1230:七十層にて
ダンジョンで潮干狩りを
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「これは……宇宙に来た気分だな。ダンジョンに潜ったほうが宇宙体験を早く出来るってのが皮肉ではあるけれど、とても楽しそうだ。重力とか酸素とかはどうなってるんだい? 」
「その辺は地球上と変わらないみたいですね。普通に呼吸して話も出来てますし、ジャンプしてみても普段と同じぐらいの高さまでしか上がりませんでしたから、見た目だけ宇宙って感じですね。太陽の光が直接当たらないのは……温度差を発生させたり、その影響で風が吹いたりしないようにコントロールされてるのかな? 」
ミルコに質問がてら仕組みについて聞いてみる。
「まあ、大体合ってるね。一応こっちの世界でも宇宙という概念は存在していたから夜に見える星をイメージしてそこに降り立ったらどういう感じになるだろうか? というのをアウトプットした結果こうなった。多分実際にはもっと違う環境なんだろうけど、重きを置くのはその場所じゃないからね。あくまでそれっぽいものを味わってもらうっていうコンセプトだ」
「……だそうです」
「なるほど。では、サバンナや草原マップと同じイメージで良いのかな? しいて言うならちょっとうす暗くて涼しそうなイメージはあるけど」
「そうですね、気温はそんなに高くありません。そのまま寝るのはちょっと寒いイメージですね」
車を走らせながら、それぞれのクレーター周りの岩の様子やクレーターの中を確認する。クレーターの中央部には何もなかったが、昔何かが降ってきたんだろうなあという中央に空いた穴部分からそういう想像がつく。岩は大小それぞれあったが、これと言って見事な岩というものはなく、やはり階段の岩が一番立派に作られていた。見やすさは実際に大事であるのでクレーターの反対側に見えていた大岩のところまで車を走らせる。
クレーターを渡り切り、反対側にたどり着いたところで周囲を確認。ちょうど反対側に位置する場所に階段があった。
「これはあれかな、テントを張るならクレーターの中がいいよ、という感じかな。それならある程度視界範囲が絞り込めるし賑わい様もわかる。ただ、何処に実際に設置するかと言われると車がある以上どこにでも設置できそうだ。後はエレベーターか……六十九層側につけてもらうことにしようかな。岩が色々あるからどの岩が解りやすい岩かと言われると階段の岩が一番わかりやすい」
「わかった、早速作業に入るよ。まずは階段まで戻ろうか」
車で走りながら、ミルコが窓の外の風景を見てなんだか楽しそうにしている。
「そっちの世界にはこういう内燃機関やある程度自動で動く乗り物みたいなのは無かったのか? 」
「なかったね。だからすごく新鮮だよこの乗り物は。何で動いているんだい? 」
「化石燃料さ。それを加工してある一定の圧力をかけたところで着火して爆発させて、その勢いでエンジン……つまりタイヤを回して動いている。ほとんどが自動化されてるから、ペダルを踏んでスピード調節と、方向を指示してやるだけで高速で動き回れるようになっている」
ざっくりと自動車の説明をする。本当にざっくりだが、まさかここまで喜ぶとは思ってなかったな。
「五十六層でセノが乗ってるのを見て正直羨ましかったんだよね。だからとても楽しいね! 」
めちゃくちゃお気に入りの様子だ。初めて自動車に乗った子供とほぼ同じような感想を抱いている。
「さて、テントは何処に建てようね? 芽生さん」
「そうですねえ。これだけ広いとどこでもいい気がしますが、導線をふさがない範囲でクレーターのちょっと外側に建てるぐらいがちょうどいいかもしれません。後で来る人達用の机とかノートなんかももう用意してあるんですよね? 」
「一通りそろってるからそこは問題ないかな。その内高橋さん達が来ると思うけど、次に会った時にマップの詳細は話さずに東とだけ伝えて詳細は伏せておいたほうがワクワク感を失わせずに済むと思う」
後でリヤカーを取りに行くときに、六十九層、東 とだけ書いて残しておくことにしよう。それで伝わるはずだ。
六十九層への階段へ到着すると、ミルコは早速階段の裏に向かって作業を開始した。テンションが高いからいつも通りの作業で終わってくれそうだ。
