1253:スキルオーブオファー
高橋さん達と情報交換をし、ここのモンスターの特徴を教え、代わりにモンスターに襲われる際の心構えや近接戦でのやり取りの状況やパターン、どのように近接戦では相手が動いてくるのかどうかなどを相談し、高橋さん達の持ってる情報内での動画や格闘の様子などを見させてもらった。
「このぐらいですかね、情報としてお互いに持ち合う部分は」
「あぁ、大事なことがもう一つ。もう気づいてるとは思いますが、ここ、六十九層以降は通信ができるようになってます。月面着陸した! とでも言って動画を上げて報告することもできるようになってますよ」
「本当ですか……本当だ、アンテナ出てる。安村さん、何かしました? 」
高橋さんがまた勝手にやらかしたんじゃないだろうな? という目をしながらこちらを見つめて来る。
「新熊本第二ダンジョンと同じシステムの通信を、新階層から実装できるようになったらしくて。少し時間はかかるけどそっちに改築したほうがいいかい? ってミルコに問われたのでそれでお願いしますって話を通しただけですよ。今回は特に何かをしたというわけではないですね」
「なるほど……じゃあ、七十層に到着した証拠をそのままスマホ越しに動画配信で報告するということも可能というわけですか。では早速やってみることにします」
高橋さん達はそれぞれ動画を撮り始め、こんな所がダンジョンの深くにあるぞ、という証拠映像を残し始めたらしい。
あ、今のうちにギルマスにも確認を取っておくか。まだ居るなら今日中に連絡も終えたいからな。ギルマスのレインに通話をかける。
「はい、坂野です。どうしたの安村さん。まだダンジョンの中だよね? 」
「そうです。今から戻ろうかと思っていたんですが、ギルマスは今日まだギルドに居ますか? 」
「今日は遅番でね、午後七時までは確実に居るから……後一時間半ぐらいは居続けることになるね。何か報告でもあるのかな? 」
お、これはタイミングがいい。今日中に報告と納品を終わらせてしまおう。
「今から上に戻っていくので、新しいモンスターのドロップ品の手配とモンスターに関する情報を送ろうと思います。後、高橋さん達D部隊も七十層に到着しました」
「彼らも中々早いね。解った、そういうことなら安村さん達の到着を待ってから帰ることにするかな。忘れずに部屋まで来てね。エレベーター乗ってる間にうっかり忘れてたってのは、なしにしてほしいかな」
「その辺は……最近ちょっと怪しくなってきましたが芽生さんも居ますし大丈夫でしょう。では、そちらに向かって戻りますのでこれで」
「よろしくねー」
通話を切り、芽生さんに今日中にギルマスにドロップ品の納品とモンスター情報の更新をかけることを伝えておく。
「私は外部記憶装置ということですね。納得しました、忘れずギルマスの所に行きましょう」
芽生さんに望みを託したところでリヤカーをエレベーターに押し込み、倍速で七層まで移動する。エレベーターの移動時間と茂君を狩ってもまだ時間は余るはずだ。余裕をもって行動できるな。
エレベーターの中で仕分け。魔結晶とポーションだけの寂しいリヤカーの上だが、魔結晶の量がかなりのことになって来ている。これは七十三層やその下へ行くようになるとさらに激しくなりそうだ。
仕分けを済ませてちょっと水を飲む。そういえば、宇宙のわりに水分が蒸発して肌がカサカサするとか、余計に喉が渇くとかで困るという感じではなかったな。大気中の水分もそれなりに含まれているということだろうか。ますます謎のマップになったな、宇宙マップ。
「ふぅ……グリフォンの対処法、どうするかね。スキル任せでこのままでいいんだろうか」
「かといって近接を挑んであの鋭い爪でまた服を引き裂かれると困るってところでしょうかね。いっそのこと、スーツの上から装着できる装備を何か見繕うとかどうですか? 籠手みたいな」
籠手か……それは考えてなかったな。そういえば鬼ころし本店へ行った時も籠手は確かにあった。清州店にもあるかな?
