1244:つぎはぎブギウギ
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新作ではないですがカクヨムから移転してきました。
こちらもよろしくお願いします。
あちらでもよろしくしてくださってる方は……まあ、好きな方で読んでください。
涼しくなってきた朝だ。夏は過ぎ去り秋の程よい暖かさが点けっぱなしではなくなったエアコンがそれを教えてくれる。でも、今年の冬は早めに来るらしいからな。一ヶ月でも良いからこのほど良い空気が続いてくれることを願うばかりだ。
先日テーラー橘へ破れた袖について相談をしに行ったが、内側から友布で当て布をして縫い合わせることで対応可能とのことだったので早速そうしてもらった。じっとよく見るとやはり一回破れた跡というのは残るようだが、ぱっと見普通に動いてる間には解り辛いようになっているし、体感で変わったところもない。流石の技術という所だろう。一着丸々買い替えるよりは安くついたが、お値段はそこそこした。これも経費で落ちるんだろうか? また今度相談しに行こう。
お祈りをして朝食を作ってリーンと一緒に食べる。リーンとこうして机に並んで食べるようになって一ヶ月ほどになるだろうか。最近は新しい勧誘者も居ないらしい。セノとはやり取りをしてるらしいので、その様子はその都度リーンに報告を受けている。
「わざわざこっちへきてダンジョンをつくるより、むこうでかってにつくるほうがらくそうだからそのままむこうにいすわるダンジョンマスターもいるの。そういうひとたちはもうすぐあたらしいダンジョンをつくるらしいからこうごきたいらしいの」
海外ではまたダンジョンが自由に建設されるようなことになる可能性が高いな。また一混乱起こるのか、それとも向こうは向こうなりに話し合いを持てているのかどうか怪しいな。
「むこうでもはなしあいのばはもうけられているそうなの。ただ、じょうけんがあわなくておはなしあいはなんこうしているらしいの。おたがいにやりたいことがあるらしくてそれができるかどうかとか、ばしょがどうかとか、いろいろむずかしいおはなしがあったらしいの。ネアレスがいってたの」
日本に比べて欧州やアメリカは空いている土地はいくらでもあるだろうし、何とかなりそうなものではあるが、海外情勢には詳しくないからな。前のところに新しく作りたいとか、エレベーターをデフォルトでつけてもらいたいとか、ダンジョンマスター側もこっちの国側もお互いに言い分はあるだろうし、表ざたに出来ない所で関係がうまくいってない可能性もあるな。
しかし、それだけうまくいってないなら俺はこの国を出ていく! 勧誘も来ているしな! と日本のほうへ来る可能性もあるわけで、そうなってないということはそれなりにお互いに納得できるところで矛を収めているという流れのほうがしっくりくるな。
「じゃあ、今のところダンジョンマスターが来るのは三人で一旦打ち止めって事になるのかな」
「まだわからないの。こんごおりあいがつかなかったらまたあたらしくくるかもしれないの。そのときのためにここはまだのこしておいてほしいってセノはいってたの」
「解った。ただ、ダンジョンを移動させたりする場合は言ってくれよ。いきなりお別れは寂しいからな」
「やすむらはなかなかいいことをいってくれるの。きゅんってきたの」
幼女の心を少しだけ射止めてしまったらしい。あんまりうれしくないが、機嫌を損ねるよりは良いだろう。
朝食を終えて片付けて、昼食の時間だ。今日の昼食は……俺なりアレンジのステーキだ。最初はフカヒレでステーキを作ってみるのも一興かと思っていたが、料理研究家ではない俺が一からフカヒレを調味、味付け、そして焼きに入るまでの行程を覚えるためにそれらを収めた動画などがないか検索したが良いものが見当たらなかった。
フカヒレはそのまま食べても無味無臭なため、味付けするソースですべてが決まると言っていい。そして、作るには時間がかかる。今のところそれらを解決する手段を持ち合わせていないため、フカヒレは今後はちょっとずつギルドにサンプルとして卸しつつ、値段のほうを決めてもらうことにした。
