1279:謎のポーションを追う
午前中の運動をそつなくこなした。残念ながらグリフォンから謎のポーションはドロップしなかった。物欲センサーが存分に働いていたせいだろうとあきらめると、七十層に戻りお昼ご飯。
アツアツの鍋とホカホカのご飯。サラダは付けなかったが、鍋にしっかり具材は入れてあるのでそっちで栄養を摂ってもらうことにしよう。物価高で野菜も高いが、普段の収入から比べたら大して変わりがないような物だが、世の中の人にとってはかなり厳しい家計も多いだろう。この収入をどうにかして再分配する仕組みが必要になってくるかもしれないな。
「美味しそうですね……良い匂いもしますが、鍋にしてはちょっと汁が少なくないですか? 」
「フカヒレを細切れにして沈めてあるからな。そっちが汁を吸ったんだろう。それも織り込み済みだ。とにかく食べよう。フカヒレがいい味を出してくれていると良いんだが……さて」
鍋の具材とご飯を二人分器に盛って早速食べ始める。
「んー……いいですね、フカヒレが口の中でほどけていくのが解ります」
「なるほど、こういう味になったか。これはこれで悪くないな。何なら鍋じゃなくてスープにフカヒレを浮かべるだけでも充分一品として活用できる。消費口が見つかったな」
「フカヒレはお肌にもいいですからねえ。ピチピチのお肌がよりピチピチになってたんぱく質もガッツリ取れて、いうことなしですね。お野菜もちゃんと煮えてますし……お肉が美味しい」
「この階層の食材を全部詰め込んであるからな。グリフォン肉の美味しさもフカヒレがある程度吸収してくれてるし、鍋のおかげで肉もパサついてない。中々これは俺の中でも当たりかもしれない」
グリフォン肉から出た旨味が鍋の中に入り込み、更にそれをフカヒレが吸い上げてくれているため無駄がない全てが食べる所として調和した一つの鍋が出来上がっている。グリフォン肉もちゃんとだしを出してくれるんだな。一つグリフォン肉に対する解像度が上がった。これなら鶏だし鍋としても充分すぎる旨味を出してくれるに違いない。
次は何味の鍋を作ろうかな。味噌でも良いしとんこつでも良い。キムチもこうなると選択肢に入ってくる。鍋が楽しめる時期はこれからだ、もっといろんな鍋を作って合う合わないを比べていって一番うめえ奴を探し出すことにしよう。
わずかに残った汁とフカヒレをご飯に乗せて、〆の雑炊じみたものを茶碗の上に再現する。しっかりと炊けて立った米に静かに汁が浸っていて、その汁がまた美味いし、汁を吸いこんだフカヒレがまたいい。口の中でふわっと広がるのも〆として中々の楽しみをくれている。
野菜もしっかり取ったし栄養も取った。たんぱく質は充分すぎるほど取った。これでまた昼から頑張って探索をしようという気分にさせてくれる。やはり健康的な探索には健康的な食事が大切だな。それを維持するためにも保管庫には引き続き美味い飯を美味いまま運んでもらう存在として俺の中で活躍してほしい。
ちょっと食べ過ぎたので食休みを長めにとる。これも予測の内ではあるので心配ない。その間に月刊探索ライフの料理欄を見てみると、これから冬になるにしたがって増えるであろう鍋レシピ特集をやっていた。もうちょっと早く読み込んでおくべきだったか。そうすれば今日の鍋ももうちょっと違った形でお出しできたかもしれない。
どうやら、スポンサーに料理メーカーが付いたらしく、そのスポンサーの鍋料理用のだしを使った鍋がいくつか紹介されている。たしか……おぉ、丁度購入した鍋の素のものも載っている。付箋をつけて次回これにチャレンジしてみようかな。
具材は……手持ちではちょっと足りないのでまた今度だな。ジャガイモも放り込んだ鍋か。中々悪くなさそうだ、きっとホクホクしてて美味いんだろう。キムチ鍋には餅が入っていた。餅自体は問題ないが、鍋にこびりついてしまうかもしれないのが掃除のネックだな。鍋にこびりついた餅ははたして生活魔法で除去できるんだろうか。そういうチャレンジのためにもこっちを優先してやってみてもいいかもしれない。
「なんか楽しそうですね。良いコンテンツでも見つけましたか」
「鍋特集だって。タイムリーだから読んでた」
