123:いたずら完了
会話しながらもしっかり休憩を取った。さぁ、六層へ行くか。
「ここからは縦横無尽にワイルドボアが駆け巡りダーククロウが大量に木に留まり続ける地獄のエリアだ。準備は良いな」
「ういっす」
「さて行きますか」
六層へ向かう。相変わらずの謎の階段を下りて六層に出た。やはりワイルドボアがうようよしている。ぱっと数えられる範囲で二十匹ほどだ。リンクするのは距離的にみて十匹という所だろう。
「まず十匹の襲撃が予想されますね」
「ばらばらに来るから方向ごとに相手を見つける感じで良いですかね」
「それでいきましょう」
向かう方向は同じだが、ワイルドボアはあちこちにいる。後ろから来ることも念頭に入れて一人、左右に一人、前に一人、前と左右の間に一人ずつ、という将棋で言う金の駒みたいな陣形で歩いていく。
近づいた先からワイルドボアが向かってくるが、全員ワイルドボアに後れを取るような腕ではない。きっちり突進を往なすとすぐ後ろに取りついて止めをさしたり、正面から武器で受け止めてそのまま黒い粒子に還らせる人、戦い方はそれぞれだが、今のところ問題なく戦えている。
一本目の木にたどり着くころには肉が更に三つ、魔結晶が五つドロップしていた。木に葉がびっしりと繁っている。ダーククロウの群れだ。刺激しないようにある一定の距離を取って行動する。ダーククロウがギャーギャーとわめいているが、わめいている間は安全な距離だとわかっている。騒音を横目に通り過ぎる。
「ここからが本番ですね」
「どっちの木に行くんでしたっけ」
「向かって左側の木です」
「あのダーククロウ、誰も来なかったらずっと木に留まったままなのかな」
「どうなんでしょう。カメラでも仕掛けてみますか? モンスターの生態として動画にはできるかもしれませんよ。人間が認識してないところでモンスターはどんなことをしているのか、とか」
「それはそれで面白そうですが、今回は無しで。それにスライムに溶かされませんか、その撮影機材」
「そうでした……」
そう、別にスライムはサバンナエリアに居ないわけじゃない。その辺にそれなりに居る。ただ、それを相手にするよりもワイルドボアたちの相手をしているほうがはるかにいい収入になるからで、もしも四層までスライム狩り探索者で埋まっているなら、ワイルドボアを他人に譲ってでもスライムを狩る、という方法だって無い訳ではない。
ただ、スライムを見つけるのが難しいのだ。マップが広すぎるのと、明るすぎて半透明なスライムが見分けづらい事が主な理由だ。ただ、気が付くとスライムが近くに居たりはするので、五層で休憩をしているときもワイルドボア以外にスライムにも注意を払う必要がある。
「その内、スライム除けみたいな商品が出来るかもしれない。その時までお預けかな」
「そんなんできるんですかねえ」
「スライムが嫌がりそうな物……何だろう、熊手? 」
「それはない」
断言されてしまった。確かに熊手が嫌いなら俺が歩いてるだけでスライム近寄らなくなるか。
二本目の木が見えてきた。前もそうだったが、二本目は繁り方が異常だ。五十羽ぐらいがギャーギャーわめいている。おまけに木の根元にはワイルドボアが居る。
「これはワイルドボアだけつり出すか、後ろから追われるかだな」
「なら後ろに警戒して木に近づかないように前へ行きましょう」
大人しく七層へ直行する。ワイルドボアはこっちの想定通り後から追いかけて来てくれたのでおいしく頂いてしまう。三本目の木には葉は無かった。これは真っ直ぐ行ける奴か。
ただ、上空にはダーククロウが舞っているので警戒はされていると思う。上空から降りてくるダーククロウに合わせてグラディウスを置く。ダーククロウはその場で真っ二つになる。相変わらず柔らかいな。
「なるほど、そういうやり方ですか」
「えぇ、急降下してきたら軌道を変えないらしいので」
「これは面白いかも」
どうやら、ダーククロウの倒し方には色々あるようだ。今までどうやっていたんだろう。まぁ、狩り方は人それぞれか。最終的に一番合理的なやり方が普及していくんだろう。
「散弾銃とかあれば、あの茂った木も処理が楽になったりするんでしょうかね」
「耐久力からして入れ食いでしょうね。ただドロップを拾うのが大変そうですね」
うん、大変だったよ。経験者は思う。
三本目の木を通り越し、階段がもう目の前という所まで来ている。ワイルドボアの集団が階段周辺に屯っていなければだが。
「あれが最後の戦闘になりそうですね」
「ここまでよく無傷で来れたものです」
「一応ヒールポーションの在庫はあるので必要な怪我ならそれで」
「じゃあ、休憩前のひと踏ん張りと行きますか」