その間にテントを設置し、階段とエレベーター設置予定地の間にいつもの机とノートと椅子のセットを設置しておく。しばらくさきになりそうだが、とりあえずドロップ報告として「六十七層、火魔法」と記入して、それが最初の一言となった。ノートは他の階層では有効活用されているのはいろんな方面から立証されているので今後も続けていきたい活動だし、どうやら俺以外にもノートとペンの補充者は居るようなので、ここから先は俺が介入しなくても良さそうな雰囲気さえ醸し出している。
「そういえば長官、ここのモンスターの見た目やドロップ品なんかは後でギルマスにまとめて送っておきますので確認をお願いします。エイとサメです」
「さしづめスペースマンタレイとスペースシャークというところだね? 」
一言一句同じことを言いやがったこの人。
「文字通りで。サメのほうはかなり大きめのフカヒレを落としたので、食べ甲斐があると思います。これも明日には小西ダンジョンのほうへ届くよう調整しておきます」
「わかった。じゃあ、細かいことはそっちで詰めておいてね。私も今日はそろそろ仕事上がりなんだ。そっちも無理しない範囲で休んでくれたまえよ。この通信が最後で戻ってこなかったなんてのはなしだからね」
「十分気を付けてますよ。それでは」
通信を切る。ここから見るネットのスレッドも中々乙なものかもしれないな、とテントを取り出してエアマットを膨らませ、横になりながらスマホをいじりだす。芽生さんは風景を色々撮影しているようだ。エレベーターが出来上がるまではお互い自由にしていよう。
と、そろそろ腹の減ってくる時間でもあるな。さすがにぶっ続けの作業で緊張していたのか、そもそも夕食の時刻を過ぎている。
「芽生さん、ご飯にしよう。この環境なら温かいものを食べたかったところだけど、素直に階段が見つからなかった場合歩きながら食べるのを見越してサンドイッチなんだ。何か温かいものが欲しければ保管庫にある範囲でリクエストにはお応えできるかな」
「そうですねえ。サンドイッチの具にもよりますけど、やはり肉が食べたいですね。さっきのフカヒレは素人が調理するには少々レベルが高いでしょうから他のお肉を何か食べましょう」
色々考えた結果、ボア肉をカットしてバター醤油で焼くことになった。これはこれで美味しいのでヨシ。ついでに遅くなった夕食の分俺も食いたくなったので結局二パックのボア肉の醤油バター焼きを作り、二人で食べる。
「醤油とバターを最初に組み合わせた人はどんな脳みそしてたんでしょうかねえ」
「全くだ。こんなおいしい組み合わせを考えるなんて天才に違いない」
まだほのかに温かいサンドイッチと、アツアツのボア肉を食べながらミルコの作業が終わるのを待つ。うむ……やはり温かい食事は必要だな。すっかり胃袋も温かさを取り戻して元気になってきている。
「終わったよ。それと前に教えてもらった改修案だけど、形にしてみた。三倍の燃料を入れれば二倍の速さで動くことができるようになったよ」
「と、いうことは今から急いで移動すれば」
「一泊しないで帰れますねえ」
現在時刻は午後八時。上がる階層は十階層分。一階層分リヤカーを使う形になるが、それでも二十五分でギリギリ帰れるスピードだ。これは……下手に一泊するよりも楽にここまで来れるし、せっかく作ったその成果を利用させてもらおう。
「使い方について教えてくれ」
「簡単さ、何処かのボタンを三回連続で押せば高速モードになる。その段階で入れられた燃料とそのスピードで何処まで行けるかが表示されるようになる。手軽で簡単で、同じことをそう繰り返されるわけでもないしね。早速使っていくかい? 」
「早速使いましょう。ダメだったらダメだったで戻って来ればいいだけですし、試運転も必要でしょう? 」
芽生さんは今日は帰れるなら家に帰りたいモードらしい。後、ついでに言えばここで仮眠するのは寒くて風邪をひきそうとか考えてるかもしれない。それは俺もある。一応仮眠用の布団は用意してあるが、帰りたい気持ちを引き留めてまで残るつもりはない。
「よし、では早速使わせてもらおう。同じ場所を三回連続……これで燃料を……よし、光った。じゃあ、早速使わせてもらうことにするよ。これはミルコへの手間賃代わりだ。あと、到達ボーナスはまた後日頼む」
