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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第二十五章:ダンジョンマスターさん、いらっしゃい

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1216:囲み取材

 七層に到着し、いつもの目隠しをして茂君ダッシュ。終わったら帰ってきて再びエレベーターで一層に。日課はちゃんとこなしたし、一応納品一回分ぐらいの在庫はあるのでまだ安心できる範囲ではあるが、もしも布団や枕が爆発的に売れるようなことになれば話は変わってくるのだろうが、しばらくは持ちそうではあるし、緊急なら布団の山本からメールが届く手はずになっている。


 スマホを取り出して確認するが、流石に昨日の今日で足りなくなるというメールは来ていない。俺のスマホに来ている内容は……うん今日のところは平穏無事であるということは確認できた。退ダン手続きを取ってそのまま査定カウンターへ。少し早めに切り上げたおかげで査定カウンターも一人待ちぐらいで済んでいる。


 査定が開始され、ホイホイと順番にドロップ品を受け渡す。ポーションだけは割らないでね。リヤカーの荷物が片付いたところで今日は一括でと伝えて先にリヤカーを返却しに行く。戻ってくるとちょうどいい感じに査定が終わっていた。今日のお賃金二億四千五百二十万三千二百円。まあ、午前中のスピードアップがなかったのと地図埋めをしていた分だけ少ないのは予想していたのでこんなものか。


 支払いカウンターで振り込みを済ませていつもの冷たい水をもらいに休憩室へ行くとちょっとした人だかり。どうも探索者らしくない人たちがギルドの休憩室を占拠している。何か事件でもあったんだろうか。


 気にせず冷たい水を飲んで頭と体をクーリングすると、バスの時刻を確認して、今丁度バスが出てしまったことを確認する。自転車で帰ろうかな……


「あの、安村さんですよね? ダンジョンマスター会談で通訳をやっておられた」


 人だかりの中から話しかけてくる人が居た。しまった、こいつらメディアの人間か。


「安村さんが来たぞ」

「質問は取り決めの順番通りだからな」

「くそ、じゃんけんに負けたばっかりに」


 どうやら一社で取材に来たというわけではないらしい。複数社によるの囲み取材という奴か。予想よりも一杯来たな。多分、これはギルマスには事前許可を取った感じなんだろうな。


 ギルマスにはどうやって断るかはあらかじめ伝えてあるが、それでも引き下がらなかったのが彼らなんだろうな。そうなると、直接交渉してみたら? という感じで引き下がらなかったに違いない。何時から待ってたのかは知らないがお仕事とはいえ大変なことだな。


「えっと……どちら様でしょう」

「私日々闊歩社の吉村と申します。是非ダンジョン関連の話について取材をさせてもらいたいと思いまして。お話を聞かせてもらってもよろしいですか」

「ここで待ってたということはギルドのほうに断りを入れて取材のために待たせてもらう、という話は通してあるんですよね? 」

「そんなの必要ですか? みんなに開放されているということは我々が待っていても構いませんよね? 」


 ふむ。そういう態度で来るか。だとするなら俺の対応も全部同じようにしてもらおう。


「えーとですね。取材に対する私の利益は何ですか? 」


 俺の利益をまずは確保させてもらおう。それが見合わないような内容だったら取材はお断りだ。みんな平等に同じ条件を突き付けてお帰り頂こう。


「安村さんが取材に応じてもらうことの利益ですか? まず有名になれます。今探索者界隈で話題になってる時の人ですからね。我々の取材を通して一般に広く探索者という職業のすばらしさを広めてもらういい機会にもなりますし、安村さんの顔を広く通じさせることによって他のダンジョンへ行く際も色々と便宜を図ってもらえるようになるかもしれません。それに、安村さんの一言によってダンジョン庁のイメージアップに繋がるかもしれませんし……」

「なるほど、大体わかりました。では、ここにいる皆さんに質問です。千二百万円。これだけの取材費を払えるメディアさんは居ますか? 」


 千二百万円と言った瞬間全員が凍り付いたように固まる。


「えっと、その千二百万円というのはどういう理屈ですか? 」

「私が一時間当たりに稼げる金額です。自分自身、これ以上顔を広めたいとかダンジョン庁のためにとか、そういうことに時間や体を使うつもりはありません。なので誰でも平等に扱えて誰も損しないものとしてわかりやすい物差しを用意させていただきます。一時間千二百万円。支払っていただけるなら現状の機密事項に引っかからない範囲で私の中にあるダンジョン知識をご披露することができるでしょう」


