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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第二章:出来ればおじさんは目立ちたくない

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125/1332

125:~探索者はまたも犯行現場を見た~

 



 森の中には入らず、崖側をサクサクと歩いていく。時々後ろを振り返っては、モンスターが後ろから来てないことを警戒する。奇襲されたらどんなけがを負わされるか考えたくないからな。


 定期的にワイルドボアが出て来てくれるおかげで、稼ぎとしては悪くないものになっている。正直なところを言えば、苦労した分ジャイアントアントのほうが稼ぎの効率は良い。ただ、同時に二匹ずつ相手にすることは現状難しいという所が問題だ。


 今少し慣れが必要だな。ここまでのモンスターもそうだが、必勝パターンを構築するまでが苦戦を強いられる原因になる。ただ、ジャイアントアントは魔結晶のドロップ率が高い分美味しい。ここまでで三つも落ちている。二回戦っただけで二千七百円の収入は破格だ。


 三分に三匹ずつ出てきたとして、一匹の期待値は八百円ぐらい。ゴブリンの二倍弱だ。ここをメイン戦場にできれば、わざわざ泊りがけで狩りをする意味も有ろうというものだ。


 また足音が聞こえる、エンカウントの音だ。野生のワイルドボア三匹が草むらから飛び出してきた。その距離約十メートル。位置を確認し、一足飛びで目標を捉えると頭の上からえいやとグラディウスを突き刺し、一匹天に還る。お肉。返す刀で二匹目にかかると、三匹目へ文月さんがカバーに入る。


 ワイルドボアがこっちへ迎撃態勢を整える前に一閃して鼻先の牙を斬り飛ばし、首の骨に当たる部分に刃を差し入れ、頚椎を切断する。お肉お肉。三匹ともお肉に変わるのは珍しい。何かいいことでもしたっけかな。


 倒してすぐさま、また音が聞こえる。今度はジャイアントアントが一匹で現れた。一匹相手なら大丈夫だ、ゆっくり相手の強さを見ていこう。……と、尻をこちらに向けるような仕草をし始めた。


「酸が来る、避けて! 」


 ほとばしる一筋の線が俺と文月さんの間を通り抜ける。酸だ。酸に濡れた地面の草が少し萎れていく。


「当たりたくないなぁあれ」

「同感だ、ヒールポーションで治ってくれるといいんだが」


 相手が体勢を変えて今度は噛みつきに来るらしい。チャンスだな。噛みつきの体勢で頭を低く襲ってくるジャイアントアントにタイミングを合わせ、背中に乗る。そのまま首を締めあげて相手の頭の動きを抑える事が出来た。


「よし、早速思い切り殴ってみようか」

「行きますよ。まずは拳で」


 文月さんがステータスをのせた全力パンチでジャイアントアントを殴りつける。少しばかり頭が凹んだようだ。ジャイアントアントの力強さに変わりはない、どうやらダメージはほとんどないようだ。


「やっぱ堅いね」

「あんまり効いてないみたいだな。次、目行ってみようか」

「槍でいい? 」

「あんまり気合入れないでね。貫通したら俺に当たる」

「わかった。ゆっくり差し込んでみる」


 ジャイアントアントの複眼にむけてゆっくりと槍を差し込んでいく。多分ジャイアントアントからしたらとてもホラーな映像が目に映っているだろう。ズブズブと差し込まれて行く槍にあらがうようにジャイアントアントが暴れ始める。


「あ、目は柔らかいですね。狙うならやっぱりここかも。えーと、えい」


 今度は逆のほうの目を素早く突く。両目が見えなくなったジャイアントアントは触覚だけを頼りにジタバタともがく。


「ちなみに頭のほうはどう? 槍で殴って何とかなりそう? 」

「試してみましょう」


 槍で思い切り殴りつける。羽交い絞めにしている俺にも衝撃が走る。じたばたしていたジャイアントアントからふっと力が抜ける。どうやら全てを諦めたのか、今ので意識を持っていかれたのか。さすがにこのまま放置するのはかわいそうなので首を落とし楽にしてやる。耐久力テスト実験体第一号はその短い命を終えた。命の代わりに魔結晶をドロップする。


