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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第二十五章:ダンジョンマスターさん、いらっしゃい

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1229:いざ七十層 4

「中々スリリングな戦いだけど無傷で終わらせるあたり流石ってところかな。本物のオニイトマキエイも同じような大きさだから、どんな名前を付けるのがいいんだろうねえ」


 戦闘を見終わってギルマスがそうつぶやく。


「とりあえずスペースマンタレイかスカイマンタレイか、どっちかですね。仮称の段階ですしどっちでもいいですが」

「私個人的にはスペースのほうがいいですねえ。宇宙って感じがします」

「じゃあ、ここに出てくるモンスターはスペースなんちゃらという名前で統一していこう。一種類しか出ないということはありえないだろうから、もう一種類ぐらいは居るはずだ。まずは目標物を視界で探して……ドローン打ち上げても大丈夫かな? 」

「周りにモンスターが見当たらないので、この密度なら見つかってもすぐに仕舞えると思いますよ。ただ、この階層より下に行くとより難しくはなると思いますねえ」


 芽生さんの索敵が反応しないということはかなりの距離モンスターが居ないということになる。その間にドローンを飛ばして視界を確保しよう。


「というわけでしばらく探索モードに入りますので一旦切りますよ」

「とりあえず六十九層到着おめでとう、と言っておくよ。残りは後で動画か何かで送ってくれると嬉しいな。じゃあね」


 ギルマスとの通話を切り、スマホをドローンに接続してドローンを飛ばす。ドローンから見えた世界は……これは意外と狭いのかもしれないな。目いっぱいまでドローンを真上に上げて視界を確保する。例によって見えない天井に覆われた範囲で視界を探る。


 どうやら真東に何か目標物らしきものが見えている。それと、まだエンカウントしてはいないがそこまでの間にいくらかのモンスターの痕跡……というかモンスターが見えている。流石にこれだけ距離があるとどんなモンスターかは解らないが、マンタレイではない別の空飛ぶモンスターが居ることは解った。


「他にももう一種類いるな。なんだろうねこれ」

「ちょうど行く方向に居ますし、たどり着くまでに出会いますからその時に対処を考えましょう」


 ドローンを仕舞うと、唯一オブジェクトらしきものが有った東へ向かう。ついでに、光を反射して灯りをくれている惑星を背景に芽生さんと写メ。真中長官に「今現在六十九層観光中。詳細はまた後で」と題して送り付けた。これでちゃんと仕事をしていることは伝わるだろう。


 時刻を見ると現在午後六時。こちらの仕事じまいにはまだ早いが、もうギルドから退社していたであろうギルマスには少しだけ悪いことをしたかな。まあ、六十九層からの通話ができるという報告を早めに行っておくだけでも効果はあっただろう。


 東へひたすら進む。道中にもまたスペースマンタレイが現れたので、今度は芽生さんが狙ってウォーターカッターを撃つが、ひらひらと躱されて中々当たらない模様。華麗に芽生さんの魔法攻撃を避けるのは中々に見どころがある。優雅に泳いでいるふりをしてしっかりと狙いを外してくるあたり、それなりの知能は持っているんだろう。


 ここで芽生さんの身体強化がレベルアップ。どうやら図体がでかい分こいつらから吸収できる魔素の量も、身体強化を扱うレベルも高くなったらしい。しばらく身体強化のレベル上げをするならこの周辺の階層で戦い続けるのが良さそうだな。


 仕方がないので俺が雷撃で即着弾させてスタンさせ、その間に芽生さんが止めを刺す、という形で進んでいくことになった。やはり雷魔法の即着弾効果は便利だな。ここも属性相性みたいなものだろう。ただ、試し切りと称してウォーターカッターなりスプラッシュハンマーなりでスペースマンタレイを切り刻んでいる様を見る限り、【水魔法】に耐性があるわけではないらしい。


「イライラしますねここ」

「どーどー」


 自分の攻撃が当たらない芽生さんを抑えるようになだめる。相手が攻撃モーションに入っていてもこっちの攻撃をある程度予測して回避してくる様はさすがに六十九層のモンスター、と褒める所だろう。


 しばらくして、問題のモンスターに立ち会うことになった。


「エイの次はサメですか。名古屋港水族館ですかここは」

「オニイトマキエイは名古屋港水族館には居なかった気がするぞ。後、エイとサメだけ展示してある水族館もないだろうな。ただ一つ言えるのは、噛みつかれたらダメージはかなりのものであることは確かだ」

