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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第二十五章:ダンジョンマスターさん、いらっしゃい

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1232:三人の朝食

 朝を過ぎてほぼ昼になった。結局夜明けぐらいまで頑張った。その後風呂に入り綺麗に体を洗い流し直して、アラームもかけずにゆっくり寝た。


 精神的にはおかげでかなりゆっくりすることができた。そっちの疲れは充分取れたと見える。体の疲れはちょっと残っているが、これは気持ちいい体の疲れなのでそのままにしておく。


 傍らで眠る結衣さんをそっと揺り動かして起こす。肩を揺らすと結衣さんはバッチリ目が覚めたらしい。


「今何時ぐらい? もう朝は完全に過ぎちゃったわよね」


 時計を見ると午前十一時。良い感じにブランチを決める時間だ。


「朝と昼を同時にとるにはいい時間かな。ありがとう、おかげで色んな疲れが取れたよ」


 そっと頬にキスをしておはようの代わりにしておく。前はこっそり起きたら朝起きたら大事な人が隣にいないと苦情を言われた覚えがあるからな。ちゃんと起きて挨拶をして、それからご飯に取り掛かる。その手順は忘れずにこなしていくことにしよう。


 トーストを……さすがに一気には焼けないので二枚ずつ順番に焼き、何時ものキャベツの千切りをピーラーで三人分作って目玉焼きも三個。火魔法で援護しつつ……と、多重化のおかげで火力が上がったんだったな。気を付けて調節しないと。


 トーストを合計五枚焼き、一枚には大盛でジャムをのっけてやる。結衣さんの相手をしてくれていたお礼も含めてリーン用のものだ。その後でジャムを保管庫に色々用意して、その状態で皿を保管庫に入れて庭のダンジョンへ運ぶ。


「どこいくの? 机はこっちにあるけど」

「朝食兼昼食だからな。ここにダンジョンが出来てからはリーンと一緒に食べるようにしてるからさ。結衣さんもおいでよ」


 ササっと服を着ると朝ご飯を食べに庭に出てくる結衣さん。なんかキャンプ飯みたいでこれはこれで楽しいので毎日続けている。


 机を出して椅子を三人分出して、保管庫から朝食を取り出すと、リーンを呼び出す。


「ご飯だぞ、ちょっと遅くなったけど」

「おはようなの。きのうにひきつづきにいはまもおはようなの」

「おはようリーンちゃん」


 三人で机を囲んでいただきます。


「きょうはいつもよりおそかったの。ゆうべはおたのしみだったの? 」


 結衣さんが顔を赤くして固まっているが、素通しでリーンに言葉を返すことにする。


「朝までお楽しみだったぞ。おかげで俺も元気いっぱいだ」

「それはなによりなの。そしてきょうはジャムがいつもよりおおいの」

「俺が帰って来るまで結衣さんの相手をしてくれていたお礼かな。一杯食べるといい」

「わーいなの」


 口いっぱいにトーストを放り込みながら、ジャムの甘さに感動して喜んでいるリーンを尻目に、まだ少し照れている結衣さんが小さく少しずつトーストを齧っている。


「こんな子供にそんな言葉を教え込むべきではないと思うのだけれど」

「見た目は子供だが中身はダンジョンマスターだからな。人とダンジョンマスターを見た目で判断してはいけない」

「そうなの、こうみえてりっぱなれでぃなの」

「わ、わかったわよ」


 黙ってトーストを齧りながら、動いた分カロリー補給は必要だな?と気づいてジャムをバターの上に追加する。


「ジャムは何が選べるの? 」

「イチゴ、ブルーベリー、マーマレード、ピーチかな」

「じゃあ私ピーチ追加で」


 結衣さんにピーチジャムを渡すと、俺はマーマレードを更に乗せて食べる。一晩かけて使ったカロリーが脳内に補充され、脳髄が甘さを喜んでいる音がする。


「きょうはやすむらはおやすみなの? 」

「今日はお休みだ。明日は……ダンジョンに潜るなら昼からかな」

「ちなみに私も休みよ。だから今日は一日のんびりしましょ。安村さんほっとくとすぐ仕事に出かけるし、今日一日は私が監視するつもりでゆっくり休んでもらいます」

「やすむらははたらきものなの。ほかのダンジョンマスターもみならうといいの。ミルコはあれでひじょうにきんべんなほうなの」


 つまり、ここまで深くダンジョンを作っているダンジョンマスターは他にはそう居ない、ということでもあるらしい。世界最深層記録はまだ日本の手の中にあると考えていいだろうな。


