1238:フカヒレの昼 1
発光が終わり元に戻る。いつも通り、光った以外は大きく変わりはない。が、五重にまで高めた雷魔法スキル、何処まで効力があるかは試したいところ。サメは四重化の時点で一撃で葬ることが出来ていた。エイはどうだろうか。五重化したことで一撃で倒せるようになっているだろうか。
「さて、早速試運転といくか」
「試運転は良いんですが、ちゃんと当たってくれますかね? 前回来た時はヒラヒラ躱されてまともにあたってなかった気がしますが」
「サメならなんとかなるんじゃない?真っ直ぐ突っ込んできてくれるし」
「いざ試してみて突撃されそうになったら守ってくださいね」
「雷魔法は着弾が早いのが強みだからな。任せておけ」
六十九層に上がって相変わらずの暗い星空を見上げる。知ってる星座は……見当たらない。少なくとも光を反射している謎の惑星が地球でないことは確実だ。もしここが月なら、地球に居るのと変わらない星座模様が見えるはずだからな。
「どこの宇宙なんでしょうねえ」
「さあな……多分異世界の異次元のどこかの……おっと、来るぞ」
早速スペースシャークがこちらを狙って地面スレスレを飛びながら向かってくる。芽生さんが三重化させて土魔法、水魔法と合成させた魔法矢で一気に貫く。スキルの発射までのスピードも、魔法矢自体のスピードも前より上がったように見える。そして、スペースシャークに当たり、スペースシャークはそのままのスピードを少し落としながらこちらに突っ込んできて、地面を滑るようにして目の前で止まった。
「さすがにまだ威力の練り込みが足りませんか……ここは練習あるのみですね」
「真っ直ぐ突っ込んでくる相手にはそこそこの威力がある、ということは解ったな……と」
圧切で頭を縦に半分に割って止めを刺す。手の感触は魚を切るような感じだったので、妙な防御力を持っていたり物理耐性を持ち合わせてはしないようだ。早速ドロップのフカヒレを手に入れる。
「幸先は良いな。後はスペースマンタレイにもその攻撃が当たるかどうかと、威力検証だな」
「次きますよ。洋一さんから向かって十時方向」
そっちを見ると、スペースマンタレイ……エイがこちらに向けて急降下を始める。五重化された雷撃をイメージ……重ねて……束ねて……撃ちこむ!
手から放たれた白い雷撃がエイを包み込み、そのまま黒い粒子へ直接変わっていった。そして俺の頭の上に落ちて来る魔結晶。痛い。
「一発か。索敵さえできてれば六十九層は一人ででも何とかなるかもしれないな」
「それだけ攻撃力に極振りしてて相性がいいならそうなるのも当然ですが、そうすると私の出番が無いですね」
「今のところは索敵で次のモンスターを探すという重要な役目があるから大丈夫だし、芽生さんもその気になれば一撃で倒せるようになると思うよ。最初のイメージづくりさえできれば後は何とかなると思う」
「イメージ作りですか……より密度を上げて高速で発射するイメージが大事ですね。今日中に掴んでモノにしてみます」
「午前中はそのトレーニングだと思って戦ってていいと思う。俺は……威力が何処まで上がるかを試したいところだが、エイもサメも一発となると芽生さんのサポートで怪我しないように回るほうが大事そうだな」
今日の午前中は芽生さんの介護……いや、特訓に集中することにしよう。芽生さんも火力は上がったはずだ。一発でだめでも二発なら良いかもしれないし、その一発目を当てる訓練をしていけばいい。
芽生さんが次の獲物を探し、そっちへ向かう。後ろをついていく俺。芽生さんの索敵のほうが確実だし、こっちの索敵のは向こうの探知範囲よりもおそらく狭い。二重化してないと黄色いスペースモンスターたちとは出会えないのだろう。
「次きますよ、サメ二」
「手前の一匹は確実に落とす、後ろのほうを狙っておいて」
サメが二匹連なってジェットストリームアタックのように襲ってくる。手前のサメを雷撃で消し飛ばすと、後ろのサメの姿が見え始めた。
「今度はうまく練り込んで……これでどうだ! 」
芽生さん渾身のスキルがサメにヒット、黒い粒子に還りながらドロップ品がこっちへ滑り込んでくる。