新たな食材として保管庫に入ることになったフカヒレだが、爺さんから直接仕入れたいという申し出に、査定にかけられるようになってから値段が決まってもわるくはないだろうということで、それなりの数のフカヒレが今保管庫に溜まりつつある。査定が開始されるまでだが、もしかしたら六十五層の醤油差しよりも早く値段が決まりそうな雰囲気すら持ち合わせている。どちらにせよまた今度だな。
炊飯器をセットすると、今日のところは最近消費が滞っていて茂君往復のおかげで増えているボア肉を豪快にステーキで二枚焼く。付け合わせのマッシュポテトと人参を先に作って甘く煮るように焼いた後、後に残った汁で軽くマッシュポテトを焼いておく。これで表面がカリッとした美味しいポテトの出来上がりだ。
肉はひたすらオリーブオイルで両面を綺麗に焼いた後で付け合わせと一緒に皿に乗せて一足先に保管庫の中へ。その間にサラダ代わりのキャベツを一盛り用意して、昼食の準備終了。
出掛ける暇の間にテレビを見る。取材攻勢も落ち着き、俺の話題も出切ったところでダンジョンの話は一時的に落ち着いては来ている。ダンジョン特集に力を入れたメディアというのは案外少ないようで、そういう意味ではあんなに金を払わせてしまったのは良かったのかな? と少し自分でも疑問ではある。しかし、安請け合いしてタダで取材を受けて、高ランク探索者が無料で取材を受けてくれたという実績を基にして他の探索者への取材も当然無料だよな? という悪い流れにしてしまうのはかえってよくなかっただろうからな。あれはあれでよかったんだと納得しておこう。
ダンジョン関連の雑誌社もかなりの数いたので、名刺を置いていった雑誌は全部購入して受けた質問の答えに対する向こうの受け取り方、というのも大体学習させてもらった。同時にここの取材は二度と受けねえときめた社もあったので、これは選別がだいぶ楽になったと感じる所である。
スマホが鳴る。真中長官からのレインだ。最近よくかかってくるな。
「はい、安村です」
「おはよう、今は邪魔な時間だったかな? 」
こっちが仕事の支度をしている時間かもしれないと遠慮がちだった。
「ちょうど昼食の支度を終えて時間待ちでしたから大丈夫ですよ。ダンジョン誘致のほうの進捗はどうなってますか? 」
「それについて、坂野君のほうに情報を送っておいた。小西ダンジョンについたら書類を受け取って、そちらの誘致先になるダンジョンマスターにこんな所にダンジョンを建てようと思うんだけどどうだろう? という感じで伝えておいてくれないかな。こっちで一方的にここに誰が立てろ、と言い出すより出来るだけ向こう側にも納得する形でダンジョンを立ててほしいからね」
なるほど、ダンジョンマスターにも選択をしてもらって気に入った場所へ移住してもらおう、という話なわけか。
「情報の具体的な内容としては候補地のリストだ。一応こちらで優先順位というか、こっちに立ててほしいなあ……っていう希望の順番でもある。勿論、今のところのリストだ。この先候補地が増える可能性は充分あるし、実際にまだ検討中、場所の取りまとめ中でこっちに話が回っていないだけの場所もあるだろう。まあ、現状ダンジョンマスターは三人らしいのでその場所だけから選んでもらうことは難しいかもしれない。順次その辺は渡すようにもしておくが……パソコンのメールアドレスか何かがあればそっちに送る形でも対応できるがどうするかね? 毎回坂野君に顔を合わせるのが面倒ならそっちに送るようにするけど」
「ああ……じゃあこっちからメールアドレス送っておくんで次回以降はそちらに送ってもらえると助かりますね。そのほうが多分、手早く伝えることもできると思いますし」
「わかった、そうさせてもらおう。では、受け取りのほうよろしくお願いするよ」
真中長官自身も朝から忙しいのか、世間話もせずにそのまま切ってしまった。きっとあっちはあっちで新しい場所の選定や陳情を聞くのに忙しいんだろう。いや、その陳情が行くのは国交省の担当の人のほうかな。だとしたらその調整と普段の仕事……普段何してるんだろうあの人。今度何処かの雑誌で密着取材してないかどうか調べてみよう。特に二月と八月の価格改定の前は暇なはずはないのでともかくとして、今は比較的暇な時間である可能性は高いな。
さて、ギルマスのところに寄る用事も出来たところでいつも通り出勤することにするか。
柄、ヨシ!
圧切、ヨシ!
ヘルメット、ヨシ!
スーツ、ヨシ!
安全靴、ヨシ!
手袋、ヨシ!