「次、一匹で出たら俺の番で」

「おっけーおっけー。練習台ね」


 すると、都合よくまた一匹でジャイアントアントが出てきた。素早くジャイアントアントの横へ体を入れ込むと、片側に三本ある足の内二本を切り落とす。


「これで持ちやすくなったと思う。一応両方落としとくか」


 真っ直ぐ歩けなくなったジャイアントアントの反対側に回るのは容易だった。もう片側も二本落とす。文月さんが残りの足を両足で抑えつつ、頭を持ち上げる。


「さ、どうぞ」

「どうも。とりあえず拳で殴ってから、剣で頭を割れるか試し切りするわ」


 実践一発勝負で頭を殴って効果無かった時に辛いからな。一応何十匹かジャイアントアントを狩ってきたけど、まともに頭を殴るのは初めてかもしれない。


 ステータスブーストをかけて全力で頭を殴る。頭蓋が拳の形に凹む。


「どう? 」

「ちょっと力が弱くなったかも。効いてるには効いてるっぽい」

「ふむ……やはり九層ともなると素手じゃ無理か。じゃぁ次正面から斬ってみる」

「おけ」


 兜割りの要領で頭を斬りつける。真っ直ぐ頭に筋が通った。硬いとは言われてはいたが、どうやら切りつけられないほどではないらしい。ただ、一発で致命傷とはいかなかったらしく、まだジタバタともがいている。今楽にしてやるからな。


 切りつけた傷に向けてズブズブとグラディウスを差し込んでいく。ある一定の深さまで沈み込んだところで、ジャイアントアントは天寿を全うしたらしい。牙を残し消滅した。


「お、牙ですか。一応レアっぽいですね」

「そこそこ出る。体感ボア肉の半分ぐらいの確率かな。ちなみに魔結晶は二分の一らしい」

「じゃあドロップ的には美味しい空間ですねここ。何よりドロップ品が嵩張らないし」

「ちなみに一番のレアはキュアポーションだぞ」

「まだ見たことないなーキュアポーション。出るまで狩りましょう」


 初めて九層に来た時の俺と同じようなこと言ってるな。みんな同じ感想言うルールでもあるんだろうか。


「出ても狩ろう。とりあえず……そうだな、一時間ぐらいは練習兼ねて、そのあとは二時間ぐらい様子見で狩り続けても良いと思う」

「よし、せっかくのキャンプ狩りなんだし稼いで帰るぞー」

「お、おー」


 なんだか文月さんのテンションが高い。まだ実力が通じると実感できたからだろうか。それとも自分の動き方に対して戦いやすいパターンでも見つけたのだろうか。ずんずん俺の前を歩いていく。俺は聴覚を研ぎ澄まし、歩きながら索敵をする。


 この森の繁り方ならば、音を一切立てずに動くのは人間もモンスターも難しい。目で追えなくても耳で追えればモンスター相手に先制されることは無いだろう。


「後ろ、ワイルドボア三」

「あいよー」


 前を向いている以上、後ろからも湧く。この森エリアのルールみたいなものだと思っている。他のエリアだと通った後はリポップに時間がかかるらしく後ろから奇襲されることは無かった。だが、このエリアは草もある程度長く視線が通りにくいせいか、通った後の道でもリポップする場合がある。


 文月さんは早速後ろを振り向くとワイルドボアをぶん殴りに行く。やはり遠くから突進してくるということはなく、トコトコと目の前に出て来てはそこから走り始めて噛みつきに来る。正直殴りやすい。とっても殴りやすい。ただドロップ品を拾う時に拾い忘れが発生しやすい環境であることは留意したい。


「つぎ、森方向前、ジャイアントアント二、ワイルドボア一」

「あいよー」


 率先してジャイアントアントを殴りつけに行く。頑張ることは良い事だ、羽目を外さないように見守りつつこっちがカバーに入る。ワイルドボアはこっちで仕留めよう。


 ジャイアントアントの突進を槍を地面に置いてそこに重心を置きくるっと体を回すと背中に乗りそのまま首だけを落としたり、正面から槍でぶち抜こうとして傾斜した殻に弾かれたり、触覚と目を順番に潰していったあとで首を落としたり、試行錯誤を繰り返している。良い事だ。


