1273:るーるるーるるるるーるるー
十一月に入りそろそろ寒くなってくる頃合いかな、とも思うがまだ暖かい辺りでとどまってくれている辺り、たしかに夏の終わりは緩やかであるらしい。この調子だと冬が急に来そうで風邪を引きそうだが、風邪はどのポーションランクで治るのか、真面目に検討しないといけないな。
まあ、どのレベルにしてもキュアポーションのランク3が大量に余っているのでとりあえずそれを飲んでみて、効かなかったらランク4で試す、という方法も日々の収入に比べれば充分に選択肢として入る。不調をこらえて風邪っぴきでダンジョンにはいるぐらいなら、キュアポーション飲んで万全の体調にしてそれから潜ったほうが効率的で、経済的で、そして建設的である。
俺についての記事が出そろったことで、全ての雑誌に目を通し、俺に対してどういう視線と思考を持って相対して記者会見に臨んでいたか、というのが大まかにわかった。今度はあそこの雑誌社は出禁にしようと思う社も見かけたので、今度出会うことがあったら気を付けておこうと思う。
いつも通りトーストを二枚焼く……二枚で充分なんじゃよ。つい最近までの癖で三枚焼きそうになるのを何とかこらえる所だ。やはり、一人ではなく一緒に食事を楽しむという行為はなんだかんだ俺の心の隙間に引っかかったままらしい。そういえば、ジャムも消費していかないとな。いくら保管庫に入れてあるし保存食でもあるとはいえ、中途半端に使ってある物が中にあるのはなんだか落ち着かない。今日はイチゴジャムを消費していくことにしよう。
キャベツをいつも通りの量作って目玉焼きを一つターンオーバーしないターンオーバーで焼くと、早速食べる。いつもの味だ。そしてイチゴジャムが脳にエネルギーを送り込むべく活動しているような気がする。
いつも通り食事を食べ終わって今日は休日である。最近納品にも行ったのでお出かけする予定もない。完全にフリーって奴だ。完全なホリデイ。いつもならワーカーホリックに毎回納品をしに行くところだが、布団の山本のほうも今は一段落しているらしく、緊急で電話をかけない限りはいつものペースで大丈夫ですと言われているところ。逆に在庫を持ちすぎてもいけないよなと思い、今日は何処にも出かけずのんびりする日にしよう。
のんびりする日とはいえお腹は空く。何かこう、手持ちで珍しいものでも作ろうかとも思ったが、そういうわけにもいかず、精々インスタントラーメンに贅沢にフカヒレをぶち込んでやってそれを昼食にするかとも考えている。
とりあえず動かずに何もしないというのは俺の意思に反するので、家の中を一通りウォッシュで綺麗にし、積もったほこりや汚れなんかを一つずつ家具を保管庫にしまってどかせながら綺麗にしていく。まだ日中寒いとも暑いとも言えないちょうどいい感じなので、家中の窓を開け放ち、空気の流れを作った後生活魔法の中の風魔法で綺麗に家の中の空気を入れ替える。
湿度もそれほど高くない心地よい風が家の中を抜けきっていく。一部は俺が生活魔法による扇風機みたいな風を起こして無理矢理空気を入れ替えてはいるが、なかなかこれも悪くないらしい。あ、カビだ。ちゃんと落としておこう。これも生活魔法で綺麗にできるかな……できた。どうやらカビは綺麗にできるらしい。これでまた家の中の清潔度が一つ上がった。
一通り掃除を済ませた後、一服してから昼食を作り始める。宣言通り、インスタントラーメンを取り出し、茹でながら、スープを濃いめに溶いた後そこにフカヒレを浮かせて、保管庫で百倍速でフカヒレに美味しさを吸わせていく。味噌煮込みでも良かったかもしれないな。フカヒレに味噌。味噌にしっかり味が付いてればフカヒレがその旨味を吸い上げて、プルプル食感にモチモチの麺がそれぞれヌルヌルと絡み合って美味しいかもしれんな。フカヒレは文字通り、ここ最近六十九層に足しげく通ったおかげで売るほどある。むしろ早く売りたい。
