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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第二十五章:ダンジョンマスターさん、いらっしゃい
1210/1214

1210:世間バレ、始まる

 七層に着き茂君、ダッシュして茂君の足元に近づきサッとサンダーウェブしてドロップ品を拾って、そしてダッシュして戻ってくる俺。芽生さんはいつも通り荷物の上で雑誌を読みふけっている。


「おまたせ」

「いつものことなので問題ないですよ。ただ、そろそろ新刊が必要な気がしますので後でコンビニ行きましょう」


 一層に上がって退ダン手続きからの査定カウンター。カウンターには誰も居なかったのでそのまま査定を開始。芽生さんが着替え終わるまでに査定が終わるかどうか微妙な早さではある。


 しばらくして芽生さんが到着とほぼ同時に査定が終わった。本日のお賃金、一億五千二百八十九万二千円。目標である一日三億は稼いだ、というべきだろう。


 ちゃんと行動を最適化して探索作業を高速化することによってあの六十四層でも充分に稼ぐことができる、という実績ができた。芽生さんと二人で高速で回るならば六十四層をグルグル回るだけでも充分な収入になるのでこれはこれで、指輪狙いでない限りはここも選択肢として増えることになった。


 支払いカウンターで振り込みを済ませた後、いつもの水を飲んでリフレッシュ、そして体にウォッシュ。芽生さんの着替え終わったスーツにもついでにウォッシュ。


 二人で冷たい水を飲んで一息ついた後、バスのダイヤを見るとしばらくまだ時間があるらしい。コンビニに寄って買い物をする時間はあるな、探索雑誌の最新号を手に入れるついでに夕食も一緒に仕入れてしまうことにするか。


 バスまでの時間を利用してコンビニへ出かける。そういえば今日の夕食を何にするか考えてなかったな。何食べよう、たまには魚とかいいかもしれないな。コンビニでいつもの雑誌の最新号……お、探索・オブ・ザ・イヤーの表紙がダンジョンマスター会談レポートになってる。締め切りにギリギリ間に合ったのか、それともあえて会談のために誌面を空けておいてレポートを最高速で仕上げさせたのかまでは解らないが、とにかくあの会談についての記事はあるらしい。ちゃんと買って早速読もう。探索・オブ・ザ・イヤーの記者は現地で質問をしていたことからも、他社よりも多少なりとも読みどころのある記事が書かれているんじゃないかという期待値は大きい。


 月刊探索ライフのほうはいつもの誌面。こっちは会談については来月に回して、その分一ヶ月分の記事を溜めこむ方針で行くらしい。もしくは間に合わなかったかだろう。探索・オブ・ザ・イヤーのほうは記者も会談に帯同していたし、きっちり記事をかき上げてきたんだろうな。


 コンビニのおかずで魚を探す。最近はホッケの塩焼きやサバの味噌煮なんかも気軽に楽しめるようになっている。これを一品買って、それから……和食で揃えたいな、煮物の個包装の奴と鮭弁当を買い込んで、夕食にしてしまおう。


 芽生さんは二冊ほど雑誌を購入するらしく、無言で俺の籠に放り込んできた。どうせ持ち歩くのは俺なのだから支払いもよろしく、ということなんだろう。自分で払えとは要求しない。金持ちはわずかな金額では喧嘩しないのだ。これも探索経費で落ちないかな。落ちないだろうな。


 会計を済ませてバス待ちの列に並ぶ。荷物はバッグに入れるふりをして全部保管庫へ入れた。コンビニで弁当を温めてもらってあるので、家で温め直す手間も無いか限りなく小さくて済む。家の電子レンジは一五〇〇ワットも出力がないのだ、精々頑張って九〇〇ワット程度である。それ以上の火力を求める所ではない。ほどほどに温まってくれればそれでいい。


 バスに乗って帰り道。明日から芽生さんはぼちぼちと来るようなタイムスケジュールらしく、予定表をメモに書いて芽生さんが潜れる日付を聞いておく。その日に合わせて昼食の量を調節するため、食事担当としては大事な所である。この深いダンジョン、腹が減ったらそれなりにその場で準備出来る用意はあるものの、用意をする時間の分だけ稼ぐ時間が短くなる。それはよろしくない。


