124:ジャイアントアントの攻略法
おはようございます、仮眠から覚めました安村です。今日はこちら七層でキャンプでほどほどに飯食った後休憩してました。
目的である、テントとポールを立てる事も終わった。仮眠も終わって現在午後七時という所。サバンナエリアは日の出入りが無いので時計を見ないと何時か解らなくなるな。
さて、今後の予定を全く考えてなかった。何しよう? 文月さんと考えるか。文月さんは……どうやらテントの中にいるみたいだ。声をかける。
「文月さんや、起きてるかい? 」
「ん~? 安村さん? 」
「今入って大丈夫? 」
「待って、服着てないから」
寝るときはキャンプでも脱ぐ派か。声をかけるときは今後気を付けよう。
暫くごそごそした後、テントから顔だけ出てきた
「ここ寒くないし気温一定だし楽だね。で、何? 」
「もうちょっと仮眠してても良いけど、その後なにする? 地図は確保したから八層九層行くのでもいいし」
「う~ん……九層覗いてみたくはある。テントこのままでも大丈夫なのかな」
「盗んでいくほうが手間だと思うよ。大事なものだけ持って身軽にしておいたほうが良いかも」
「んじゃぁそうする~……あ~まだちょっと眠たいかも」
「ほれ、冷えた水」
冷えてるほうの水を出して渡す。軽くタオルにかけると顔を拭き、サッパリした顔になると、タオルを仕舞い出かける準備を始めるらしい。
「ちょっと身支度するまで待ってて。出来たら声かけるから」
「あいよ、んじゃ俺も自分のテントに居るわ」
テントを一応隅っこに寄せておく。そしてテントに置いていくものを見繕う。一応バーナー・スキレット・椅子・食器の類は置いておく。後、ワイルドボアの革も邪魔だから置いていっていいだろう。
紙皿に「外出中 安村」と二枚書いて、それぞれのテントに貼り付けておく。
「こんなものか。後は手持ちでいいな」
バッグが一日ぶりに軽くなった。肩も軽い。八層の地図は書き写させてもらったし、迷うことなく九層に突入できるな。
八層の地図を今のうちに確認する。九層へは一本木を経由するだけでたどり着ける。時間も二十分ほどでたどり着けるようだ。ずいぶん近いな。木があるだけ邪魔な気がする。木だけに。
ここにダーククロウが集まりやすそうだ。人目によっては戦闘になるだろうな。バードショット弾を使うつもりで準備をする。そういえば小寺さんたちはどうしているだろう。
テントのほうへそっと覗きに行くと、皆さんご仮眠中のようであった。今の内ならいけるな。自分のテントに戻って文月さんをじっくりと待つ。女性の身支度を急かしてはいけない。俺は知っている。
そこから五分ほど経って、文月さんはテントから出てきた。
「お待たせー」
「今ならみんな寝てるらしいから好きにできそうだぞ」
「他の探索者は? 」
「解らん。八層から九層の間は短いらしいから、前後確認すれば問題ないと思う」
「じゃぁ、今のうちに行ってしまいましょう」
八層へいそいそと移動する。途中田中君のテントに寄ってみたが、今日は居ないらしい。「居ません」とはっきり書いてある。
「知り合い? 」
「今あるギルドの地図を描いたのはこの人らしい」
「ってことは、小寺さんたち地図更新をギルドに話すのサボってたって事? 」
「だいたいそういう事。まぁ今回の帰りにギルド寄って更新申請かけてくるさ」
八層側の階段へたどり着いた。やっぱり目印があると解りやすいな。八層の階段を下りても、そこはサバンナだった。しかし、目印になる木は一本しかなく、その奥に階段があることが解っている。なるほど、点と線になるはずだ。九層への通り道でしかないという事だ。