「なるほど……キムチ鍋は喉が渇きますけどそれは良いんですか? 」
「そこが悩みどころだな。まあ水飲む暇もないような探索をしてないからいいんだけど、出来るだけ余計な水分は取らなくて済むほうがありがたいのが探索だからな。今度一人で作って試してみることにするよ。しばらく鍋の出番はないけど、鍋はこれからの季節だからな」
お互い胃袋チェックをして、そろそろ動ける頃合いを見て食事セットを片付けて再び七十一層に潜る。今度は七十二層を三時間ぐるっと回って帰ってくるいつものコースだ。物欲センサーは引っ込めて、今日もいつも通りの稼ぎが取れるように願いつつの探索になる。
「次のマップはどんなところでしょうね……と」
「さあな……っと。パッと思いつくようなダンジョンは大体実装されてしまってる気がするし、極寒で凍死するシチュエーションでなければなんでもいいかな」
エイとサメとグリフォンを処理し、のんびり話しながら七十二層への道をまっすぐ歩く。流石に歩き慣れてきたのか、後ろを振り向いてまだギリギリ見えている階段の位置から方角を見定めているので迷う可能性は低い。もし迷ったらドローンを飛ばせばいいので結構お気楽な探索になった。
俺がグリフォンを一発でスタンできるようになったのも大きい。攻撃される可能性がほぼゼロになったのは良い所、悪いところは、せっかく買った籠手の意味があまりなくなってしまったことだろうか。まあお守りとしては値が張るが、その分だけ安全に探索出来ているという意味では払った金額分の価値はあったのかな、と思うことにした。
「寒いのは雪原マップで沢山ですからね。あれ以上寒い所だと身動きもとれませんし、これ以上奥にはいかないぞという意識をもたないといけません」
「個人的には既存マップの使いまわしでも良いんだけどな。微妙に違うところがあるだろうからその違う部分を探すだけでも楽しみにはなるし、と、次はグリフォンか」
グリフォンだけはまだ苦手意識がちょっとだけある。スーツの恨みがまだ残っているのが原因だが、対処法自体は心得ているがまだ俺の中に心理的圧迫感が残っているのは確か。グリフォンがとびかかってくる間に雷龍を頭部にはなってスタン状態にし、その間に芽生さんがスッパリ首を切り取る流れで解決。一匹相手なら問題はないし、二匹来ても同じ手順で両方にスタンをかけられるようにはなった。
後は俺が慣れてくれれば何の問題もないんだが、はてさて思ってるほど俺は度胸が強くない。後二百匹ぐらい繰り返せばこの圧迫感もなくなってくれるんだろうか。
そう考えながらグリフォンを倒すと、グリフォンはポーションを残して黒い粒子に還っていった。
「二本目ですね。あと一本でギルド提出ですか」
「そうなる。後一週間ぐらいあれば達成できそうかな。思ったより二本目が早かった」
確率から行くと一%ぐらいの確率になるのか。グリフォンと出会う回数は他のエイとサメに比べて少ないので、この出現パターンは四十八層のダンジョンマスキプラと同じく強い敵が一歩先のドロップを落とす、という現象の中の一部だったりするんだろう。
しかし、他のポーションと違い虹色の液体ってところは気になるな。肉体機能回復でも神経機能や免疫の回復でもないとすると、こいつの効果は一体何なんだろう。健康にも悪そうな見た目をしているが、まさかこれがポーションでは無くて全く別のものである可能性も高いんだ。
物は試しにと飲んでみて体で実験してみて……というのすらためらわれる。やはり専門の研究機関に鑑定と効能や効果についてしっかりと調べてもらう必要があるだろう。その為にはサンプル数は多いほうがいい。その為にもせめてもう一本、入手して確かめるだけの量を確保しておかないといけないな。
「さて、今日の目標はもう達成してしまったが、いつも通り七十二層に下りて三時間ぐるっと周遊して帰ってこよう。グリフォン肉も集めておきたいしな」
「そうですねえ。また中華屋にもっていって何か一品作ってもらいます? 」
「それも悪くない。夕飯はそうするか? 」
「目標に向かって一歩進んだご褒美ということで外食にするのは悪くないと思います」
