122:いたずら開始 2
七百五十万PVありがとうございます。もうちょっとで二章も終わりです。
四層への階段には無事に着いた。あの後戦闘をもう一回挟んだが、怪我や不調を訴えることはなかった。ドロップもなかった。
「さて、休むか」
「賛成。疲れ始める前に休憩を取るのは大事だって誰かが言ってました」
腰を落ち着けて冷えたコーラを取り出し文月さんにも渡す。炭酸は疲れを取るのに良いらしいと何かの記事で読んだな。イタリア人は進んで強炭酸を飲むとかなんとか。
「ふぅ、何時もより美味く感じるな」
「見えない疲れって奴ですかね」
「疲れインジケーターがあったら微妙に疲れを感じるところ手前だったのかもしれん」
「あ、スライムだ」
スライムがぽよぽよとこちらに近づいている。俺は保管庫からバニラバーを取り出すと半分に割ってくれてやる。腰から熊手を外すと、食事中のスライムの核を引きはがし、踏みつぶす。スライムゼリーと魔結晶が出た。
「久々にスライムを狩った気がする」
「今日の儲け、今のところそれだけですね」
「手ぶらで帰るよりはマシかな」
ドロップをバッグにそのまま放り込んでおく。この先何回戦闘するか解らないが、ドロップはあって困る物ではない。有り難く頂戴しておこう。
二十分ほど休憩した後、四層へ向かう。四層の状態はいつもと変わらない様子だ。耳を澄ませてみるが、二パーティは居るようだ。珍しい。
片方のパーティーはどうやら進む方向に居るようだ。さっきからずっと前に居るパーティーかな。戦う機会は少なくなりそうなのでこちらの負担はだいぶ減る。
「前に居るパーティー、七層向かってるかもしれんね」
「戦闘回数少なくて助かるんじゃないですか? 」
「それはそうなんだが、実入りが寂しいのも事実だ……そういえば、Cランクになる近道教えてもらったよ」
「何て言ってたんです? 」
「ダンジョン税を一杯払って、出来るだけ下層で活動していると良いらしい」
「堅実な話ですね」
と、ゴブリンが会話に割って入る形で一パーティー現れた。ゴブリン四匹だ。見えない疲れも取れているのか、あっさりとゴブリンを片付けドロップの魔結晶を拾う。
「何時までもゴブリン相手にヒールポーション強奪する作業してる奴には奥には行かせませんという事なのか、それとも実力を試したいのか、そこまではわかんないけどね」
「たしかに、ゴブリンで二十万稼ぐのとジャイアントアントで十万稼ぐのでは、後者のほうが探索してるっていう感じはありますね。前者はただの賞金稼ぎって感じ」
「できればジャイアントアントで二十万稼ぎたいところだなぁ」
「そうなるためには経験値貯めないと」
「じゃ、経験値貯めに七層へ向かいますか」
戦闘をこなしつつ五層への階段へ向かう。すると、前のパーティーに追いついてしまったらしい。四人組の一団が目の前まで来た。
「あれ、この間会った人たちじゃないですか? 」
「そうだな、小寺さんたちだな」
「知り合いに会うのは都合がいいんですかこの場合」
「どっちとも取れる。とりあえず挨拶はしておかないとね」
向こうもこちらに気づいたのか、手を振る。
「やぁ安村さん、文月さん。七層行きですかその恰好は」
「どうも。そうなんですよ。そちらも七層行きですか? 」
お互い大量の荷物を背負いながらだ、間違いないだろう。
「一緒に行きませんか。六層で楽したい」
「直球ですね、いいですよ」
「やけに荷物が大きいような気がしますが」
「ちょっとどでかいテントを建てて目印にしようと思いまして。七層、あまりにも何もないですから」
「なるほど、道理で。しかし、二人で運ぶには量が多すぎませんか」
「それで六層どうやって駆け抜けようか相談しながらここまで来てたんですよ、運が良かった」
「ははっ、それはお互い様ですね。我々も連泊する予定だったので食料品が結構嵩張りまして」
これで道中の楽は出来るようになったな。ドロップはこの際考えない事にしよう。
「では、参りましょうか」
小寺さんたちを含めた六人の即席パーティーで四層以降を進む事になった。六層以外では常に一対一を確実に確保できる人数だ、不安はない。横合いからどんどんモンスターが来るが、一人一殺の精神でもって危なげなく対処していく。ドロップは人数割りで一対二で七層で分ける事になった。
四層の道をそのままずんどこ進んでいき、五層の階段へ着き、消耗が無いのを確認した後そのまま五層へ降りる。相変わらずのサバンナエリアがそこにあった。我々以外に人は居ない模様。
「しかし、安村さんも七層を目指すようになりましたか。これは追い抜かれそうですね」
「まだDランクなので十層までしか潜れませんけどね」
「九層には行ったことが?」
「清州で九層へ潜ったことはあります。手助けされながらですが」
「じゃぁ小西の九層も多分大丈夫でしょう。九層はあまり変わりがないですから」
「ただ、十層への道、私知らないんですよね。小西ダンジョンにも地図置いてないですし」
「あー……それ多分我々が提出してないからだと思います」
小寺さんたちは九層十層の地図を持っているらしい。自前で探索して地図を作ったって事か、すごいな。
「今度それ、ギルドに提出してもらう事って出来ますか」
「構いませんよ。次に上に戻った時に申請しておきます」