「前も似たようなことがあったよね。まあ安村のことだから何かのスキルオーブだとでも思っておくよ」
コーラとお菓子を渡すと満面の笑みで受け取って、ミルコは転移していった。
「じゃあ、帰ろうか。早速倍速の威力を見せてもらうことにするか」
「三倍って事は十階層分ですから十五万円相当の燃料が必要って事になりますよね」
「それで三十分浮くなら儲けしかないだろう。ここは是非とも使うべき……と」
六十三層へまずエレベーターで移動。スマホでタイムを計ってみたが、たしかに二分半ほどで六十三層にたどり着いた。確かに倍速になっているらしい。
「よし、ちゃんと倍速になってる。後はこのままリヤカーを乗せて……閉めて。……っと、なるほど、倍速モードの時はボタンが青く光るんだな」
地味過ぎて語ってこなかったが、今までは白色に光っていたエレベーターのボタンが青く光るようになっている。これが倍速運転中の証なんだろう。
「さて、フカヒレと醤油差しは提出しないのはおいといて、それ以外のドロップ品については査定にかけるから順番に……さすがにちょっとずつ魔結晶も多くなってきたな」
「それなりに深く潜ってる証拠でもありますからね。青色の次は何色の魔結晶になるんでしょう? 」
「順番的に言えば紫か。最終的には真っ白な魔結晶になるか虹色になるかどっちかだろうな」
「根拠は色のスペクトルですか。ありえそうな話です」
しばらく無言の時間が続いて三十分が経過するかしないかぐらいのタイミングで扉が開いた。いつもの一層の光景が見られたことで、確実に全体的に倍速で動いていたことが確認された。ただ、体感的には今までと同じような動きでエレベーターが動いていたため、本当に倍速で動いていたかどうかはわからなかったが、現在時刻がほぼ午後八時半であることがその証明になりそうだ。
そのままリヤカーを引いて退ダン手続きをする。
「ギリギリに来られるのは珍しいですね」
「ギリギリまで仕事するか一泊するか悩んだんですけど、今日のところは帰ろうということになりまして」
「なるほど、お疲れ様でした」
受付のやり取りもそこそこに、査定カウンターに並ぶ。ちょっと九時過ぎるかもしれないなと覚悟はしていたが、そこまで並んでいる様子はなかった。どうやらギリギリセーフ理論で動いている探索者がそう居ないらしい。査定が終わって本日のお賃金、一億五千百八十三万円を手にする。
フルに昼から動いて多少の休憩もあれど、やはり六十八層は美味しいということなんだろう。七十一層はもっと美味しいかもしれないな。今後は二人で活動する時は七十一層か七十二層を目標に入れて戦いに行くことになるんだろう。
「さて、急ぎだったけどバスは……まだ間に合うな。最終バスまでにはまだ時間があるらしい」
「そういえば、何貰いましょうかねえ到達ボーナス。土魔法か水魔法か魔法矢か。生活魔法でも良いですねえ」
「俺は……火魔法は二つ手に入ったし、雷を極めることにするかな」
どうやらギリギリまで粘って探索する層は今ご到着らしい。後ろで次はもうちょっと早く来ていただけると助かりますとお小言を頂いている様子。まあ、ここまで探索に振り切って活動することも今後は無さそうだし、次の階層が出来るまでの楽しみはまだいろいろ充分にある。
最終バスを待ちながら、本当に雷魔法でいいのかを自分に言い聞かせてみる。もっと気の利いたスキルは果たしてあるのだろうか。そもそも、俺が知らないスキルだってあるはずなので、それらをもらってみるのも悪くないんじゃないだろうか。色々考えながらバスに乗り、バスに乗ってる間も考えはまとまらず。結論的にやっぱり雷魔法で良いんじゃないかな、ということになった。今度芽生さんと二人七十層へ下りた時にミルコを呼び出して詳細を……
あ、六十三層のノートに七十層への道を書いてくるの忘れた。これも次回だな、次回。
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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
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