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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第二十五章:ダンジョンマスターさん、いらっしゃい

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1234:久々の指輪納品

 朝だ。昨日はスレッドを読んで軽く自分について哲学的な思考で頭を悩ませることになった。他人に言われたことだが、俺を俺たらしめているものとは何か。潮干狩りと、保管庫と、羽根集めと。


 それ以外には一杯稼いで帰ることぐらいしか俺にとりえはないのだろうかと悩み始めて、気が付いたらいつもの寝る時間になっていたので急いで風呂に入って寝た、という顛末だ。


 寝る前に頭を使ったおかげで少しだけ眠りがよろしくなかったような気がする。でも、体は快調なのでおそらくは今日も問題なく探索は進められるはずだ。今日も探索頑張るぞ。


 トーストをいつも通り三枚焼いて……トーストも空中に浮かせたまま火魔法で焼く、みたいなことが出来ればいいんだが、食べ物で遊んだりするのが好きではないので素直にトースターで焼くにとどめている。トースターで焼いている間に火魔法とIHコンロの両面焼きで目玉焼きにササっと焼きを入れて、キャベツに今日は謎ドレッシングをかけていただくことにする。謎ドレッシングがかかった目玉焼きも多分美味しいだろう。


 二人分の朝食を庭ダンジョンでリーンと一緒に食べる。そんな毎日もかなり慣れてきた。


「きょうもいただきますなの」

「いただきます」


 リーンと二人で朝ご飯。お互いに慣れた様子でそれぞれに盛られた量を食べる。リーンからはもう少し食べたいとか違う味がいいとかそういう感想は聞けないので、そういう点では芽生さんや結衣さんと朝食をとるほうがリアクションを求められるだけ少し楽しいかな。


「そういえば、きんじつちゅうにまたもうひとりらいほうするよていなの。そっちはネアレスにまかせることになったの」

「そうか。でも一応はここのダンジョンにいったん集合して、それからそっちで会話をする、という形になるのか? 」

「いちおうそういうことになってるの。だからとおりすぎていったらまたおしえるの」

「よろしく頼む」


 食事を終えて昼食の準備だ。昨日はしっかりリフレッシュしたからな。新しい気持ちで楽しい昼食を作ることを心がけよう。今日は何を作ろうかな。あんかけ焼きそばとかでも良いな。麺はあることだし……最近麺類の消費が少し激し目な気がするがあまり気にするところではないだろう。


 豚肉と冷凍シーフードを解凍して具にすることにする。後は適当にはんぺんやキャベツをざく切りにして放り込むと、良い感じに炒めてから一旦火からおろし保管庫で保温しておく。その間に中華そばを焼き始める。先にやっておいたほうが良かったな、と後になって思ったところだがまあ今更だろう。


 そばにしっかりヤキを入れたところで焼きそばを皿に移し、保管庫で温めたまま保管しておいた具材に水溶き片栗粉でとろみをつけて、良い感じになじんだところで焼きそばにかける。軽くほぐして混ざったところで完成だ。今日は一品だけだが、量はそれなりに用意したし問題はないだろう。大事なのはお腹が満腹になるかどうかと探索中にカロリー不足を起こさないかどうかだ。


 今のところ身体強化の使い過ぎによるカロリー不足現象は一回しか起こしてないのでそこまで心配する必要はないだろう。水分も取ってるし、水分の在庫はいくらでもある。最悪生活魔法から水を出せば補給は出来るしバニラバーもある。昼食としては充分な量を確保できているな。焼きそばも二人前近くの量を作ったので問題なし、と。


 後用意する物は……今のところはなしか。しいていうならミルコへの質問が一つあるのでその手土産が必要だな。コンビニでコーラとお菓子を買っていくか。いつも同じものを買わないように気を使ってはいるが、そろそろコンビニでも新しいおやつを補充することが難しくなってきた。今後は季節のお菓子を納品していくように頑張るかな。


 柄、ヨシ!

 圧切、ヨシ!

 ヘルメット、ヨシ!

 スーツ、ヨシ!

 安全靴、ヨシ!

 手袋、ヨシ! ……そろそろ変え時かもしれないな。鬼ころし本店で買った奴を試してみるべきか。

 飯の準備、ヨシ!