目印になる木には多少の繁りが見られる。前後を見て、誰も見てないことを確認する。バードショット弾を用意し、狙いをつけると全弾命中させる。はらりはらりと舞い散る羽根。ボトボトと落ちる魔結晶。ぱっと見、羽根が飛び散り内臓が真っ直ぐに落ちているようにも見える。風情が無い。魔結晶七つと羽根を何十グラムか回収する。
「ところで、九層で出てくるモンスター対策は? 」
「噛まれないようにする」
「大体あってる。突進しながら噛みついてくるジャイアントアントと、突進するほど距離が遠くないワイルドボア。どっちもメイン攻撃は噛みつきだ。特にジャイアントアントは顎の力が強いらしいし、頭狙って殴ってもダメージにはなりにくい」
「じゃぁ、目を狙う? 」
「多分それが正解だと思うんだけどね。俺の場合は横に回って足を斬ってから首を落としてた。後尻から酸を出して攻撃してくるのでそれは確実に避けて」
まぁ、とどのつまりはそういう事だが大丈夫だろうか。今回は俺も補助無しの戦闘だぞ。
九層への階段へ行くまでにワイルドボア合計六匹と遭遇。危なげなく倒し魔結晶二個の追加を得た。
そして九層の階段へたどり着いた。ここから先は森エリア。断崖絶壁に囲まれた鬱蒼と茂る森の外側を歩いていく事で階段にたどり着くエリアだ。実際に森の中央に何があるのかは、清州ダンジョンでも不明になってたな。それを探してみるのも面白いというのが俺の中の予定だ。
階段をゆっくりと降りる。九層に入った瞬間、湿気の混じった空気を感じる。
「蒸し暑い……とまではいかないけどちょっと暑いね」
「サバンナエリアは乾燥してるからその違いのせいかもしれん。前回はそんなこと感じる余裕なかったからなぁ」
「一人で来たんだっけ? 」
「いんや、清州でお世話になってるパーティーいてさ、そこから一人ついてきてくれた人がいたんよ」
多村さんと来たことを思い出す。思い出すと言ってもつい先日の事なのでまだまだ脳裏に焼き付いている記憶だ。
「なるほど、じゃぁ攻略法もバッチリですな」
「どうだろう。試しに何回か戦ってみて余裕そうなら奥へ行く感じにしますか」
「奥って森の奥? 」
「いや山に沿って階段が設置されてるから山に沿ってかな。地図だと……ほぼ反対側だな。でも森の中央に地図が描き込まれてなかったってことは、結構リスクを背負う行動だったと考えられる」
「ほほう、空白からそういう事も読み取りますか」
少なくとも通って帰ってきたら中央部に何があるかぐらいの記載はしてしかるべきだと思う。それが無いって事は危険度が高くて引き返したか、戻ってこなかったかだろうな。
「全方位からモンスターが来るのと、少なくとも百八十度からは安全策が取れる道、どっちが早いと思う? 」
「なんだかんだで遠回りしたほうが早いかもしれません」
「急がば回れってか。後、もしかしたら中央に行った人は帰ってこれなかったのかもしれない。だから地図が空白のままだと考える事も出来る」
「未帰還だから空白かぁ。なんか怖いね」
「近寄らなきゃ大丈夫でしょ」
地図を南北、現在位置を西とみて、南方向から回って移動していく。ほぼ距離が変わらないならどっちからでも同じだろうから、あえて南と決めた。今の位置から南へ向かうという事は向かって左方向に森を見て歩くことになる。右側は完全に安全圏だ。
「カサカサって音が聞こえたら多分ジャイアントアントが来てるからね」
「あんまり聞こえのいい音じゃないですねぇ」
「サクサク音がしたら多分ワイルドボア」
「とりあえず私たち以外の足音が聞こえたら基本敵だという認識で良いですか」
「それで問題ないと思う」
とりあえず聴覚ブーストを使用してみる。物凄いガサガサしている。
「そろそろ出てくるかな、三匹ぐらい。多分ジャイアントアント三」
「聴覚ブーストですか」
「うん、全力でやると多分耳イカレるから気を付けて」
予想通り、ジャイアントアントが三匹現れた。コマンド?