「向かってきますよ」


 スペースマンタレイとは違い、スペースサメ……お前の名前はスペースシャークだ。スペースシャークは一旦地上スレスレまで下りてきてからまっすぐにこちらを狙って口を開いたまま突っ込んでくる。スペースマンタレイに比べてかなりのスピードだ。


「確かサメは電気に弱い……と! 」


 全力雷撃を当てると、スペースシャークはそのまま一発で黒い粒子に還った。どうやら弱点は現実のサメと同じく雷魔法らしい。本物のサメも、乾電池そこそこの電気にも弱いとかいう話だからな。そのあたりも踏襲されているんだろうし、もしかしたら向こうの世界にも似たようなサメが居たのだろう。


 スペースシャークは魔結晶と一緒に乾物っぽいものも落とした。真空パックが見えている。スペースシャークを撃破した地点まで駆け寄り、スペースシャークの魔結晶とその真空パックについて吟味する。


「これは……もしかしてフカヒレか? 乾物でこの重さってことは、水吸わせたらかなりの重さになりそうだな」

「高級食材に違いはないですね。エンペラと同じようなもんですが、あっちとは値段が違いますよ、値段が」


 ででんとかなりのサイズ感の有るそのフカヒレは、一つだが身は大きく、ウルフ肉と比べても倍近いサイズがある。つまり四百グラム近い重さがあるということになる。


「この大きさだと二万か三万はしそうだな。一枚の大きなフカヒレでもあるし、見ごたえも食べ応えもあるだろう。これは数をそろえて是非美食家たちに感想を聞きたいところだな」


 さっそく保管庫に仕舞う。


 スペースシャークのフカヒレ x 一


 スペースシャークということで片が付いたようだ。もしかしたら七十一層か七十二層でもう一種類増えるかもしれないが、そいつもスペースなんちゃらで収める。そういうことになった。


「フカヒレもっと欲しいな。次の目標物まであと何匹ぐらいいる? 」

「そうですねえ、モンスターの数としては六匹ぐらいでしょうか。さすがに種類がどっちかまでは解りません。もうちょっと密度が高いと危ないですが、そこそこ美味しい戦いにはなると思います」

「そこは七十一層に期待するところかな。さあ続きの道に戻ろう。大事なのは七十層に到着する事のほうだ」


 そのまま目標物まで歩き、スペースマンタレイとスペースシャーク……エイとサメでいいか。それらを二人で一作業として倒しながら目的のオブジェクトまで進んだ。


 目標としていたオブジェクトは岩。そこまで大きくはないが、その岩以外に視界に収めることのできるものが何もなかったのが問題だ。ドローンがなければ荒野をひたすらさまよう結果になっていたかもしれないと思うと、このマップの難易度はある意味では高い。


「ここまで何もないのは、早く作れとせがんだ俺達が悪いのか、それとも元々こういうコンセプトのマップだったのか悩むところではあるな」

「半分ぐらいは洋一さんのせいかもしれませんよ? もし今から変更をかけられるならもう少し見た目で次の階段まで解りやすいようにオブジェクトを配置してくれって頼むべきです」


 オブジェクトにたどりついて、周りを確認した後再度ドローンを飛ばす。ドローンが見つけた目標物は三つ。岩と、岩と、岩だ。ここは岩しかないんか。


「とりあえず一番大きい岩を目指して歩くか。ここから北東方向だ」

「それが階段だと解りやすいんですけどねえ」


 諦めつつも次のオブジェクトに対して歩き始める。そして歩き始めてから気づく。


「ここ、モンスターが上から襲ってくるから見晴らしが良いほうが戦いやすいってのはあるな。そう言う意味では高低差がないこのマップは便利かもしれない」

「なるほど、そういう視点もありましたか。確かにこれで崖の間や木に引っかかってモンスターが倒せない、なんてことになる場合は設計ミスを疑われますからねえ。そう言う倒し方もあるのかもしれませんが」


 そもそも宇宙の何もない所に木が生えているはずもなく、しいて言うなら地面にクレーターが出来ているとか岩ばかりの場所があるとか、それなりには改造は出来るんだろうがモンスターを倒すという第一条件をうまくクリアするには現状の形のほうがまだマシだと言えるのではないだろうか。


 サメとエイは交互ではないが、適切に襲ってくる。相手が攻撃モーションに入るのが俺の索敵内ギリギリの線からなので、索敵もそろそろ多重化する必要があるのかな? と考えつつ、視界に入る赤いポイントめがけて雷魔法をひたすら撃ち続ける砲台と化した。芽生さんは地面に落ちたエイの止めを刺す係。エイはどうやら他に付属ドロップ品を落とすというモンスターではないらしい。魔結晶だけ確実にくれるのでそれが収入として積みあがっていく。


