1271:第三回ダンジョンマスター会談 3 別れ
ダンジョンで潮干狩りを
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無事に相談も終わり、喧嘩をすることなく皆が納得する形で担当場所を決めることが出来た。
「そうだ、安村さん。みんなが使ったノートは回収しておいてね。後で分析に回して文字と文章の解析を行えばもしかしたら向こうの文字に関しては読み取れるようになるかもしれない」
場が収まったところで真中長官が自分の癖を晒しだし始めた。
「そんなにこちらの文字が欲しいなら、我が発音記号と文字の表を書いて残しておいてやろう。それで少しは分析が進むはずじゃ」
「……それは非常に助かります。文字だけでもやり取りができるようになれば一つお互いの親睦も深まろうというものです」
表面ではそういっているがこの長官、己の知識欲を満たしたいだけである。決して今後の外交活動の検証に役立てようとか、そういうことは三の次四の次ぐらいの話のはずだ。
「とりあえず文月よ。そちらの発音を一つずつ言ってみてくれるか。それに対応する文字を書き記していくからの」
「わかりました。あ、い、う、え、お……」
芽生さんがあいうえおーと発音しながら、それを聞いてセノが表を作り出す。読めないが、これが発音に対する文字コードらしい。日本語一文字に対して一字で対応してくれるなら便利なんだろうな。
「これで国際ダンジョン機構に対してまた一つマウントを取れるぞ、しかも日本語で判別できる文字表の出来上がりだ。これを公表して日本が先進的にリードしていると証明できれば一気に評判を持っていける」
真中長官がまた嬉しそうにしているが、向こうの文字を読めるようになる、というのは確かに考古学者や言語学者にとってはうれしい瞬間なんだろうな。
他の四人は、コーラを飲んだりお菓子を食べたりしてのんびりくつろいでいる。何とも和やかな会談があったものだ。これがただの一般人……では若干無くなってしまったが、その庭で秘密裏に国家的事業の一端が行われているとは思うまい。
「こんなものかの。発音については……これはまた別の機会が有ったらじゃな。長い付き合いになるんじゃろうから、ちょっとずつやっていけばよかろう」
「感謝します。これでまたそちらのことについて深く知ることが出来ました」
真中長官が素直に頭を下げてお礼を言っている。ダンジョン庁の長官ともあろう人が頭を下げる相手なんてそういないと思うのが普通だが、この人は下げて効果がある頭ならいくらでも下げる、といったタイプの人。つまり変なプライドがないのだ。自分の頭を下げる効果について熟知した上で効率的に頭を下げることができる人だと思っている。現に俺も何度も頭を下げられているし、それに調子を乗せられてか、自宅の庭でこんな事態にまで発展している。結構人たらしでもあるな。まあ乗っちゃう俺も俺だが。
「安村はこの結果で良かったのかの? せっかく仲良くなった我らなのじゃからもっと手元によせておいて、真中に対して好条件を引き出す手札にも使えたろうに」
セノが舌で手を舐めて顔を洗いながら俺をからかう。
「前回の会談から今回の会談までは、いわば一つの流れだ。ちゃんと次の就職先まで世話するのも俺の仕事だと思えば、これでようやく通常業務にだけ専念できるってもんさ」
「ほう……欲がないな」
「そうでもない、その分の稼ぎはちゃんと懐に入れさせてもらっている。むしろ稼ぎすぎてるぐらいだ。なら、それを金の形じゃなくても他の人に丁寧に分配する作業だと思えばそう悪い話でもない。後、今回の会談は俺は表に出てないからな。今回の話をまた多人数の前で披露してダンジョンの場所を決めるって話なら多分断っていただろうけど、リーンの機転がよかったのかそれとも偶然か、こんな所にダンジョンが出来てしまったからな。探索者としてはダンジョンが……なくなる……まで……」
そうか、リーンを任地に赴かせるって事は、このダンジョンも踏破しなきゃいけないって事になるんだよな。
「そろそろおひらきのおじかんなの。そしてやすむら、ふづきのおねえちゃん、さいごのおしごとなの」