「今回はうまくいきましたねえ。必要なスキルの強さはこれから何回か検証して最低限必要な出力を確保して、次はそれをどう素早く当てに行くか、というのが大事かもしれませんねえ」
芽生さんがぶつぶつ自己検証と次回へのプランを練っている間に、少し離れたところに落ちたドロップ品を回収していく。広くてモンスターもスピーディーなのは良いが、若干他の階層に比べてモンスター密度が低く、移動距離もそれなりに長い。近接戦闘という意味ではほとんど効果が為さない所も含めて、この六十九層は訓練用の階層としては悪くないが、ここで本格的に稼ぐのは難しく感じるな。
「さあ、次行きましょう次。この密度なら目視で見つけて追いかけてって若干ジョギング気味で動いても問題ない程度ですから、時間を有効的に使いましょう」
芽生さんはとにかく自分の限界を見極めることに熱中しているようだ。その熱意を冷まさせるようなことはしたくないので付き合ってそのままジョギングである一定距離まで近づいてからモンスターに反応させ、こっちへ呼び寄せる形で釣りみたいなモンスター狩りになっている。
二匹来たら一匹は確実にこっちで仕留め、もう一匹を芽生さんがやりかたを苦心して倒してみる。トドメが必要な場合はこっちで対処。その調子でトントンと探索が進んでいく。
三十匹ほどモンスターを倒したところで良い時間になったので一旦七十層に戻る。戻る道すがらにも湧きなおしているモンスターが居るので倒しつつ、俺はジョギング中に気になった地図上のポイントを地図に描き記しながら移動。ともかく、苦戦することはないというのが今の印象だ。これで次の階層に行ってモンスターがいきなり三匹湧いたりしない限りは大丈夫だろう。
七十層に戻り、お昼を食べる。今日は豪勢な三種の焼肉丼だ。とりあえず、宇宙を背景に焼肉丼をパチリ。真中長官とギルマスに送信しておく。今日もちゃんと仕事をしているぞという報告も込みだ。
「洋一さんにしては盛り方が雑ですね。もしかして、とにかく肉を焼いて食べたかったことは伝わりますが」
「今回はそれぞれ焼いて盛り付けて……ではなく同じような薄さに切ってまとめて焼いたからな。味のほうは焼肉のたれだし、焼肉丼というには醤油成分とか旨味が足りないかもしれない。足りなきゃうま味調味料とかドレッシングとかめんつゆとかあるから言ってくれたら出すよ」
「とりあえず、お肉の前に野菜からですね。今日も謎ドレッシングがかかってますが、はまり気味なんですか? 」
サラダとドレッシングをコネコネ混ぜて馴染んだところで自分の丼の蓋に一旦サラダを乗せ、そこから食べ始める。俺も同様にして食べ始めて、謎ドレッシングを追いドレする。芽生さんが無言で丼の蓋を差し出すので、そっちにもかけてあげる。
「はまってるというよりはいったん使い切ろうと思ってさ。いくら保管庫で長持ちするとはいえ限度はあるし、ドレッシングは一回開けたら早めに消費した方がいいという話らしいし。要冷蔵のものを冷やしてから保管庫に放り込んだとしても、三ヶ月ぐらいは冷えたまま持つぐらいにはなるはずだけど、美味しいものは早く消費したいという気持ちもある」
「つまり、早く次のドレッシングを買いたいんですね。これ以外にも何か面白そうなドレッシングが有ったら買っておいてください。試してみたいです」
追いドレした後野菜を食べて、一応の栄養分は取りましたよ、というポーズだけは取っておく。さて、お待ちかねの焼肉丼だ。今日は三種盛りの豪勢なお肉となっている。一椀で……原価で五千五百円ほど。馬肉が中々にお高い分だけ値段を釣り上げてはいるが、疲れも取れて心も体も満たされるような感じで一つ……うむ、美味しい。たれの感じもいい具合だ。辛すぎず甘めのたれが見事に絡んで、それが下のご飯にも肉の油と共に染み込んでいて米と一緒に掻きこむことで更にうまい。
これは……口の中で色んな肉の味わいを同時に楽しめるし、一枚ずつ味わってどれがどの肉かを当てながら楽しむのもいい。そして、丼の底には溶けだした油が焼肉のたれと共に溜まっていて、背徳とカロリーの権化として俺を待ち受けている。たまにはこういうカロリー一直線な食事も必要だろう。
