1250:昼休憩
ダンジョンで潮干狩りを
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無事に七十層の階段までたどり着き、階段を上がってセーフエリアに戻る。うすら寒さは相変わらずだがここまでしっかり働いてきたので体は温まっている。飯食ってる間に胃袋以外が軽く冷えてしまうかもしれないな。食べたらゆっくりするのも考えものか。
早速いつもの通り机と椅子を出し、アツアツの回鍋肉を取り出す。やはり料理との温度差があるのか、湯気がしっかり上がっているのが見える。炊飯器も取り出し、蓋を開けるとホカホカの……ほぼ炊き立てご飯がお目見え。よそって芽生さんに渡すと、芽生さんは既に回鍋肉のほうが気になっているらしい。
「鶏肉の味噌炒めに見えます。ちょっと趣向を変えたんですか? 」
「回鍋肉を豚肉の味噌炒めと定義してしまうならそれで合ってると思う。今日はグリフォン肉の回鍋肉だ」
「なるほど……美味しいんですか? 味見しましたよね」
「多分、と前提が付くが、高級な鶏肉らしさが出てて美味しかったと思う。味付けのほうは問題ない、ただ心配があるとすれば、これが美味しいグリフォン肉の食べ方なのかどうかわからないという点ぐらいだ」
グリフォン肉第一弾が回鍋肉。もうちょっとシンプルにタンドリーグリフォン肉とか唐揚げとかにするべきだったか。流石に変化球過ぎたか……? と今になって色々考えてしまっているところだ。
「とりあえず、初グリフォン肉ということでいただきます。どんな味でしょうねえ……」
まずキャベツとピーマンを味見して、いつもの回鍋肉であることを確認したあと、肉にかじりついた。
「……」
「……」
二人無言の時間が流れる。しばらくもぐもぐしている芽生さん。一言目をじっと見守る俺。しっかりと咀嚼して、芽生さんがグリフォン肉を飲み込む。しばらくしてから芽生さんが言葉を発する。
「いけます! 」
「そうか! 」
いけるらしい。安心して俺も箸を進める。作り立てを味見はしてみたものの、自信はなかったが今食べてみて思う。肉がぷりぷりしてて非常に良いじゃないか。
「なにより鶏肉のジューシーさがまだ残っているのが良いですねえ。豚肉だともう少しパッサリとしてる感じがしますが、全体的にしっとりとしていていい感じに出来上がってると思います。しっかり焼いてあってもこの弾力を保持しているのは良いですねえ。味噌もちゃんと絡まってて、多分普段入れない豆板醤も入れてますよね? ほのかな酸味が感じられます。後、キャベツとピーマンの炒め加減もちょうどいいですねえ」
芽生さんが一気にまくしたてる。褒められるところがある、ということは美味しいということでもある。ただ、グリフォンの肉を使ってまでそれだけの感想か、と考えるべきところでもある。やはりあれか、もう少し加工に手を加えておくべきだったか。より美味しくするために、片栗粉をまぶすなりして手間暇をかけてやった方が美味しかったような気がするな。
「うむ……やはり高級肉は一手間加えてより美味しくするために努力するべきだな。これではグリフォンの肉に申し訳がないと感じてきた」
「階層が深いから美味しい肉だとは限らないとは思うんですが。このままでも美味しいから問題ないですよ? 」
「いや、趣味料理の男としてここで満足してはダメだと思う。次はもっと美味いものを作ってみせるぞ。その為にはより多くのグリフォンに犠牲になってもらわないとな」
「午後からのグリフォン探しは七十二層で、ですか」
「少なくともいきなり一匹は出てくるんだし、七十一層よりも少ないってことはないだろう。それにポーションと魔結晶だけのドロップ品でも金にはなるのは間違いないんだ、せっかくなら稼いで帰らないとな」
うむ、改めて食べてみるが、これはこれで中々美味いな。ただもっと美味しく出来るだろうという発想がすでにできてしまっているため、いまいち集中できずに居るのはちょっと悲しい所か。でもまあ、何事も失敗を繰り返して成功にたどり着くんだ。高級肉とはいえ最初の一歩でこれだけの味わいを出せたなら充分成功していると考えるべきだろう。