この山のごとく積み上げられているフカヒレ、ざっくり八百セット。下手な乾物屋よりもよほど在庫がある。調子に乗って六十九層に十数日入り浸ってひたすらサメを倒していたらこの有様である。流石にこの量は一回のリヤカーで運びきれないだろう。また芽生さんと二人、バラバラに行動しつつリヤカーを二台使って出入りしつつ査定にかける、という羽目になるだろう。まあ、今更そこに文句を言っても仕方がない。
しばらくして麺が茹で上がり、保管庫から取り出した、スープを吸い切ってデンと鎮座しているフカヒレの上に麺を乗せる。流石に水分吸い過ぎだろう……と思えるほどにスープの少なくなったインスタントラーメンを横目に、やっぱり普通の濃さで良かったかな? と少し後悔を始める。
出来上がったインスタントラーメンを食べながらテレビをつけると、昼のお決まりの番組、ゲストを毎回呼んで今はもういくつになったかわからない婆さんがひたすら話しつつ、芸人は芸をやらされてはけなされつつ、年末には固定のお客様が出るというあの番組をやっていた。
「本日のお客様は探索者の緒方拓也さんをお招きしております。緒方さんは去年踏破された熊本第二ダンジョンの踏破者でいらっしゃいます。今日は他の方々はそれぞれお仕事がある、との事でしたのでリーダーである緒方さんのみの御出演となっております」
おぉ、探索者がこの番組にも呼ばれるようになったのか、それとも他に目立ったゲストが居なかったのか。そして一発芸をやらされることになるのか。中々見どころがあるかもしれないな。ちょっとラーメンが伸びるのを我慢してでも画面に食い入るべきだな。同じ探索者としても気になる所だ。
「緒方さんは最近はダンジョンには潜っていらっしゃるのかしら? 」
いきなりの先制パンチを繰り出す容赦ない司会者。そういえば踏破以来あまり話を聞かないな。しばらくの間何してたんだろう?
「最近ようやく落ち着いて潜れるようになったところですね。今まではAランク探索者だからということで、探索者の育成学校とか高校とか、いろんな場所での講演活動に奔走してるのがほとんどでダンジョンにあまり携わりきれてないんですね。おかげで、私の到達層よりも深く潜ってしまっているB+探索者が増えてきてしまっているのが現状です」
冷静に自分の立ち位置を観察できている。Aランクなんだから偉いんだぞ、というわけではなく今俺らより厳しい環境で戦っているB+も多いのだから迂闊なことは言えない、という流れらしい。そしてやはり講演とかそういうものをやらされていたのか、と同情心が湧く。やはり下手に偉くなるものではないな。
と、やはりフカヒレはうまいが、麺にスープが絡まない。フカヒレがスープを吸い上げ過ぎだ。もはやふかひれスープとんこつ味麺付き、といった感じになってしまった。
「じゃあ、これからはまた活躍されるのかしら。具体的にどこに潜るかはきめてらっしゃるの? 」
「そうですね、最近話題になったダンジョンがありまして、そこにちょっと行ってみようかな、と思っています。先に潜っている人からすれば後から追いつきに来た、と感じられるかもしれませんが、ダンジョンを踏破するのは今ではダンジョン庁の許可がないと踏破できない、みたいな流れになってきてますのでとりあえず現状解っている深い階層が何処にあるのか、という辺りに興味がありますね」
最近話題になったダンジョンか。やはり新熊本第二ダンジョンではないんだろうな。そこなら元々自分たちが潜っていた所だし、わざわざ勿体つけて話を盛り込もうとする話にはならないはずだ。
フカヒレがスープを存分に吸ってて美味いな。これはこれで食べ物としてはアリかもしれないが、一袋九十八円の袋めんのスープにざっくり二万円ぐらいの価値があるであろうフカヒレをぶち込んで味わうのはなにかこう、もったいないような気もしてくる。次はちゃんとした調理法を考えよう。
「探索者ということは何かスキルはお使いになられるの? 」
「一応、人に見せられるという意味では【水魔法】ですかね」
「見せてもらってもいいかしら。それともさすがに世間的にまずかったりするのかしらね? 」
「お見せするだけでしたら……この通りです」
緒方さんが【水魔法】で水球を作り出すと、司会者の周りをグルグルと回らせる。
「まあ素敵。これ、触ってみたら弾けたりするの? 」