夕食は中華ということになった。さて、いつも通りの仕事をしますか。そのまま七十二層に向かって歩き続ける。そういえば、七十二層では無くて七十一層で落ちてくれたことには感謝をするべきなんだろうか。
◇◆◇◆◇◆◇
流石に一本さっき出たからと調子に乗ってもう一本出ればいいなあという気概がでたため、物欲センサーは機敏に反応。スキルオーブのスの字すらでないほどにドロップ率はいつも通りだった。こっちとしては早くドロップ品の査定価格が決まってくれるとありがたいのだが、しばらくは様子見、ということにしておこう。
七十二層でもそれは変わらず、フカヒレとグリフォンの肉と爪、そしていつものキュアポーションランク5がそこそこの本数出たところで帰り路に差し掛かることになった。
良いことがあったと言えば、グリフォンが同時に二匹出てきても物おじせずに対応できるようになりつつあることだろうか。きちんと向かってくる順番に雷龍を放てばグリフォンは二人いるなら問題なく戦えるし、芽生さんから妙なプレッシャーを受けることもなくなった。むしろ芽生さんのほうがリラックスして戦っているので、俺の戦力はちゃんと計算に入っているんだなという納得をするところである。
「まだ苦手意識が残ってる感じがしますね。でも前よりは腰が引けてないと思います。かなりスキルに自信がついてきた証拠かもしれませんね。この調子で火力を伸ばしていければグリフォンを一撃で倒すのもできるんじゃないでしょうかね」
芽生さん談。確かにまだ苦手意識はあるが、前向きになれているという点もちゃんと俺を見てくれている。そんな所までサポートしてくれている大事な相棒だ、なおさら手放したくないという気持ちが強くなってきた。
「まあ、大体合ってるかな。一人でグリフォンを倒せるようになるのが一番の特効薬なんだろうが……まだそこまでには至っていないようだ。そこまでいければ雷魔法の六重化も近づいてくるのかねえ」
「そうですねえ。雷龍をもっと強力に出来ればいいんでしょうけど、まだイメージが追いつかない感じですか」
もっと強いイメージか……太くて固くて凄い雷龍……という方面のイメージで良いんだろうか。よし、ちょっとこれから試していってみるか。持続力よりも瞬間火力を表に出して、もし息切れするようならドライフルーツを噛んで無理矢理にでも立ち続ける。そういうイメージを持とう。
「やれるだけはやってみるが、息切れを起こしたらどうしようかね」
「そこまで自分を追い込んでイメージを作り出そうとする必要があるなら、私も五重化したらしばらく悩むパターンかもしれません。今のうちに頑張って五重化から六重化へのロードマップとマイルストーンを体感して研究して、その内論文の一本でも書いて提出してください、私が読んで参考にします」
たしかに、五重化から六重化の流れについてどうすればいいのか、というのをハッキリ提示されている探索者は世界広しと言えど人数は限られていると言えよう。その中ではっきりした筋道を求めてそれに向かって努力しているのは更に一部なはずだ。今の俺は重要な実験体と言えなくもない。サンプルとして入手するデータは多いはずなので自分の体調変化やスキルを使った時のふとした感覚なんかも貴重なデータと言える。
「何か変化があったら真っ先に教えることにするよ」
「その意気で頑張ってください。私も今のスキル構成で伸び悩んできたら五重化して追いつくような形になると思いますので」
良い感じに餌をぶら下げられたような気がするが、自分が強くなることに関しては異論はないのでそのまま芽生さんの口車に乗って好き勝手ぶちかまそうと思う。芽生さん側からそれを提示してくれているということは、サブアタッカーとしてもサポートとしても、最悪メインアタッカーとしても活躍してあげられるから後ろの心配はするな、ということだろう。
ほんと、いい相棒を持ったもんだ。
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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
後毎度の誤字修正、感謝しております。