「またダンジョンのこと考えてるでしょ。だめよ、休みの時ぐらいダンジョンのことを考えない癖をつけないと」


 結衣さんに注意される。よし……頭を切り替えよう。今日は休み。完全に休み。ダンジョンのことは考えず、出来るだけ結衣さんのことを考えることにしよう。


 さて、ご飯食べたらどうするかな。休みは休みだが、本来は今日の昼に帰ってくるようなコースを考えていたからな。その間睡眠時間に充てていた現状、昼から何をするかは何も考えてなかったんだよな。


 食事を終えてリーンから特に連絡事項がないことを確認すると、家に戻ってリビングでソファーに座り込み、ボーっとテレビを見始める。片づけを任せた結衣さんも、隣に座ってテレビと俺とを交互に見た後、こっちにもたれ込んできた。のんびりとお昼のワイドショーを見る。


 すると、ワイドショーの探索の話題になり、会談で通訳をしていた俺の話が出てきた。曰く、探索者はトップになると一日に三億稼げる。その分の取材料を要求されたので複数社で金を出し合って取材にこぎつけたことやその金額が下手な会社役員の年収より高かったことなどが話題に出されている。


「で、実際の所その価格を支払った分の取材は出来たんですか? 」

「それはこれからまとめる話になるんですが……」


 と、俺が喋った内容が詳らかにされている。


「これ、安村さんのことよね? 」

「結構時間かかったな。金払った分念入りに内容をかみ砕いて説明したみたいだ。頑張ったな」

「一時間で千二百万円……確かに、私たちも一日がんばったらそのぐらい貰わないと割に合わないと言えるかもしれないわね」

「まあ、これで損をした会社も得をした会社もそれぞれだろうが、次に発売する雑誌やテレビの特集はこのネタで持ちきりかもしれないな。結構な数の記者さん居たし」

「一時間話されただけで自分の月収の何倍も貰ってると言えば、思い含むところもあったでしょうね」

「まあ、そこは重要情報握ってる分だけの価値を金額的誠意で出してもらったってことで」


 どうやら俺の個人情報自体には触れないように配慮はしてくれたらしい。もしかしたらこんなやつの名前を出して他の会社がより安い値段で情報を仕入れないように情報統制を敷いてブロックしている可能性だってある。そう考えればそう安い売り物でもなかった気はするな。


「一切お断り、ってしなかった理由は? 」

「抜け駆けをしてくるメディアは絶対いるだろうから、そうなるぐらいなら同じ条件を全ての相手に押し付けて、払うならよし、払わないなら情報は出さないってしたほうが確実に選択肢を絞り込めて、金がないならそこまででさよなら、ってしようと思ったんだけどね。まさか複数社で分割して支払いに来るとは思わなかったよ。そこまでするなら出来る範囲の情報は広めてしまってもいいかなって」

「ギルマスに許可は取ったの? 情報を広めていい範囲とか」

「念のために追加録音を要求されたよ。後でこの情報はまずかった、と言われたら俺が怒られるところだけど今のところ苦情は来てないから大丈夫かな。お小言をもらうなら明日以降だ。今日は電話もかかってこないだろうから心配ないかな」


 結構時間を取って特集記事を組んでいる。とりあえず生息地である所のダンジョンの場所と俺の個人名については伏せてくれている。それだけ伏せてもらっただけでも今のところはちゃんとやってくれているんだな。映像自体は撮影してないはずだが、誰か代役を立てたのか、謎の人物がすりガラスの向こうで喋りかけるような形でインタビューに答えている。


「誰、アレ」

「ああいう演出をしたほうが受ける、もしくはちゃんと取材をしましたという体裁を繕うために用意した誰か、だな。体の線の太さも違うし、これで個人情報を漁られる可能性は更に低くなるってことかな」


 結局テレビのおかげで探索のことを話すことになったが、これでリフレッシュできていると言えなくもないのでそう悪い話ではない。


「なんだかんだ結局探索の話をしているけど、しばらくはどうするつもりなの? 」

「そうだな、とりあえず明日ギルマスに報告して、それから六十四層をゆっくりソロで回るかな。この間の会談で鬼ころしの本店に寄ったんだけど、六十一層以降のドロップ品で作られたらしき食品があったんだよね。これ、多分俺が供給しないと製造元も原料が手に入らなくて困ると思ったんだよ。だからドロップ品の生産者としては安定的供給が出来るようにするのが筋かなって考えてるんだ」