 ざわつきだす記者たち。そしてその外側で更にざわついてる探索者一同。あっちにも聞こえてたか。俺の収入がばれてしまったことにはなるが……まあおじさんだしそのぐらい稼いでても不思議はない、ぐらいで通してくれると嬉しいな。


 そのまま何も言わず、固まる記者達の中で勇気ある一人が声を上げた。


「こちらからその金額に見合うだけの情報を出したら相殺ということで値下げを要求することは出来ますか」

「なしです。私の身体を拘束して舌を饒舌にするための資金でそれだけ用意してください。何なら、みなさんでまとめて資金を出し合って一時間分でも二時間分でも用意するのでもこの際はアリとします。さて、どなたがお支払いできますか? 」

「私の立場からでは何とも……デスクや社に取り合って事情を説明して決済が下りれば何とか」

「では、それまでごきげんよう、ということで。他の皆さんもそれでよろしいですね? 」


 周りを見渡して、俺を囲んでいる記者をにらむではないが目線を合わせ続ける。既に俺の目線から目をそらすような感じの記者もいる。この会社はダメそうだな。


「それでは失礼させていただきます。家に帰って夕食を作るので」

「ちなみに夕食は何を食べるご予定で? 」


 ふむ。これぐらいならサービスしてもいいかもしれないな。


「そうですね、乾麺が余り始めたのであったかいそうめんでも食べることにしますよ。買い物に行く予定もありませんし真っ直ぐ帰るつもりです。ちなみに付いてこないでくださいね。あまりしつこいと取材ではなくストーキングだと認識させてもらいますので、その際はマスコミ関係全方面に対して、社名を公表した上で一切の取材をお断りさせてもらうよう計らう予定ではあります。では」


 歩き出すと、流石にこの場では取り付く島もないと諦めたか、包囲が解かれていく。悠然とバス停のほうに向かい、そして……バスはさっき行ったばっかりだったんだったな。時間つぶしにコンビニへ寄ろう。あったかいそうめんに合いそうな揚げ物やお菓子をチョイスしてから帰ることにするか。


 時間を適当に潰している間も周囲を観察していたが、コンビニまでついてきてこっそり密着取材をするという愚行に及ぶ記者は居なかった。


 バスの時間が来てバス停に戻ると、さっきの記者さんたちがまだ残っていた。どうやら帰りのバスも同じらしい。かっこよく分かれてバス停で再会するのはちょっとばつが悪いな。


 先ほどはどうも、と頭を下げて挨拶し、列の後ろへ並ぶ。バスが来て乗り込むが、さっきの記者さんたちの分だけ人が多く、立ち乗りで帰ることになった。


「この辺も発展しましたね。ダンジョンにエレベーターがついてからだとは思いますが」


 記者の一人が話しかけてくる。雑談を装ってちょっとでも情報を抜こうという腹積もりらしい。ここで一切無視する、というのは印象を悪くするだけで悪感情以外のものを生み出すことにはならないだろう。そして、今は取材時間ではない。雑談なら付き合うのもやぶさかではないな。


「そうなりますね。住宅が出来て貸し駐車場が出来て、コンビニが出来て……ダンジョンのおかげで発展したと言っても過言ではないんでしょうね」

「その一端を安村さんが担っていた、という形ですか? 」


 ちょっと探りを入れてくる記者。ここは情報をうっかり漏らすと金を回収する機会がなくなるだろうし記事にもされるだろうから迂闊なことを言わないようにさらりと流しておこう。


「私はただひたすら潜ってるだけですよ。毎日頑張ってればその分だけの報酬と強さと……それから色々を手に入れられる完全実力社会の場がダンジョンってだけです。幸運にもそこそこの強さと機会を得られたのが良いところですかね」

「大分御謙遜されてますな。ただダンジョンに潜っているだけの人がダンジョンマスターとつながりを持ったりあのような場で探索者代表のような立場で通訳するようなことはないでしょうからね。なにかしらの条件を得てダンジョンマスターとのつながりを持った、それも各ダンジョンのダンジョンマスターから注目されるような理由のあるだけの探索者さんなのではないか、とこちらは思ってますよ」


 この記者はちゃんと情報をあらかじめ仕入れてきて整理してから取材、という万全な形を整えてきているらしいことが伝わる。会談の内容もきっちり耳に入れて、俺が通訳を務めることになった原因や俺についてるブックマークのことなんかも把握しているんだろう。