「具体的には流通経路に乗ってるかどうかですかね。量産品として並んでいるなら十分あり得ると思いますし、B+ランク探索者も増えてワイバーンの素材もかなりの数納品されているはずです。亀の甲羅にしても買い取りは行われていますし、その辺の素材を使ったものなら充分実用に耐えうるかもしれません。スーツを買いなおすよりは安いと思って仕入れてみるのも手ですね」
「なるほどな。ちょっと考えてみることにするか。次やられたら確定で試してみる、ということでいっちょ考えに入れとこうか」
七層に着き、いつもよりさらに速くダッシュをして茂君を狩り、戻ってくる。ギルマスを待たせている以上、この手の仕事は手早く終わらせるに限る。行って戻ってきて一層へ通常速度で向かい、退ダン手続き。
査定カウンターは運良く並んでいなかったのでそのまま査定をお願いする。後はリヤカーを返してギルマスの部屋まで行けば今日のお仕事は終了だ。このまま夕食を考えがてら鬼ころし清州店まで足を延ばす、というのも時間的には余裕があるし可能だな。
三分ほどで査定は終わり、今日の頑張りが金額として返ってきた。今日のおちんぎん、二億二千九十八万二千四百六十円。端数が出たのは今日もワイルドボアの革を混ぜ込んでおいたからだ。二億を安定して稼げるようになったのは大きい。芽生さんにも渡すと、上機嫌で支払いカウンターへ振り込みに向かった。あれだけ苦労してグリフォンにも真剣に立ち向かったんだ、これぐらいの査定金額は命の値段としても……いや、そこそこかな?
ある意味では十分に貰いすぎてる気がしないでもないが、俺が稼いでないと夢がないからな。俺は探索者の稼ぎとして夢を振りまく側にいるんだ。俺がこれだけ稼いでるからこそそれを目指して更に稼ぐために深く潜る探索者が存在する、と思えばこれを素直に受け取るのは大事なことだろう。
支払いカウンターで振り込みを済ませ、休憩室に行く……と、その前に芽生さんに首根っこを掴まれた。
「ギルマスの所に行くのでは? 」
「忘れてたわけじゃないぞ、その前に一口水を飲もうとしただけであって」
「それはお仕事を全部終わらせた後にしましょうねー」
そのまま芽生さんに引っ張られる形でギルマスルームへ連行される。仕方ない、ぬるま湯は報告を終えた後だな。
ギルマスルームでノック三回。いつも通り中へ入る。
「安村さんかな? 待ってたよ」
ブラインドを開いて外を眺めていたギルマスがこちらへ向き直る。石原裕次郎かあんたは。
「先ほどのご連絡通り、報告に来ましたよ。まずはいつものデータ転送からやりますね」
「うん、ファイル入れる先はそこの……そうそう、モンスターデータのところに七十一層ってフォルダ作っておいたからそこに入れといて」
「はい……ついでに他のデータも入れときますね。参考資料なので」
「助かるよ。で、ドロップ品のほうだけどそっちはどうなってる? 」
データを確認したギルマスが机の上を少し綺麗にして、ドロップ品を置くスペースを確保する。
「とりあえずグリフォンからは爪と肉がドロップしました。肉は……鶏肉に近い感じですかね」
ドサッとドロップ品を十個ずつ渡すことにする。
「皮なしの胸肉って見た目だね。味見はもうやったの? 」
「やったにはやりましたが、美味い食い方を極められるかどうかはまた別ですね。今回はちょっと激ウマというほどの美味しさでは無かったような気がします。次回に期待ですかね」
「なるほどね。とりあえずこれは本庁のほうへ送っておくよ。預かり十個ずつはちゃんと覚えておく。それ以外の預かりは醤油差しみたいなのが百個、フカヒレが二十五個、で合ってたかな」
メモ帳に書き残してあるログと見比べて確認。
「あってますね。今のところそれだけは確実なようです。その調子だと醤油差しのほうは続報はまだ無い様子ですね」
「医薬品開発には金と時間がかかるからね。今回は金のほうは後払いでいいってことになってるから、時間を純粋に使って良いものが出来るかどうかの瀬戸際だと思うよ」
医薬品開発の方向で話は進んでいるらしい。そっちのほうはさっぱりだから研究者に頑張ってもらうしかないだろう。別に急ぎで金が必要という話でもないんだ、そこはある程度納得して、金がいくらになるかよりもどれだけ世の中のためになるかという方向性で進んでもらうほうが大事だからな。
