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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
二十五章:ダンジョンマスターさん、いらっしゃい
1209/1210

1209:午後、じめじめ、最近の情勢

 午後に入り、六十三層に戻ってまずは昼飯。いつものタンドリーボア肉に謎ドレッシングのかかったサラダを添えて、それにご飯というちょっと異色の組み合わせ。せっかくならナンがあれば良かったが、そうなるとカレーも欲しいという話になるので今回はそこまでのことはしない。


 しかし、一度はやっておきたいところではある。ナンは焼けないがロティやチャパティなら家のIHでも作れるので、その内カレーのタイミングで試してみるのも一興だろう。発酵時間も保管庫で短縮できることだし本格カレーセットをダンジョンで、というのはその内やってみたい料理リストの中に入れておこう。


「食べ慣れた食事も良いですねえ。ダンジョンに通ってるって感じがします」

「たまには新しいのにもチャレンジするかな。流石にそろそろ俺も新しい味に目覚め始める時期かもしれん」

「それも楽しみにしておきます。今日のところはこの謎ドレッシングがもうちょっとかかってると美味しいかもしれません、これ癖になる味ですねえ」

「あるよ」


 保管庫から取り出し芽生さんのサラダに存分にかけてあげると、喜んでキャベツを咀嚼し始めた。俺はちょっと少な目で味にアクセントが付くぐらいのほうがこのドレッシングの楽しみ方としては好きなので追いドレはしないでおく。


「さて、午後からはどれだけ素早く六十四層を駆け巡れるかだな。これで今日の収入が決まると言っていい。もっと言うなら、ポーションだ。あれが一%ぐらいのドロップ率なんだが一本落ちるかどうかで三千万変わる。是非ともドロップ運のいいほうに転んでもらいたいところだな」

「一%に全てをかける……ではないですが、中々厳しい話ではあります。あと一本狙って帰るかどうかのタイミングも大事でしょうね」

「とりあえず午前中に一本は出た。午後から五時間仕事するとして……合計六本出れば上の上、四本しか出ないとちょっと少ないってところだな。たかがポーション一本に左右されてしまうのは悔しいが、その一本が財布に直接かかわるとなると目を血走らせてでもドロップを願う体になってしまいそうだ」

「ちなみに、目的のエンペラはちゃんと数ドロップしてるんですよね? 安いですけど」


 エンペラは確か在庫として二十個常にストックしてあるから、それを除いて計算するから……


「時間十四個ってところかな。多いか少ないかはともかく、高級品ではないとはいえこれを目的についでにポーションというのが今日からしばらくの活動になるかな。六十四層にはしばらく寄り付かなかったから、市場のエンペラ在庫というのはもしかしたら枯渇しているのかもしれん。ここはしっかり数を稼ぎに行きたいところだな」

「エンペラを百%落とす技とかないんですかね。スライムやグレイウルフみたいに」


 エンペラを百%落とす方法……ざっと頭の中で思い浮かべてみるが、そもそも俺は亀の生態にそれほど詳しくない。それに、エンペラを百%落としたところでそこまでの利益の増加には寄与しない気がするな。それなら素早くモンスターを倒して次のグループに挑むほうがいくらか効率的だろう。


「思いつかないな。亀の生態に詳しい人が居たらまだ何か光明は見えたかもしれないが俺は動物学者でも亀の専門家でもないから、亀が喜ぶ動作や喜ぶ食べ物なんかについても思いつかない。ここはしっかり体を動かして物量で押し潰していく方向で行こう」


 昼食を食べ終わりちょっと休憩。そういえばダンジョン雑誌の新刊の発売日だな。帰りにでもコンビニを覗いていこう。果たしてダンジョンマスター会談の内容に触れられるように誌面が間に合ったのかどうか、そこが注目ポイントだな。


 ここの所ダンジョン情勢は大きく変化している。ダンジョンマスター会談もそうだが、それによってダンジョン庁から機密情報から公開情報に指定されたいくつもの情報が世の中を広く賑わせていた。


 ダンジョンマスターは異世界異次元から来たお客様であり、彼らの目的は元居た文明を救うべく活動していること。ダンジョンはその元居た文明を正常化するために生み出された機能の一つであり、その機能とは汚染された魔素というこっちの世界にはない物質を浄化させ、そして同じ悲劇を繰り返さないように魔素を分散させるためにダンジョンからドロップ品の形で持ち出させていること。


 ダンジョン自身にはあふれであるとかダンジョンブレイクであるとか、ローファンタジーで存在するモンスターがあふれてきて既存文明を破壊するような行動は入力されておらず、そのような事態に陥ることはないということ。


