1222:半日の作業
会議室を使用し終わり、録音機器も止めた。記者達は少し首をかしげつつだが、帰っていった。支払いの割にあまりいい重要情報が聞けなかったと思っているのかもしれない。話せることは全部話したはずなのでこれ以上なんも出せないわけだが、なんとか頑張って記事にしてもらえるようにはしたはずだ。
各社出し抜いての記事ではなく協調記事という形なので同じネタしか出せないだろうが、そこはまあ……いや、変な想像を付け加えられて広められる可能性もあるな。そこについては後で確認する必要があるだろう。しばらく後のニュースを見て監視して、変な記事になっている会社は今後信用しないことにしよう。
会議室を元に戻すとギルマスルームに行き、録音機器を返した。
「変な情報流さなかっただろうね? 」
ギルマスに若干疑われている。流石に変な話はしてないと思うぞ。
「細心の注意を払って取材には応じましたが変なことをしゃべってないかどうか念のためチェックしておいてくださいね」
「それも仕事の内かな、わかったよ、やっておくよ」
やや投げやり的に仕事を押し付けられたような形になったギルマスだが、書類は溜まっていないようなので暇つぶしになれば幸いだな。一応後で確認を取ることにしておこう。余計なこと喋ってないよな?
ギルマスルームを後にして、実質一時間半遅れで潜ることになる。うーん、これは早めの昼食を取ってから六十四層を巡ることになるかな。
一時間半も遅れたことで朝の茂君もパスだ。時間がずれているので他の誰かがすでに刈り取っている可能性もあるし、いつもの時間以外は取りに行くのは気が引ける。俺が刈り取った後で本来の時間で茂君を刈り取るパーティーが出てくるかもしれない。せっかく時間を空けてもらってその間にお互い被らないように刈り取りましょうという無言の協定を結んでいる事情があるので、このまま六十三層へ行くことになる。
入ダン手続きを終えてリヤカーを引き、六十三層へそのまま直行する。さて、今日の暇つぶしは何にしようかな。クロスワードを三問解いた後、月刊探索ライフを読み始める。ダンジョンマスター会談の情報こそあるものの、こっちは締め切りに間に合わなかったようで会談の内容については一切書いてない。どのような会談になるのか、そしてほとんどの探索者や探索者ではない一般人にとってはこれが初めてダンジョンマスターに出会う機会になるのでワクワク感がいっぱいである、みたいなことが書いてある。
この結果として来月の月刊探索ライフがどのような記事を出してくるのか楽しみといえば楽しみ。来月号を待つことにしよう。
六十三層につき、まずは食事だ。パスタを頂こう。今日はエネルギー切れを考えて少し多めの食事にした。二人分をしっかり咀嚼して胃袋に詰め込む。午前中は頭をしっかり使ったからな。午後は身体をしっかり使っていこう。
サラダも忘れずに摂取しておくことで、もしかしたら特定のミネラル成分が足りなくて行動不能になる、ということがないようにしておく。ドカンと大量に食べるわけでもないのでそこまで大きく違いはないだろうが、それでも取らないよりはきちんと取っておいたほうが良いには違いない。しいて言うなら、日に当たらない分だけビタミンDが枯渇するかもしれない、という心配はある。マルチビタミンの錠剤を飲んでおこう。
胃袋がこなれたところで探索を開始。昼を早めに食べた分しっかりと時間は取れる。とはいえ前回みたいに途中でエネルギー変換が上手くいかずに体が止まる可能性がある。今日は三時間コースを二周回って、その間に休憩を入れる形にしていこう。流石に三時間ぐらいなら問題なく動けるだろう。
まず、階段を下りていつもの亀二匹を相手にしていく。近接で仕留めるでもスキルで仕留めるでも、距離によって使い分けてこっちへのダメージがない形で対応できるので問題なし、と。颯爽と戦ったところでドロップを拾い、何時ものコースへ向かう。
