1237:フカヒレの朝
念のための補足ですが、フカヒレは乾物ドロップです。
気になる方もいるようですが、本文中に書くのもあれなのでここでご報告ということにさせていただきます。
朝だ、今日は絶好のフカヒレ日和だ。芽生さんと潜る日でもあり、この三日間待たせた分爺さんにはどんなものが出てくるのかまでは解らないが美味しそうなフカヒレ料理をごちそうしてもらう手はずになっている。
おかげで朝からテンションは高い。しかし、同時に俺はフカヒレの味というものを知らない。人生初フカヒレが爺さんのフカヒレということになる。それはそれで良いのだろうか? という疑問も湧くが、より美味いフカヒレが食いたければちゃんとした店へ行けとも言われているし、そのフカヒレが本当に美味しいかどうかはまだ未知数だ。なのでしっかり楽しみにして行こうと思う。
夕食の楽しみは楽しみとして取っておいて、まずは朝ご飯だ。いつも通りのメニューを作ってリーンに会いに行く。庭に出る専用のサンダルも用意されているので毎回靴を履いて紐を結んで……と面倒なことはしない。気楽に庭に出る感じでダンジョンに入った。
「ごはんだぞー」
「わーいなの」
二人でいただきますして食べる。
「またひとりきたの。なのでネアレスにおまかせしておいたの」
「これで三人か。三か所は最低限ダンジョンが増やせるってことだな」
早速真中長官にレイン。報告は早めにしておかないとな。
「現在ダンジョンマスター三人引き抜き。各ダンジョンの進捗やトレジャーダンジョンのトレジャー具合については不明。一品物の装備を出すかどうかで悩んでいるらしい? 」
とりあえず送るだけ送っておいて、返事が有ったらそれをネアレスに渡す感じで話をつなげていこう。また俺一人で潜っているときに来るだろう。
「おしょくじちゅうにいじるのはぎょうぎがわるいの、しょくじにしゅうちゅうするの」
リーンに怒られてしまった。反省。
「緊急情報だからな……話を通すところには早めに通しておかないといけない、ごめんな」
「わかってるならいいの。ただ、あたりまえにすることはよくないことなの」
リーンのほうがしっかりしている気がしてきた。食事を終えていつもの昼食づくり。今日は……今日はどういう予定で各層を回るんだろうな? 全く想像がつかない。行くまでの間に芽生さんと詰めるか。普通に座って食べられるような食事で……最近作ってないものは何かあるかな。
久しぶりに丼物と行くか。夕食に差しさわりない範囲で、中華っぽくないものとすれば……二種類ごっちゃにして焼き肉丼と行くか。ウルフ肉とボア肉と馬肉をそれぞれ薄切りにすると、しっかりと炒めたガーリックバターの中に投入してまとめて焼いて、焼いて、焼く。焼き色がしっかり付いて柔らかさを失わない辺りで炊飯したコメの上にたっぷりと乗せて完成。
サラダを別皿で用意して、謎ドレッシングをかけておく。ザ・男の料理って感じがするな。そういえば最近は角煮も作ってないな。今度久しぶりに作るか、オーク肉の角煮。きっとプルンプルンで美味しいに違いない。
柄、ヨシ!
圧切、ヨシ!
ヘルメット、ヨシ!
スーツ、ヨシ!
安全靴、ヨシ!
手袋、ヨシ!
飯の準備、ヨシ!
嗜好品、ヨシ!
車、ヨシ!
レーキ、ヨシ!
保管庫の中身……ヨシ!
その他いろいろ、ヨシ!
