127:九層乱獲RTA
九層をテクテクと歩いていると、やはり森の中心部が気になる。一体何があるのか、それとも何もないのか。森のほうからモンスターが来る以上、視線は通っていないかつ中心部に行くほどモンスター密度は上がっていく事になるんだろうか。
今チラチラこちらへ向かってくるモンスターは実はごく一部で、本当は中心にもっとわんさか居るんだろうか。それとも、モンスターリポップコロニーみたいなものがあって、そこから無限に産み出されていたりはしないだろうか。
「やっぱり中心が気になるな」
「何があるのかってこと? 」
「何があるんだろう……ワクワクが止まらないが、実力がそれを許してくれそうにない」
「じゃぁ大人しくしてましょうね」
「はーい」
ワイルドボアの肉がどんどん積みあがっていく。こんなに肉まみれになったのは初めてだ。保管庫にあるだけで四十を超えた。魔結晶もほぼ同量手に入れた。ジャイアントアントの魔結晶はそれ以上だ。牙も魔結晶の三割位の量がある。ここから更に八層へ向かうまでに増えることを考えると、今日は大漁であると言えるだろう。
「結局キャンプして九層で戦うのと、四層でひたすらゴブリンシバキ倒してるの、どっちが儲かるだろう」
「ステータスへの経験値的なものを考えると、九層潜ったほうがお得な気はしますね。それにCランク目指すなら九層で頑張るべきって言ってたの安村さんじゃないですか」
「そういえばそうだったな。じゃぁ気合いれて頑張るか」
気合を入れなおす。ここで頑張って稼ぐことで目に見えない経験値を得ているに違いない。そう思えば経験値が稼げてお金も稼げて、戦いに慣れ始めた九層がベストポジションであると言えよう。今はとにかく数の経験をこなす。ついでにお金も溜まる。ウィンウィンの関係がここで成立する。
「あぁ、ここまで来ると経験値が数値でほしいな。後何匹倒せばあの物量にも押されずに戦うことが出来るんだ」
「そもそもステータス自体が概念なんだから無理では。それに強くなってるのは間違いないし、タイムアタックで一時間で何匹倒せるかを基準にしてみるとかしかないんでは」
「タイムアタックか、久しくやってないな。今から一時間で戻りながらどのくらい頑張れるか確かめるか」
「それがいいかも」
時間は今午後九時ちょいといったところ。よし、今のドロップと時間をいつものメモに書き込んで、今から一時間でどれだけ儲けられるか勝負だ、己と。
「はい、よーいスタート」
「よっしがんばるぞー」
「出来るだけ音を立てながら歩こう。そのほうが早く寄ってくるはずだ」
「なるほど、ついでに出来るだけ森側を歩きましょう。そのほうが向こうも見つけやすいはずです」
「そうしよう。きついと感じたら山側へ離れる感じで。ステータスブーストの常時使用が何分間まで耐えらえるかもついでに実験する」
「無理してへばらないでくださいね」
「お腹が空いてくるからわかるさ多分」
さっきの十層お通夜雰囲気は何処へ行ったのか、二人して気合を入れて九層を回る。わざとらしく音を出し、それにつられてやってくるモンスターを片っ端から黒い粒子へ還していく。
一~四匹が一パーティーとして出てくるジャイアントアントだが森に近いところを歩いているせいか、どうも二パーティー分を同時に寄せてくることもあるようだ。数が五匹を超えたらパチンコ玉で二匹に牽制を仕掛けて相手が同時に向かってこないように調節しつつ、確実にジャイアントアントの首を落としていく。
ジャイアントアントは噛みつきに来る場合必ず姿勢を低くしてくる。その為頭を跳び越してる間に首をはねられたら最少手数でジャイアントアントを葬ることが出来る。
酸を飛ばしてくる場合は緊急回避するしかないが、酸を飛ばしてくる戦法はあまり使ってこない。おそらく仲間に当たらないようにするという配慮があるんだろう。でも十層では周りに仲間がいるのに使われたな。なんか行動のトリガーみたいなものがあるんだろうか。
次々に、でも息抜きが出来る程度の感覚でワイルドボアとジャイアントアントが出てくる。ワイルドボアは居るだけ邪魔なので見つけ次第近寄ってぶっ刺して昇天してもらう。なんかこいつ、六層に出て来てた時のほうがはるかに厄介だったぞ。それともなにか、暴走族みたいに群れてるとオラついてるけど一人だとマ〇クの隅っこでダブチとバニラシェイク食べてるようなあれか。
時計をちょいちょいと確認しながらタイムアタックを続ける。一応スマホのアラームが鳴る設定にしてあるので確認する必要も無いんだが、次々とドロップを保管庫に放り込んでいくのでそのついでに、という感じだ。