これだけ昼飯を楽しむと、夕食予定のフカヒレへの期待値も高まる。フカヒレはいったいどんな姿や味や風味で俺を楽しませてくれるんだろう。さっきまでの戦闘でまた新たに仕入れたフカヒレは、何処にどういう流れで運ばれて行ってどんな値段の料理としてお出しされるんだろう。爺さんの腕が何処までのものなのかを知ることもできるしな。もしかしたらその辺の中華屋にしておくには惜しい腕前を披露してくれるかもしれない。
肉三百グラム分と米一合半。しっかり胃袋に詰め込んで満足をする。夕食を楽しみにしつつ、今はこの満腹感と、次回はどんな肉で焼肉丼を作ろうか、ということに頭を巡らせていた。はー、今日の昼飯は正解だった。午後からも七十一層で頑張って稼いで行くか、という気分にさせてくれる。
今までの流れを踏襲するならば、ここでは六十五層から六十八層よりもキュアポーションのランク5が出やすい。フカヒレがまだ換金できないとはいえ、収入のほとんどはキュアポーションによってもたらされているものなので、七十一層に予想ほどの密度が見込めなくてもポーションは数本落ちるし、その分だけで稼いでいける、という算段はつけておいた。
過去のデータを参照する限りではあるが、ここでのポーションドロップ率は三%ほどになるだろう。百匹倒すには、六十九層のペースだと一時間半に一個は出てくれるであろうという計算になる。収入としてはそこまで悪い数字ではない。ここもそのうちソロで巡れるようになれば、フカヒレとポーションの安定生産の場として有効活用できるようにしていこう。
どこが何座で何の星かは解らない星空を眺めながらもしばしばスマホに目を移す。ここからでも外の情報を手に入れられるのは便利でいい。やはり通信の問題は色々と便利さが上回る。ここにいてギルドで何か大事件が起こったとしても比較的早く、多分家から出勤するよりも素早い対応ができることになる。やはり、時間がかかってもミルコにお願いしたのは正解だったな。
休憩を終えて七十一層の階段まで車で移動。徒歩でもいけるがせっかく車があることだし、移動時間を短くする分体力と残り時間の温存に努めるのは探索者なら誰でもそうするところ。それが嫌ならエレベーターも使わず、自力で探索を続けることになる。
エレベーターが邪道だと言って頑なに使わない探索者が居るというのはネットで見た。本人曰く、元々誰かの入れ知恵で楽するために作った設備に乗っかるのは性に合わない。やはり探索者たるものおのれの手足で底までたどり着いてこその探索者道だ、というような感じらしい。人にも考え方は色々あるものだが、行ったところまでセーブロードとか、ウェイポイントみたいにゲーム的に考えずに、登山のような形で探索者を続けているんだろう。
車が七十一層の階段前まで到着する。車をしまい、足元を確認してタイヤ痕がないことを確認する。これで七十層ではいくらでも車が使い放題だな。ただ、残りのガソリンの量だけは気にしておこう。スタンドへ行って保管庫から出して給油してまた保管庫に……なんてことは出来ないんだ、家からスタンドまで走るだけの燃料は常に意識して残しておかなくてはいけない。
さて、七十一層はどのぐらいの込み具合なのかな、美味しく調理できるだけのモンスター密度を保有してくれているんだろうか。階段を下りて七十一層に到着した瞬間からモンスターの反応が得られた。
すぐ真上を見るとサメが一直線に降下してきている。どうやら、真上に湧いた場合は地面に下りずにそのまま食べにくるようだ。距離があるうちに頭上に向けて全力雷撃。サメはそのまま黒い粒子に還り、落ちてきたドロップ品であるフカヒレと魔結晶を空中で範囲収納。奇襲的な行動だったが、ここではそれもアリだということなんだろう。どうやら七十一層は気が抜けない場所らしい。
作者からのお願い
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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
後毎度の誤字修正、感謝しております。





