1258:おねだりと報告
昨日は午前中を使って羽根を二回分納付し、その足で昼食を取った後、料理研究に時間を費やした後夕食のパンの残りと料理のテスト作品で胃を満たし、しっかりとのんびりできた。充実した休日であったと言えるだろう。
今日も朝の目覚めは順調。まだまだこの布団は効能を発揮していてくれるらしい。改めて布団と枕に感謝をしておこう。いつも通り羽根を集めて納品することが、布団に対するお礼のような気がする。
羽根も必要そうな量を納品できたことだし、今日からまた少しずつ溜めていってまた納品する日までに一杯羽根を集めて幸せに眠れる人を増やせるように頑張るとしよう。
いつもの朝食メニューを作ってリーンと一緒に食べる。庭で食事をすることにも慣れてきたな。しばらくはまだこうしているのも悪くないと思っている。
「きのうのパンはもうないの? 」
「気に入ったならまた買ってくるぞ」
「むふん、たのしみなの。ぜひおねがいするの」
どうやらパン屋のパンがかなりお気に入りになったらしい。今度の買い出しに行った時は食パンだけでなく菓子パンや総菜パンを一緒に買っておいてリーンと一緒に食べるってことにしよう。後でメモッとこ。
「つぎにいつかいものにいくの? リーンはただまつことしかできないかなしいうんめいのとりこなの。たよれるのはやすむらだけなの。おいしいパンのためならこのみをさしだすこともいとわないの」
そう言いつつクネクネとポーズをとるリーンだが、悲しいほど圧倒的に肉体的成長が足りていない。せめてあと十三年分ぐらいは成長してくれないとどうにもぐっとこない。
「リーンがそうやっても魅力的には見えないから諦めたほうがいいぞ。そっちの趣味もないしな」
「いけずなの」
頬を膨らまして抗議をしてくるが、そういいつつも食パンに追いジャムして甘さをたっぷりにして食べている。見てるだけでこっちも甘ったるくなってきた。バターだけのトーストが甘く感じるぐらいだ。キャベツで舌をリセットしていこう。
「まあ、次の買い物では間違いなく買ってくるから大人しく待っててくれ。それまではそのジャムで我慢しておいて」
「わかったなの。やくそくなの。ぜったいなの」
今メモっておこう。買い物リスト、食パン以外の菓子パン……と。メモを書き終わって食事の続き。目玉焼きを一口で食べ終え、キャベツで皿を綺麗にしながら食べ、最後に残ったトーストで綺麗に皿に残った目玉焼きの残滓を掬い取ると、ウォッシュ。これで表面上は綺麗になったので後は水洗いしておくだけでよくなった。水仕事の手間も省けるようになったのは地味に大きい生活魔法。
「やすむらは、きょうはひとりでダンジョンなの? 」
「今日はそうだな。何事もなければ一人でダンジョンだ。いつも通りダーククロウの羽根を集めて、六十三層に下りて六十四層で戦って、お昼食べて六十四層で戦って、ダーククロウの羽根を集めて帰る。日常そのものって感じがするな」
他に何かイベントがあるとすれば、結衣さん達に出会うかどうかというあたりだろう。まあ、毎日イベントが何かしら発生しても忙しくて困るし、俺も自己鍛錬という目標があるのだからそれに向かって集中する時間も欲しいところがある。
「きょうもはりきっていこうなの。ふぁいといっぱつなの」
リーンなりに応援してくれているのだろう。
「そうだな、今日もいつも通り頑張るから、精々そこから見ててくれ」
「まかしとけなの。じゃあきょうもごちそうさまなの」
そう言い残すと転移していった。さて、俺も片付けして昼食の準備に入るか。今日は何にしようかな……気分的には揚げ物がいいな。何を揚げるか……贅沢にグリフォン肉を唐揚げにするか。いつかはためしておかないといけない課題でもあるし、失敗したとしても失敗料理を芽生さんに喰わせてしまうのも悪い。ここは一人で試して腕前を一つ上げていくことにしよう。
