1259:第二段階へ
翻訳して多田野さんに伝える。多田野さんは一瞬戸惑った顔をした後、メモをしてこちらに向きなおした。
「なるほど、五名ですか。念のためですが、こちらに来なかったダンジョンマスターの意見をお聞きしたいのですが。どのような理由で断った方が居るのか気になる所ではありますね」
「前と同じ場所にまた立ててほしいと言われたダンジョンマスターが大半じゃな。あっちもあっちで引き留め策や新しい仕組みのダンジョン……これはおそらくガンテツが勝手に広めて置いていったようじゃが、あっちにも通信ができるダンジョンの作成キットみたいなものが配られていたようじゃった。ただ、今の形のものよりは出来が悪そうなのでもしかすると通信は出来ても他は今までのまま、という可能性が高いのう」
ふむ……ガンテツは海外でも、という言い方は少し引っかかるが、他の場所でもちゃんと新しいダンジョンを作らないか? という同志集めをしていた様子はうかがえる。そんなことまでしてくれていたのかと思うと、ガンテツに早々と新熊本第二ダンジョンを立てさせたのは少しばかり損失だったような気がしてきたな。
「なるほど。やはりあちらのダンジョン庁に似た組織もダンジョンマスターの囲い込みはちゃんとやっていた、ということになりますか」
「そうじゃな。あっちにも【保管庫】や【鑑定】のスキル所持者を通してダンジョンマスター達と交流をしているような形跡があった。考えることは土地は違えど似たようなものだったということじゃな」
そういえばそうだったな。向こうにも公開した上で【保管庫】や【鑑定】を所持している探索者が居るんだから、同じようにダンジョンマスターと友好的な関係を結ぶのは難しくないんだよな。納得だ。そして向こうのほうが踏破された数は多いだろうし、それぞれの国や地域で新しく作るのか、前の場所に作り直すのか、そういう話し合いがされててもおかしくはないと言える。
「そんな中で三人も引き抜いてこられたのは上々と言えると思います。セノさん、ありがとうございます」
多田野さんが真中長官に代わって礼を言う。
「気にするでない、我が好きでやったこと。それに他の地域へ渡っていた間に色々と他のレアスキル所持者の動きを見ていたが、一番見ていて面白かったのが安村だと言えるからのう。その点でまだまだ魅せてくれるものを持ち合わせていると考えておる。しばらくゆっくりした後、我も次のダンジョン作りに取り掛かるとするつもりじゃ。何かダンジョンについて意見なんかが有ったらそれを取り入れることも考えておる故、安村に言づけてもらえば伝わるはずじゃからのう」
「解りました。その点は安村さんを過剰に働かせることになってしまいますが……安村さんとしてはそのあたりは大丈夫なのですか? 無理を強いていたりはしませんか? 」
俺の負担を気をかけてくれているらしい。お互い誰かに振り回されるところがある、と言うところで共感を得たのかもしれないな。
「まあ、ある意味普段通りってことですからね。今から全ダンジョンマスターがこっちに来る、なんて話じゃなくてよかったと思っていますよ。これで肩の荷がまた一つ下りたってことでいいんじゃないですかね」
「では、現状で新しくダンジョンを作れるダンジョンマスターは五名、ということで報告は挙げておきます。それ以外に何か、こちら側に請求したり伝えておくべきことはあったりしますか? 」
報告ごと……何かあるかな。
「そうですね、七十一層以降に出てくるモンスターからのドロップ品を小西ギルドに預けたので、いずれ届くだろうから査定に向けて色々とお願いします、ということぐらいですね」
「それについては小西ギルドからも連絡を受けています。現在輸送中とのことなので、しばらくしたらこちらに届く手はずになっています。安村さんには前のマップの分も含めて、査定手配が遅延していること、申し訳なく思っております」
「そこはまあ、お金にそこまで困ってないのでちゃんと査定をしてもらうほうが大事だと思ってますので落ち着いてゆっくりやってください」