 嗜好品、ナシ! コンビニで買っていく!

 車、ヨシ!

 レーキ、ヨシ!

 保管庫の中身……ヨシ!

 その他いろいろ、ヨシ!


 指さし確認は大事である。さて、まずはダンジョンに着いたらギルマスに報告だ。七十層まで到着したこととフカヒレの納品、後エレベーターの変化について前情報をながしておいて、エレベーターの倍速解除方法を教えてもらってから正式にお達しが出るようにしてもらうほうがいいだろう。予定はある。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 ダンジョンに着き、支払いカウンターでギルマスが来てるかどうかを聞くと、今日は遅めの出勤ということなのでまず茂君を狩って、それからもう一度来ることになった。入ダン手続きを終えてエレベーターを使うついでにミルコを短い時間の間に呼び出す。


「ミルコ、ちょっといいか。すぐ終わる話なんだが」

「なんだい安村、珍しいねそっちから呼び出すのは」


 ミルコはすぐ転移してきてくれていた。昨日の今日でスキルオーブを取りに来た、と考えたのかもしれない。


「実はエレベーターの利用方法なんだが、倍速モードと等速モードを切り替える方法は教えてもらったが、倍速で走ろうとしてやっぱり等速に戻そうと思った時はどうすればいいんだ? 」

「なるほどね。その時は同じさ、同じ階層を三回連続で押せば等速モードに戻るようにすればいいんだよ」

「なるほどな……等速・倍速ボタンがあればよりわかりやすかったかもしれんな。こういう文字を表記して、ボタンを余分に一個つけてくれるような形だとより分かりやすいんだけど」


 メモ帳に文字を書いて「等速/倍速」という日本に伝わる大量のヒエログリフの中からそれらしい文字を見せる。


「なるほどね……少しエレベーターの到着を遅らせてこの場で改造してもいいかい? それぐらいなら下手な操作をするよりもより分かりやすく改造できそうだ」

「構わんぞ、今日はいつもより時間はあるんでな。誰でもわかりやすいように改造してもらえるならそれが一番だからな」


 ミルコが見えないコンソールをカタカタっと動かしている様子をじっと見守る。やがて、エレベーターのボタンが一瞬消え、その後新しいボタンが生み出された。全てのボタンの上に一つ「等速/倍速」というボタンが現れて新しいエレベーターに生まれ変わったらしい。


「これで良いはずだよ。帰り道にでも確認して使ってみるといいよ。じゃあ、到着するから僕は身を隠すことにするよ」

「これは手間賃だ、持って行ってくれ」


 さっきコンビニで買ったコーラとお菓子のセットを袋ごと渡すと、ミルコは黙って転移していった。より使いやすいほうが世の中の人のためになるだろう。七層に到着して茂君を狩って帰ってくると、早速燃料を入れて倍速ボタンをポチ。階層を表すボタンが青く光った。


 もう一度押して等速ボタンに戻ると、白い光に戻った。これで問題なく使えるようになるし、もっと早いエレベーターが欲しくなった際もボタンを増やしてもらうことで対応しやすくなったに違いない。念のため一連の作業をスマホで録画しておく。このほうがギルマスにも説明しやすいだろう。


 ギルドの建物に戻ってきて、最近溜めっぱなしになっていたワイルドボアの革をまとめて査定にかけると、再度ギルマスが居るかどうかを確認。今度はギルマスはちゃんと出勤してきてくれていたらしい。一往復分茂君を狩ってきたのでこっちの負担も少ない。まあ準備運動としては悪くない時間だった。


 ギルマスルームへノックして入る。朝の一仕事は終えていたのか、ちょうどコーヒーを淹れている最中のギルマスがそこに居た。


「やあ、安村さん。一昨日は面白い映像をありがとう。で、今日は続きを聞かせてくれるってことで良いのかな? 」

「ええ、無事に七十層に到着して、エレベーターも設置してきました。後、エレベーターついでにもう一つ、このダンジョンの特別商品をご用意いたしました」


 ここは俺の貸しを一つ使った分の成果としてもったいぶっておく。


「小西ダンジョンの特別商品か、ぜひ聞きたいところだね」

「これは周知しておいてほしい範囲の話なのですが、エレベーターに倍速ボタンが付きました。押して必要分の燃料を入れることで、二倍の速さで目標階層までたどり着けるようになりましたよ」


