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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第二十五章:ダンジョンマスターさん、いらっしゃい

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1226:いざ七十層 1

 朝だ。三日の待ちの間に無理をせず、ダーククロウの羽根とスノーオウルの羽根をひたすら仕入れた。いつ布団屋に、今度はスノーオウルだけ欲しいですと言われてもいいようにという大量入荷だ。納品分だけで言えば九回分の在庫がある。金額にすればそれほど大きい収入にはならないだろうが、世の中の流通を円滑にするために、という自分の信条を貫くには必要な行動だったと言える。


 今日も朝食を二人分作ると、庭のダンジョンで朝食。リーンを呼び出して食べる。


「今日は七十層まで行ってくるつもりだ。泊まりになるかもしれないので、その時は朝ご飯に呼びに来ないが構わないか? 」

「ごはんをたべるのはやすむらとはなすためだからべつにいいの。それにここからでもやすむらがなにしてるかはみえるからこころぼそくもないの」


 そういえばそうだったな。もしかしたらお互いのダンジョンマスターも配信を通して誰かが見ているから自分は一人ではない、と奮起している部分もあるかもしれないな。


「だからやすむらはあんしんしてじぶんのしごとをするといいの。ここからみまもってますなの」

「精々頑張ってくるよ。お土産代わりのラムネは今渡すことにしよう。明日の朝ご飯の代わりだ」

「あとでゆっくりやすむらのしごとをみながらたべるの。おやつはべつばらだけど、いまたべるべきではないの」


 誰かさんと違ってしっかりと分別は付いているのか、ラムネを受け取るとすぐさま仕舞い込んだ。もしかしたらミルコよりもしっかりしているのかもしれないな。


 食事を終えて片付け、そして昼食の準備。今日は夕食も作らなくてはいけない。昼食はいつも通りのところで食べるとして、夕食はどういう環境で食べることになるかは解らないので、昼食をちょっと重めのものにしておくか。


 シチューはこの間作ったので、今回は冷蔵庫の中身とも打ち合わせだ。賞味期限が近いものは……はんぺんか。煮込む時間が惜しいがここは仕方なくおでんと行かせてもらおう。並列して夕食のサンドイッチ作りを行う。まずは炊飯からだな。


 大根を真っ先に切り刻んで食べやすい大きさにすると、茹でこぼしてからササっと作った煮込み汁の中へ投入。同時にもう一つの鍋でこんにゃくの下茹で。その間に……あぁ、今日は忙しい日だな。でも楽しく調理できているので悪いことではない。


 こんにゃくをだし汁で煮こんでる中に投入。人参も軽く茹でて投入。人参を茹でていて使っていたIHが空いたので茹で卵を作ってこれも出来次第投入。はんぺんとちくわを熱湯で軽く油抜きをしたら、最後にこれを乗せてひと煮立ち。これで昼食はよし。


 夕食のサンドイッチの具にするウルフ肉の生姜焼きを作る。作り慣れたもので、三分ほどで焼く準備を整えるとキャベツも一緒に焼き始める。今日はちょっと手抜きだ。焼き上げたらサンドイッチ用の食パンにマーガリンを塗ると挟んでぎゅっと一押し。それにサラダサンドイッチとツナ缶の油を抜いたやつをマヨネーズと一緒に挟む。ツナ缶に残った液体成分は……飲んでおいた。魚のうまみも入っているし、油分の少ない奴を選んだので体には良いだろう。ここまで一気にやり終えたところで炊飯器が炊飯終了の音を奏でる。


 飯の準備を一気にしたおかげでちょっと疲れた。ドライフルーツを一噛みして疲労を抜くと、スーツに着替えて昼食と夕食を保管庫に放り込み、食器があることを確認する。後は……後は大丈夫だな。


 柄、ヨシ!

 圧切、ヨシ!

 ヘルメット、ヨシ!

 スーツ、ヨシ!

 安全靴、ヨシ!

 手袋、ヨシ!

 飯の準備、ヨシ!

 嗜好品、ヨシ!

 車、ヨシ!

 レーキ、ヨシ!

 保管庫の中身……ヨシ!

 その他いろいろ、ヨシ!