指さし確認は大事である。さて、今日は夕食が今から楽しみで仕方ないが、その前に前回から手を付けてない七十一層へ行くか、それとも六十九層から六十八層を経由して六十八層で直接現金を回収しに行くかは決まっていないがそれもエレベーターで決めることにしよう。
◇◆◇◆◇◆◇
バスで芽生さんと合流。バスの中で真中長官の返信があった。
「一品ものだと鑑定スキルが必要になってくるね。南城さんへの負担が増えることになるから、【鑑定】なんかのレアスキル持ちを増やしてもらえるのかは解らない所だね」
たしかに、一品物の装備が出てこれはどういう効果が付与されている、みたいな確認が必要だとすると、頼れるのは南城さんだけになってしまう。それはあまりよくないな。
「出るには出るけど効果は身で試すしかないってところになるんでしょうかね。機会があったら聞いてみましょう」
真中長官への返信を終えて芽生さんに向きなおす。
「夕飯楽しみですね。私フカヒレは初めてなんですよ。どんな味わいなんでしょう? 」
芽生さんは真中長官との話よりも今日の夕食のほうが楽しみらしい。
「そっちもなのか。じゃあお互い恥をかいたり爺さんに文句をつける心配はなさそうだな」
「洋一さんも初めてですか。じゃあお互い初フカヒレですね。楽しみですねえ」
ダンジョンに着いて芽生さんの着替えを待つ間に俺を待っていたらしい人から声をかけられる。
「すいません、探索・オブ・ザ・イヤーの橋本です。高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンで通訳をやっていた安村さん、で間違いありませんか? 」
「取材ならこの間受けたばかりですが」
「いえ、ただ一言だけ頂きたくて来たのです。是非お願いできませんか? 」
また取材の申し込みだ。この間も来たばかりだが、前回千二百万取っておいて今回はサービスで、というわけにはいかない。ちゃんと同じ料金を請求することにしよう。
「一言でも取材は取材ですので。一時間千二百万円、用意してきてください。話はそれからです」
「……やはり、この間の囲み取材に同道できなかったのは痛かったみたいですね。解りました、諦めます」
「ちなみにですが……何を聞く気だったんですか? 」
とはいえ、普段お世話になっている雑誌でもある。話の内容に関しては”俺の意見ではないが”ということで俺の取材ではなく世の中の一言として答えることならあるかもしれない。
「いえね、最深層まで潜っているのにAランク探索者として活動されないのは何故なのか、という疑問がありまして。他のAランク探索者さん達は三十八層という比較的、今では浅い階層でAランクの称号を得ています。それを要求せずにそのままB+探索者として活動している理由についてお聞きしたかったんですが……ダメそうですね」
「そうですね。ただ、俺じゃなく他の人から俺を見て思うことがあったとしたら、Aランクとして広報をしたり取材を受けたりしているよりも、無名のB+として最深層に挑むほうが稼いでそうに見えるんじゃないですかね。あくまでこれは一般的な意見で私の見解ではありません」
「……なるほど、ありがとうございます」
「毎号楽しみにしているので、ぜひ取材の際は一時間あたり千二百万、耳そろえてきてくださいね、では」
今ので察してくれたのか、お礼を言って記者は立ち去っていった。俺は何も言ってないからな。ネットのスレで書かれてた話をそのまま言っただけだからな。取材はされてない。そういうことになった。
芽生さんが来たところでギルマスの部屋に行く。ノック三回で中身が居るか確認。
「いますよー」
「失礼します」
「しつれいしまーす」
ギルマスは朝の仕事の片付け中だった。
「今日は……ああ、指輪の件かな? 」
「はい、今日は芽生さんも居るので三つずつ計六個の査定をお願いするのと、今後指輪についてはどう対応していくかを一応聞いておこうと思いまして。こちらがご依頼の品になります」
指輪を三つずつ二種類、六個渡す。
「指輪の件だけど、他のダンジョンから引き取ろうと思ったら普通に出荷されちゃってるらしくてね。それがもう人手に渡ってしまっているのでダンジョン庁としても回収するわけにもいかなくてさ、安村さんなら在庫を抱えて持ってそうって話になったんだよ」
たしかに、結衣さん達もそうだし、高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンの土竜や大梅田ダンジョンの猛寅会とも時々レインで会話をしているが、彼らも五十七層まではたどり着いているらしいから指輪をドロップ品として搬出することは可能だろう。そっちの線を先に当たって、既に全量出荷状態だったからこっちにお鉢が回ってきた、というところだろうな。
「まだいくつか指輪のストックはあるので、ご入用ならまた相談してください。自分たちで着ける分も含めてそこそこ数はそろってますので」