炊飯器のご飯をセットすると早速調理開始だ。一口大にグリフォンの肉を切り、生姜とにんにくを利かせた醤油と酒のタレを作り、そこに充分漬け込む。グリフォン肉は量があるので漬け込みタレもそれなりに量が必要だ。配合の分量さえ間違えなければ大丈夫だろう。
揉み込みタレを多めに作って肉を完全に沈め込むと、しっかり揉んで揉んで揉んで……よし、後は染み込ませる時間だ。二百倍時間に五秒放り込んで取り出し、もう一回揉む。そしてまた五秒放り込んで揉む。これで揉みながら三十分漬け込んだ美味しい唐揚げの素が出来上がった。後は揚げるのみ。
油の温度を上げている間にキャベツを刻んでマヨを乗せ、大皿にたっぷり唐揚げが乗せられるようにしておく。流石にこの肉を一度に揚げるのは難しいので、二回に分けて揚げる必要があるな。一回目をまず揚げだす。ニンニクと生姜の香りと肉を揚げた油の香りが周囲に立ち込め始め、既にお腹が空いてきている。これは良い昼食になりそうだということがすでに確定してきている。これを二度揚げして更にカラッと揚げて食べるのだ、美味いのは間違いない……これが美味くなかったら趣味料理を返上するしかないだろう。
一回目を揚げてすぐさま保管庫に移動させ、熱が冷めないうちにまた油の温度を上げて二回目の揚げ作業。二回の揚げ作業が終わったところで、油の温度を上げて二度揚げ。二度揚げも二回に分けて行う。
一回目の二度揚げ作業を始めると、更に軽い音で揚げられていく唐揚げの音が爽やかにキッチンを奏でる。揚げを終えて大皿に移すと、そのまま保管庫に入れて冷めないようにしておく。その間に揚げ作業で下がった油の温度を元に戻し、二度揚げ二回目。なかなか楽しくなってきた。
二度揚げを完全に終わらせて、保管庫の唐揚げと合体。ついでに一つ味見。
……おぉ、美味い。プリップリでサクッサク。内側はプリッとした鶏肉の感触を残しつつ、外側はサクッと軽やか。そして内側から染み出て来る脂がもう最高に舌を喜ばせる。ダンジョンに潜らずにこれを一日食べ続けていたいぐらいの美味さだ。この唐揚げなら万出しても惜しくはない。今まで食べたどの唐揚げより美味いと自画自賛するところもあるが、確実にその辺の中華屋で千円そこらで出て来る唐揚げとは明らかにグレードの違う味の深さと口の中の広がりがある。
これにマヨをつけたりタルタルをつけたりしたらもう口の中が炸裂しそうだ。タルタルのチューブはたしかまだ……うむ、あるな。今すぐ付けて味見したいところだが、それは昼の楽しみに残しておこう。
飯の準備も出来たところで炊飯器を保管庫にしまい込み、食器の用意を確認すると飯の準備はヨシ。保管庫の中を確認して行くと、ミルコ用のコーラを確認する。大分温くなってしまっているな、これでは美味しいコーラとは言えない。冷蔵庫に冷やしてあるコーラと入れ替える。今日はキンキンの冷えたコーラを差し入れできそうだ。お菓子はコンビニで適当に見繕っていくことにしよう。
そして忘れてはいけない、スーツに着替えた後保管庫から籠手を出し、腕にはめる。肘から下は一応これで守られてくれる事にはなるが……ワニに噛ませて強さを判定するとかやっていきなり破損するのも困るしな。とりあえずお守りとして着けている、ぐらいの認識で行こう。実際に使えるかどうかは本番で上手くいってくれることを祈るしかないな。
柄、ヨシ!
圧切、ヨシ!
ヘルメット、ヨシ!
スーツ、ヨシ!
安全靴、ヨシ!
手袋、ヨシ!
籠手、ヨシ!
飯の準備、ヨシ!
嗜好品、ヨシ!
車、ヨシ!
レーキ、ヨシ!
保管庫の中身……ヨシ!
その他いろいろ、ヨシ!
