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ダンジョンで潮干狩りを
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気持ちのいい朝だ。今日も目覚めは快適。エアコンも静かになりつつあり、そろそろ寝る時のエアコンもタイマーで自然に切れるようにしても問題なく、途中で起きることもない。熟睡できていることの証拠だろう。
早速跳ね起きて布団を布団かけにかけて、俺の身体から吸い上げたであろう水分を空気中に飛ばしてくれるように願って、軽く除湿をかけておく。家にいる間だけでも除湿をかけておけば十分乾燥してくれるだろう。
冷蔵庫のカレーを確認すると、いつも通りトーストを三枚焼いて目玉焼きを二個。トーストの一枚にジャム、二枚にバターを塗るとキャベツの上に盛り付けて二人分の食事を作り終える。カレーをかき混ぜた後弱火でとろとろと煮込みだす。美味しくなーれ、美味しくなーれ。
庭に出てダンジョンの中に入り、いつも通り机を……と机を取り出し椅子を並べたところで、リーンが転移してくる。
「やすむらおはようなの。さっそくだけどおきゃくさんなの」
リーンが挨拶をしてくる。お客さんということは、話していたダンジョンマスターの候補がこっちへ来た、という認識で良いんだろうか。
「お客さん、つまり他所のダンジョンマスターってことか」
「そうなの、れんらくがついたの。はやくくるなの」
リーンが何処かに向けて急かす。すると、新たに転移してくる物体があった。転移し終わった外見は……猫耳?いや、どっちかと言うと犬に近いのかもしれない。ピンと張った頭の上についている耳に、毛並みの揃ったフサフサのしっぽを持ったピンク髪のかわいらしい女性……いや、ギリ女の子という具合だ。
「はじめまして、ネアレスといいます。元は……アンガリー? という国にダンジョンを作っていた者です」
透き通った声が耳にスッと通っていく。俺が思春期の少年だったら生まれる前から好きでしたと抱き着きに行くところであろう。
アンガリーとはおそらくハンガリーのことだろうな。欧州からわざわざやってきた……いや、そもそもダンジョンマスターに距離の概念があるかどうかは怪しいところだが、それでもダンジョンマスター同士のやり取りはミルコとリュドミーラみたいに姉弟でやっている訳でもない限りは身近のダンジョンマスターで済ませてしまうものなのかもしれないな。
「どうも、安村洋一です。日本へいらっしゃいませ」
「こちらの国はニホンというのですね。ダンジョンマスターを募集しているというのをセノさんから聞きまして。ダンジョンを作る場所を探していた所でスカウトを受けたのでこちらにやってきた次第です。よろしくお願いしますね」
早速真中長官に連絡を入れておくか。「ダンジョンマスターの一人目来日、犬耳ピンク髪美少女」
「それは……通信でしたか、遠くの人とやり取りするためのものだと聞いています。このダンジョン、というよりこの場所は通信ができるのですね」
「ガンテツっていうダンジョンマスターが下地を作ってくれててね。今後新しく作っていくダンジョンはみんなこの通信機器が使えるようになっていくのが標準形式になっていくと思うんだ。その辺はリーンも心得てるから少しずつ習っていくといいよ」
「やすむら、ごはんたべながらはなすの」
リーンがご飯を所望しているらしい。とりあえず俺の食べる分はネアレスに渡して、もう一人分作ってこよう。
トーストをまた二枚焼くとバターを塗ってキャベツを刻んで目玉焼きを焼き、カレー鍋を焦げ付かないようにかき混ぜてまだ弱火でとろとろと煮込み続ける。
ダンジョンに戻って改めて朝食開始、待っていてくれていた二人にありがとうをいい、いただきますとともに食事を始める。
「私の分までありがとうございます」
「ネアレスさんは何故に猫耳? 犬耳? をチョイスしたんですか」
「ネアレスでいいですよ。そうですね、しいて言えばかわいかったからでしょうか。安村さまは犬や猫はお嫌いですか? 」
「総じて好き、というところですかね。言うとおりにならない所も含めて魅力だとは思いますよ」
「私もです。なので気ままな犬として生きてみたいと思ったのですが、人間らしさを残しておきたいなと思って耳としっぽだけ取り入れました」