無理をしない範囲で今日は潜るので、いくら稼げたかはあまり気にせず、エンペラを供給するのを最優先と考えて探索を続ける。出来ればロックタートル、つまり亀ばかり出てきてくれるならいろいろと便利なのだが、スーアアリゲイターの革もその内供給が上回っていくんだろうか。今の段階……そういえば南城さん達や竜也君達も、ダンジョンが出来ていればそろそろ到着してもおかしくない時期に来ているな。
相談のレインが来ないということは順調に進んでいると考えてもいいんだろう。ダンジョン底まできちゃったからなにかやるべきこととかドロップ品で集めておいたほうがいいものとかある? みたいな話が来そうなものだ。
その話が来ないということは順調に進んでいるか、それともしばらく長休みでもとって稼いだ分のお金の消費にむけて色々としているのかもしれない。俺もそういう時間を取って色々とやってみるべきなんだろうか。一度やってみるかな、そういう面白いいたずら。リムジン送迎のダンジョン通いなんかも面白いかもしれない。真面目に検討してみるのもいいだろう。俺の収入具合もそのうち公開されることになるだろうし、そのぐらいの見せつけも楽しそうだ。
さて、集中するか。
◇◆◇◆◇◆◇
三時間ほど回ったところで階段に戻ってきて休憩。今のところ体調に変化は起きていないが、念のために少し長めの休憩を取っておく。休憩の間にウォッシュして体に染みついた水路の香りとかいた汗をリフレッシュして、ついでに小便も……そういえば、小便した後の片付け物もゴミとして認識してくれるんだろうか。小便を吸い取らせたポリマー樹脂の入った袋に対してウォッシュを試みる。
結果、袋ごとウォッシュで中身を黒い粒子として変換され、虚空に消えていった。匂いも残らずに消えていったのは鼻で確認できたので、これでまた一つ余計な荷物を背負わずに探索が出来ることが解った。
生活魔法も多重化させればウンコもきっと消せる。これは気分的な問題だが、綺麗に掃除ができるというのは有り難いことだ。年末の大掃除も楽になりそうだし、色々とやっておくに限る。もっとウォッシュを極めていこう。芽生さんにもそろそろ生活魔法を拾ったことを報告しておかないとな。
◇◆◇◆◇◆◇
また三時間。この三時間の間に身体強化もレベルアップした。ネアレス曰く、今身体強化を最大限まで活用している形になるのでこれ以上使い続けるとまた前借りを使った時みたいに心臓がバクバクして目や鼻から出血、ということになるんだろう。そこまで使わなくても回ることは出来るので力をセーブしながらまだ巡ることにする。現状ここより稼げるソロで巡れるところは五十五層辺りになるだろうが、そうなると手数の問題で勝負が難しくなる。やはりここで稼いで行くのが確実であるといえる。
もしかしたら五十七層辺りでも同じことが出来るかもしれないが……まあそれはそれできっちりやっておくことにしよう。今日のところはここで上がりだ。これ以上の無理を重ねると本当に危ないことになるというのが解った以上、出来ることをやれる範囲でやるというペースはまもっていかないとな。
六十三層に戻りリヤカーを押し込んで七層。帰りの茂君は確実に狩っていこう。今日は一日静かでいい感じに一人探索を楽しんでいる感じだ。さて、帰り道の暇つぶしは何をしていこうかな。
「今、良いですか? 」
ネアレスが転移してきた。どうやらこっちの暇つぶし時間に合わせてきてくれたらしい。女の子の訪問と言われると中々に悪くない。……と思ったら、ネアレスの両手の中にはセノも居た。
「久しぶりじゃの」
「二人して転移してくるってのは珍しいな。何か進展があったとかそういうのか? 」
セノが来るということは、ダンジョンマスター誘致計画が若干なり進んできているという進捗報告もあるのだろう。
「うむ、後二人ほど候補者を見つけたので念のため先に言っておこうと思っての。ネアレスには顔つなぎがあったかどうかの確認をしておってな。それでついでに同時に転移してきたというわけじゃ」
