1252:七十二層調査 2
「ついにでたか、グリフォン二匹編成。下手に動くとどっちかがダメージって事になるから、先に動いてきた方を全力で迎撃するしか方法はないわけだが……芽生さんどうする? 」
「そうですねえ……どんな動きをしてくるかが解らないですし、そもそもコンビネーションプレイをしてこないとも限りませんから、洋一さんは頭を狙ってください。もしかしたらスタンするかもしれません。その状況でならやり様はいくらか思い浮かびますので、一匹目は頭狙い、二匹目は翼狙いで行ってみましょう」
頭狙いか。今のところ試したことはない。グリフォンの頭が本当に弱点化されているなら昏倒やスタンの可能性は高くなる。が、今までの固定化された戦闘方法がまず地面にたたき落としてからの首ちょんぱだったので、確実性は落ちる。あぁ、どうせなら七十一層で安全に戦えるうちに試しておくべきだったな。
「よし、ダメならダメで数百万のスーツの出費が出るだけか。金で元が取れるなら安い、そう思って試しておくか」
「もしうっかりポーションでもでたらそれで補填できるんですからここは腹をくくる所かと」
「そうしよう」
グリフォンの警戒範囲に入る。グリフォンは二匹同時にこちらへ飛んできたが、ほんのわずかだけ先にこちらへ到着しそうな一匹の頭部へ全力雷撃を放つ。頭に全力雷撃を喰らったグリフォンはそのまま力を失って落ちる。頭部への雷撃はそれなりに有効だったようだ。ただ、スタンというほどのダメージは与えられていなかったらしい。ふらふらとしながらも、足元はまだしっかりと地面につけている。
だが、時間差をつけて倒すということは可能になった。もう一匹が目の前に迫る。目の前に迫ったグリフォンの爪を避けつつ、全力雷撃でこっちは片翼に当てる。片翼を当てたほうは芽生さんに対処してもらうことにする。
「翼ないほうよろしく」
「了解」
言葉少な目にやり取りした後、まだ身動きが取れる頭に雷撃を喰らった方のグリフォンを相手取る。動きは鈍くなったものの、その地面に着いた足は確実なダメージをこちらに当てて来るぞという空気をまだ残している。
もう一発必要か。グリフォンが動き出す前に全力雷撃を続けて頭に打ちこむ。二発の全力雷撃で、ようやくグリフォンは動きを止め、全身がけいれんを始めた。一人でグリフォンを倒す際は二発分の全力雷撃をした後で止めを刺しに行かないといけない。それが解っただけでも今日の経験値は充分得られたな。
芽生さんが後ろでグリフォンの首を落としている間に、こっちも圧切でグリフォンに肉薄し、前足が俺をとらえる前に飛び上がって首をはね落とす。斬りおとした感覚はエイやサメと同じく柔らかいものだった。やはり爪による攻撃がメインになるのか。こいつが厄介なスキル持ちでなくてよかったと思う。もし他のラノベや小説みたいに雷属性を持っていて雷撃で攻撃してくるようなタイプだった場合、もっと雷耐性も持っていただろうし、そうなればこの戦い方で勝つことは出来なかっただろう。
と、ここで身体強化上昇タイムが始まった。肩が軽くなり、足元も少しスッキリする。やはりグリフォンは美味しいモンスターでもあるんだな。目の前のグリフォンは爪を、そして芽生さんのほうは肉を落としたらしい。
「二匹、何とかなったな」
「もう三、四回戦って確実に倒せる戦術を組み立てられればここでは怖いものなしになれますね」
「この調子でガンガン行くか。残りの時間もしっかり階段探しと自己強化に充てていこう」
◇◆◇◆◇◆◇
もう一辺、クレーターを過ぎ去った。その間に出会ったモンスター数二十八匹。一時間で大体五十匹ぐらいの湧き速度、というのがここの密度らしい。その間にポーションが最低一本落ちるので、一時間の稼ぎは少なめに見ても七千万近くになる。運よく二本落ちれば一億二千万ほど。ここまでで一番おいしい階層だ。ここでしっかり稼いで、稼いだ金をオーブにつぎ込んで更に強くなる。その為の周回運動だと考えれば悪くない稼ぎであると言えよう。
さて、周辺を掃除したところで再びクレーターの端の集合地点でドローンを打ち上げる。ドローンから見える景色はやはり同じだった。どうやらここから見える範囲だと、隣のクレーターに移っても同じようなものしか見えそうにない、というのが感想だろう。
「こっちもはずれか……いや、当たりを引くって感覚がどういうものかは解らないが、見える風景は同じだな」