ダンジョンマスターが外見を自由に変更できるのはこれで中の人が思い通りに弄れるというキャラクターメイキング設定のままであるということが判明した。ということはガンテツもあの姿を自分で選んでああなったということになる。もしかしたらガンテツ自身が昔からあの格好のまま過ごしていて、そのままのほうが色々と好都合だと思ってそのままなのかもしれないな。
「ちなみに個人的興味というか、趣味や性癖の話ではないのですが、服の下はモフモフの毛皮だったりするのですか」
「いいえ、人間らしく作ってますのでセノさんみたいに毛皮に覆われた姿、というわけではありません。ちゃんと人間の女の子してますよ。興味ありますか? 」
スカートの端をちらっと上げて誘うようなポーズをする。スカートの裾から少しだけ見えた足は確かに人間の形をしていた。靴も普通の靴を履いているようなので人間にちょっと犬耳としっぽのアクセント、といったところなんだろう。
「ないと言えば百%嘘になりますが、見せろというつもりはないです、あくまで確認ですので」
「ふふっ、興味がおありでしたらいつでも言ってくださいね」
「今のところそっちの需要は満たされてはいるので問題ないですよ」
トーストを齧りながら自然に振る舞って見せているつもりだが、少し勿体ないな、と思う自分も居るし、ちょっと元気になった息子に対して苛立ちとお前は落ち着けという指令を送り続けている。
「やすむらはふたりもかのじょをつくってるりあじゅうなの」
「あら、そうなのですか。隅に置けない方ですね」
「その話、まだ続ける必要あるのか? それよりも今後の話を……そうだ、ちょっと失礼、こんな方が来日してます、という報告が必要になるので二、三撮影させてもらっていいですか。自然な感じで良いので」
「撮影……あぁ撮るのですね。いつでもどうぞ」
食事中だが、食事中の光景として一枚、そして立ち姿を一枚撮らせてもらって、そのまま長官に直通で送る。こんな美少女と朝から食事してますよ、とリア充っぽい所を含めて送信。ついでに芽生さんと結衣さんにも送信。「海外から来たダンジョンマスターひとりめ」と題して写真を添付しておく。浮気じゃなくてあくまで朝食を一緒にとって仲良くしてるだけだからな、というアピールはかえって後ろめたさを感じさせるので事務的な報告にとどめた。
この二人の場合リーンのダンジョンにもかかわる可能性があるから、暇だからダンジョン覗きに来てみたら知らない女を囲い込んでた! なんて話にならないためにもこの第一報告は大事だ。
食事を終えて、机と椅子はそのままに食器を片付けてウォッシュして綺麗にした後、洗剤を薄めにつけて軽く洗うだけで済むようになったのはこれも生活魔法のなせる技。三重化したらきっとギトギトになったしつこい油汚れにも効果が出てくるに違いない。今後も細かく使っていこう。
カレーは焦げて……ないな。よし。そしてご飯の炊飯を忘れていたので急いで二合半分炊飯器にセット。うむ、時間には充分余裕がある。カレーももっととろとろ煮込んでおこう。沸騰してきていたので一旦火を止めてかき混ぜ、全体に馴染ませる。
昼食の確認を終えたところでダンジョンに戻り、談笑しているリーンとネアレスのところへ戻る。
「そういうわけで、ダンジョンのつくりかたについてはいちじつのちょうがあるの。リーンにまかせるの」
「はい、先輩、よろしくお願いしますね」
「うむ、なの」
どうやら上下関係の付けあいは終わったようだ。ネアレスがリーンに立場を譲った、という感じだろう。
「それでネアレス、これは事前に伝えておく話なんだが、俺が【保管庫】を持っているということは一応秘密になってるんだ。そこについては口を閉じておいてほしい」
「解りました。お邪魔にはならないようにしますね。後はなにかこちらで気を付けておく事はあるでしょうか」
「それ以外は……今のところはないかな。ダンジョンマスターが存在するという話もダンジョンマスターは今ダンジョンを建ててない場合は自由に移動している可能性もある、という話も世間的には知られている話なので、何処か参考になるダンジョン……まあ、見た目や特徴違いで言えばガンテツのダンジョンしかないんだけど、そこに参考意見を求めに行くとか、そういうことを大手を振ってしてもらっても構わないということになってるかな。ただ、むやみやたらに探索者に接触するかどうかは……その辺はそっちのガイドラインによるところかな」