「じゃあ、これで一仕事終えたということで」
「ちなみに、このグリフォンの肉、どうやって食べたの? 」
「回鍋肉にしてみましたが、唐揚げとかのほうが美味しく頂けるかもしれません。今度チャレンジしてみますよ」
「味の良さは私では解らないからね。その点安村さんなら美味しく調理できるんじゃないかな」
「唐揚げですか。確かに美味しそうですねえ。次回はそれでお願いしますね」
「解った、次回の探索はグリフォンの唐揚げな」
メモっておこう。今度こそぬるま湯をもらいに休憩室へ行こうとすると、またもや行動を阻止された。
「まだ何かあったっけ? 」
「スキルオーブのオファーの話を忘れてますね。何にいくらでオファーを入れるか考えないと」
「そうだった。すっかり忘れてた」
「もう老化の始まりですか? 」
「話の後に色々あったのと、茂君で走ってるうちに何処かへ飛び去っていたらしい。さて、何にするか……」
探索・オブ・ザ・イヤーのスキルオーブの相場価格……これはギルマス曰くかなりの信頼度で出来ているらしいので、この金額よりも高く入れておけば問題ない、が、高すぎても逆に困るだろうからほどほどの所で収めておかないとな。
【雷魔法】の価格が五千万まで上昇している。とりあえずこれを六千万で入れて、【火魔法】を前と同じく三千万円で入れておこう。芽生さんも横目で相場を見ながら、これとこれとこれと……と三つぐらい選択するようだ。
「値段と品物を決めたので早速行ってきます」
芽生さんは早々と支払いカウンターに話しかけ、スキルオーブのオファーをしているらしい。さて、他にどんなスキルを……要らないといえば要らないが、視界を共有するのには【索敵】をもう一つ手に入れておいても良いところではあるだろう。ただし人気スキルであり、特定の階層ではほぼ必須とも呼べるスキルで自分で拾っても自分で使っても良いという点では【物理耐性】と双璧を為すスキルではある。オファーを入れたところで確実に手に入れるのは難しいだろう。
今のところはこの二つだけで良いかな。困った時にまた悩めばいい。出会った時は運がよく、そうでないときはそういう運命にあるものだということにしておこう。
芽生さんのオファーが終わったタイミングでこっちも後ろに並ぶ。
「安村さんもスキルオーブのオファーですか? 」
「ええ、一つ、いえ二つお願いしますよ」
「解りました。こっちのほうに記入お願いします」
どうやら口頭ではなく、記入式に形が変わっていたらしい。これも全国共通のオファー制度の改良という点なんだろう。書類が残っている時点で確実にオファーを入れていたのに、と言うことができるわけだ。
書面に【雷魔法】を六千万円、【火魔法】を三千万円で購入したいと書き、連絡先と名前、メインにしているダンジョンについて合計二枚の書類を書くと支払い嬢に渡す。
「えーと……はい、これで申請承りました。今更安村さんに説明するのはアレですが念のための確認事項ということで。ダンジョンの中にいて連絡が付かない場合は次の優先者にオファーの話が流れることになりますのでそこのところの了承をお願いしますね」
「解ってるさ。じゃあ、よろしくお願いします」
「はい、任せておいてください……と言っても私たちがすることってあんまりないんですけどね」
たしかに、ここでスキルオーブがドロップしたとしてもより高いオファーかより近い場所を選択しない限りは出番というものはないだろうし、出品者とオファー者の物理的な距離の問題もある。たとえ一番高いオファーを出していても、例えばだが小笠原諸島まで受け取りに行く……なんて話になればその話はおじゃんになってしまう可能性が高い。どこのダンジョンから出土するかも大事なポイントの一つだ。精々近いところで出てくれることを祈ろう。
お祈りしながら一服、ようやくぬるま湯を頂く。ふぅ、今度こそやることは終わったかな。
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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
後毎度の誤字修正、感謝しております。