「魔結晶一杯落ちるね」

「だな。二匹に一個。毎分でてくれると時給五万ぐらいになるな」

「それは夢のある話ですな」

「まあ、気張らず行こうや。ここじゃ助けは呼んでも来ないだろうし」


 下手に無理して怪我するのももったいない。怪我したらその分ヒールポーション使って出費がふえるからな。


「一応ヒールポーションがあるから手足千切られない限りは大丈夫だぞ」

「千切られるんですかね……」

「アリは体重の二十倍以上の力があるらしいから、その気になったら軽く噛み千切られるんじゃないかな」

「怖ぁ……噛みつきだけは警戒しとこ」

「次、連続でジャイアントアント二。一旦森から離れよう」


 二人して一旦森側から距離を取る。あまり近寄りすぎると足元がおろそかになる上に、ドロップが見えない。探してる間にスライムに食われてしまうのも癪に障る。


 できるだけ草むらのない平地で戦う、前回九層ではそれを徹底してたな。今回もそれで行こう。森からのこのこと誘い出されてきたジャイアントアントをそれぞれ一匹ずつ処理。ステータスブーストもここでは使い放題だ。疲れない程度に好きなだけ暴れてしまおう。ジャイアントアントの足を全部落とした後で馬乗りになり、トドメを刺さないまま文月さんの動きをじっくり見る。


 うまくパターン化できたのか、肩の力が抜けているように見える。酸が来そうなら徹底的に避けて、噛みつくために頭を下げたところを逆に上を取って首筋に槍を差し込む。綺麗に戦えてるようだ。一対一なら心配なさそうだ。倒せたのを確認するとドロップを回収していた


 相棒の戦いを十分確認できた後、足元のジャイアントアントの首をはねておしまい。魔結晶ご馳走様。


「なんかじっと見られてた気がするんですけどー」

「ちゃんと一人で戦えるかな、と」

「できてたでしょ? 」


 多分大丈夫だと思う。それだけ動ければ一対一なら問題ないだろう。


「一対二になった時にどうしようかねえ」

「パチンコ玉飛ばして一匹潰してしまえば楽になるんじゃ? 」

「今ならそうだな。ちょうど三匹近づいてきているし試してみよう」

「よく聴覚ブースト維持したまま戦えますね」

「ON/OFFするのが面倒くさくなってきた」


 話をしていると森から三匹現れる。四匹だったらちょっと考え物だったがちょうどいい。一番手前の一匹にパチンコ玉を飛ばし、一匹を確実に潰す。


 二匹目は少し遅れたタイミングで文月さんが撃破した。三匹目にはその間にこちらが全力で駆け寄り首を刎ね飛ばす。魔結晶が出た。


「これなら上手くやれそうじゃん」

「どんどん行くか。階段まであと何分かかるかなっと」

「階段まで到達したら何します? 」

「十層ちらっと覗いて様子見て、それから帰ればいい時間じゃないかな」

「おっと、ここで曲がり角ですね」


 地図で言う頂点の部分に差し掛かったらしい。ここから九十度折れ曲がってまたまっすぐ進む事になる。


「少なくとも三分の一は歩いたかな。なんか変な感じだな。回という漢字の中にとらわれたみたいな」

「森というよりも箱庭っぽいですね。もしくは檻の中」

「さしずめ我々は鶏小屋に放たれたイタチってところか」

「全部食い殺すつおつもりですか」

「そこまではさすがに。ただいずれそんな事も出来るようになるのかな、と」

「猶更中央に何があるのか気になってきますね」


 空白の地図か。埋めたい願望はあるが今埋めようとする度胸はさすがにないな。もっと個々のモンスターに慣れてからだ。そしてもっと多い数と当たっても怖気づかない度胸が必要だ。


「案外蟻塚とかだったりしてな。そこでは無数のジャイアントアントがせっせと働いているんだ」

「で、蟻塚の巡る先には女王蟻が?」

「居たら十五層のボスより強そうだな」

「ボスより弱い可能性は? 」


 そのままの妄想を引きついだ場合、答えはこうだろう。


「だったら清州でもう攻略されてると思うんだよね。だから今はまだ未知の領域」

「ま、とりあえず強くなるためと日々の糧を稼ぎに」

「外周を回りますか」


 中央には突っ込まない。確定させたところでまたサクサクと歩き始める。湿気で若干の汗をかくが、汗だくになるほど蒸し暑いわけではないのが救いだ。汗をかく環境ならもっと水分と塩分が必要になってくる。塩タブレットも今後補給物資に入れておくか。




作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
今なら10層中央突破できるのでは
[気になる点] 二分の一は前話で話してる
[気になる点] おっとり刀ってよく使われてますが、これって討ち入りがあって取るものも取りあえず、刀だけ手を取って飛び出していく様、要は慌てていることを表す言葉だったような気がしますので、なんだか作中の…
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