 ギルマスがピクッと反応する。


「二倍か……例えば七十層まで行くには五十分今までかかっていた計算になるね? 」

「実は先日、就業時間ギリギリに帰ってこれたのもこの機能のおかげということになります。そしてたった今、利便性を更に向上させるためにミルコに頼んで改造してもらったばかりなので、より使いやすくなった形になります」


 詳しくはこの動画を、ということで、ギルマスのパソコンに七十層近辺の録画も含めた情報データをコピーしておく。


 ギルマスとパソコンを覗きながら、出てくるモンスターについて報告をする。基本的に空を飛んでくることと、エイとサメであること、それからサメのフカヒレがドロップ品として出てくること、このマップのドロップするポーションはどうやらキュアポーションのランク5がドロップするらしいということを確認。一連の流れを報告した。


「なるほどね。まあ、最深層までお疲れ様、というところかな」

「実際には最深層は七十二層までできているはずなので、セーフエリア目線の最深層、というのが正しいとは思いますが。また今度潜る時に少しずつ地図を広げに行きますよ。この後モンスターがもう一種類いる可能性もありますからね」

「七十一層からのモンスターかい? それはまた大変そうだね。無理せずに頑張ってきて欲しいね」

「それと、サンプルとしてサメの……スペースシャークの落とすフカヒレをいつも通り預けておきますので、ドロップ品の査定金額の参考商品として各所に回してあげてください」


 フカヒレをドサドサッと手持ちにあるだけ全部渡す。


「これはまた立派な奴がドロップするね。この大きさのフカヒレを食べようと思ったら数万かかりそうだ。良い中華屋が値段をつけてくれることに期待するところかな……と、そういえば申し送り事項があったんだった。六十五層から六十八層にかけてドロップしたという例の醤油差しの件なんだけど」


 お、進捗があったか。どんな結果が返ってくるんだろう。


「あのドロップ品を元に対ウィルスの抗生剤が作れることがわかったらしいよ。しかも耐性菌が発生しにくいタイプの全く新しい組成をしているとかで、もっとサンプルが欲しいと言われている。それもついでに提出したいんだけど、在庫がいくつかあればうれしいんだけど今出せるかな? もちろん前に預った分も含めて、値段が固まり次第支払う用意はある。これがまず一件目」

「じゃあ順番に処理していきましょう。まず、一件目ですが手持ちの醤油差しと前に預けた醤油差しが……ええと、合計でちょうど百本になりますね。まずこれをお預けします。それとフカヒレも手持ちはほぼ全部渡しておきます。どうせ後で芽生さんと潜る際に取りに行きますので」

「解った。責任をもって預かろう」


 段ボール箱に新聞紙を敷いて丁寧に包んだ後、醤油差しをホイホイと入れていく。そして箱の外に内容物、九十五本と書いて段ボールを閉める。どうやら、元々そういう形でいつでも送り付けられるように用意はしてあったようだ。


「次の件だ。例の耐性指輪、数集まってるよね? アレを三セットほど卸してほしい。具体的に渡す相手については降りてきてないんだけど、三人分のご要望らしい。用意できるかい? 」

「今のところもっと多くても問題ないぐらいはため込んでますからね。そのぐらいなら問題ないです。ただ、芽生さんとの共同戦果になるので今日卸すという形はちょっと勘弁願いたいですね。出来れば二人でダンジョンに潜る時に渡しに来て、そのまま査定を済ませるという形の方がありがたいです。ちゃんと収入記録として残りますし」

「それもそうだね、じゃあそっちは後日ということでお願いするよ」

「芽生さんには連絡は入れておきますので……と、他に連絡事項はありますか? 」


 ギルマスと話しつつ、芽生さんにレインで連絡を入れておく。


「今のところはそれだけかな。じゃあ指輪の件はまた後日お願いするということで。今日はお疲れ様。昨日はゆっくり休みを取ってたってところかな」

「プレッシャーみたいなものはありましたからね。これで肩の荷がまた一つ下りましたし、ミルコのほうも少しはのんびりしてくれると思ってますよ」

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

後毎度の誤字修正、感謝しております。

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