「ジャイアントアントは噛みつくために突っ込んでくるし、避けても体をクネらせて追ってくるから気を付けて。あと、突進するしぐさをしなかったら酸がくる。当たったら悲惨なことになると思うから要注意で」
「ヒールポーションで治りますかね」
「わからん、が、試しに食らってみるほど俺は酔狂じゃないぞ、さすがに」
自分がまずは見本になる、大事なことだ。真正面からジャイアントアントに近づく。ジャイアントアントが頭を下げて突進の動きを見せる。相手の顎が通り抜けるギリギリのラインで回避する。そのまま横から後ろへ向かうと足を切断。体勢を崩してる間に首を落とす。
「剣が武器だとこんな感じ」
「なるほど、じゃぁ槍だと……目を潰しに行きますか」
文月さんは突進に合わせて目を狙いに行く。が、相手の動きのほうが少し速かったようだ、槍は目を掠めていく。
「アリは結構目が良いんだ、いきなり狙うのは無謀じゃないか」
「そうみたい……ですねっ! 」
文月さんは噛みつきを寸前で回避する。その間に俺はもう一匹の処理を確実に終わらせる。試しに全力で頭を殴ってみたが、凹む程度で大したダメージにはならない。
「やっぱり頭を切り落とすのが最善か」
「足を切り落とすまで潜りこむのが大変ね。槍で出来る動きとすれば……」
文月さんは数秒考えた後、全力でジャイアントアントの頭を殴る。頭が凹む。その間に触覚を槍で切り落とし、相手の動きを鈍らせる。そして今度こそ目を狙い、上手いこと貫くことができた。片目を潰したほうに回り込むと、目を横から更に貫く。どうやら、堅い殻の中身は柔らかいらしい。目を槍で両方一気に貫く。目を通して脳を貫いたらしく、ジャイアントアントは無事に黒い粒子に還った。
とりあえず初戦は何とかなったな。
「どう、パターン化できそう? 」
「回避に問題は無さそう。後は何回か戦ってみて感覚をつかむ」
「おっと、今度はワイルドボアらしいぞ」
トコトコと森からワイルドボアが顔を出す。突進される前にこっちから率先して頭をかち割る。
さっきのジャイアントアントは魔結晶を二つおとした。最初の戦果としてはまずまずだ。
「ジャイアントアント、魔結晶良く落とすんですか? 」
「どうもそうらしい。二分の一ぐらいらしいぞ」
「じゃぁ、上手く往なせるようになったら稼ぎ時ですね」
「そういう事になるな」
「じゃぁとっとと慣れましょう。ステータスブーストを使えば多分もうちょいマシな戦いが出来るはずなので」
文月さんは乗り気だ。早く上達して次の階層に行きたいのだろう。
「期待しておくけど油断するなよ。噛まれたらその部分ごと持ってかれると思え」
「んじゃぁ取れる戦法は……やっぱり避けて横から殴るか目を潰すかかな」
「ギリギリまで近寄る必要があるぞ」
「そこはステータスブーストでなんとかする」
「気を付けて。また来る、ジャイアントアント二」
「じゃぁ一匹ずつ。次でモノにして見せます」
感覚をつかんだのか、文月さんは真っ直ぐジャイアントアントに向き合う。相手の噛みつきに合わせて槍を振るう。牙の一番真ん中、つなぎ目を狙って槍を繰り出す。うまく刺さったようで、相手の咬合力が弱くなる。なるほど、相手の攻撃力を落としたうえで安全に狩るスタイルを思いついたのか。確かにジャイアントアントのメイン武装は強靭な牙だ。それさえ威力を落としてしまえばやりようはある。
次に槍で触覚を切り落としにかかった。槍の一閃で両方の触覚を落とす。これでジャイアントアントの機能はさらに低下したはずだ。最後に全力で近づくと片目を潰し、潰したほうに高速移動する。触覚も視覚も奪われたジャイアントアントには死角が出来た。その死角から首を突ききって落とす。これでジャイアントアントは致命傷になったのか、黒い粒子に還っていき、討伐の証として魔結晶をくれた。
「どう?」
「もうちょっと最適化できそうかも」
「うーん、倒すまでの手順に改善点があるかも」
ドロップを拾いながら感想戦を始める。ジャイアントアントはほぼ二分の一でドロップをくれるため、安定して狩れるならここは良い狩場だ。
「やっぱり素早く動けるのはメリットだから、相手の噛みつきが来る前に思いっきり頭をぶっ叩いてみようと思う。それで蟻が狼狽えるならそこからいくつかパターンが見えると思うんだよね」
俺も最適化を目指してみるか。たとえば、相手の横に回り込んだ時についでに目を潰していくとか。何かうまく狩れる方法があるはずだ。探しながらの探索になりそうだな。
焦ることは無い、じっくりやっていこう。幸いここは三匹ぐらいしか同時に来ない。パチンコ玉で相手の目を潰す作戦で行ってみようか。左右同時に発射すれば相手の視覚を遮断できるはずだ。
まだまだ九層には見たいものがある。楽しみは尽きないな。
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