました?
[気になる点] 仮にもパーティ組んでるのに、食料にしても道具にしても消耗の激しい安村さんがすべてお金出してるのが気になるかな。報酬は折半なのに。 報酬配分かえたり、パーティ資金を設けるなりしないと少…
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