「おー」
六対十二ぐらい。どうも一斉ポップは十二匹ほどが限界みたいだ。ワイルドボアにも縄張り意識があればの話だが。各自自分のターゲットを見据えるとそれぞれの相手に向かって対応を始める。
こちらも、俺の正面に来る三体を相手に戦闘態勢に入る。と言ってももうパターン化された戦い方で、全身で受け止めるか、グラディウスで受け止めるか、避けるかの三択だ。今回荷物が多いので避けるという選択は取りにくい。なので一匹目はグラディウスで受け止めそのまま黒い粒子に変わってもらう。次にくる二匹目はすぐ後ろに居た。そのままの姿勢で相手の体当たりを待って、同じように倒せた。
三匹目は少し距離がある。いつもならパチンコ玉を飛ばして勢いを殺してから倒すのがセオリーだが、今回それは使えない。なので突進を全身で受け止め、そのまま持ち上げて落とす。パワーボムの要領だ。ピヨッたところでグラディウスを首元に差し込み、止めをさす。
最後の戦い方が一番力を使ってるように見えるが、相手の突進力をそのまま上へ逃がすので意外と力は使わない。気楽に倒せるのはグラディウスで受け止めるほうだ。なんせ時間がかからず、次に対応しやすい。
一人で三匹処理したため、他の人への負担は減ってると思う。他人の戦い方を観察すると、ヒラリヒラリと突進を躱しながら、相手の突進力が無くなったところへ攻撃を加える戦い方をしている。清州で出会った平田さんは豪快に正面から殴り飛ばしていたが、あれは下手すると腰をいわせると思う。
文月さんは背中のポールが邪魔なのか何時もより槍を振り回しづらいらしく、正面からワイルドボアを仕留める方向で腹を決めたらしく、自称乙女の細腕でワイルドボアの突進を両腕で止め切って、鼻っ面に槍を差し込んでいる。……うん、乙女の戦い方という事にしとこう。
残りもカタが付いたようだ。ドロップの回収に励む。魔結晶が五、肉が二。労力のわりに見合わない収入に感じる。やはり六層は見た目より収入が渋いな。清洲九層のほうがもうちょっと緊張感がある上に儲けが多かったぞ。
「う~ん、うま味が渋い」
「これが渋く感じられるという事は清洲の九層はそんなに美味しいところでしたか」
「一時間で六万ぐらいかな? おっかなびっくりで戦った割には美味しかったよ」
「私も行けばよかったかなぁ……」
うなだれる文月さんをなだめつつ階段を降りる。七層は前と変わりなく、寂しい様相をしていた。
「相変わらず何もないですね」
「テントぐらいはあるぞ、数個だけど」
「私らのテントも張りっぱなしですからね。平和ですが確かに何もないですね」
「清州の七層には官製テントのでっかい奴があるんですよ。ここにも目印ぐらいは有ってもいいと思いましてね。ちょっと大きめのシェルターを見繕ってきたんですよ」
「それでそんな大荷物を……」
「ま、設置する前にちょっと休憩ですかね」
「ですね。我々のテントのほうへどうぞ」
小寺さんたちのテントは中央から少し離れた、六層側の階段からギリギリ見える位置にあった。この位置から見えないほうが八層の階段。見えるほうが六層の階段。そういう位置を選んだのだろう。
とりあえず荷物を下ろす。ふー、さすがに重かったぜ。さて、まずは飯の準備だ。ごそごそとバッグを漁るフリをしてバッグからスキレットとバーナー、まな板、食器類を出す。
「早速飯の準備ですか」
「さっきのボア肉食いましょう。野菜も一応バッグに入れてあるんで、人数が居る分少ないとは思いますがささっと肉肉肉野菜炒めを作ってしまいます」
ボア肉を弱火の内に軽くあぶり、脂を出してしまう。その間にまな板の上で野菜を軽く切ってしまい、さっき炒めたボア肉の脂で野菜を炒める。野菜がしんなりしたところで味付けをして肉と共に焼く。
全体にまんべんなく火が通ったところで火を止め、普通の肉野菜炒めの完成だ。次に肉を細切れにし、次々に肉を焼いていく。肉が焼けると、さっきの肉野菜炒めにどんどん積み上げていく。
肉野菜炒めが肉肉野菜炒めに、もう一度肉を細切れにして焼いて肉肉肉野菜炒めに。これぐらいあればお腹も膨れるだろう。
「できましたよ」
「これは……確かに肉肉肉野菜炒めですね」
「肉と野菜のバランスがどうしてもね」
「でもまぁ、ここで栄養バランスを考えるのはちょっと難しいですね」
「ビタミン剤で我慢するしかないですね。さて、こちらからも食材提供しますか」
小寺さんが椎茸と人参を出してきた。スキレットに残った脂に更に肉を足してきっちり炒める。椎茸はしっかり加熱しないと体内細菌が椎茸菌にやられてしまうからな。こんな所で体調不良を起こさないためにもきっちり熱を通す。それに肉。