 指さし確認は大事である。今日も無事にダンジョンへ向かう準備は出来た。後は目標である七十層に到着できるかどうか。第一目標さえクリアしてしまえば後はどうとでもなるがいいさ。しっかりその一歩目を踏み出せるようにしていこう。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 ダンジョンにいつもの時間にたどり着き、芽生さんと合流。今日もちゃんと朝の茂君を回収し、エレベーターで六十三層へ。


「さて……まずは午前中はゆっくり回りましょう。その後六十三層でご飯食べて、しっかり休憩して目指すは六十九層です」

「そのまま七十層まで素直に行ければ御の字だな。迷宮だったらかなり時間がかかるとは思うが、ミルコ曰くそんなにコストがかかるマップではないと言っていたから、だだっ広いマップである可能性は充分にある。その場合は目視できる目標物を見つけるか、ドローンを飛ばして空撮しながら位置を確かめることになるだろう。俺としてはその方がありがたいかな」

「あえて言うなら、地下水路も体内マップも迷宮みたいなものでしたし、三連続で来ることはないだろう、というメタ的視点で物事を見ることもできますね」


 もう出来上がっているマップに対して酷い言い様ではあるが、たしかにそういうメタ読みは大事だな。攻略するうえで参考にもしやすい。


「しかし、ダンジョンのテンプレって何層まで出来てるんだろう? あまり奥深くまでは作ってないようなイメージがあるが、ミルコが言ってた話だと、少なくとも七十二層まではテンプレが存在する、みたいな話に受け取れたし、世界のどこかには百層まで既に作り上げられているダンジョンが存在するそうだからそこまではあると考えていいのかな」

「どうでしょうね。そういえば、七と十五の最小公倍数である百五層もセーフエリアなのにボスが居るという不思議な組み合わせになりますよね。どういう仕組みになるのか少し楽しみになってきました」


 百五層か。実際そこまで潜ることになってからボスが出る形になるのか、それとももっと違ったものが出てくるのか。実はダンジョンマスタールームは百五層にありました、みたいなオチだとちょっと肩透かしを食らう形にはなるが、それはそれでダンジョンマスターはこんな生活をしています。ここまで潜ってこれた皆さんだけのサービスです、みたいな話もありっちゃありなんだな。


 しかし、そうなると今度は二一〇層に何があるのか、という話になるが……そこまで作る予定のあるダンジョンなんだろうか? という疑問は残るな。そもそもデフォルトで三十八層の時点でエレベーターのことを考えてなかったのは確かなので、移動時間とバーターするだけの稼ぎ、つまり魔素の持ち出しが上手くいくのかという問題にも突き当たる。もしエレベーターを加速しないのなら、百五層に到着するまでの間に七十五分も必要になってしまう。二一〇層なら一五〇分、往復で五時間だ。残りの探索時間と釣り合わない形になるし、それと釣り合うだけのトレジャーが必要という話になる。


 この問題はいずれダンジョンマスターの頭を悩ませる出来事として伝えられていくんだろう。すでに悩んでいて対策をどうするのか絶賛会議中かもしれないな。数字のマジックを忘れていたダンジョンマスター側の責任であるし、俺がどうのこうのいう話ではないんだろうが、どういう落としどころで納得するのかは気になる所である。


 六十三層に着き、リヤカーを下ろす。とりあえず午前中は身体の慣らし運転だ、無理をせず通常の歩きで一時間半、ギアを上げつつ他の階層へ移動する分の体力は存分に残して探索することに勤めよう。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 一時間半の慣らし運転を終えて六十三層へ帰ってくる。予定では昼食休みの後、このまま七十層で降りて向こうでテントを立てつつ夕食、というのが第一目標だ。第二目標は……七十二層にどんなオブジェクトが用意されているのかが見たいな。二十四層おきの巨大オブジェクト第三弾。一体どのような面白さを提供してくれるのか。


「お昼におでんも悪くないですが、もうちょっと大根が煮込んであるほうが好みですかね。後、からしがあったらください」

「今日の朝はごたごたしてたからな。一応しっかり茹でこぼして硬いまま食べなくてもいいようにはしてたんだけど……からしどうぞ」

「どうも。硬さのほうは充分煮こまれていて柔らかいと思いますよ。味染みの具合のほうがもう少し染みている方が好みだというだけの話なので」


 不評というわけではなく、次回へのリクエストという形らしい。次回は夜の内に柔らかくしておいて、冷蔵庫で一晩だし汁につけてしっかりと味を染み込ませて作るとするか。一応メモっておこう。


 おでんの味は……さすが市販のなんでもつゆ、といったところだろう。だいこんにもこんにゃくにも味は伝わっている。しかし、芽生さんの言う通り大根はもっとなべ底大根みたいに染みている方が美味しそうだというのは伝わった。