飯の準備、ヨシ!
嗜好品、ヨシ!
車、ヨシ!
レーキ、ヨシ!
保管庫の中身……ヨシ!
その他いろいろ、ヨシ!
指さし確認は大事である。さて、今日はゆっくり行き道は通常速度でエレベーターを通過していって、その間に打ち合わせをしながら行く、ということにしようかな。
◇◆◇◆◇◆◇
電車の中で自分のスーツの袖を見てみるが、よく見ると繕った跡が見える程度で傍からみてわかるものではないらしい。何かの漫画で見たようなつぎはぎだらけのスーツではなく、ピシッとそろったスーツであるし、外見を一瞥してそこまで細かいところに気が付くようなことは稀であるだろうな。
気にするのは俺だけか。なら安心してまた袖を破れるな。限度はあるだろうが、毎回同じ場所を引き裂かれると決まっているわけでもないので、次回の七十一層アタックではゼロ災を目指していこう。
ダンジョンに到着して、まだ暇な支払いカウンターでギルマスの所在を把握。今日は来ているらしい。流石に真中長官から仕事を振られているのに本人が居ないのでは話にならない、というところなのだろう。一時間少々で出勤するなら先に茂君を終わらせてからまた戻ってくるというのもありなので暇つぶしには困らないのだが、居てくれるなら何よりだ。
早速ギルマスルームにノック三回、安村ですと断ってから入る。ギルマスは印刷された紙束を用意して待ってくれていた。
「多分、これの件で来るだろうと思ってね。急いで印刷させてもらったよ。そのほうがいいだろうと思ってね」
「助かります。手元に資料があると、今日エレベーターで移動する間に説明することもできますから」
「あ、一応だけど部外秘だからダンジョンマスター達以外には漏らさないようにしてね。不動産にインサイダー取引は無いとはいえ、それが漏れて土地の取得ややり取りが難航すると誰も得しない図式になるからね」
「そこは大丈夫ですよ。ここに入れておけば私以外は触れられない情報ということになりますから」
そのまま紙束を保管庫に入れて、ギルマスの目の前で無くしてしまう。
「なるほど、完璧なセキュリティだな。私自身もその内容は見てないから何が書いてあるかまでは解らないが、真中長官となにやら怪しげな話をしているんだろう? 情報公開される段階になったら色々と教えてもらうことにするかな」
「出来るだけ早く……といいたいところですが、進捗次第ですからね。どう転がるかは解りませんが、私自身も手早く物事が解決されて自由になれることを願ってますよ。では失礼します」
「今日も頑張ってねー」
あまり気合の入っていない応援を背にギルマスルームを後にする。いつも通り入ダン手続きをした後、数分遅れでダンジョンに入り、まず茂君に忘れずに会いに来た。そういえば、次の納品はそろそろになるのかな。休みのタイミングを見計らって布団の山本に確認しておかないとな。
もしかしたら俺以外にもスノーオウルの納品を始める探索者が居て、それで在庫のほうが十分に足りている、といった形になる可能性もある。そうなれば俺も本格的に茂君やスノーオウルの乱獲から解放されることになる。ちょっとした寂しさもあるが、茂君には二回もスキルオーブをくれた恩義がある。その恩義に報いることは果たしてできているんだろうか。
エレベーターが六十三層に向かいだしたタイミングで虚空に向かって話しかける。
「ネアレス、見てたら出てきて欲しいんだけど」
少し間が空いて、ネアレスが転移してきた。今日も毛並みは綺麗にしている。どうやら見た目を気にせずにダンジョンの拡張を続けている、というわけではないらしい。ガンテツなら見た目よりもダンジョンを作るほうが大事だと、額に汗して一生懸命作ってるほうが絵になるが、ネアレスの場合スマートにダンジョンを作っているというイメージがつく。やはり見た目は大事だな。
「おはようございます安村さん、何か御用ですか? 」
「うん、真中長官からダンジョン候補地のリストを預かってきたから一緒に読もうと思ってね。こちらの文字や言葉は読めないだろうし、一緒に読み解きながら進めるのが一番だと思って。最悪七十層まで下りて、現地の様子を確かめながらこんな場所にダンジョンを作ってほしいんだけど、という相談にもなる」
「なるほど、解りました。それでどのような場所が候補地として選ぶことができるんですか? 」
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