そうだ、飯で思い出した。真中長官とギルマスに「七十二層背景オブジェクトギミック」と書してオーロラの写真を送り付けておく。これで七十二層まではたどり着いたぞ、という証拠にもなるだろう。
食事をそのまま食べていると、真中長官から返事が返ってきた。
「オーロラが七色に輝くということはかなり緯度の高い所に居る可能性が高いね。そもそもオーロラというものは……」
オーロラ講義が始まってしまった。俺はオーロラより回鍋肉が食いたいのだ。食事が終わってから話しかけるべきだった。ちょっとスルーしておいて食事を先に済ませよう。真中長官の講義を芽生さんにも見せ、両腕を開いて見せてどうしようねこれのポーズ。
「食事を終えてから反応をしましょう。それまでは言いたい放題にさせておくということで」
「そうするか。こっちにもこっちの都合があるからな」
そのまま着信音がピロンと鳴るたびに画面の確認はするものの、反応は返さないでおく。
「あ、そういえばグリフォンの撮影まだしてなかったな。七十二層へ行くまでに録画を済ませておくか」
「簡単な倒し方も確立したことですし、サックリ倒してしまいます? それとも難敵だということを意識させるためにわざと苦戦してみます? 」
「苦戦してまたスーツを破られるのは勘弁してほしいからな」
「動画の状況から見て動きが素早いのと爪が硬いことと、ボディは結構がら空きであることを認識してもらえる程度の撮影はしておくべきでしょうね」
ふむ……見せ方を考えなきゃいけないか。どういうふうな撮影にするか悩みどころだな。まあ、わざと魅せプレイを心がけることもない。無理がない範囲で戦って何戦かするところをまとめて明日ギルマスに渡すって形にするか。
美味しく回鍋肉を食べ終えたところで真中長官に返信。グリフォンについて念のため報告をしておく。
「七十一層から新しく出てきたモンスターについては後日動画を送ります。中々の強敵なので戦力評価するのは難しいですが私たちでも苦戦する相手なので良い絵が取れる保証はないですが、こういうモンスターが居る、ということだけは情報としてあげておきます」
返信すると、すぐに返事が返ってきた。
「二種類分のモンスターについてはこっちに情報があるから三種類目ということかな? 楽しみにしておくよ」
そういえばリアルタイムで通信、ということもできるんだよな。情報の保存という意味ではあまり意味をなさないものの、現場の空気を感じることができるという方面では役に立つだろう。もし実際の戦闘の様子を見てみたいと言われた際は中継で見せるって形にしよう。
昼休みを充分に取る。七十二層は七十一層よりもモンスター密度は高いだろうし、体は十全に動かせるようにしたい。七十一層でもグリフォン相手ならそれなりに体が動かないといけないからな。温かいコーヒーで体を温めつつ、ストレッチもしてしっかりと暖機運転はしておく。体はまだまだ調子はいいし肩も上がる。四十肩になるにはまだ早いということだろう。
「午後からが勝負ですね。もしかしたら七十二層をゆっくり回るのも難しいぐらいモンスターが濃い可能性もあります。下りてすぐの戦闘は問題ないとしても、その先がどうなってるか、ですね」
「場合によっては更に火力が必要になる場合もあるからな。その時は一時的に探索の手が止まったとしても、スキルオーブ確保のほうを優先しよう……いや、七十一層で巡ってる間に電話がかかってくる可能性もあるし、その点で言えばここは探索しながらスキルオーブの連絡待ちが出来るのは大きいな」
「そうですね。一人で回るのは問題がありますが、連絡が来た段階で戻って地上に上がって……という形で行きましょうかねえ。私も【水魔法】をもう一段階上げて鋭さとスピードを上げておきたいところです」
俺は何を得るべきかな……雷魔法の五重化で充分火力の面では足りていると言えるし、【火魔法】をさらに発展させてサブアタッカー的な方面として強化していく手もある。今これが欲しい! というスキルは今のところないがあえて言うならそこだろうな。また三千万ぐらいで買えないだろうか。ちょっとした旅行をするにもいい季節ではある。
