1275:実質昨日の今日
今日も気持ちのいい朝だ。昨日は本当にゆっくりした休日を過ごさせてもらった。スレも見てニュースも見て、あの有名芸能人があんな理由で干されていたのか、等とゴシップの類も色々知ることになった。実に有意義な無駄な時間を過ごした、と思う。
こういった無駄の時間を取ることもたまには必要だな。夕食も昼食に使い切らなかったフカヒレをネットアレンジレシピを参考にして作ってみたが、これは中々の美味しさを提供してくれた。流石にフカヒレ一パックを一日で食べきるのは胃や肝臓に負担がかかるので、まだ残っているフカヒレは別の形で消費しようと思う。
トースト二枚に目玉焼きにキャベツのいつもの朝食セットに、ジャムを使い切るためにたっぷりと塗り込んで食べる。後一ヶ月ぐらいはジャムパンで過ごせるな。味も色々あるし、さっさと使い切ってまたお高いバターの朝食に戻していこう。
今日の昼食は……ごった煮。煮込む品物は特に決まっていないので冷蔵庫の中身と相談しながら決めることにするが……なんでもそこそこいけるってところだな。今日は大根と葉野菜を麺つゆで煮こんで……これは自前の簡易おでんだな。そうと決まればおかずがだいたい決まってくる。炊飯器のスイッチを押すと肉を薄切りにすると軽く炒め、その焼いた油と肉汁も含めて鍋に入れて美味しさの素にする。
下味はめんつゆでいいだろうから、まず大根を柔らかくするために長めの時間を煮込ませる。その間に茹で卵を作って二つ鍋に入れることにする。後は人参と里芋と……ゴボウは入れよう。苦味がアクセントになって美味しさにつながるからな。
後は……さすがにフカヒレをここに入れるのは場違い感が凄いが、使い残りがいつまでもあっても困るからな。汁気を飛ばすにもちょうどいいし、いい感じに煮込まれて味が染み込んだ後で投入してしまおう。
しっかり煮こんで味しみ大根になったことを確認すると、フカヒレを細かく刻んで投入し、よくかき混ぜる。これでごった煮の中の水分をしっかりと吸収して具材の味を吸い込んでプルプル食感の美味しい食材が一つが出来上がるだろう。食感にしてもキクラゲみたいなものだと思っておけばいいな。
いずれフカヒレを効果的に使えるようなレシピを作って一つ考えておくのも大事だが、フカヒレはたんぱく質の塊だ。あまり過剰に摂取しても体に悪いからな。ちょっとずつ使っていくことにしよう。
良い感じに煮詰まって、フカヒレが汁を吸いこんで煮物から汁が無くなったところで火からおろして料理完了だ。後はご飯があればいいし、フカヒレをご飯に混ぜ込んでプルプルと煮物の味わいを米に移して食べるのも良いだろう。今日はちょっと挑戦的なレシピなので芽生さんが居る時ではできなかっただろう。今日は昼食の具合がどうなるかまでは解らないが、少なくとも空腹で倒れるようなこともエネルギー切れを起こす可能性も低いだろう。
今日は野菜がメインなのでサラダをつけるのはなしだ。煮物とご飯と……吸い物が欲しい所だな。湯を沸かしてカップスープタイプのポタージュを作って保管庫に入れていこう。アツアツを飲むことはできないがそれなりに飲める温度になっているだろうし、濃いめに作っておけば味で負けることもないはずだ。
柄、ヨシ!
圧切、ヨシ!
ヘルメット、ヨシ!
スーツ、ヨシ!
安全靴、ヨシ!
手袋、ヨシ!
籠手、ヨシ!
飯の準備、ヨシ!
嗜好品、ヨシ!
車、ヨシ!
レーキ、ヨシ!
保管庫の中身……ヨシ!
その他いろいろ、ヨシ!
指さし確認は大事である。さあ今日もフカヒレを大量に取りに行こう。【雷魔法】の強化と持続、そして来たるべき六重化の目安になるという気づきの感覚、それが出てくるまではひたすらエイとサメが相手だ。今日も頑張っていこう。
◇◆◇◆◇◆◇
いつもの時間にダンジョンに到着、そのまま入ダン手続きをしてリヤカーを背負ってダンジョンへ行こうとすると、俺のほうに向かってくる影。また取材か?