「ダーククロウとスノーオウルとエンペラと……見事に階層がバラバラね。まあ好きでやってるんでしょうしその辺は楽しんで探索が出来てると思ってるけど」

「今のところ苦痛に思ったことは……ないとは言い切らないけど、流石に六十五層から六十八層にかけてはちょっと厳しかったかな。気温と湿度の都合上、ずっと梅雨の暑い時間帯の中に居るようだったよ」


 ちょっとネタバレになってしまったが、それでも知らないよりは知ってるほうが多少探索も楽になるだろう。


「五十七層から六十層が過ごしやすいだけに他の階層へ行くのも一苦労ね……とりあえず今は六十二層までは到着してるからもうすぐ安村さんと肩を並べて戦うってのもありになるのね」

「六十四層はマップが解り辛いからね。お望みなら早く次へ行けるように地図写していっていいよ」

「そうさせてもらおうかしら。その間に力をつけるなりなんなりして、また七十層に向かうことにするわ」

「しかし、六十二層まで追いついてきたのはかなりのもんだね。大丈夫? そっちこそ無理してない? 」


 結衣さん達は五人居るのだ。好きな落語家も違うだろうし音楽の趣味だって合う合わないがあるだろう。飯についてはパーティーを続けている以上問題はないはずなので、後はそれぞれの家庭の事情なんかもある。いつまでも仲良くパーティーを組んでいける可能性というのは……いや、他人がそれを考えてどうのこうのいうのは違うな。邪推は良くない。仲良くパーティーを続けてこの深くまで来られているという状況そのものをほめるべきだろう。


「今のところはうまくやってるわ。この調子でどんどん追いかけていくからね」

「そっちも無理せずに頑張ってね。無理をして怪我したり補いようのない傷を負ったりすることもあるわけだし」

「その時は……一番お高いポーション飲めば何とかなるでしょ。それでなんとかならない場合は安村さんを頼ることにするわ」

「こっちの手持ちで一番お高いポーションは……六十一層で手に入るのが一番お高い奴だよ。ヒールポーションのほうはそっちで集めるほうが早いだろうし、あれなら手足も生えて来るほどの効能らしいし、植物状態であるとか瀕死の重傷で間に合わないようなことにならない限りは安全だと思う。ただ、そんな状況に陥らないようにするのが第一だけどね」

「それは解ってるわ。伊達に人数と装備とスキルそろえて戦ってるわけじゃないわ」


 結衣さんパーティーの事情やなんかを聞いたり話したり。色々やってイチャイチャしているうちに夕食の時間になった。


「お夕飯どうしましょうか。食べに行く? それとも作る? 」

「うーん、せっかくの休日だし食べに行くほうがいいかな。楽だし。どこ行こうかな」

「たまにはお高い夕食とか行く? 」

「たまには良いかも。予約が要らない所で……ちょっと気取ったところにでも行ってみるか」


 早速店を検索、予算上限なしで色々と調べてみることに。意外と高級な店も家の周りにあったんだな。以前の生活ではこういう店に行こうとすら思わなかったのでちょっとびっくりだ。


「色々選べるな。早速……さすがにフランス料理は気取りすぎだしイタリアンでちょっといいところ行ってみるか。予約必要とかじゃないよな」

「その辺も予算と席が空いてるかどうかによるみたいね。後は……地元の素材を活かしたって店が目立つわ」

「じゃあそこにしてみるか。予約前提の店はさすがに今からは無理そうだから……ちょっとグレードは下がるけどこの店なんかどう? 」

「そこにしましょう。悩む時間の間に混んでしまってはせっかくの料理も興ざめだわ」


 適当に見つけたイタリアンの店に電話をかけて、今から向かっても席は空いているか確認を取ったところ、予約は受け付けてはいるが今のところ予約で満員というわけではないのでいつでもどうぞという返事をもらえた。さて、食事を楽しむか。

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

後毎度の誤字修正、感謝しております。

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― 新着の感想 ―
そういえばミルコよりも深く作っているダンマスのところには果たして誰か潜り込んでいるのだろうか? 猫みたいにボッチだったら可哀そうすぎるw
何話か忘れましたが海外に100階越えのダンジョン造ってるダンマスが居てそこまでテンプレが有るって話ししてませんでしたっけ?
> ゆっくり寝た」 あさごはんはまだなの > ちょっと遅くなったけど」 ゆうべはおたのしみだったの > にいはま」 中国語の挨拶みたいな発音で言うリーン > ゆうべはおたのしみだったの?」 突っ…
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