指さし確認は大事である。籠手の運用一日目、出番が無いのが一番だがうっかりミスという可能性だってあるのだから通い慣れた六十四層とはいえ注意はしていこう。
◇◆◇◆◇◆◇
いつもと同じ時間、同じ電車、同じバス。いつもと違うのは気温と籠手ぐらいだろうか。若干袖が暑くなってくる感触があるが、これも慣れるまでの問題だろうな。新装備はいつも慣れるまでにそれなりの時間がかかる。違和感はしばらく残るだろうがそれもしばらくの間だ、防具が行動を阻害するのは回避型の探索者としてはあまりよろしくない傾向なのだろうが、ある意味での急所を守るための装備なのだからそこは我慢するしかない所だろうな。
ダンジョンに着いて……今のところ特に報告するようなことはないな。あと数日は平和にダンジョンに潜れるだろう。入ダン手続きをして茂君を狩り、倍速で六十三層へ向かう。倍速を使った分以上に往復運賃を考えても稼げるのは確か。多分概算だと三千万円ぐらいは余分に稼げるはずだ。今日も頑張って稼ぐとするか。
さて、いつもの時間つぶし……と思ったら、エレベーターに転移してくる人が、いやネコが一人。
「よう、久しぶり、セノ」
「うむ、しばらくじゃな。壮健でおるか? 」
セノが転移してきた。中間報告でもあるんだろうか。それとも終了のお知らせだろうか。
「とりあえず、暇なダンジョンマスター全員と顔を合わせてきた。それで結果報告というか、一応お主には話しておこうと思ってのう」
「それなら七十層まで下りて真中長官にも聞いてもらったほうがいいな。予定変更だ、七十層までこのまま降りるぞ」
「すまんのう手間をかけて」
「乗り掛かった船だ、港に着くまで付き合うさ」
六十三層までのボタンの更に下の、七十層までのボタンを点灯させる。このボタンも数が増えたな。どうやら問題なく押せるところを見ると、燃料は余分に入っていたらしい。
六十三層のボタンをもう一度押すと、六十三層のボタンは消灯した。どうやら途中で階層を変更してもちゃんと動くらしい。ここでデバッグが一つ済んだことになるが、似たようなことは他の探索者でも行っている可能性は高いのでそこを細かく気にする必要は無さそうだな。
七十層に着き、一旦リヤカーを外に出すと、机の上にパソコンとスマホを取り出して、テザリングで通信を行う。これでノートパソコンでも問題なくここからでもネット通話が使えるようになっている。
真中長官のアドレスに繋いでまずは向こうに通信可能かどうかを確かめる。しばらくすると、画面に多田野さんが現れた。
「お久しぶりです安村さん」
「お久しぶりです多田野さん……長官はお留守だったりしますか? 」
本人が出ないってことはトイレにでも行ってるのかそれとも他の仕事で席を外しているのか……タイミングが悪かったかな?
「いえ、今ちょっと会議中なのですよ。なのでしばらく待ってもらうことになりそうなのですが、急ぎのお話でしたら私が言付かっておきますが」
「どうやらダンジョンマスター側からの報告があるそうで、その話をしようと思ってたんですが、待ってる間にこちらで話をまとめておきますね。何分後ぐらいにその会議は終わりそうですか」
「三十分ほどあれば充分だとは思います。その間ずっとお待たせするのも悪いでしょうし安村さんの三十分は貴重でしょうからやはり私が聞いておいたほうがいいかもしれませんね。どうしますか? 」
「……と、いうことなんだがセノとしてはどうなんだ? 」
セノにも一応話は聞いてもらっているしスピーカーモードなので会話は丸聞こえのはずである。
「ふむ……まあ、結果報告だけじゃから時間は取らせんし、長々と話すつもりもないからざっくりと話してそれで終わり、でもよいのではないかのう」
セノ的にも長い話になる予定はないらしい。だったら多田野さんを介して結果報告だけしておいて、後の細かい調整や話は俺が聞いておいて後で話し込む、という形でも問題ないだろう。
「長い話じゃないそうなのですぐに終わるそうです。多田野さん、会話の内容を長官に引き継いでもらう形でいいですか」
「解りました。通訳のほうよろしくお願いしますね」
「ええ、そこはしっかりと」
セノがカメラに映り込む。多田野さんは一瞬ぎょっとした後、いつもの冷静な表情に戻ってこちらの説明に耳を貸す形になった。
「では……結論から先に言おう。これ以上のダンジョンマスターの移籍は現状では可能性は低い。誘いに乗ってきたダンジョンマスターは三名、という結果になった。我とリーンを含めて現在フリーのダンジョンマスターは五名、ということになるな。何ヶ所候補地を出してくれるかどうかは解らんが、今現状でこちらで活動できるのはそれが手いっぱいじゃ、ということをまず伝えておく。すまんのう力不足で」
作者からのお願い
皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。
続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
後毎度の誤字修正、感謝しております。