「そうですねえ……何かわかりやすい物が有ったりしてくれると便利なのですが」
「例えば大きくはないけど小さい岩とか? そういうのを見つけたら報告ってことで良いだろう。それまではグルグル回ることにしよう」
「もうちょっとこう、目を引くオブジェクトみたいなものが経験上あるはずですからね。それまではグルグル回りましょう」
◇◆◇◆◇◆◇
というわけで、更に二つ道を回ってきた。二回ともドローン観察の結果はハズレ。後は階段から見て左下方向と左上方向である。真上、右上、右下、下側の四カ所を見回ったことで、この方向のクレーターの先には何もない、ということが判明してしまっている。
残りの二ヶ所で何か見つかる物が有れば……有れば、その後の探索がぐっとやりやすくなる。もしなかった場合は、一時間歩いてさらにその先を探して……という経路が出来、最悪合計見積もり三十六時間、もう一つ離れていた場合は二百十六時間ほどの時間を費やして探す必要が出て来る。そこまでしたくはないなあ……というのが本音でもあるが、それだけの時間を費やしてもまだ次の階層が出来る可能性が低いのが正直な所なので、一日に三時間ずつ探索に費やすとして、七十二回に分けて探索する可能性が出てくるとも言える。
「次で何かみつけたいな」
「そうですね、流石にちょっと飽きてきました。ドローンのバッテリーのほうは大丈夫ですか? 」
「そっちは心配ないかな。予備のバッテリーは百分の一の時間でじんわりと放電されてるから予備に切り替えて予備も空だった、という可能性は低いはずだ」
念のため、ドローンを手元に戻して予備のバッテリーと切り替えてみる。ドローンのバッテリー残量はこの後もしっかり稼働できるだけの充分な量を確保していた。
「うん、大丈夫。今回うっかり充電し忘れてもいいぐらいには……うーん。新しい項目が増えてしまった。バッテリー残量低というバッテリーが出来上がった。これは帰ったら一遍全部充電してフル充電の状態にして保管庫にまとめて放り込まないと面倒くさくなる奴だな」
「まあ洋一さんの保管庫事情は他人ではどうしようもないのでさておき、後二回三回使うには問題ないってことですね。じゃあ次へ行きましょう」
◇◆◇◆◇◆◇
左下のクレーターの隙間に来たところでドローンを五度目に放つ。すると、階段を基準にして左上方向の左下側……他に言い様がないんだが、そっちに何かしらのオブジェクトがあることが解った。ここまで何も目視できる物体が無かった以上、こいつを信用して進むのが吉だと思われる。早速芽生さんにも見せて確認する。
「岩みたいなのがありますね。次回来る時はこれを目印に向かうことにしましょう」
「やっと光明が見えた気がするな。さて、ご丁寧にもう一辺回るか、それとも今日のところは次回への筋道を見つけたということで帰るか? 」
「うーん……ようやく戦いなれてきたところではありますが、今日のところは帰りましょう。無理してギリギリの時間を狙うよりも余裕をもって帰りたいですからねえ」
「何事も余裕をもって、だな」
そのまま帰るコースへ向かう。また三十分ほど時間をかけて階段のほうへ向かう。グリフォン二匹のグループは珍しいようで、あれ以来二回しかまだ出会っていない。どちらも同じやり方で倒したので、やはり完全に火力で圧倒するにはもう一段階【雷魔法】を多重化させるか、手持ちの雷撃の一番効果の高そうな白雷を更に五重化させたパワーアップバージョンをお見舞いするぐらいしかないだろう。
せっかくだし二つぐらいスキルオーブのオファーを出して手に入るかどうかは解らないが試してみるのが良さそうだ。【火魔法】と【雷魔法】あたりで良いだろう。地上に戻ったら早速オファーを出すことにしよう。値段は火魔法は前と同じで、雷魔法は確実に手に入れたいのでちょっと釣り上げたオファーで依頼することにしようか。
考え事をしながら片手間でエイとサメをたおし、グリフォンの時だけは緊張感をもって相対する。いくらスーツを破かれる覚悟を持ったとしても、やはり余計な出費はしないに限るのだ。ちょっとした注意でそれが達成できるなら安いものである。