リーンが食べ物を置くと、こっちをじっと見る。
「これは、やすむらたちがやらなきゃいけないおしごとなの。だからちゃんとやるの」
「そう……だな。うん、そうだ。リーンが勝手に立てたとはいえここにダンジョンがあって、ダンジョン探索者は最終的にはダンジョンを踏破しなくてはいけない。確かに、これは俺達の仕事だな」
リーンに向き合う。リーンは真っ直ぐな目でこちらを見つめて来る。これでもダンジョンマスター、自分の役目は心得ているということだろう。
「そうだね。巻き込む形になったとはいえ、ちゃんと片付けはしないといけないな」
画面の向こうから真中長官まで俺の背中を押してくる。
「洋一さん、せっかくだし二人でやりましょう。今まで何回も目にしてきましたけど、壊すのは初めてですよね、ダンジョンコア」
芽生さんがハッキリと口に出す。なんだ、残念に思っているのは俺だけか。
「短い間だったけど、毎朝楽しかったよ、リーン」
「こちらこそ、まいあさごはんをごちそうになってありがとうなの。ほんとうはおれいをしたいところだけど、ダンジョンマスターのおしごとにはんするからぷれぜんとができないのがもどかしいの」
「なら、この階層までたどり着いてきた、というボーナスということで何かお渡しするのはどうですか? お二人にはその権利、充分にあると思いますよ」
ネアレスが助け舟を出す。ここまで深くはないが、潜り込んできてダンジョンコアルームにたどり着いているのは確か。我が家の門柱を抜けてダンジョンまでたどり着いたという意味でも一つ、ダンジョンコアをこれから破壊するという意味でも一つ。これで二人分の言い訳にしようということだろうか。
「それじゃ、【索敵】をもらおうかな」
「私は【土魔法】でおねがいします」
「まかせろなの……できたの」
リーンからそれぞれスキルオーブを受け取る。
「【索敵】を習得しますか? Y/N 残り二千八百八十」
「イエス」
「あなたは既に【索敵】を習得しています。それでも習得しますか? Y/N」
「……イエス」
「イエス……イエスで」
二人がそれぞれスキルを習得する。
「うおっ、まぶしっ」
二人分のスキルオーブ習得の明かりで真中長官の目がやられたらしい。芽生さんのほうを見ると、向こうもこちらを見ていた。
光が収まると、たしかに索敵範囲が広がったような感覚がある。索敵二重化でこれで俺も七十層近辺で奇襲を受けるようなことはないだろう。芽生さんも土魔法の二重化で攻撃手段が更に強化されたはずだ。
「さて、受け取ってしまった以上、これは破壊しないとな」
台座のダンジョンコアに手をかける。芽生さんも両手をダンジョンコアにくっつけている。
「やすむら」
リーンに呼び止められる。何だろう、最後のセリフかな。
「あしたのあさごはんはもういらないの。これでおわかれってことにしたほうがいろいろとタイミングとかシチュエーションがいいの。だからこれでしばしのわかれなの」
「そういえば二十四時間の猶予時間があるんだったな。割ってすぐさよならってわけじゃなかった」
「雰囲気ぶち壊しですが……二重の意味で壊しますよ? 」
芽生さんが力を籠め始めると、ダンジョンコアがたわみ始めた。一定以上の圧力をかけたら壊れるらしい。
「じゃあ、行くぞ」
「はい」
力を籠め、ダンジョンコアに圧力をかける。ダンジョンコアはしばらく形を無理矢理保とうとしていたが、ある一定のところでパンっと弾けるように壊れた。風船を割ったような気分だ。すると、頭の中にいつもの音声さんの声が流れ始める。
「ダンジョンが踏破されました。二十四時間後、ダンジョンは破壊されます。中に存在する人は時間が来た時点で自動的に排出されます。急いで脱出してください」
「おめでとう、これで二人もAランク探索者を名乗れるね。どうする? Aランク探索者になるかい? 」
真中長官が画面の向こうから茶化す。
「いや、今回のでAランクになったらどこのダンジョンを踏破したのかと話題になってしまうでしょう。B+ランクのままのほうが色々と都合がいいと思いますのでそのままでお願いします」