十五分経った。疲れは今のところ大丈夫。酸を被弾することも無く、二人ともほぼ健康体であると言える。ここまでに倒した数およそ五十匹、ドロップは後で数えよう。そのほうが楽しみが増える。
「二十分ぐらいたった? 」
「まだ十五分。クオータータイムってとこだな」
「まだまだいける」
「無理はするな。疲れを感じたら水飲んで一息入れるぐらいで」
「タイムアタックなのに良いの? 」
「そっちを気にしてダメージを受けたら意味がない。休むときは休むの」
ワイルドボアを串刺しにした後、一瞬モンスターの湧きが止まったので一息入れる。この時間に次の十五分に備えるのだ。
俺も保管庫からまだ冷えているはずのコーラのアイスバッグを取り出して一口飲む。冷蔵庫から出して十二時間。百分の一だから七分。アイスバッグでさらにドン。まだ飲みどきだな。
「まだ冷えてる? 」
「いいかんじに冷えたまま」
「じゃあタイムアタック終わったらご褒美に頂戴」
「あいよ」
休憩し終えると再び森へと意識を向けながら八層の階段へ向かう。出てくるワイルドボアとジャイアントアントをあれこれ戦法を確かめながら、最速で倒して次へ行く。ワイルドボアはもうここではゴブリンと同等のレベルの存在で、それより美味しいドロップをくれる相手になってしまった。成長したな俺も。
ジャイアントアントは酸と噛みつきにだけ気を付ければあとはステータスブーストをかけていれば避けれる。さすがに酸を避けながら飛び付く度胸までは無いが、それでも一対二の環境で避けられている今ならさっきよりは少しマシなメンタリティを保ったまま行動できていると言えるだろう。
「次、ボア三アント二リンク」
「りょーかい、ボアは全部やる」
「任せた」
前にソードゴブリンにマチェットを曲げられてしょげていたころを思い出す。やはり人間どんなことであろうと壁にはぶち当たるものなのだな。あの時は質で、今回は物量で負けた。物量に対抗するにはやはり物量だろうか。つまり手数を増やす事。
十層以降に潜る時は他のパーティーと合同で行く、というのが現状で最も都合のいい方法になるか。しかし、デメリットとして保管庫スキルは使えなくなる。
「アント三、一任せた」
「あい」
次は、もっと強くなってしまう事。ひたすら戦闘を繰り返し金を貯めて今のステータスブーストの限界を超える事。いつまでかかるか解らないのがデメリットか。
次に、パーティーメンバーを増やす事。保管庫スキルをパーティー内のみの秘密として共有する仲間を探すのだ。デメリットは宛てが全くない事。
「ボア三、全部やる」
「はいよ」
……地道に稼ぐのが一番だな。スライムを六千匹狩ったんだから、ジャイアントアントも六千匹狩れば光明の一筋ぐらい見えるようになるだろう。
それまでひたすら戦い続けるのがベターだな。ここが踏ん張りどころだ。毎回変わり映えのしない戦闘が続いたとしても、それを繰り返すのは嫌いじゃない。ライン作業と同じだ。一匹一匹同じに見えて実はほんの少しだけ差異を見つけたり、そういうのはむしろ得意なんだ。
「もしかして結構考え事してる? 」
「スライムと同じ数だけジャイアントアントを相手にしたら強くなれるかなって」
「多分普通の探索者を辞めてると思うよその量倒したら」
ジャイアントアント六千匹か。魔結晶だけで三千個、二百七十万の儲けになるな。
「じゃあ頑張ってみるか、何匹目ぐらい相手にすると目に見えて変わってくるのかも知りたいし。アント二、一ずつで」
「了解。じゃぁ置いていかれないように私も頑張らないと」
「ほどほどで良いよ。二重生活って結構疲れるから」
「んー、でも任せっぱなしは私も好きじゃないんですよねー」
「そう任せられてるようなつもりはないんだけどなぁ」
「今のところ私のダンジョン生活は安村さんの行動と私の講義の日程で決まってますからね」
確かに。もうちょっと余裕のある生活でもいいような気がする。というか余裕のある生活できるのでは? この間の【火魔法】売却代金で十分潤ってるような。
「まぁ、一人の時は清州行ったりもするし……」
「あ、それ私聞いてない! アント三、二任せた」
「了解。しまった、黙ってるつもりだったのに」
「そういえば、ステータスの件どうするんです? バラしちゃうって話」
「戻ったら小寺さんたちにもしようかなって」
「にも、という事はもうすでに種蒔きしたんですね。 アント二、一ずつで」
種蒔き、という表現があってるかどうかは微妙なところだ。お互いジャイアントアントの首をはね、目を潰しつつ会話は進む。
「了解。一応清州でね。信頼できる筋に託した。ネタ元が俺という事は伏せて」