 これらの情報により、ダンジョンの周辺に住んでいても危険はないということが周知され始めたため、ダンジョン周辺住民は安堵し、そして同時にダンジョン庁にとっても面倒くさい問題が一つ発生した。


 ダンジョン特別法による土地接収の原理原則である、ダンジョン周辺の危険を極力排除するための強制移住や土地の強制徴収が通じなくなったのだ。これについては、以前から知っていてあえて黙っていたのではないか? という疑問を持ち始めたメディアがダンジョン庁側に詰め寄った。


 ダンジョン庁側はそれらの憶測を否定した。この件に関しては会談に及ぶまでそのことを知らなかった、その点についても、そしてモンスターを倒すことで魔素を浄化していること等についても今回初めて知らされた内容であり、今後はダンジョン特別法に基づく強制移住は行わない方針だが、ダンジョンを新たに作る場所としてダンジョンとして運営していくのに適した場所を選定してそこに対してダンジョンを作ってもらうという形でアプローチを仕掛けていければ誰も損しない上々の結果が得られるのではないか、という話になっている。


 また、D部隊専用になっていたダンジョンの内いくつかのダンジョンを民間に開放し、その周辺住民もダンジョンに潜れるようにしていく試みが行われようとしている。ダンジョンからモンスターが溢れない以上D部隊が張り付いて監視している必要もなくなった、というのが公式見解だが、同時にダンジョンが開放されると周辺の開発も進みだすという理由から、交通の便が比較的良い所を優先して順次開放していくという方向性が示された。


 ダンジョン移転の話だが、俺のほうにはまだダンジョン庁から連絡がないということは受け入れ準備はまだ整ってはいないのだろう。まず、ダンジョンに向いた土地や場所の例をダンジョン庁の側から提出して、それに伴って各自治体がその例に向いた場所の選定をしてダンジョン庁に売り込みをかけて……と段階を刻んでいくはずだ。何か月かかかるかもしれないしもっとかかるかもしれない。その間、リーンにダンジョンを維持しつづけてもらう時間が増えて我が家のエンゲル係数もちょっとだけ増える。


 まあ我が家のエンゲル係数なんてそれこそポーションのドロップ率程度のものでたかが知れている。ミルコへのおやつの供給を含めても微々たるものだ。セノのちゅ〇るやガンテツの酒……酒は結構コスト高いか。まあ、それでも収入に比べれば充分以上の活躍をしてくれている。


 ミルコへのおやつと言えば、各ダンジョンもダンジョンマスター情報の解禁に伴って自分の所のダンジョンマスターはこんな人です、みたいなキャンペーンを大々的にやれるようになったため、小西ダンジョン以外でも似たようなことを始めたダンジョンが出始めたのである。すべてのダンジョンで行っている訳ではないが、今回会談で顔出し出演をしたシレオーネさん率いる高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンも、彼女へのプレゼントという形で同じく二十一層に供え物の祭壇が作られる予定だと竜也君から聞いている。


 ダンジョンマスターもアイドルも似たようなもんか……と思うのと同時に、推しではないが気に入ったダンジョンマスターの居る所に通いたいという探索者もそれほど多くないながら居るだろう。ガンテツみたいなコテコテのオッサンが経営しているダンジョンは人口が減ったりするのか、等と考える所である。


 よし、頭の体操終わり。胃袋も静まったしそろそろ本気入れて六十四層に向かうか。休憩セットを片付けると軽く全身をストレッチ。体はまだ冷え切っていないので充分に動いてくれることは確か。しばらくは六十四層が主戦場になるだろうし、巡る順番を考えながら戦うことにするか。理想は一時間、二時間、三時間で回れるルートがそれぞれ一つずつ組み上げられると効率のいい戦い方が出来るはずだ。


 午後からは五時間ほど作業をする予定なので、三時間で回れるルートと二時間で行って帰ってこれるルートが構築できるとスマートに六十三層まで帰ってくることができる。それから茂君を経由して帰ってきて午後七時過ぎ、というあたりか。時間は大事に使っていこう。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 午後からも芽生さんの調子は良く、新しい槍のおかげもあってか順調に手早くモンスターを葬り去ることこの上なく早く、出会って三秒で壊滅、ということも時々あり、下手にカニうまダッシュしている時よりも更に手早い戦闘を繰り広げることが出来た。ポーションの落ちにくさこそあるものの、六十八層まで頑張って降りて行かなくともここで戦っていれば問題ないんじゃないかと思えるほどのペースでの戦闘になった。