後二人か。確か海外には二十人ぐらいフリーなダンジョンマスターが居ることになっていたはずだから、一割ぐらいに対して効果があったという成果報告だな。
「また我が家の朝食が賑やかになるのか。それはそれでちょっと困ることにはなりそうだな。食パンと卵とキャベツの消費が大変なことになりそうだ」
「そのことなんですが、次に来るダンジョンマスターについては私から直接報告することになりました。なので、基本的に接してくれるのは最初の顔合わせと、ダンジョンの場所が決まり次第そこに向けてダンジョンを作る作業について従事してもらうことになります。ですのでこれ以上賑やかになることはないと思います。後、私も真剣にダンジョン作りのほうへ精を出すことにしますので、しばらく朝食は結構ですよ」
なるほど。これからはリーンと二人分でいい、ということらしい。それは食費と朝の食事の手間が浮いて助かるな。
「解った、覚えておくよ」
「では、私はダンジョン作りに戻ります。……と、一つ質問なのですが、トレジャーダンジョンを作るとして、見た目は何処の階層を参考にしたほうがいいと思いますか? 」
宝箱が出そうなダンジョンか。やはり定番は石造りのダンジョンということになりそうだ。
「そうだな、十三層から十六層のマップがスタンダードな形になるかな。一層からセーフエリアまで統一して同じ、というのでも悪くないと思うよ」
「そうですか、参考にしておきますね」
俺の意見を参考にするということは実質決定事項になってしまう可能性が非常に高いが、まあスタンダードなダンジョンを選んだというところではあるので、見た目はともかくとしてダンジョンのメインはダンジョンのテクスチャではなく出てくるモンスターや宝箱のほうにむいてくれるだろう。あまり細かいことまで口出しするなら俺がダンジョンマスターになれといわれるだろうしな。
ネアレスは感想を聞いたらすぐに転移してしまった。セノと残り、二人、何も起きないはずもなく。
「やはり他人の手から食べるのがこれは食事マナーという奴なのかのう」
俺の手からちゅ〇るを差し出すと素直に食べてくれている。やはりネコまっしぐら、という奴だろう。その後、お疲れ様のねぎらいも含めて保管庫に在庫のあるマタタビ酒を渡すと、喜んで転移していった。
なんやかんや七層までの暇つぶしになったのでヨシ。茂君を回収していつも通りの行程を得て査定カウンターまでいつもの流れ。今日は一人であることを伝えて査定を終わらせた。今日のお賃金、二億六千八百四十一万六千円。
それに加えて後日振り込まれるはずの千二百万円を加えてもそれなりの収入には……それなりどころじゃないな、かなりの収入だ。税金で七割ほど持っていかれるとしても一日で八千万円ほどの手取りになるのだからまあ悪くない。
冷たい水を飲んで一日の疲れとかなんとかを軽くリフレッシュして気持ちよくなったところでバスの時刻を確認。うむ、すぐ来るな。タイミングバッチリだ。
バスに乗り窓の外を眺めながら少し考え事をする。明日からは少しだけ静かな朝食になるのか。まあ、リーンと卓を囲むだけでも最近は楽しみでもある。次の買い出しの時は新しい味のジャムを仕入れておく事にしよう。ジャムは何種類あっても困ることはないからな。もしリーンのダンジョンがなくなってしまう事態にまで世の中が進んだとしても、自分で消費できるし朝から糖分を摂取することはそう悪いことではない。
さて、夕食は何を作るかな。気分的には引き続き麺類という気分だが、またパスタというのもちょっと味気ない。先日買ったうどんを茹でて……卵と牛乳とチーズソースでカルボナーラうどん風味にして食べるか。醤油を一たらしして味わいも深くなるはずだ。ベーコンはないが肉っ気よりも炭水化物を優先したいところ。確か似たようなメニューを出しているうどん屋もあったはず。参考レシピついでにチラッと覗いて味を再現することにチャレンジしてみよう。
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