旅行趣味はないが、せっかくダンジョンのある所まで来たんだし、ということで地元の土産を買って帰るだけでなく、たまには観光をしても……いや、結局旅行したところでそこで何を感じ取ってどう思うかが大事なんだし、そこにあまり思い入れがない自分の性格を顧みると、やはり旅行向きの性格ではないな。
ダンジョンに来ているのがある意味旅行ではあるんだし、そこの風景や風情、そういったものに浸れないといまいち旅行に来てよかった、みたいな感じにはならないだろうな。今現在もせっかく宇宙に来ているというのに、肌寒くて少し居心地が悪い、ぐらいの感想しかでないあたり、俺はそういう物にはとことん向いてないんだろうな。
「さて、そろそろ出発するか。体が冷え切らない内に動かしておかないとな」
「そうですね、お腹も落ち着いてきましたしそろそろ行きますか」
七十一層に再び下り、奇襲してくる鮫を一発で吹き飛ばす。ここの上り下りはもう慣れた。さて、ここからは七十二層の探索に集中することにしよう。出来れば西側も探索したいところだが、七十一層を大きく回るのは七十二層の探索を終えて階段を見つけてからでも遅くはないだろう。
南南西に向かって進路を取り、階段まで真っ直ぐ進むつもりで行く。行きも帰りも一発で行けるとは思っていないが、迷ったと思ったらドローンを飛ばして位置を確認しながら行けばいいだろう。真っ直ぐ行けば一時間ちょいぐらいで進めるはずだ。
しばらくエイとサメを相手にしたところでグリフォンと出会う。撮影するなら今がチャンスか。マウントにスマホをとりつけて、グリフォンににじり寄る。
「戦闘開始したら普通に倒す感じで。無理せず行こう」
「いつも通りのやり方で、ですね。解りました」
グリフォンの探知範囲に入り、グリフォンが相変わらずの快速で出迎えて来る。こっちの火力で翼を吹き飛ばせる範囲まで近寄ってきたところに雷光一閃。片翼を飛ばされたグリフォンが体勢を崩し地面に足を着く。そのタイミングで芽生さんのスプラッシュハンマーが首元にあたり、そこから飛び出る無数のウォーターカッターにより切り刻まれたグリフォン。だが、今回は当たりが悪かったのか、首を落とすまでには至らなかった。
これはマズイ、と追撃の全力雷撃を入れてグリフォンを仕留めにかかる。全力雷撃を受けたグリフォンはおそらくスプラッシュハンマーと蓄積された二回の雷撃ダメージによって徐々に黒い粒子に還りはじめた。今回は手間がかかったな。
「もう一回撮影をやろう。次はうまく倒せた例を表示しておかないとな」
「じゃあそのままマウントしててください。つけ外し面倒かもしれませんので」
バッテリーは持つからしばらく付けっぱなしで良いってことだな。そのまま次に出会ったエイとサメを会うなり手早く倒し、次のグリフォンに来た。次のグリフォンに合図もせず、そのまま取り掛かる。
今回もグリフォンは高速で迫りくる。片翼を雷撃で落とし、地面にたたきつけるまでは同じ。そして芽生さんのスプラッシュハンマーで上手に首を落とすと、黒い粒子に還っていった。ドロップとして爪と肉両方を落としてくれたのは幸運だろう。それを拾うまでをワンセットにして、動画をオフにする。
「ドロップも見せられましたしこれで一安心ですか」
「そうだな。ちゃんとドロップ品まで確認できたのは幸運だった」
スマホを片付けるとそのまま七十二層へ向かう。真っ直ぐ南南西……というわけではないんだが、岩石地帯は見えてきた。アレを横目にしながら南西に向かえば七十二層の階段が見えてくる。
岩石地帯ではこっちもモンスターも戦いにくい。サメが地面スレスレまで降下してこない分だけこっちが戦いづらいし、岩石地帯の岩に身を隠してやり過ごす、なんて面倒くさいことをするつもりもないので正面からスキルで対応してしまうほうが手っ取り早く、効率もいい。
そのまま真っ直ぐ階段方面に近づいていく。まだ階段は見えていないが、大まかな方向性はこれで合っているはずなので、間もなく視界の隅に大岩が映ってくるはずだ。そうなったら大岩に近づくようにしていけばいい。もし不安になったらその時はドローンだな。
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後毎度の誤字修正、感謝しております。