「さすがにそこまでは。ただ、指先が水で濡れることになりますよ」
「そのぐらいなら結構よ。……あら、本当に水なのね。これ、舐めてみても大丈夫な奴かしら? 」
さすが、肝が据わっている。地雷原でボール遊びをして取りに行ったことがあるという逸話があるだけの人物だ。多少のことなら揺るがないのだろう。
「では一滴、どうぞ」
緒方さんがちょうど口に入るぐらいのサイズの水球を司会者の口元へもっていく。司会者は餌に食いつく魚のようにパクッと口に入れる。
「……何も味がしないのね。ミネラルウォーターみたいなものを想像してたわ」
「魔素で出来ているらしいですので、どちらかというと純水に近いものだと思います。ただ、魔素を含んでいますので魔素を媒介にする魔法……たとえば【雷魔法】なんかを使うと感電させることができるんですよ」
「まあ、そういう戦い方もお出来になるのね。興味深いわねえ。私も今から探索者になれるかしら? 」
「さすがにお薦めはしませんが、一日体験ぐらいならいいかもしれませんね」
「その時はエスコートしてくださる? 私も地雷原は歩いたことはあるけどダンジョンは未体験でございますの」
「そうですね、お声がけがあればお付き合いしますよ」
「まあ素敵」
緒方さんも中々恐ろしいことに首を突っ込もうとしている。この人、もしかすると本当にダンジョンに潜り込むかもしれない人だぞ。そんな相手に安請け合いをしてしまっていいのか?
「これから潜られるに当たって注意するとかはございますの? 」
「そうですね、ダンジョンも同じ構造で同じ風景だから他も全部同じ、というわけではないんですよ。それぞれのダンジョンで違う点が必ずありますので、それに注意しながら探索を行っていくのと、それからとにかく私は今の状態では何処のダンジョンについても潜り慣れていないという形になりますから、先に進んでる方々には敬意をもって接するように心がけてはいますね」
「それは大事ね。肩書が下でも敬愛するべき方とかもいらっしゃるでしょうし、そういう物だと思っておけばいいのかしら? 」
「それに近いものだと思います。まあ、一応ここまでに積み上げてきた経験とか勘みたいなものはまだ残ってるはずですので追い抜いて追い越してどうの、というわけでもありませんし、出来るだけ気楽に、Aランク探索者だからって肩ひじ張らずに頑張っていこうと思います」
緒方さんの肩の力が入りっぱなしなのが気になる。やはり彼女のプレッシャーはかなりのものなんだろうか。実際に対峙してみないとその怖さは解らないらしいが、緒方さんは何層のボスと対峙している気分になっているんだろうか。六十層のリッチ……ある意味お似合いな表現かもしれないなこれは。
フカヒレがスープをすっかり吸ってくれたおかげでついに麺に絡めるスープがなくなってしまった。少し麺も伸びたのもあるが、これはこれで美味しい……いや美味しいが、手間と費用と原価を考えると美味しさにいびつさが残って仕方ないな。これも一つの経験ということで、新しいレシピを考える時に役立つ失敗だろう。フカヒレラーメンを作るなら多めのスープでしっかりフカヒレに吸わせるということで落ち着いた。
「本日はどうもありがとうございました。今後のご活躍に期待しております」
「ありがとうございました」
番組は終わり、伸び切った麺とスープを吸い切ったフカヒレを食べきると、しばらくフカヒレ料理は作らないことを決断する。これは自分で食べるよりも売って人に喰わせるほうがまだ利益になる商品だということが解ってきた。俺の料理レベルではまだまだ太刀打ちできないようだ。
さて、昼から何しようかな。どこかに出かけるでもなし、夕飯は時間になったら考えることにして、のんびり情報チェックと行こう。毎日ダンジョンに潜っていたら世の中に置いていかれてしまうからな。普段自分がチェックしないようなニュースも見て、世相に置いていかれない程度に人気のコンテンツや探索者スレッドなんかを絡めて色々と見て回ろう。
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