「そこまで解ってるなら、後は会社を一押しして頑張ってみてください。もし複数社連名で話を出されるのであれば、出来れば各社に領収書を出さなくていいように共同出資として一本化しておいてくれると書類手続き上ありがたいですね」

「そこはまあ、帰って検討しないことには何とも言いませんが……おそらく私の会社だけでなんとかなるとは思っていませんので有志の雑誌社やメディアさんを募ってそこから申請する形になれば……そうなるといいんですけどね」

「前に私のところへ来た記者さんにも同じ条件で受けると伝えていますからね。値段を上げ下げするのはわざわざこっちへ来てもらった記者さんにも悪いですから、その金額だけを独り歩きさせておいてください。ダンジョン深層の料金はそんなに安くありませんよ、ということで」


 安売りをすれば、今深層に潜ろうとしている探索者の稼ぎの邪魔をする可能性もある。できるだけ平等な理由であえて高い値段をつけておけば、より安い価格で自分の潜っているダンジョンの階層までの情報を公開する探索者も居るだろうし、そっちに矛先が逸れる可能性もある。


 それならそっちで稼いでもらっても俺としては不都合はない。あくまで俺へのインタビューの価格だ。あんまり安請け合いしすぎてダンジョン情報というのが安く見られないようにという値段設定だし俺自身の価格でもあるが、取材に時間を取られるということは一日の流れが変わるということでもあり、その日一日が実質的につぶれることになるので、その間に稼げた金額を考えれば千二百万円ではとてもじゃないが足りない。かといって一日三億とぶち上げて余計な波風を立てるのもよろしくない。


 無理をすれば出せないこともないが、それだけの金額に見合うだけの情報を引き出せるのか? その間に他の探索者に取材してしまった方がいいのではないか? と悩ませることもこっちの作戦の内だ。俺に気を取られているすきに他のダンジョンの他の探索者から似たような情報を得ることもできるのだから、精々悩んでもらおう。


 駅で電車に乗り換え。流石についてくるような記者は……居ないかな。念のため家の近くのコンビニまでの道で撒いてしまうか。家にまでついてきたらさすがに通報コースだからな。そこまでしつこく俺を追いかけるより、早く会社に帰って金額についてのカルテルを結ぶ準備でもしてもらうほうがまだ建設的であると言えよう。


 電車を降りて少し歩いた後、電信柱の陰に隠れる。俺を追いかけて探すような影は……なし、と。そこまでやってくる記者は今日の中には居なかったらしい。自宅バレで家から追いかけられると近所迷惑だしな。ご近所様に迷惑をかけるのは俺としても不本意だ。安心してコンビニに入ると、こっちのコンビニで少し雑誌を読むふりをして窓の外を観察。完全にフリーになったことを確認できた。コンビニでチキンを買うとそのまま家へ。


 さて、夕飯はそうめんだ。まだ暑いとはいえ、冷たいそうめんを食べたい気分ではないので温かいまま食べることにする。ざっと茹でた後、コンビニで買い込んでおいたそうめんのあてと揚げ物、そして薬味を乗せると最後に揚げ玉を散らしてしっかりと栄養を取る。そうめんは二人前茹でたがちょうどいい具合に胃袋を満たしてくれた。


 さて、風呂に入ってゆっくりするとしよう。今日はしっかり動いてしっかり働いて、ちょっと栄養不足にも陥った。カロリーは満たしたので後はゆっくりと休んで、今日の疲れを明日に残さないように心がけよう。


 風呂から出てもまだ時間があるので明日の食事の準備をしてから寝よう。明日は……明日はカレーだ。芽生さんも居るし、じっくり煮込んだ美味しいカレーを提供できるように今のうちに煮こむ手前の段階まで作ってしまうか。肉は何を使おうか……

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

後毎度の誤字修正、感謝しております。

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― 新着の感想 ―
まぁマスコミが手軽にだせるものなんてそれしかないんだからしょうがないw 実際有名になりたい奴しかインタビュー受けないのだからそれ以外提供もできんよな
ちょっとした疑問なんだけれど、索敵には反応しないんだろうか? まぁ相手によるかもしれないけど
とりあえず地上でも隠蔽スキル発動で撒くのが良さそうですね。 自己バフスキルなら自衛の為であれば法に触れる事も無いでしょうし。 マスコミを悪意ある人間とした場合探知スキルにも引っ掛かるのだろうか?
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