 そしてサメ……スペースシャークだが、十匹中四匹がフカヒレをくれた。数を倒してないので正確な数までは解らないがとりあえず四割の確率でフカヒレが懐に入る。これは中々悪くない副収入だと思われる。


 そして、こいつらの落とすポーションはキュアポーションのランク5であることは最初の戦闘で解っているので、この次のランクのポーションが欲しければ七十六層までのマップが完成してからでないと体感、体験、そして値段を決めることは出来ないだろう。


 モンスターを相手にしながら北東へひたすら進み、目標物である所の岩にたどり着くことが出来た。目標の岩は大きく、裏側に回ると階段があった。これで六十九層も踏破か。やっと七十層の様子が拝めるな。


「というわけで、七十層到着! いえーい! 」

「イエーイ! 」


 芽生さんとハイタッチして、すぐに七十層に下りる。七十層は六十九層よりは……六十九層よりはマシなマップではあった。ところどころ岩らしきものも見えており、早速ドローンを飛ばして確認すると、どうやらクレーターの端っこに位置しているらしい。本当にクレーターあったよ。


「ドローンから次の階段は……あっちかな。エレベーターをどこに設置してもらうか相談する必要も有るし……とりあえず、サモンミルコ! 」


 ミルコを呼び出す。


「到着おめでとう。やっとのことで完成したし、約束通り通信もつけたよ。これで真中達ともやり取りできるようになった、というところかな? 」

「そうなる。さっき見てただろうけど、地上との通信も良好だ。せっかくだし次への階段を探す旅に出よう。どっちと聞くのもアレなので歩くよりは……そうだな、こういう時こそこいつの出番だ」


 車を保管庫から出す。地面はクレーターにも関わらず砂地ではないのでタイヤ痕をそれほど気にする必要は無さそうだ。


「これ乗って見たかったんだよね。隣の席に乗せてもらってもいいかい? 」

「ついでに配信もつけるか。真中長官ならこの時間まだ大丈夫だろ、午後八時前ってところだし」

「そうですね、世界初の最深部からの配信としては面白いでしょうし、真中長官の活力も増えるかもしれません」


 芽生さんにスマホを渡すと、真中長官にレインでビデオメッセージを送る。


「はい、こちら真中。ビデオ通信ってことは何か見せたいものが有るのかな? 」

「どうも、文月です。七十層に到着したのでその光景をお見せしようと思いまして」

「七十層か! それは確かかね……って、何で車の中? 」

「やあ真中、久しぶりだね」


 ミルコは向こうの言葉もこっちの言葉も解るのでスマホに向かって挨拶をしているが、きっと真中長官は何言われてるか解らないんだろうな。


「何言ってるか解らないが、多分ミルコ君が挨拶をしてくれている様子なのはわかるね。運転手は安村さんってところかな」


 流石真中長官だ、ほとんどあっている。


「そうです。せっかくなので社用車をダンジョン内に持ち込んでみました。ここセーフエリアなので安全かと思いまして。後、移動時間を短縮する為でもあります」

「なるほどね……タイヤ痕とか残したりしない? 大丈夫? 」


 真中長官が鋭く俺の気にしていた所を警告してくる。


「ここ岩地なのでそこは大丈夫かと。それに、他の探索者が来る頃には……消えてたらいいなって思ってます。一応五十六層でも試運転はしましたが、その時はバッチリ跡が付いちゃいましたんで痕跡を消すのに手間取りましたが今回は大丈夫かと」

「なるほどね。手があるってことならぜひ外の風景を見せてほしいところだね」

「外は……宇宙です! 」


 芽生さんが真中長官に見せつけるようにカメラを車の外に向ける。そこには六十九層と変わらず、青い星が何処かから照らされているはずの太陽らしい物体の光を反射させ、少しばかりながらも明るく地面を照らしている光景が映し出されていた。

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

後毎度の誤字修正、感謝しております。

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― 新着の感想 ―
真中長官も過労死しかねんな。 ドライフルーツをお裾分けしようぜ。
商標はとても強い権利なので、1文字違いとか読み方が変わらないとかだと引っかかる可能性はあるかと (効果範囲とか期間とかもあるので、一概にすべてNGとはならないですが) まあ、「スペース」をコスモやらア…
なんでB級鮫映画の名前をw 鮫映画好きには笑えますがスペース・シャークと違って「・」が無いから大丈夫かな? それとも向こうが既に何らかの商標回避のために「・」を付けた可能性もあるか。 宇宙ザメのフカ…
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