三十分かけて七十一層への階段へ戻ってくる。今日は……ざっくり倒した数だけカウントするとここまででざっと二百体。落としたポーションの数が六個で少なく見積もっても四億の収入は確実だ。これはかなりうれしい計算である。それに、まだ七十一層を歩いて帰る分の収入もある。これは純粋な探索としての収入としては過去一になるだろう。査定が今から楽しみである。
七十一層へ上がり、ここには奇襲がないことを確認すると、北北東に進路を取り、岩石地帯を横目に見ながら階段まで真っ直ぐたどり着くルートを選択する。
「今日は後は楽ですね。さっきまで結構きつめのモンスターを相手に……特にグリフォン二匹はかなりプレッシャーでした、いや今でもかなりのプレッシャーを受ける相手ではありますが、スリルのある探索が出来ましたね」
「ここから難易度が急に上がるとすると、七十三層以降はどんな感じになるんだろうな。楽しみでもありちょっと怖くもある」
七十一層は慣れたもので、何気ない会話をしながら片手間でモンスターを倒していく。ここから苦戦するとすればグリフォン相手に油断することぐらいだろう。心配ないさ、ここのグリフォンは確立された手段で倒すことができる。もっとスキルを撃ちまくって鍛えて、以後の戦闘の糧として行こう。
そして、岩石地帯を横目に見て過ぎ去ったあたりで芽生さんの身体強化が上がったらしい。やはり、芽生さんと俺にはそれなりの身体強化のレベル差みたいなものが有るらしい。ソロで複数回潜ってる分俺のほうが上がりにくく、そしてレベルが高くなっている証拠みたいなものだな。
◇◆◇◆◇◆◇
七十層への階段へたどり着き、真上に浮いているサメを迎撃して更にポーション一つ手に入れた。今日はかなり美味しい目に合えたのは確かだ。後は七層で茂君して戻って、ちょっと早めに探索終了だ。これはグリフォン素材の提出は明日だな。
階段を上がり、メイン業務終わったぁーという感じでグッと背伸び。開放感がある階層だから押し潰されるような感覚こそないものの、やはり一仕事終えたというのは間違いないのであり、後はいつも通り走って茂君を追いかけて捉えて羽根を持ち帰る作業と査定で今日の稼ぎがおいくらになったのかを算定してもらうだけだ。暫定計算だが、二億ぐらいはいくはずだ、しっかり稼いだぞという結果を見るためにも、もうちょっとだけダンジョンに居なければならない。
車を出して走り出す。レーキの出番はここにはない。タイヤ跡が残るような変な走り方をしない限りはこの宇宙には車の走り去った後というものはほぼ存在しないと言っていい。安心してスピードを出し、そのままエレベーターまで近寄る。
エレベーターの前では、高橋さん達が何やら作業をしていた。高橋さん達はこちらを向き、驚き、そして降りてきた俺を見てもう一回驚く。
「車……ですか」
「社用車です。個人事業主になったので全額経費で落ちるらしいので買いました。ここや五十六層では活躍してくれます。移動時間の短縮になって便利ですからね」
「なるほど、保管庫経由で持って来たんですか。あまりに見慣れない見慣れたものが有るのでびっくりしましたよ……あ、書置き助かりました。おかげで迷うことなくにここまで来れましたよ」
高橋さんから礼を言われる。どうやら朝からかなりのペースで抜けて来たらしい。満身創痍ではないが、体のあちこちに疲れの後みたいなものが見える。
「とりあえず、到着おめでとうございます。七十二層までは見てきましたが、まだ階段のほうはみつけられてない状況ですね」
「ドロップ品のほうはどうですか、フカヒレは拾いましたが」
早速情報交換の時間だ。時間には余裕があるしできるだけネタバレしない範囲で彼らに危険が及ばないようにしておかなければな。
「七十一層は下りてすぐにサメが奇襲してくるので注意してください。それと、七十一層からかなりの強敵……グリフォンと仮称してますが、爪がかなり鋭くてうっかり掴まれるとかなりのダメージになると思います。今のところスキル頼りで撃破することは成功してますが、近接戦のみで戦うというのは想定できてないのでかなり厳しいことになるかと思います」
「なるほど、他のモンスターについてですが……」
作者からのお願い
皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。
続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
後毎度の誤字修正、感謝しております。