実際問題、ダンジョンマスターとしてのガイドラインというか、その辺がどうなっているのかは俺にとっても解らない話だ。
「そうですね、そのあたりは何処でも共通で、原則ダンジョンマスターから探索者に対しては過剰な接触を控えるということになってますので大丈夫ですよ」
だ、そうだぞミルコ。聞いてるか。
「なら、俺としては心配するところはないかな。とりあえず改良型ダンジョンセットだったか? その使い方をリーンに習って、その間に……おっとゴメン、電話だ」
話し中に電話がかかってきた。相手は……真中長官か。
「もしもし、安村です」
「あー、まだそのダンジョンマスターさん、目の前にいる? 」
「今歓談中ってところですね。何か伝達するようなことでもあれば伝えますが」
急ぎで電話をかけてきたってところだろうな。そんなに緊急を要する情報でもあるんだろうか。とりあえずスピーカーにして周りにも聞こえるようにしておく。
「次のダンジョンを作るなら、是非宝箱……宝箱がランダムで出現するような感じのダンジョンを頼むよ! ダンジョン改造案として第一案としてはその案が出てるんだ。トラップなんかは作ってもドロップ品の搬出活動を抑制するだけであまり意味はないと思うんだが、ダンジョンマスターもいくらかの浄化は出来るということなら宝箱を作ってその中身を入れることぐらいはできると思うんだよね。なのでまず最初の、いや二番目の改造案として是非採用してほしくてね。もし既にダンジョンを作り始めているならともかくとして、どのような内容でどのような品物をお出ししてくるかはダンジョンマスターの気分次第になると思うんだけどもそんなに戦闘しなくても宝箱さえ拾えれば収入が増えるとなったら人気が出ると思うんだよね。どうだろう、そのように伝えてみてはくれないか」
一気にまくしたてる真中長官。朝からテンション高いなあ。
「だ、そうだけど? ネアレス」
「宝箱ですか。確かに面白みは増えるかもしれませんね。罠とかは……多分誰も幸せにならないでしょうから一定時間ごとにリポップする形で若干そのフロアで稼げるよりもちょっとだけお得なアイテムとかを入れておくといいかもしれませんね。そちらの方が上司に当たる方なんですか? 」
「上司というか、ダンジョンの外側を管理する上で一番偉い人、というのが正しいかな。今回のダンジョンマスター誘致にも一枚噛んでもらっているというか総責任者といったほうがいいだろうか」
「なるほど、解りました。ではお伝えください。前向きに検討してどのように動作してどのようにリポップしていくかなどはこちらにお任せください、と。その方向性で作らせていただきますと」
「おお、今のが新しいダンジョンマスターかね。何と言ってるか解らないが可愛らしい声だ」
どうやら真中長官のほうにはこっちの言葉は伝わっていないが、真中長官の言葉はダンジョンマスターには伝わっているらしいことが解った。これも翻訳スキルの効果かな。向こうの話した言葉は俺が翻訳して真中長官に伝えることにする。
「かくかくしかじかということで、前向きに検討してくれるそうです」
「そうかね、それは何よりだ。これでダンジョンを作ってくれている間に新しい候補地を早速決めてそこにダンジョンを作ってもらうという形で動き始められそうだよ。もうダンジョンマスターが到着して候補地の選定を待っているとなれば、他省庁の部署にも連絡が付けられそうだ」
「実際の所、どのくらいまで進んでいるんですかね? 用地取得に難航しそうなところは抜きにしても、わざわざダンジョンを作ってもらおうなんて土地がそうそうあるとは思えないのですが」
「それがね、公用地として利用に困っている土地やその周辺の土地も含めてまとめて入手できそうな当てがいくつかあるそうでね、既に候補地を提出してくれている自治体もある。素早いところはちゃんとやってくれるもんだねえ」
公的機関にはあり得ない動きの早さだな、よほど扱いに困っている土地なんだろう。そんな土地が固まって存在しているというのもまた面白い所ではあるが、もしかしたらほかの用途に使うには帯に短したすきに長しという奴なのかもしれんな。
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