「安村さん、であってるかな? 」
やはり呼び止められる。誰かなとよく顔を見てみると、昨日テレビで見た人が俺に声をかけてきていた。緒方拓海さんだった。
「あなたは……Aランク探索者の緒方さん、ですね」
「そうです。顔を知っておいてもらえたのは嬉しいことですね。もしかして、昨日のテレビの放送見てくれてたのかな。だとしたら嬉しいね」
「ええ、ちょうど休みだったもんで拝見してました。中々カメラ映りも良かったですよ。ただあの司会者には押されっぱなしだったようにも見えますけど」
「実際に会えばわかりますよ。あのプレッシャーは確実にエルダートレントのそれより強い」
あの人はエルダートレントより強いってことか。一撃で倒せる相手ではあるがそれだけのものを持ち合わせているらしい。覚えておこう。
「番組内で言ってた気になるダンジョンってここのことだったんですね。だとすると目的は日本の最深層調査ですか」
「まあそんな所です。なぜこんな辺鄙な所にあるダンジョンに……というと失礼にあたるかもしれませんが、そこで最下層まで潜られているのか、ちょっと興味が湧きましてね」
「辺鄙であることは否定しませんよ。ここに来るまでさぞ不便だったでしょうに。どこか部屋でも借りてゆっくり探索、という感じですか? 」
「さすがに空いてる部屋は無かったさ。だから名古屋で宿を取ってね。ちょっと時間はかかるがここまで来ることにしたんだ。パーティーメンバーも居るし、なかなか多人数分の居住区をここに確保するのは難しいらしいね」
よく見ると後ろでパーティーメンバーらしい人たちが準備運動をしている。どうやらリヤカーも無事に確保できたらしい。探索の準備は万全だ、と言った感じだろう。
「いやあ、ここで出会えてよかったという所かな? 一応ギルドのほうで安村さんに出会うにはどうすればいいか聞いて、安村さんならいつも九時ぐらいに来ますよって教えてもらってたところなんだよ」
「だとすると、ちょっと待たせてしまった感じになりましたかね? しかし相手がAランクとはいえ、私が何時に潜りに来るかを漏らすのはギルドとしてちょっといただけませんね。後でちゃんと言っておかないと」
緒方さんは司会者と対峙してる時と違い、リラックスしている。やはり、あの司会者のオーラはそれほど強いのか、それとも俺が普通の探索者に見えているのか。どちらにしろ、喧嘩腰や上から見下ろすような態度ではないのは番組で語っていた通りだな、と少し安心する。
「我々はこれからゴブリンキングを倒した後、三十五層から順番に下りていく予定です。ここを拠点にして、しばらくは探索もろくにしてこなかったので体に探索を思い出させるのと、肩慣らしついでに稼いで帰ろうと思っています。その点、このダンジョンには一番詳しいであろうあなたに顔つなぎをしておいたほうがいいと思いましてね」
「私はそこまで丁寧に扱ってもらうほどの人間でもありませんよ。別に許可が必要とか顔を合わせておかなければいけないとかそういう理由もありませんし。ただ無理な探索をしないでくださいね、と言うところですかね。私も自分の探索をするのでご自由にどうぞ、としか」
目的が見当たらないが、とにかく一番深いダンジョンに潜ってみたい、というのは確からしい。そういう意味では下手なダンジョンへ移動しながら行くよりは、確実に深くまで確認されているダンジョンに潜るのは合理的だとは言えるんだろう。
「では、一応挨拶は済ませたって事で。頑張って追いついてみることにしますよ。まだまだ分からない階層もあることですし、出来るだけの範囲で今の自分がどこまで通用するのか、というのを見てみようと思います」
「頑張ってください。今日もご安全に」
「そちらこそ、ご安全に」
緒方さんはそう言うとパーティーメンバーのほうへ戻っていった。わざわざ挨拶に来られる、というのも何か理由があったりするんだろうか。もしかしたら緒方さんは内心ではものすごい負けず嫌いだとかそういう人物なのかもしれない。わざわざ言いに来るというようなことをされたのは相沢君達以来かもしれないな。
それだけの立場になってしまった、ということにもなるか。わざわざAランク探索者という俺ですらまだ……まあ実質的に俺もAランクの称号を頼めば貰える立場にあるとはいえ、ランク争いみたいなものに巻き込まれてしまっているのだろう。