「目立つの嫌いなんですねぇ。あんな目立つネタを全国に振りまいておいて」
「IP開示請求されて特定されたらその時は人生が終わるか、感謝状をもらうかどっちかだな。アント三、一任せた」
「了解。感謝状と一緒に従業員の恨みももらいそうですね」
文月さんはワイルドボアを一直線に刺すとそのまま持ち上げて地面に叩きつけている。段々戦い方が豪快になってきているな。力を籠める余裕があるという事は、まだ疲れてないってことだろう。
「忙しくさせてしまったのはギルドの職員も同じだからなぁ。身内から恨みは買いたくない。ボア二、一ずつ」
「了解。まぁどうせ探索者の誰かって事でしょうし誰かが恨みを引き受けてくれてると思いましょ」
「謎の探索者Xによるスライムドロップ確定事件。果たしてその真相やいかに」
「たまたまバニラバー食べてたスライム大好きおじさんがスライムにあげた所ドロップが確定しちゃったんで皆にお裾分けした」
「それが真実でいいやもう。アント三、一任せた」
「了解。真相は闇の中って事で。あ、キュアポーション出ました。これで三本目かな」
他愛もない会話を挟みながら狩りをし続ける余裕が出てきた。これは最高記録に期待が持てそうだ。後十五分。
「しかし、会話する余裕が出てきたという事は」
「強くなってる証拠ですかね」
「アント三、一任せた。こんな感じで十層も攻略できるようになるといいな」
「了解。しかし、一杯来ますね」
今度は一気に二段突きをして蟻の両眼を潰してから横に回り、首を落としている。怖い。
「パラパラと来てくれる分には問題ないな。同時に八匹とか九匹来なければ。ボア二、アント二、ボア任せた」
「了解。遠距離攻撃手段がある敵がいかに厄介か解りましたよ」
「いくら群れる生物でも、同時にきて精々三匹だからな。立ち位置を変えて時間差を少し付ければなんとかなる」
と、階段が見えてきた。どうやら無事に一周して帰ってこれたらしい。帰り道は確保した。後はこのタイムアタック中にどれだけ狩れるかだな。
「階段見えた。これで一周してきたことになるな」
「じゃぁ残り時間は通り抜けて適当に時間潰しておきましょう。アント二、一ずつ」
「了解。そうするか、戦果のほども気になるしな」
「ちなみにですけど、十層と九層の中心部どっちがきついと思います? 」
「地図すら完成されてない九層の中心部。多分十層楽に回れるようになってもきついと思う」
「根拠あります? ボア三全部やる」
「了解。十層なら少なくとも山側に敵は湧かないから」
「なるほど、三百六十度警戒するのは無理だと」
全周囲に聴覚を這わせることは今の俺でもできる。だが目は前にしかついてない。どれだけ目を凝らしても見えないものは見えないのだ。
「それに加えて遠距離攻撃が来るから、後ろから酸吐かれたら人数何人居ようが避けようがないよ」
「なるほど、酸に対するバリアが必要ですか」
「もしくは確実な遠距離攻撃手段。【火魔法】売らずに使ってればこれも防げたのかもねえ」
「目先の利益にとらわれすぎて今大ピンチって奴ですか」
「でも、あの資金があるから今ここにいるわけで……悩んでも無駄だな。アント三、一任せた」
「了解。もう一個出れば解決ですか」
「二個出ても良いぞ。そしたら一個ずつ使える」
二個とも有用なスキルが出る保証はないが。むしろ一個も出ないほうが確率としては高い。
「選べるならどんなスキル欲しいですか」
「そうだなぁ……やっぱりシールド張ったりそのまま攻撃に転用できたりするスキルかなぁ」
「そんな便利なものありますかねえ。ボア三、一任せた」
「了解。あればいいなぁ」
応用が利くもの。たとえば【火魔法】なら火で壁を作って視線を遮ったり壁そのものでモンスターを焼いたり、火の矢を作って相手に飛ばしたりできたのだろうか。
【水魔法】で水のバリアで体を包むことで、液体をバリアに染み込ませることでここまで届かないように出来るのだろうか。
スキルについて手持ちの情報が少なすぎるな。また調べて学習しておかないとな。
と、スマホのアラームが鳴る。一時間経ったようだ。
「ここまで。今の敵倒したら階段に戻って精算してみよう」
「何匹倒したかは解るんです? 」
「ドロップ率から逆算して割り出す」
「ドロップ率の計算は? 」
「もう頭に入ってる」
「じゃぁ後は数えるだけですね。こっちで拾った分全部渡します」
階段までいそいそと戻る。その道中にも出会ったが、まぁロスタイムという事にしておこう。
作者からのお願い
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