 高速で回っていたおかげか、ここでもまだ適正な経験値を得られているのか、【身体強化】も段階が上がりより素早く動けるようになったのも大きい。


 ポーションは最終的に合計五本落ちた。これだけでほぼ三億の価値があるので今日の収入としては充分な収入になった。ぜいたくを言えばもう一本、というところだが、今日の目的はエンペラだ。こっちは八十個ほどを仕入れることが出来ている。重さにしておよそ十六キログラム。どこかの企業の食品業者に卸すには少なすぎる数だろうが、これから毎回来れる時は出来るだけ六十四層で戦おうと思っているのでしばらくの安定供給には自信がある。


 ダッシュは厳しいだろうがソロで潜ってもそろそろ大丈夫な気がしてきたぞ。明日にでも早速やってみるか、六十四層ソロ活動。危ないと判断したらすぐに帰るし、そもそも雷魔法を四重化出来た段階でここのモンスターはほぼ一撃で倒せるようになっているのは確認済みである。安心して、とまではいかないがそれなりの安全率を持って戦えるので安心して戦闘に出かけることにしよう。


 明日は明日、今日は今日。六十三層まで戻ってきたところでエレベーターを七層に回して今日の稼ぎをリヤカーに乗せだす。


「目標には届きましたか? 」

「そこそこ以上というところかな。一日巡ったからしばらくは良いだろうではなくてそこそこ戦えるところで地道に集めるとするさ。これもまた一つの社会貢献の形としては良いだろうし、こっちも大きく収入を減らすことなく戦えてるんだから問題はないと考えておくべきだろうな」

「六十四層まで今年中に結衣さん達が追いついてくるかどうか、ですかね」

「目標にしてるらしいからな。ボスも倒したし、前向きに考えてるところじゃないだろうか。ある意味ではもうほぼ追いつかれていると言っても過言ではないんだろうけどあっちのパーティーは人数に比べてスキルの習得数が少なく感じる。そこをどう埋め合わせしていくかが今後の課題になるような気はするなあ」


 結衣さん達の全員のスキルを把握している訳ではないが、こっちのスキル密度を考えるとしばらく五十七層辺りに籠って耐性スキルと指輪と、出来るなら【硬化】の二重化を得てからこちらへ来た方が戦闘のしやすさでは上であると考える。


「じゃあ洋一さん的には、結衣さん達と合流しつつ、五十六層から六十四層まで広い範囲で色々とドロップ品を見繕いながら戦っていく感じで考えているんですかねえ」

「そうだな。とりあえず一週間……七回ぐらいはエンペラ狙いでドロップ品を落とすのを期待しながら戦うのがいいかなって。それに今日も【身体強化】が上がったし、まだこのへんでも戦うだけの価値はあると感じた。もしかしたら【身体強化】が上がりすぎててこの先しばらく上がらない可能性もあるけど、ミルコ曰くもうちょっとで次の階層が完成らしいし、それを待つ間はこの辺でウロウロしようかなと」


 実際、次の階層が出来るまで暇……とまではいわないが、時間を潰すだけのアトラクションと精神的我慢がないとやってられないからな。


「次の階層ですか、楽しみですね。ペースを考えたら二ヶ月に一マップ分ぐらいのペースで作ってもらってるって事になるのでしょうか」

「そのぐらいになるのかなあ。勤勉なダンジョンマスターで良かったよほんと。実際ミルコはよくやってくれていると思う。俺のわがままに付き合わせる形で次階層を作ってくれているしな」

「ならそのわがままに応えられるように階層を越えていく必要も有るでしょうね。作らせておいて利用しないでは……体内マップはほとんど利用してませんね」

「今のところ利用価値が不明のままだからな。あの醤油差しの中身が解明されるまでは不人気マップとして通用していくんだと思うよ」


作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

後毎度の誤字修正、感謝しております。

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醤油さしの中身、大まかには鑑定で確認済みだろうから、今は額面通りの効果が発揮されるのかを臨床で確認してる段階だろうか? 効果によっては、それこそ「体内マップぐるぐる回ってくれ」って依頼が出そうなことに…
謎の醤油さしは謎のままでしたね、成分分析がどのようになるか楽しみです。 今まで出た何らかのアイテムと調合とか地球の何かと組み合わせたり色々な実験をしているのでしょうね。 何かの薬か調味料かはたまた何か…
タンドールで焼いたの程のクオリティではないけどもフライパンだけでもナンは焼けるんだぜ! そういやあのウイルス?みたいな奴まだ使い道とか見つかってなかったっけか
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