「助かります。これで私も安心して十層まで潜れますよ」
ある所にはあるんだな、地図。持っててよかった良い知り合い。
「しかし、安村さんがここまで来てるとすると、一層のスライムは誰が駆除してるんでしょう?」
「多分清州ダンジョンからこっちへ流れて来てる人が駆除してるんだと思います」
「そういえば今日から査定価格下がるそうですね」
「スライム狩り止める人も増えるんでしょうか」
「バニラバーの入荷次第ってところじゃないですかね」
「キーマンは三勢食品ですか」
「現状、そうなってしまいましたね」
ワイルドボアが三匹駆け寄ってくる。こっちが手を出す前に、小寺さんたちがあっという間に片づけてしまった。連携が取れてるな。ドロップの肉が二個。七層での休憩が楽しみだ。
「これは幸先がいいかな」
「七層へ着いたらまず飯食いますか」
「これが今日の食事かな」
「肉野菜炒めでも作りましょう。前に清州で作って中々イケたもんで」
「それは楽しみですね」
五層から六層へは三本の木を経由して進む。それぞれの木にダーククロウが止まっており、不用意に近づくと彼らの警戒範囲に入り戦闘になる。逆に、必要以上に近寄らなければどうということはない。
今は荷物が多い。不要な戦闘は避けたい。なにより、ダーククロウは食えない。
「今は食えないカラスより食えるイノシシかな」
「ですね。そっとしておきましょう」
向こうも意見は同じようだ。ダーククロウは出来るだけ無視していく。頭に居るどうしようもないのは、降りてきたら対処。ここもパターン化されてきたな。
ワイルドボアがまた三匹ちょろちょろとちょっかいをかけに来たが、今度はこっちの番だ。相手の突進をそのままグラディウスで受け止め止めをさす。また肉が出た。今日は肉が多いな。
「また肉ですね。肉肉野菜炒めになるかもしれません」
「肉が多いのは良い事だ。美味いし腹が膨れる」
五層ではあと四回ぐらい戦闘になりそうかな。木と木の間で一回ずつぐらい戦闘になると試算して、最大三匹来たとして十二匹。肉のドロップ率が三割位なので……野菜が足りなくなるな。さすがに六人分の野菜は用意してないぞ。
おおよそその後の工程は予想通り五層を渡る間に四回のワイルドボアの襲撃を受けた。ドロップは肉二、魔結晶四、革一。革が今はとっても邪魔である。
六層の階段を降りる前に少し休憩する。七層までは目の前だが、全員が重めの荷物を背負いなおかつこの先は激戦が予想される。休めるところで休んでおこう。
「そういえば、なんで三勢食品がキーマンなんです? 」
文月さんが訊ねてくる。小寺さんと二人、出来るだけかみ砕いて説明しようと試みる。
「三勢食品が供給を止めればスライム狩りは一気に頓挫しちゃうからね。彼らが作り続ける限り、スライムバニラバーという儀式は続くんだよ」
「それは解ります」
「三勢食品としては、この製品特需を逃すと儲けがフイになるわけで、できるだけバニラバーを供給し続ける商人としての欲と使命がある。探索者にダンジョン攻略という使命があるのと同じです。と、なれば今頑張っているであろう三勢食品はラインをフル稼働させてバニラバーを作り続ける間に、その体制を維持するだけの雇用と可能ならラインの増設をしなきゃいけない。これは一朝一夕でできることじゃない」
たしかに、いきなり明日ラインを一つ増設しますと言われて、すぐさま人を雇って対応できる企業なんかはまず無いだろう。そこまで人が余ってるなら解雇するか他のラインに回っているはずだ。
「派遣で人は雇えてもラインそのものを作ることは出来ないからな」
「だから、企業としてはこの先を見据えて製造拡大案を立てていかないといけない」
「たとえばスライムの好みが変化して、バニラバーでドロップが確定しなくなる、という可能性はゼロじゃないわけだが……それを見越す事なんて誰にもできないんだから、現状維持しか手段がない。だからこそ現状を維持し続ける事に必死なんじゃないかな」
「会社勤めも大変ですね」
欠品と納期とクレームのトライターボでてんやわんやだと思うよ。おそらくだけど、もう他の味は生産してないんじゃないかな。
「そうするとバニラ風味だけは最低限供給する、という感じになるわけですか」
「当面需要はバニラ風味なんだから、それに集中しないととてもじゃないと捌けないんじゃないかな」
「他の味が店頭に並び始めたら、この特需は落ち着き始める、って見方ができると」
「そうそう。少なくとも昨日スーパーに寄った時には他の味は残ってた。つまりバニラバーだけを買いあさってる探索者はまだまだ多いって事だ」
「どのくらい続くんでしょう? この騒ぎ」
文月さんがこっちをチラチラ見ながら話を続ける。やめなさいこっちを見るのは、バレたらまずいだろ。
「それに、三勢食品だけじゃないんだこの特需は。バニラバーのフィルムを作る会社、原料を供給する会社、出荷にかかわる会社、いろんな会社が中間に入っている。彼らにとっても利益を得る事業だから、すべての会社がうまく回ってこその現状なんだ。そこまで見越して手配するのはかなりの手練れの仕事だと思うよ」
「中の人の性能の良さに乾杯ってところかな」
俺は全く関係ないふりを通し続ける事にする。俺は関係ない関係ない関係ない……
良ければ評価お願いします。