「……というわけでとりあえず今月の予定はそんなところです。よろしくお願いします」

「あいよ。後期は大分暇なんだな」

「そりゃ卒業間近ですからねえ。他の人は就活なりOJTなり研修なりでもう早めに勤め始める子までいますよ」

「卒業してないのに働き始めるのか、それは大変そうだ」

「まあ、私もその点ではOJTみたいなところもあるんでしょうけど」


 芽生さんが胸を張って言う。そりゃトップレベルの探索者がダンジョン庁に入庁してその前からダンジョンで活躍していた、というならそれ以上のOJTはないとも言えるだろう。


「座学研修はないの? あらかじめこれを頭に入れておけ、みたいなものがあるような気がするけど」

「今のところの予定にはないですねえ。多分実際に入庁してからその辺はやることになると思います」


 ふむ、ということは四月を越えたらしばらくは座学研修や実際にダンジョンに潜る前に色々あるんだろうな。その頃になれば俺も一人で潜る日々が続くのかもしれん。今のうちに覚悟はしておくべきだろうな。


 駅で芽生さんと別れて電車で自宅へ。自宅に着くと早速まだ温かい飯を頂く。鮭弁当と煮物、それからホッケの塩焼きが今日の夕食だ。今日は魚多めで身体の調子を整えるための夕食ということになった。野菜はそれほど多くはないが、煮物にしっかりと野菜が入っているのでそれを食べて今日の野菜、ということにしておこう。


 しっかりと味の染みた煮物とホッケの塩焼きがいい感じに和食感を出してくれている。それに加えてちゃんと皮付きの鮭弁当を俺の胃袋が待ち望んでいる。


 弁当を食べながら探索・オブ・ザ・イヤーの誌面を覗くと、先日のダンジョンマスター会談で発表された内容がそのままの形で掲載されていた。よほど急いで編集作業を行ったのか、細かい考察や探索者視点でその会談の話について思ったことなどの観点は省かれており、事実陳列という形で並べられているものがほとんどだ。


 会談の内容ならまだ記憶に新しいので思い出しながら読み続けているが、大体合っていると思う。流石に現地で録音までは出来ないものの速記で記事にするべき内容を残していたのだろうか。だとしたら記者として中々の能力があるのだと考えていいだろう。


 ダンジョンというものが異世界異次元からの来訪者によって作られたものであるとか、彼らの目的がモンスターを倒してドロップ品を持ち帰ってもらうことであったり、それらについてわずかだが記者の感想も添えて書かれている。


「こちらの都合はお構いなしに一方的に押し付けられた格好になったのがダンジョンというシステムということになる。ただし、その恩恵を受けているのも確かであり、またダンジョンから一方的にモンスターが出るようなシステムでないことを考えると、この会談を通して受け取れるものとしては平穏的な接触であることは確かだろう」


 たしかに、ダンジョンがいきなりできたという意味でも一般人から受け取る印象は、一方的に突然向こうの都合でダンジョンを発生させて世界を混乱させたことについては一言も二言もあるだろう、ということは確か。


「ただし一方で向こうの緊急性と、ダンジョン庁・外務省側のこの際細かいことや法律、突然ダンジョンが出来上がったことについてのやいのやいのは省略して要点だけを話し合おうという姿勢は円滑に会談を進めるにあたって英断だとは言えるだろう。ダンジョンをどうにかするにはダンジョンを攻略、踏破する以外に方法はないのであり、何処までダンジョンが出来ているのかも各ダンジョンにより違いがあるのはこちらも理解しているのでここからはダンジョン運営を共同で行っていこうという日本政府の方針にはそれなりの理解を示すところである。ただ、今後ダンジョンが増えるような事態になった場合にどのようにして話し合いをしていくかが課題だろう」


 探索・オブ・ザ・イヤーの記者的にはダンジョンがあるおかげで自分の飯のタネが出来てそれで食っていっているのだから、じゃあダンジョン辞めますといきなり消えてしまうことは避けたいのだろう。


「今後は会談に出席したセノ氏のようにフリーのダンジョンマスターが増えてくる場合、このような会談の形を取らないにしても話し合う機会は得られるのであろう。その際にダンジョンの数が少なくなることを見越してあらかじめダンジョンを立てるのに適した地区を選定し、そこにダンジョンを立ててもらう等の配慮をすることで上手く共存する形で物事を進めてもらえるようにするのが一番だろう」


 この辺の考え方はダンジョン庁に近いものを感じる。探索者にとってダンジョンの数の減少は職場の減少であり、できるだけ移動しなくて済むように……というのを考えると、ダンジョンを迂闊に減らしていくこともまた探索活動において邪魔になることにはなるからな。