 ご飯をおかずにおでんだけを食べるというちょっと物足りない昼食になった。やはりサラダをもう一品作っておくべきだったか。お腹は膨れたし、少しだが鍋におでんの残りも出来上がった。これは夕食まで等速で保管庫にいれておいて、味染みになるのをまつのも一つありだな。


 満腹一歩手前まできっちり腹を満たしたところで休憩。ウォッシュをかけた机にもたれてのんびりする。腹が十分に満たされている間に半端に動くと体調を悪くするからな。そのあたりは五十六層での出来事でもう学んでいる。


「お腹が落ち着いたら行きましょう。今はこの満腹感を落ち着かせる時間が必要です」


 芽生さんがかるくでろんと机にもたれかかって溶けるようなポーズで必死に胃の中のおでんを消化している。俺も俺で結構食べたので、今は消化することが何より重要だ。


 今日は泊まりを考えてきたので休憩を途中で取る形になっても問題ない方針で来た。そのため、今ここでゆっくり休憩していても時間に囚われず、満腹の幸福感に包まれながらしっかりと次への一歩を踏み出す準備をしている最中だ。


 他のパーティーでは考えられないであろう、ダンジョンの奥深くの、セーフエリアと言ってもかなりの深層、そこで行われる鍋という昼食。これだけでもコラムが一本書けそうだな。他の探索者の目が無いからといって、いくら何でもやり過ぎだぞ、とダンジョン庁からは注意が飛びそうではあるが。


 きっちり休んだ後、六十四層へ再度出かける。今度はそのまま突っ走って目標六十九層。道中、六十七層で小休止して六十八層の長丁場を乗り切る予定だ。


「さて、行くか」

「行きますかー」


 六十四層から六十五層へまっすぐ焦らず進む。いつものハイペースではなく、一時間でちょうど六十五層への階段へ到着するゆるりとしたペースだ。最初からハイペースで進むと途中で息切れを起こす可能性があるこの先の体内マップ、出来れば六十七層への階段まで到着するまで休みを取りたくはない。その先ではもっと疲弊するのは一度通って身にしみている。


 道沿いに居る亀とワニもできるだけ省エネで倒していくところだが、省エネを極めようとして逆に手数を増やしてしまわないように気を使う。そこに気を使って精神的に疲れるぐらいならちょっと多めに力を使って確実に倒していくように努める。


 物理攻撃とスキル攻撃を織り交ぜながら一番手間のかからない方法で進めているため、ほどよく体も温まってきた。これならうっかり六十五層で物理戦闘に従事することになっても対応できるだろう。


「良い感じで温まってきましたねえ。さあ行きますよ」

「腹もこなれてきたしいい感じで行けそうだ」


 最後のコーナーを曲がり、六十五層への階段に到着する。芽生さんの方を振り向いて、大丈夫? という視線を送るが、まだまだ大丈夫だという目線が返ってきた。


 さあ、ここからが本番だ。六十九層への道、うまく切り開いて見せよう。六十五層におり、地図通りに六十六層へ向かう。ペースはさっきまでと同じ、無理しない範囲で省エネやや過剰気味あたりを目指していく。


 道はある程度までは頭に入っている。ここはぐるりと周回するように、ちょうどループを抜けた反対側あたりに階段がある場所。つい最近も来たし六十五層は何度か訪れたエリア、この辺にモンスターいたな、と思うところで出会うモンスターはほぼ出現を確認することが出来た。六十六層はまだうろ覚えだが、もしかするとうろ覚えのまま過ごしてしまうかもしれない。


 途中でサナダムシをうっかり分割し損ねて細かく飛び散って襲ってくるサナダムシを一匹ずつ焼いていく作業こそ発生したものの、六十六層への階段まではその一回のトラブルで済んだ。


 三鎖緑球菌君については、手数を惜しまず三匹がくっついてる間に火力で処理することで問題なく一撃で倒せるようになっている。身体強化もそうだが、スキルのほうもほぼ育ち切る所まで育ってくれたという所だろう。この上の火力を必要とするモンスターがどのぐらい先にいるか、という点については解らないと答えるしかない。六十九層以降への期待が高まっていく。

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

後毎度の誤字修正、感謝しております。

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ちくわもはんぺんも油抜きの必要はないので、ここはヒロウスか厚揚げに差し替えるといいです あと、大根茹でたお湯で蒟蒻のアク抜きもできるし、玉子も茹でられる お湯を沸かす時間が一番かかるので、お湯は電子レ…
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