紙皿にラップを張って、それぞれの皿に盛りつけて配る。七層でやりたかったみんなでBBQ。今一つミッションをクリアしたぞ。満足しつつ、俺も肉を食らう。
文月さんが「箸忘れた……」としょげていたので、こんな事も有ろうかとと用意しておいた箸を渡す。ありがとうと言いつつ、肉に食らいつく。
みんなも肉を食らう。多少の塩加減はどうでもいい、何もない空間で肉を食らう。これで十分なんだ。我々以外には誰も居ないのか、風が吹かないここでは音も何もない空間で肉を食う音だけが響く。
程よく腹が膨れて満足したのか、みんなそれぞれに休憩を始めた。俺もそこそこに腹が膨れたので、少量の水でスキレットを洗い冷ました後、バーナーと一緒にバッグへ片づけて、使った箸や食器をポリ袋にまとめて入れておく。
水を一口飲むと、休憩を終える。そしてトランシーバーで文月さんを呼び出した。
「あーテステス。文月さん、持ってきたポールとテント貸して。もう建てちゃう。どうぞ」
「手伝うよ。どの辺に建てる? どうぞ」
階段と階段の丁度中央あたりに立てようと思ってるから……この辺だな。ここに立てよう。
「ここにする。説明書の通りに建てれば綺麗に張れるはずだ」
横のフレームを組み立てると、テントを張る。テントに縦のポールを通す。ワンタッチでポールが伸びてくれるのは便利だな。二人で三分ぐらいでテントを立て終わる。
テントの前に「ご自由にお使いください」と張り紙をテープで止めて、これで大きなテントは完成だ。
「後は、テントと階段の中間にこの長いポールを立てる。上には傘を巻き付けて、傘に布を被せる」
「ほうほう」
「これで六層階段と八層階段の間は見やすくなるはずだ。何もないよりマシになるだろう」
ポールの組み立て説明書を読んだ後、テントと階段が見えるちょうど中間地点に来る。ここからなら両方見えるな。ポールを立てて傘を開くと、事前に用意しておいた布を被せる。傘をポールにクリスタルテープでがちがちに巻き付ける。ポールを立てると高さが四メートルぐらいになる。傘の高さを足せば五メートルぐらいになるだろう。
「これで階段とテントとポールが一本の線でつながった。少なくとも七層で方向を間違える事は無いだろう」
「これって何か意味あるの? 」
「自己満足かな。七層にオブジェクトを勝手に増やした。清州の七層はもっといろんなものがあった。再現することは無理でも、人がちゃんといる証みたいなものが欲しいと思って」
「清州ダンジョンの七層行ってみたくなったかな。どれだけ違うか見比べてみたい」
「その内行くか。その時は箸ちゃんと持ってきてくれよ」
「えへへ」
「えへへじゃないの」
もう一本も反対側へ作る。その間に文月さんは自分のキャンプ準備を始めた。三十分ほどかけて、二本のポールを立て終わる。七層の地図にテントのマークと、それぞれの色の布のポールを書き記す。
「お、作業終わりましたか」
小寺さんたちがコーヒーを入れたり仮眠したり思い思いの休憩をしている。コーヒーを差し出されたので受け取る。探索者は紅茶派よりコーヒー派のほうが多いらしいな。
「目標は達成しました。とりあえず地図にかけるオブジェクトを残したので満足です」
「勝手に建てて……文句言う人は居ませんね。地図がにぎやかになるのは良い事です」
「で、お願いがあるんですが」
「多分地図の描き写しですよね。いいですよ、こちらの手持ちの地図だしますからそちらの地図にコピーしちゃってください」
「助かります」
「美味い飯食えたんでそのお礼という事で」
六、八、九、十層の地図を見比べる。元の紙の大きさが同じなので書き写すのは容易だ。必要なのは向かう方向と途中にあるオブジェクト。それから階段の位置だ。後、手書きで書き足してある「この辺に湧きやすい」等の情報も移しておく。ただ、十層の地図だけはギルドの地図と変わりが無かった。
「これ、ギルドに提出してもいい地図です? 」
「お任せします。ギルド貢献にそこまで意識を向けているわけではありませんので」
「では、私より後にたどり着くであろう探索者のためにギルドに提出させてもらいます。小寺さんたちと合わせた地図として」
「ありがとうございます、お任せします」
「ところで、十層の地図は更新されてないんで? 」
「十層は我々も進めてない状態でして。行ってみればわかりますがかなりきついですよ」
地図を描き写し終わると、俺もテントをバッグから保管庫経由で取り出して、文月さんの隣に並べる。更にエアマットを敷くと仮眠する準備は完了だ。少し俺も眠ろう。三時間ぐらいでいいかな。
作者からのお願い
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