 そして、記事の最後のほうに気になる部分を見つけた。


「通訳の人が早くAランクの探索者を探し出して意見を聞いてみるとかコメントを求めに行くほうがいいんじゃないかと言っていたが、それよりも目の前にいる通訳を担当していた探索者に話を聞きたかった。しかしどうやら先客がいたようで、その先客と共にさっさとダンジョンを出てしまっていた。もしかしたら特ダネを逃した瞬間でもあったかもしれない。かの通訳については情報を集めてはいるが今のところ特定には至っていない。いくつかある取材元に連絡を入れてみたが、該当する人物はまだ見つけられていないが、かの人物に再度接触を試みることが出来れば何かしらダンジョンについてより深く確実性の高い情報を得ることができるだろう」


 探索・オブ・ザ・イヤーの記者はまだ俺にはたどり着けていない、ということだろう。しかし、お世話になってる雑誌とはいえ、他の雑誌に提示した時間当たり千二百万円というギャラの割引はしないということにしなければ不公平になる。ここまで来たのだから向こうからアプローチを仕掛けて来るまでは今まで通りの行動を続けよう。


 鮭の皮を最後の楽しみに残しながらホッケの塩焼きも頂く。ホッケはいつ食ってもいいな。ご飯が残っていればわさびと刻みのりと一緒に乗せてお茶づけにしても悪くない味付けだ。ふむ……鮭弁当のご飯と鮭の皮と残ったホッケを丸ごと乗せて贅沢に二種の魚茶漬けと興じてみるのも悪くないな。ちょっとやっておくか。


 お茶を用意して早速どんぶりにご飯と鮭とホッケを入れると、チューブわさびと刻みのりをぱらぱらと乗せて……ネギも乗せてもいい感じか。だんだん豪華になってきたな、良い感じにお茶を注ぐと、わさびの溶け切らない内にわさびと共にホッケの塩漬けと米をパクリ。


 うむ……うむ……いい。他のおかずもご飯と一緒に掻きこむが、バランスのいい味付けのおかげでお茶づけになっても悪くない。味がきっちり調えられていて揺らぐことがない。ちゃんと箸休めの漬物も鮭弁当のほうに用意されているので味に飽きることはない。


 今日も美味しくご飯を頂くことが出来た。食事にきっちり気を使えるというのは健康であるという証拠ではあるだろう。明日も今日ほどとまではいわないものの、きっちり食事を味わっていきたいものだ。


 食事を終えて風呂を沸かして入ってウォッシュでもドライフルーツでも取り切れない、精神的な疲れと癒しを存分に堪能する。この風呂の時間と眠りの時間は何物にも代えがたいリラックスタイムだ。


 ここのところ探索も順調、プライベートもそこそこ満喫している。収入はいわずもがな。この流れはいつまで続いてくれるんだろう。このままいつまでも続く、という可能性は小さい。ポーションだってランクは低いものの代替商品が出来上がったのだからいずれは解析されてダンジョン産以外のポーションだって作られるようになるだろう。そうなれば今の収入の六割以上を保証してくれているポーションの値段も崩壊する。今みたいに毎日三億、なんてことにはならないだろう。


 探索者稼業は今のうち、精々品物が高いうちに査定してもらって小遣い稼ぎにまい進することにしよう。充分すぎるほど貯金はあるのだ、稼ぎが減っても楽しくダンジョン通いを続けられるようにモチベーションを保っていかないとな。


 風呂から上がっていい感じに眠気が来た。寝るか。明日は休みだ、午前中に納品して午後は情報集めということにしよう。会談の後で一息ついて、冷静に会談のことについて考えだす探索者も増えていることだろうし、何か参考になる意見や今後のダンジョン事情について考える余地が増えてくることだろう。

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

後毎度の誤字修正、感謝しております。

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― 新着の感想 ―
弦間さんにはついてかなかったら色んなメディアに凸られてたとこでしたねw
> 荷物の上で」 三億円を尻に敷く芽生さん > たまには魚」 コンビニで魚を探すおじさん > 早速読もう」 新たな知見がある可能性を捨てないおじさん > 煮物の個包装の奴と鮭弁当」 魚の煮物と鮭…
あの時どっちが声をかけるのが先かで今回の記事も大きく変わってたんやろなあ
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