「わかったよ。今回はいわば非常時にあたるということで、二人のランクアップは無しだ。その分の利益は懐に入ったはずだし、それで納得した、ということにしておこうかな」
真中長官としても、ここでAランク探索者を名乗ると言われても色々と説明行脚に行かされるだろうし、俺たち自身も言い訳に困ることになる。今回の会談場所及び話し合いは内密でやっていることだ。今後も踏まえておけば今のままでいるほうが得は多いだろう。
「さて……私はこの辺で失礼するよ。今日の話についてまとめて報告をする相手がいるからね。ササっと終わらせてササっと帰って、明日中には日程調整を終わらせなければならない。彼らのことは任せたから、またよろしくね」
そういうと真中長官は通信を切る。お疲れ様でした、と。
「さて、片付ける前に渡すものは渡しておくか。セノもネアレスも、それからユミルとサムエ、好きなもの持って行っていいぞ」
保管庫から大量のお菓子やら酒やらジュースやらを大放出する。明日は買い出しだな。それぞれ気に入ったらしい、または気になったらしいものを持っては自分の保管庫に詰め始めた。セノは酒が出た瞬間その酒を確保している。しばらくお預けになる可能性もあるんだし、渡せるものは渡せるうちに、だ。
「そうだセノ、ガンテツに会いに行くことがあったらこいつを渡しておいてくれ」
「まあ、近況報告のついでにもっていってやろう」
ガンテツ用のアルコール度数の高い貴重なウィスキーを手渡しておく。最近会ってないが元気にしているだろうか。その内新熊本第二ダンジョンのスレッドも流し読みしてどんな感じになっているか、ライブ配信があったら見てみるか、色々確かめる方法はあるからな。もしかしたらチラッと映ってるかもしれないし。
物の分配が完了したところで机を片付け、スマホを外してノートパソコンを仕舞い、お開きの時間になった。
「それじゃあ、各人ダンジョン建設のほうよろしくお願いします」
頭を下げる。ここは頭の下げどころだろう。ここで下げなくていつ下げるというのか。真中長官の代理の頭では価値がないかもしれないが、それでも効果はあるはずだ。
「はい、承りました。後はお任せください」
「なんとか、がんばって、みる」
「任せてください! 立派なダンジョンを作って人を呼び寄せてみます! 」
ネアレス達三人がまず転移していく。セノはまだ居る。
「まあ、我もまだちょっと作り切れんところがあるからな。他の四人に負けんように頑張ってみることにする。最後に、いつものあれくれ、あれ」
ちゅ〇るだろうか。買ったなりの箱を丸ごと渡すと、人化して受け取った。
「うむ、これじゃ。結局これが一番癖になる食べ物じゃったのう。相変わらず味は薄いがな」
それがセノの最後の言葉だった。そのまま転移していき、リーンと俺と芽生さんだけになった。
「じゃあ、また会う機会があったらよろしくな、リーン」
「やすむらもふづきのおねえちゃんもそうけんでいるの」
「またね、リーンちゃん」
リーンも転移していき、頭の中にはカウントダウンの音声さんが響くだけになった。
「俺達も行くか。行くと言ってもここが家なんだが」
「家の中に戻りましょう」
ダンジョンを抜けて庭に戻る。ダンジョンはまだ開いたままだ。中にはもう何も残ってはいないが、きっちり二十四時間後にフッと消えることはいろんな方向から確認されているので間違いはないが、その瞬間を見送ることはないだろうと思っている。
さっきの挨拶で、このダンジョンとのお別れは済ませたのだ。後は明日の今頃になって消えて、そして二日後の朝に消えているのを確認できればそれでいい。
「さて……会談でお腹空いたな。おやつでも買いに行くか」
「渡せるおやつは全部渡してしまいましたしね。ミルコ君の分も補充しておかないといけません」
「よし、コンビニ行こうコンビニ。ついでにおでんも買って帰ろう」
家に鍵をして二人で出かける。寒さはまだ遠くにあるが、何故か少しだけ、背中が寒く感じた。
ここで一区切りです、ここまでありがとうございました。
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