「助かります。では、これで失礼します。連絡については間違いなく真中に伝えておきますので。後、この場でダンジョンマスター誘致計画の現状資料をお送りしておきます。そちらのセノさんやダンジョンを作ってもらっているリーンさんと共有しておいてください」
多田野さんは資料をこっちにファイルでよこすと、通信を切る。これでダンジョンマスター引き抜き作戦は第一段階完了かな。
早速資料に目を通す。各地の自治体や企業から打診があった場所についてかなりわかりやすく整理されている。これなら読む俺もあまり負担にならなくて済む。かなり賢い人が作ったのだろうな。俺ではここまで解りやすく場所について説明することは難しいだろう。
「ふむ……なるほど」
「お主が納得するのはいいのじゃが、我は文字を読めないんじゃがのう」
「そうだな……これはまとめてどこかで……いや、何処かというよりはリーンのダンジョンで、だな。まとめて説明会を開いた方が良さそうな話ではあるな。候補はより取り見取りだぞ。どこも人口がそこそこ多くて交通機関にも不便がない。不便になりつつあるところはあるが、ダンジョンが出来ることで不便が改善する可能性にまで言及してる。土地の広さも申し分ない。これならダンジョンを立てても社会的な混乱を引き起こす可能性は低いと考えられるな」
「ほう……では、その内お主がまとめて説明してくれるってことでいいんじゃな? 」
そうだな。まだ出会ったことがないダンジョンマスターも居るし、この情報に関してはネアレスに教えてそこから口伝いでというのには難しいから、一度全員集めて会議という形態でまとめて話し合う必要があるだろうな。
「その時が来たら、だな。そっちも良さそうな日ごろを見繕って、全員集まれるようにしておいてくれるとありがたい」
「なるほど、道理じゃな。では集まれるタイミングをリーンにでも言づけておくことにしよう。計画の進み方から考えて、リーンのダンジョンを踏破するのは最後のほうになるじゃろうから、それまではしばらくリーンの相手を頼むぞえ。では我は早速ネアレスにこのことを伝えてくることにしよう。ではまたな」
セノは転移していった。これで一仕事前進というところかな。今夜には資料を読み込んである程度見ながらじゃなくても説明できるようにしておくか。
さて、六十三層に戻って軽く運動した後昼飯だな。エレベーターで早く着いた分はダンジョン庁との打ち合わせで消費してしまった。帰りはちゃんと茂君も狩って帰りたいし、そもそも六十四層を回る間に自己強化にも努めたい。
まずはエレベーターで移動し、他のリヤカーがあることを確認しつつリヤカーをいつものところに停めると、準備運動がてら六十四層を回る。あえて出力を高めにして、ギリギリを狙わずにできるだけ全力雷撃を撃つような形で進んでいく。
ネアレスは言っていた。今はまだ六重化できるほどの段階まで高められていないと。なら、この先どうすればいいのだろうかという指針はない。自分で体験して自分で努力して、自分でその感覚を掴むしかないと。
その為に必要なのは持久力か、瞬間火力か、その両方か。とりあえず持久力は毎回の六十四層でよりスピードを上げていくことで挽回は出来そうな気はする。問題は瞬間火力のほうだな。常に全力雷撃……と思って出しているのが全力じゃない可能性がある。これについては持久力マラソンの後に色々試してみることにしよう。
まずは一時間ほどかけてゆっくり体を温める作業からだ。さぁ、暖機運転にワニと亀には付き合ってもらうことにしよう。
◇◆◇◆◇◆◇
きっちり一時間準備運動をしてきた。さあ、待ちかねたお昼の唐揚げを食すことにしよう。本来なら芽生さんも同席させてこの出来栄えを評価してもらう所だろうが、今日のところはまだ実験段階。だからしょうがないんじゃよということにしておく。
まだ表面から湯気がしっかりとあがるホカホカの唐揚げを、お茶碗にワンクッションさせながら口へ運ぶ。口の中でジワリと広がる生姜とニンニクの風味、そして醤油のたれの味が複雑に絡み合い、そしてグリフォン肉の内側からにじみ出てくるしっかりと中まで熱の通った肉の味が奥歯の奥を喜ばせる。これは……いいな。この唐揚げならいくらでも入りそうだ。とりあえず二つそのまま口の中でしっかりと咀嚼させ、唐揚げの素材と俺の味付けそのままの味を味わう。三つ目へ行く前にご飯とキャベツで口の中の味わいを一旦リセットしておく。