「その時はまた期待させてもらおうかな。じゃあ、これ下に持って行って査定カウンターに渡してくれるかな。それで二等分で申請してくれれば査定が完了したって証になるから」
ギルマスから一枚の紙を渡される。ギルマスの印鑑も押してあるので正式な査定完了文章ということですでに品物は受け取っているという証明になるんだろう。
「では、我々は今日も探索に行ってきますので」
「気を付けてねー」
一階に戻って査定カウンターに用紙を提出すると、手慣れた感じで査定手続きを行って二人分の支払いレシートを出力してくれた。二億七千万円。ドカッと一気に入ったな。
支払いカウンターで振り込みを依頼して、まず朝の手続き終了。これで心置きなくダンジョンに潜れる。入ダン手続きをしていつもの茂君からの七十層まで倍速運転。エレベーターの中で芽生さんと今日の探索の打ち合わせをする。
「さて、今日の予定だが……どうする? 何する? 」
今日の探索については何も考えてきていない。七十層近辺で調査をするということだけは決まっているが、それ以外は何も決まっていないのだ。
「完全にノープランですか。でも七十層を押したということは周辺を潜ることに間違いはないということで良いですね。だとすると、午前中は六十九層をぶらりして体を温めて、午後からは七十一層をちょっとずつ開拓していくのでどうでしょう? 」
「それにしよう。正直上にも下にも行けてどっちに行くかどうか迷ってたんだ。前半六十九層で後半七十一層で階段探しつつ、モンスター退治。いい組み合わせだと思う」
「それに、帰りはフカヒレが待ってますからね。そのフカヒレの美味しさによっては宇宙マップ……でいいですよね。宇宙マップの重要度が上がります」
七十層近辺は宇宙マップということになった。まあギルマスも真中長官も宇宙言ってたし宇宙で良いな、もう。他に宇宙マップが出てきた時にまた新しい呼び名を考えよう。
今日もクロスワードを一問解き、エレベーターが七十層に到着したところでリヤカーをその辺に捨て置く。ノートを見たがさすがに三日そこらでここまで追いついてこれるわけではなかったらしい。その内到着と報告がされるだろうからそれまで待つか。
「そういえば、芽生さんミルコに何お願いするの? 」
「洋一さんは決めましたか? 私は【魔法矢】にしました」
色々選べる芽生さんだが、【魔法矢】をチョイスしたらしい。
「ほう、その心は? 」
「魔法矢のスキルの絶対数ですかね。ちょっと自分で調べてみたんですけど、私の持ってるスキルの中で多重化させる中でネット上に流れる情報の中で一番スキルの出現数が少ないの、【魔法矢】だったんですよ。なので出にくいスキルをピンポイントで狙います。洋一さんは? 」
「俺は純粋に【雷魔法】を極めたいと思っている。雷魔法レベル五ってところだな。何か大きく変化があるかもしれないしな」
「じゃあ、早速ミルコ君を呼び出しましょう」
「その必要はないよ。今渡せばいいかい? 」
ミルコが突然転移してきた。とりあえず机を出し、いつものお供えをして手を二拍する。ミルコは満足したようにお供えをしまうと、代わりにそれぞれにスキルオーブを出してくれた。
「じゃあ、これが今回の踏破報酬だ。僕はダンジョンの様子を眺める作業に戻るよ。安村のほうも新しいダンジョンだのなんだので忙しそうだし、しばらくはゆっくりさせてもらえるのかな? 」
「そうだな、ここまで頑張ってくれたのもあるし、しばらくはゆっくりしてもらってていいと思うぞ」
しばらく、というのがいつまでかは解らないが、後発組が詰まってくるまでには作業を再開してくれればそれでいいと思っている。ダンジョンマスターにもお休みタイムは必要だ。
さて、早速受け取ったスキルオーブを使おう。一旦机に置いて、持ち直して……
「【雷魔法】を習得しますか? Y/N 残り二千八百七十九」
「イエス」
「あなたは既に【雷魔法】を習得しています。それでも習得しますか? Y/N」
「イエスだ! 」
何時もの発光タイム。俺がピカピカと光る。負けじと芽生さんもスキルオーブを持ち直し、スキルオーブに対してつぶやく。
「イエス……イエスで! 」
芽生さんも発光タイム。お互いにピカピカ光って綺麗になっている間にミルコは転移していった。早速サボれるとでも思っているのだろうか。大体あってるかもしれないが、ここまでダンジョンを深く作ってくれた恩義に報いるべく、新しく強くなった自分達を見せていかないとな。
作者からのお願い
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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
後毎度の誤字修正、感謝しております。