まあ、関係ないな。いつも通りのことをやっていつも通り稼いで帰る。俺が出来るのはせいぜいそのぐらいだ。小西ダンジョンでは今、B+以上の探索者が一パーティー増えた、程度に考えておくか。いくらなんでも潜りはじめていきなり底まで踏破してくるようなパーティーにも見えなかったし、移動時間から考えれば小西ダンジョンは狭い。肩慣らしとはいえ気軽に行き帰り出来るという意味ではちょうどいいかもしれない。
さて……俺もダンジョンに入るか。いつもの茂君をさっさと済ませてしまわないとな。いつも少し遅くなったが数分のズレで済んだ。いつも通り茂君を一定量刈り取ると七十層へ倍速運行。倍速にしても一匹モンスターに出会えばそれで元は取れる。往復なら二匹だ。残りの時間はすべて鍛錬と金策に回せるのでその分だけお得である。
これならもっと早く要求してても良かったな。六十五層辺りをうろついていた時にでも充分稼ぎにすることはできたんじゃないかな。まあ過ぎたことを言っても仕方がないのでこれから稼げるんだという方向に考えをシフトしていこう。
いつも通りクロスワードを埋めながらエレベーターが七十層にたどり着くまで時間つぶしをする。行きはこれで時間が稼げるし帰りは荷物の積み直しでまた時間が稼げる。暇な時間が半分になると、クロスワードを楽しむ賞味期限もまた延びる。倍速とはいえ悪い話であろうことはない。
そろそろ緒方パーティーも探索する場所にたどり着いたところだろうか。彼らが何を目的にしてここをしばらくの拠点にしたのかまでは解らないが、お互い邪魔をすることもないだろうし、ものすごい勢いで追いついてきたとしても何処かで息切れを起こすはずだ。その間に俺はしっかり金を稼ぎつつ、そろそろミルコにもまたお仕事をしてもらう時期が来たということになる。
いつまでも七十二層でのびのびと探索をしていられる俺達でもない。飽きてしまう前にミルコには何らかの対策をしてもらうことも大事だろう。トレジャーダンジョンの仕組みを一時的に付与してもらう……しばらく前のダンジョンが風邪ひいた件みたいなやつを、今回はダンジョンマスターが大々的に宣伝しながらやれる、ということにもなる。楽しみはそれなりにある、と考えていいだろうな。
七十層に着き、リヤカーを下ろすと今日も早速探索の始まりだ。早速六十九層へ上がっていつものサメとエイと触れ回ることのできる広大な宇宙空間相手に空に浮いている海産物狩りを楽しむ。
庭ダンジョン制覇の際にダンジョンマスター達からもらった【索敵】で二重化できたおかげで、モンスターの探知範囲よりもこっちの索敵範囲のほうが広くなっているのは非常に便利だ。
薄暗くて時々モンスターが見えなくなることもあるこのマップ、索敵の明かりを頼りにモンスターに近寄っていくこともできるようになった。芽生さんはこれだけの視界を持っていたのだな、と思うと便利さを感じるが、【索敵】をしっかり育てたであろう今の芽生さんならもっと広い範囲を見渡すことができるようになっているのだろう。
今の段階で充分広いともいえる。これ以上伸ばしても逆に広すぎて困るかもしれない、この広くて、密度が薄く、モンスターの探知範囲が広い、という探索の効率としては三重苦を持っているこのマップでは索敵は二重化させておくのでちょうどいいんだろう。
さて、今日も気楽に最大出力でお出迎えに行くとしよう。あちこちうろつきまわったり上を見てモンスターが居るかどうかを確認する手間が少し省けたのが【索敵】二重化のメリットだ。黄色いモンスター表示が見える所まで歩いていけばいいので首が痛くならなくて済む。
ずっと上を見上げていると人間疲れるものだ。花火だって、散って舞ってすぐ消えるから美しい、で終わるわけで、あれが空中で何分間も点いたままだったらいい加減に終われとか首が痛いとか苦情を申し付けられるところだろう。もしかしたらドローン花火なんかでは既に言われているのかもしれないな。
早速最初の獲物を見つけると、黄色い点に近寄っていき、赤くなる前にモンスターを視認して戦闘態勢に入る。赤くなって近づいてきたところで雷龍一発、気軽に倒せて稼ぎも得た。これで午前中は様子見していこう。
作者からのお願い
皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。
続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
後毎度の誤字修正、感謝しております。