次は、マヨだ。マヨをプニッとだけ唐揚げに乗せて口に運ぶ。マヨの酸味が更に加わり口の中が更に美味しくなる。これもまたいい。タルタルをつけたら更に美味しくなるのは自明の理である。早速タルタルも試す。もしこれが小麦粉ではなく片栗粉で揚げていたら、よりカリカリサクサクでタルタルソースの抜群に合う素晴らしい一品に仕上がっていただろう。
またご飯とキャベツで口の中をリセットして、他の調味料も試してみることにする。他の味付けは……焼肉のたれとか青シソ、甘酢あんかけ用のたれもあるな。どれを選んでも味わい深いことになりそうだが、今回は焼肉はやめておくか。味が濃すぎて他のものと混じってしまう可能性がある。甘酢あんかけを次は試してみよう。酸味が強くてより口の中がサッパリしそうである。
今日は唐揚げだけの食事だが、何種類も肉を味わっているような気分になっている。グリフォン肉はまだまだいろんな方面に応用が利きそうだ。なにせ鶏肉に近いということは、鶏肉用のレシピがそのまま応用できてしまうかもしれないというポテンシャルの高さがある。高級品とはいえ、自分たちが味わう分の肉は確保できている。チキンカツでも親子丼でも照り焼きでも何でもできる。
ふぅ……楽しめたな。これからもまだまだ楽しめると思えば、七十一層で頑張ることもこの際いとわない。ワイバーンほどの価格は付かないにしろ、超高級鶏肉としての立場は揺るがないだろう。今後も食の楽しみにしていこう。
食休みをして午後、しっかりとスピードを上げてマラソンを続けていく。五時間少々の内何回かは休憩するとはいえ、自分の身体強化も上げていくつもりで自分の限界にチャレンジする。一撃で倒せる相手であるとはいえ、気を抜くのはあまりよろしくない。できるだけ全力雷撃を常に打ち続けるつもりで戦いに臨もう。今までは気楽にめぐっていたが、ここも現状最深層と思われている場所なのだ。気楽に回っているところを見られでもしたら……と、向こう側から見慣れた五人組とばったり会うことになった。
「今日も一人でマラソン? 頑張ってるわね」
結衣さんは気楽な顔をして対応する。どうやらこの階層の難易度にも随分慣れた様子だ。
「自分の限界を知りたくて全力で回ってる途中だ。そんなわけでこのルートはまだ湧いてないと思うぞ」
「こっちは……このルートは通ってきたばかりだからまだ湧いてないと思うわ」
「参考にする。じゃあまた後で」
「頑張ってねー」
美味しいルートを通るために打ち合わせをして別れる。お互いに稼げるルートを通りたいというのが望みだろうからな。俺も小遣い稼ぎと訓練のために、結衣さん達はスキルオーブ集めも兼ねてるのだろうが、しっかりと回りたいところではあるだろう。結局その後二度結衣さん達と鉢合わせする結果になり、そこそこの稼ぎという感じになった。
六十四層は結衣さん達の目から見ても魅力的なんだろう。モンスターがそこそこ強くても六十五層以降のモンスターみたいに分裂したり毒攻撃してこないぶんだけ御しやすい、という点を考えるとこっちにしばらく居続けるんだろうな。
こっちは結衣さんと顔合わせするタイミングで休憩、と思いながらランニングスタイルで階層を駆け巡っているため、さしたる疲れも感じずにスムーズに探索を進められている。これはこれでありなんだろうが、自分を追い詰めてスキルをフル稼働させて自分を鍛えていく、という点については少しばかり物足りないものがある。
やはり六十九層辺りをグルグル回るほうが良いのだろうか? 見せ場はなくなるがそっちのほうが雷魔法の能力上昇には一役買ってくれる気がする。ここは悩みどころだが、うまく調節していくなり、一回潜ってみて試すなりして戦い方を考えていこう。
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